キツツキの頭は、木をつつく衝撃をやわらげるクッションになっていなかった
生き物No.289

キツツキの頭は、木をつつく衝撃をやわらげるクッションになっていなかった

キツツキの脳が無事なのは、脳が小さいからだと考えられている

ウソFALSE

この判定の対象「キツツキの頭には、つつく衝撃をやわらげるクッションがある」

うなり度 読む時間8分 出典5件 確認した事実22件
もくじ
  1. クッション説は、動物園の説明板にも書かれていた
  2. 高速ビデオで見ると、くちばしと脳の入れ物は同じだけ急に止まっていた
  3. 頭にクッションがあると、木に穴をあける力が弱くなる
  4. キツツキの脳が無事なのは、脳が小さいからだと考えられている
  5. 深掘り講義
  6. まとめ
  7. 英語で読む(A2・4択5問)
  8. 出典・ウラ取り

キツツキは、くちばしを木に打ちつけて、えさを探したり、巣の穴をほったりします。打ちつける速さは、ふつう時速20kmほどです。縄張りを知らせるために木をたたく「ドラミング」では、1秒に30回にもなります。

これだけ強く頭を打ちつけて、頭が急に止まるのです。もし人の頭が同じように急に止まったら、脳しんとうを起こすほどの強さです。脳しんとうとは、頭を強く打って、脳が一時的にうまく働かなくなることです。それなのに、キツツキは平気です。

その理由として、よく知られてきた説があります。「キツツキの頭の骨には、衝撃をやわらげるクッションがある」という説です。2022年、この説を実験で確かめた研究チームがあります。ベルギーのアントワープ大学のサム・ヴァン・ワッセンベルフ(Sam Van Wassenbergh)らです。結果は、キツツキの頭はクッションになっていない、というものでした。

この記事では、まず「クッション説」がどう広まったかを紹介します。次に、高速ビデオで何が分かったかを見ていきます。最後に、クッションがないのに、キツツキの脳がなぜ無事なのかを考えます。

01クッション説は、動物園の説明板にも書かれていた

ヴァン・ワッセンベルフらによると、クッション説は広く紹介されてきました。一般向けの記事、インターネットのブログ、動物園の説明板、教育テレビの番組などです。くちばしが木に当たったときの衝撃が、脳に届く前にやわらげられる、という考えです。

2024年の解説によると、この説は、それまでの10年ほどで、さらに信じられるようになりました。コンピューター断層撮影(CT。体の中を輪切りにして写す方法)で、キツツキの頭の骨が調べられたからです。くちばしと頭の骨のさかい目、脳の前のあたりに、スポンジのようにすき間の多い骨が見つかりました。この骨がつぶれて衝撃を吸収するのでは、と考えられたのです。

この考えをもとに、衝撃を吸収する新しい材料やヘルメットまで設計されました。ところが、肝心の「本当にキツツキの頭で衝撃がやわらいでいるのか」は、確かめられていませんでした。

02高速ビデオで見ると、くちばしと脳の入れ物は同じだけ急に止まっていた

研究チームは、3種類のキツツキを高速ビデオで撮りました。ヨーロッパでは、4つの動物園の鳥小屋で、クマゲラとアカゲラを撮影しました。カナダでは、研究室で飼われている2羽のエボシクマゲラを撮影しました。

チームは、自動車の衝突実験と同じような方法を使いました。ビデオの1コマごとに、頭の決まった点がどこにあるかを追いかけたのです。点は、くちばしの上に2つ、目に1つです。目は、脳の入れ物の前の部分と一緒に動くと考えました。エボシクマゲラでは、脳の入れ物をおおう皮ふに、白い小さな点もかいて追いかけました。

こうして、木に当たった瞬間に、それぞれの点がどれだけ急に止まるかを計算しました。100回以上のつつきを比べた結果、脳の入れ物の止まり方は、くちばしの止まり方より、おだやかになってはいませんでした。くちばしと脳のあいだで、衝撃はやわらげられていなかったのです。

頭全体が1つのかたまりとして木に当たり、止まっていた
頭全体が1つのかたまりとして木に当たり、止まっていた

03頭にクッションがあると、木に穴をあける力が弱くなる

研究チームは、計算でも確かめました。頭の動きを計算する模型(力学モデル)を使ったのです。頭の中にクッションがあると、同じ速さで頭を打ちつけても、くちばしが木にささる深さが浅くなってしまいました。せっかく頭を勢いよく動かしても、その勢いの一部がクッションに吸われてしまうからです。

