
マッコウクジラは、海面のすぐ下で体を縦にして、群れで眠っているらしい
縦になって漂うクジラは、船がふれるまで反応しなかった
もくじ
南米チリの北の沖で、6頭のマッコウクジラが、海の中にじっと浮かんでいました。6頭とも体を縦にして、頭を海面かそのすぐ下に置いていました。研究者ルーク・レンデル(Luke Rendell)のチームが、この様子をビデオに撮っています。
そのうち3頭は、近くを通る船にほとんど反応しませんでした。船がうっかり1頭の体にふれるまで、ずっと動かなかったのです。
2008年、パトリック・ミラー(Patrick Miller)らが、この姿勢について論文を発表しました。ミラーは、イギリスのセント・アンドルーズ大学の研究者です。論文によると、マッコウクジラには、海面のすぐ下で体を縦にして、動かずに漂う時間があります。ミラーらは、そのあいだクジラは眠っているのかもしれない、と考えました。
この記事では、まずクジラに記録装置をつけて分かった「休む時間」の長さを紹介します。次に、クジラが本当に眠っているのかを考えます。最後に、2026年の研究で分かった、休むクジラが泡を出す理由を見ていきます。
0159頭に記録装置をつけると、マッコウクジラは海面のすぐ下で縦になって漂っていた
ミラーらは、世界の海で59頭のマッコウクジラに記録装置をつけました。装置は吸盤でクジラの体にくっつけます。装置の記録から、クジラの潜り方や体の姿勢が分かります。
記録を調べると、クジラたちは、えさをとるときの深い潜水とは別に、浅くて動きの少ない潜水をしていました。この潜水のあいだ、クジラは海面のすぐ下で、体を縦にしてじっとしていました。泳ぐのをやめて、ただ漂っていたのです。研究者たちは、これを「ドリフト潜水(漂う潜水)」と呼びました。
この縦の姿勢は、場所が違っても同じように見られました。そのため研究者たちは、これがマッコウクジラという種に共通の休み方かもしれない、と考えています。

02記録した時間のうち、縦になって漂っていたのは7.1%だった
59頭の記録は、合わせて562時間分ありました。そのうち、縦になって漂っていた時間は7.1%でした。えさをとっていない時間だけを見ると、その36.7%が、縦になって漂う時間でした。
この7.1%を、単純に1日の24時間にあてはめると、約1.7時間です。セント・アンドルーズ大学の2008年の発表には、マッコウクジラは野生の哺乳類の中でいちばん眠る時間が短いのかもしれない、と書かれています。
縦になって漂う潜水には、1日の中で、多い時間帯と少ない時間帯がありました。いちばん多かったのは夕方の6時から夜の12時まで、いちばん少なかったのは朝の6時から昼の12時までです。
03マッコウクジラは、脳の左右両方で眠っていたのかもしれない
水族館などで飼われているイルカの仲間は、脳の左右を片方ずつ眠らせます。脳の半分が起きていれば、眠りながらでも、ぶつかりそうな物をよけたり、自分で息をしたりできると考えられています。
ところが、チリの沖のマッコウクジラは、船がふれるまで反応しませんでした。また、2008年の大学の発表によると、クジラたちは両目を閉じていたように見えました。研究者たちはここから、マッコウクジラは縦になって漂うあいだ、脳の左右両方で眠っているのかもしれない、と考えました。
ただし、これは姿や反応から考えたことです。2008年の時点で、海で暮らすマッコウクジラの脳波は測られていませんでした。ミラーは、海で眠るクジラの脳波を測るには、新しい技術が必要だと話しています。2026年の論文でも、縦の姿勢は眠るためのものだと「考えられている」と書かれていて、言い切ってはいません。
042026年の研究で、休むクジラは泡を出して浮かびすぎないようにしていると分かった
2026年、フレイモンド(Noémie Freymond)とミラーらが新しい論文を出しました。使ったのは、ノルウェーの海での記録です。チームは42頭のマッコウクジラに記録装置をつけました。そのうち、主に頭を下にした潜水で休んでいた10頭を、くわしく調べています。
休んでいたクジラは、どれも泡を出していました。チームはコンピューターで、クジラの浮き沈みを計算しました。計算に使ったのは、体の肉や脂肪の密度、水の抵抗の大きさ、体の中の空気の量です。計算の結果、泡を出すことが、海面に浮き上がらずに水の中にとどまるのに役立っていたと分かりました。
チームはもう1つ、新しいことを見つけました。休むための潜水を始めるとき、クジラは体の中の空気を、えさをとる深い潜水のときより少なくしていたのです。クジラは、体の浮き沈みを自分で調節しながら休んでいることになります。
論文によると、海面のすぐ下で縦になるのは、海面の波にゆらされずに眠るためだと考えられています。深いところまで潜らずにすむので、そのための体力も使いません。
深掘り講義