クッションがあれば、脳にかかる衝撃は少しだけ小さくなります。しかし、同じ結果は、クッションなしで木を少しそっと打っても得られます。木にあく穴の深さも、脳にかかる衝撃も同じになるのです。つまり、クッションは力をむだにするだけです。研究チームは、キツツキの頭がクッションになっていないのは、木をつつく暮らしに合った、理にかなった形だと結論しています。

クッション説を疑う声は、1976年にすでにありました。この年、精神科医のフィリップ・メイ(Philip May)らが、医学雑誌「ランセット」に記事を書いています。題は「キツツキと頭のけが」です。メイらは、「くちばしが自分の衝撃の多くを吸収してしまったら、あわれな鳥はもっと強く打たなければならないだろう」と書いています。

04キツツキの脳が無事なのは、脳が小さいからだと考えられている

では、キツツキの脳はなぜけがをしないのでしょうか。研究チームの測定では、つつくときのキツツキの脳には、最大で400 gほどのブレーキがかかっていました。gは、ブレーキの強さを、地球の重力の何倍かで表す単位です。人の場合、脳しんとうが起きる目安は、推定で135 gです。キツツキの400 gは、その約3倍にあたります。

ところが、脳しんとうの起こりやすさは、脳の大きさでも変わります。急に止まったとき、脳の中にかかる圧力は、脳が長いほど大きくなるからです。キツツキの脳の長さは、人の脳の約7分の1しかありません。そのため、キツツキが人と同じくらい危なくなるのは、135 gの7倍、約1000 gのブレーキがかかったときだと計算できます。

研究チームが記録したいちばん強いつつきでも、約400 gでした。約1000 gには、まだ大きな余裕があります。もし木よりかたい物をうっかりつついても、脳は無事だろうと研究チームは考えています。

LECTURE

深掘り講義

ここから先は、もう一段深く。しくみ・史料・論争まで踏み込みます。

「g」は、ブレーキの強さを重力と比べる単位

物が急に止まるときの「ブレーキの強さ」を、物理では加速度(この場合は減速度)といいます。1 gは、地球上で物が落ちるときの加速度と同じ大きさです。400 gなら、その400倍の強さで速さが変わることになります。

止まり方の激しさは、速さだけでは決まりません。同じ時速20kmでも、ゆっくり止まればgは小さく、一瞬で止まればgは大きくなります。キツツキのくちばしは木に当たると一瞬で止まるので、gがとても大きくなるのです。

ただし、ぶつかる時間が短いことは、脳にとって有利な点でもあります。アメリカのマサチューセッツ工科大学のローナ・ギブソン(Lorna Gibson)が2006年に書いた論文によると、ぶつかる時間が短いほど、耐えられるブレーキの強さは大きくなります。キツツキのくちばしが木に当たる時間はとても短いので、そのぶん強いブレーキにも耐えやすいのです。

脳にかかる圧力は、ブレーキが強いほど、脳が長いほど大きくなる

ヴァン・ワッセンベルフらは、2024年の解説で、脳にかかる圧力の考え方を説明しています。急に止まったときの脳の中の圧力は、3つのかけ算に比例します。ブレーキの強さ、脳の組織の密度、そして当たる方向に測った脳の長さです。

このかけ算で大事なのは、脳の長さです。かけ算なので、脳が長いほど圧力が大きくなります。キツツキの脳は短いので、同じ400 gでも、人の脳よりずっと小さな圧力ですみます。ギブソンも2006年に、同じ点を指摘していました。ギブソンは、キツツキが強いブレーキに耐えられる理由を3つ挙げています。1つ目は体が小さいこと、2つ目はぶつかる時間がとても短いことです。3つ目は頭の骨の中での脳の向きで、脳と骨がふれる面積が広くなる向きになっています。

この考えからは、もう1つのことが言えます。巨大なキツツキがいたら、脳が長くなり、圧力が大きくなって危なくなります。研究チームは、今いるキツツキよりはるかに深い穴をほる、巨大なキツツキがいない理由も、これで説明できると述べています。

「1000 g」という古い見積もりと、「400 g」という新しい測定

ギブソンの2006年の論文では、それまでの研究をもとに、キツツキの減速度は「1000 gほど」と書かれていました。2022年の研究では、3種類のキツツキで測った最大が約400 gでした。この1000 gは、つつくときのブレーキの強さの見積もりです。先に出てきた「キツツキの脳しんとうの目安の約1000 g」とは、別の数字です。古い見積もりと新しい測定では、ブレーキの強さが2倍以上違います。ただ、どちらの数字でも、人の脳しんとうの目安の135 gより大きいことは変わりません。

確かめられていない説が、「常識」として広まった

ヴァン・ワッセンベルフらは、クッション説を、証拠がないまま広まった仮説の例だとしています。キツツキの行動は見た目がはでで、テレビなどでよく取り上げられます。さらに、人は頭をぶつける話になると、「脳を守るしくみ」に目が向きやすくなります。この2つが重なって、クッション説が信じられたのではないか、と研究チームは考えています。