ここから先は、もう一段深く。しくみ・史料・論争まで踏み込みます。
海の哺乳類は、息をしながらどう眠るのか
クジラやイルカは、私たちと同じ哺乳類です。肺で息をするので、ときどき海面に上がって空気を吸わなければなりません。水の中で深く眠りこむと、息ができずにおぼれてしまうおそれがあります。
水族館などで飼われているイルカなどは、脳の左右を片方ずつ眠らせることが分かっています。片方が眠っているあいだも、もう片方は起きているので、ぶつかりそうな物をよけたり、自分で息をしたりできると考えられています。神戸大学などの研究者が2021年にまとめた論文は、この眠り方を紹介したうえで、ミラーらの考えにもふれています。マッコウクジラは、海面やそのすぐ近くでは脳の片側で眠り、縦になって漂う潜水のときは両側で眠るのでは、というものです。
キタゾウアザラシは、木の葉が落ちるように沈みながら眠る
海で眠る哺乳類は、ほかにもいます。キタゾウアザラシです。このアザラシは、太平洋を長く旅するあいだ、陸に上がりません。海面にいるのも、長くて一度に数分ほどです。
2010年、ミタニ(Yoko Mitani)らは、若いキタゾウアザラシ6頭の泳ぎ方を立体的に記録しました。アザラシは、ゆっくり沈む潜水の途中で、背中を下にしてひっくり返りました。そして、ときどきゆらゆらとゆれながら、木の葉が落ちるように沈んでいきました。こうすると、沈む速さを大きく落とせます。研究者たちは、この時間に休んだり眠ったりしているのかもしれないと考えました。
2023年には、ケンドール=バー(J. M. Kendall-Bar)らが、アメリカ・カリフォルニア州のモントレー湾で、海に潜るキタゾウアザラシの脳波を測りました。アザラシは、潜水中に20分未満の短い眠りをとっていました。眠った潜水の深さは、最大で377mでした。さらに334頭の潜水記録から推定すると、アザラシは7か月のあいだ、1日に平均たった2時間しか眠っていませんでした。これは、哺乳類でいちばん眠る時間が短いとされてきたアフリカゾウ(1日に約2時間)に並ぶ短さです。
泡を出すと、なぜ浮き沈みを調節できるのか
クジラは、潜る前に吸った空気を肺にためています。水の中では、深いほど水の圧力が大きくなり、肺の空気はぎゅっと縮みます。反対に、浅いところへ上がると、空気はふくらみます。空気の体積が圧力によって変わるという、この決まりを「ボイルの法則」といいます。
肺の空気がふくらむと、そのぶん体が水を押しのける量が増えて、浮きやすくなります。休んでいるクジラが少しずつ上へ漂うと、空気がふくらみ、さらに浮きやすくなってしまいます。そこで泡を出して空気を減らせば、浮きすぎずに同じ深さにとどまれます。2026年の論文は、この考えを計算で確かめました。ただし、論文は別の可能性も残しています。泡は、体の中にたまった二酸化炭素や窒素を外に出すためのものでもあるかもしれない、というものです。
「眠っている」と言い切れないのはなぜか
人や動物が眠っているかどうかは、脳波で確かめるのがいちばん確かです。眠っているときの脳は、起きているときと違う形の波を出すからです。ゾウアザラシの研究でも、脳波の形から眠りを見分けました。ところが、海で暮らすマッコウクジラの脳波を測る方法は、2008年の時点ではありませんでした。
そのため、マッコウクジラの眠りは、姿と反応から考えられてきました。チリの沖のクジラは、決まった縦の姿勢でじっとしていて、船にも反応しませんでした。両目も閉じていたように見えました。研究者たちは、こうした様子から眠っていると考えたのです。ゾウアザラシのように、いつか海の中でマッコウクジラの脳波が測れたとき、この考えが正しいかどうかが分かります。
05まとめ
マッコウクジラは、海面のすぐ下で体を縦にして、動かずに漂う時間があります。59頭の記録では、記録した時間の7.1%がこの姿勢でした。チリの沖では、そばを通る船が体にふれるまで反応しなかった群れもいました。
2026年の研究では、休むクジラが泡を出して、浮かびすぎないように調節していることが分かりました。もし海の中でクジラの群れが縦に並んで止まっているのを見たら、それは眠っているところかもしれません。
人に話すなら、こう言おう
マッコウクジラって、海面のすぐ下で体を縦にして、何頭もそろって眠るらしいよ。チリの沖では、そばを通った船が体にふれるまで、反応しなかったんだって。
英語で読む
Whales That Sleep Standing Up
英文をタップすると、その文の訳が出ます。
Off the coast of northern Chile, six sperm whales were floating in the sea.チリ北部の沖で、6頭のマッコウクジラが海に浮かんでいました。 Their bodies were vertical, with their heads at or just below the surface.体は縦になっていて、頭は海面か、そのすぐ下にありました。 Three of the whales did not move when a boat came near.そのうち3頭は、船が近づいても動きませんでした。 They reacted only when the boat touched one of them by accident.船がうっかり1頭にふれたとき、初めて反応したのです。
In 2008, Patrick Miller and his team wrote about this behavior.2008年、パトリック・ミラーとそのチームが、この行動について論文を書きました。 They put tags on 59 sperm whales around the world.彼らは、世界の海で59頭のマッコウクジラに記録装置をつけました。 The data showed that the whales often stopped swimming just below the surface.記録から、クジラたちがよく海面のすぐ下で泳ぐのをやめることが分かりました。 They hung there in a vertical position and drifted.クジラたちは、そこで縦の姿勢のまま漂っていました。
The whales spent 7.1 percent of the recorded time like this.クジラたちは、記録した時間の7.1%をこうして過ごしていました。 This happened most often between six in the evening and midnight.これがいちばん多かったのは、夕方6時から夜12時までのあいだでした。 The scientists think the whales may be sleeping.科学者たちは、クジラたちは眠っているのかもしれないと考えています。 The whales near Chile also seemed to have both eyes shut.チリの沖のクジラたちは、両目を閉じているようにも見えました。 But no one could measure their brain waves in the sea at that time.でも当時は、海の中でクジラの脳波を測ることはだれにもできませんでした。
In 2026, a new study used tags on 42 whales in Norway.2026年、新しい研究が、ノルウェーで42頭のクジラにつけた装置の記録を使いました。 Ten of them rested mainly with their heads down.そのうち10頭は、主に頭を下にして休んでいました。 All of these ten whales let out bubbles while they rested.この10頭はどれも、休んでいるあいだに泡を出していました。 A whale has air in its lungs.クジラの肺には空気が入っています。 When it moves up in the water, the air gets bigger.水の中で上のほうへ動くと、その空気はふくらみます。 Then the whale floats up more easily.すると、クジラはもっと浮きやすくなります。 By letting out bubbles, the whale can stay under the water.泡を出すことで、クジラは水の中にとどまれるのです。
Next time you see whales standing in the sea, they may be taking a nap together.今度、海の中に立っているようなクジラを見たら、それはみんなでひと眠りしているところかもしれません。
4択問題 Reading Quiz
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Q1What is this story mainly about?
この話は主に何についてのものですか。
正解:B How sperm whales rest and maybe sleep
第1段落から第4段落まで、クジラが縦になって漂う様子と、それが眠りかもしれないことが書かれているので正解はB。Cの船は第1段落に出てきますが、話の中心ではありません。
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Q2How much of the recorded time did the whales spend floating like this?
クジラたちは、記録した時間のうちどれくらいをこうして浮かんで過ごしましたか。
正解:D 7.1 percent
第3段落の1文目に "The whales spent 7.1 percent of the recorded time like this." とあるので正解はD。59は装置をつけたクジラの数です。
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Q3Why do resting whales let out bubbles?
休んでいるクジラは、なぜ泡を出すのですか。
正解:A To stay under the water instead of floating up
第4段落で、上へ動くと肺の空気がふくらんで浮きやすくなり、"By letting out bubbles, the whale can stay under the water." と書かれているので正解はA。B〜Dのようなことは本文にありません。
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Q4In paragraph 2, the word "drifted" is closest in meaning to
第2段落の "drifted" という語に最も意味が近いのはどれですか。
正解:C moved slowly without swimming
第2段落で、クジラは "stopped swimming"(泳ぐのをやめ)、そこで縦の姿勢のまま drifted したとあるので、「泳がずにゆっくり流されるように動いた」という意味のCが正解。Aは泳ぐのをやめたことと合いません。
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Q5Which is true about the whales near Chile?
チリの近くのクジラについて正しいのはどれですか。
正解:B Three of them did not react until a boat touched one.
第1段落に、3頭は船が近づいても動かず、船が1頭にふれたときに初めて反応したとあるので正解はB。Aは第3段落の "no one could measure their brain waves" と合いません。
重要語 Key Words(タップで裏返る)
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float動詞浮かぶ
A small leaf was floating on the water.
小さな葉が水に浮かんでいた。
💡 反対は sink(沈む)。float up で「浮き上がる」。
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vertical形容詞縦の、垂直の
Draw a vertical line in the middle of the page.
ページの真ん中に縦線を引きなさい。
💡 反対は horizontal(横の、水平の)。
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surface名詞表面、水面
The fish jumped up to the surface.
魚は水面まで跳び上がった。
💡 just below the surface で「水面のすぐ下」。
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react動詞反応する
The dog reacted to the sound of the bell.
犬はベルの音に反応した。
💡 名詞は reaction。react to 〜 で「〜に反応する」。
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drift動詞漂う、流される
The boat drifted slowly toward the beach.
ボートはゆっくり浜辺のほうへ流されていった。
💡 自分で進まず、水や風に流されるイメージ。
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brain wave名詞脳波
Doctors can check brain waves while you sleep.
医師は眠っているあいだの脳波を調べられる。
💡 眠っているかどうかを調べるときに使う。
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bubble名詞泡
The child blew bubbles in the park.
その子は公園でシャボン玉をふいた。
💡 let out bubbles で「泡を出す」。
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nap名詞うたた寝、昼寝
My grandfather takes a short nap after lunch.
祖父は昼食のあとに短い昼寝をする。
💡 take a nap で「ひと眠りする」。
SOURCES出典・ウラ取り
この記事の事実は、次の資料を実際に開いて確認しています(確認した事実 25件)。
- Miller, P. J. O., Aoki, K., Rendell, L. E., Amano, M. (2008) Stereotypical resting behavior of the sperm whale, Current Biology 18(1):R21-R23doi.org
- Drifting off to sleep(セント・アンドルーズ大学 発表、2008年2月20日)news.st-andrews.ac.uk
- Freymond, N., Burslem, A., Miller, P. J. O. (2026) Buoyancy regulation through modulation of onboard gas volume by resting sperm whales, Journal of Experimental Biology 229(14):jeb251920doi.org
- Iwata, T., Biuw, M., Aoki, K., Miller, P. J. O., Sato, K. (2021) Using an omnidirectional video logger to observe the underwater life of marine animals: Humpback whale resting behaviour, Behavioural Processes 186:104369doi.org
- Mitani, Y. ほか (2010) Three-dimensional resting behaviour of northern elephant seals: drifting like a falling leaf, Biology Letters 6:163-166doi.org
- Kendall-Bar, J. M. ほか (2023) Brain activity of diving seals reveals short sleep cycles at depth, Science 380:260-265doi.org
公式ページで見てみよう
- Drifting off to sleep(セント・アンドルーズ大学)news.st-andrews.ac.uk
文章はすべて資料をもとに独自の言葉で書いています。画像はオリジナルのイメージです。誤りにお気づきの方は訂正窓口へ。
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