スポンジのような骨が見つかったのは事実です。しかし、「見つかった形」から「はたらき」を決めつけることはできません。はたらきを確かめるには、実際の動きを測る必要があります。今回の研究は、まさにそれを高速ビデオで行ったのです。

05まとめ

「キツツキの頭には、衝撃をやわらげるクッションがある」という説は、2022年の研究でくつがえされました。高速ビデオで100回以上のつつきを調べると、くちばしと脳の入れ物は同じだけ急に止まっていました。

キツツキの脳が無事なのは、脳が人の約7分の1の長さしかなく、脳にかかる圧力が小さいからだと考えられています。キツツキは、頭を守るのではなく、頭全体を1つのかたい道具にして木を打っているのです。

人に話すなら、こう言おう

キツツキの頭には衝撃をやわらげるクッションがあるって言われてたけど、ウソだったんだって。高速ビデオで調べたら、頭はかたいまま木を打ってた。脳が小さいから平気らしいよ。
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英語で読む

A Head Like a Hammer

CEFR A2222 words4択 5問全訳つき
0:00

英文をタップすると、その文の訳が出ます。

A woodpecker hits a tree with its beak at about 20 kilometers an hour.キツツキは、時速約20kmでくちばしを木に打ちつけます。 When it drums, it can hit the tree up to 30 times a second.ドラミングをするときは、1秒に30回も木をたたくことがあります。 If a human head stopped this suddenly, the brain could be hurt.もし人の頭がこんなに急に止まったら、脳がけがをするかもしれません。

For many years, people believed a simple idea.長いあいだ、人々はある単純な考えを信じていました。 They thought the woodpecker's skull worked like a cushion.キツツキの頭の骨はクッションのように働く、と考えていたのです。 Scientists found spongy bone near the front of the brain.科学者たちは、脳の前のあたりに、スポンジのようなすき間の多い骨を見つけていました。 Some engineers even used this idea to design helmets.この考えを使ってヘルメットを設計した技術者までいました。

In 2022, a team led by Sam Van Wassenbergh in Belgium tested the idea.2022年、ベルギーのサム・ヴァン・ワッセンベルフが率いるチームが、この考えを確かめました。 They filmed three kinds of woodpeckers with high-speed video.彼らは、3種類のキツツキを高速ビデオで撮影しました。 They watched more than 100 pecks.100回以上のつつきを観察しました。 They found that the beak and the brain case stopped in the same way.その結果、くちばしと脳の入れ物は、同じように止まっていることが分かりました。 The head did not soften the shock.頭は衝撃をやわらげていなかったのです。 It worked like a hard hammer.頭は、かたいかなづちのように働いていました。

A cushion would also waste energy.クッションがあると、力もむだになってしまいます。 The bird would have to hit the tree harder.鳥は、もっと強く木を打たなければならなくなるのです。

So why is the woodpecker's brain safe?では、なぜキツツキの脳は無事なのでしょうか。 The answer is its size.答えは、脳の大きさです。 The brain of a woodpecker is only about one seventh as long as a human brain.キツツキの脳の長さは、人の脳の約7分の1しかありません。 A small brain feels much less pressure when the head stops.小さな脳は、頭が止まるときに受ける圧力がずっと小さいのです。 In the study, the brain stopped with a force of up to 400 times gravity.この研究では、脳は最大で重力の400倍の強さで止まっていました。 A woodpecker brain may be safe up to about 1,000 times gravity.キツツキの脳は、重力の約1000倍までなら無事だと考えられます。 So the birds can keep pecking without getting hurt.だから、キツツキはけがをせずにつつき続けられるのです。

4択問題 Reading Quiz

  1. Q1What is this story mainly about?

    この話は主に何についてのものですか。

  2. Q2How many pecks did the team watch?

    研究チームは何回のつつきを観察しましたか。

  3. Q3Why is a woodpecker's brain safe?

    キツツキの脳はなぜ無事なのですか。

  4. Q4In paragraph 2, the word "cushion" is closest in meaning to

    第2段落の "cushion" という語に最も意味が近いのはどれですか。

  5. Q5Which is true according to the story?

    話の内容に合っているのはどれですか。

重要語 Key Words(タップで裏返る)

  • beak名詞
    くちばし

    The bird held a seed in its beak.

    その鳥はくちばしに種をくわえていた。

    💡 鳥のくちばし全般。bill もほぼ同じ意味で使う。

  • skull名詞
    頭の骨、頭がい骨

    A helmet protects your skull.

    ヘルメットは頭の骨を守る。

    💡 brain case は、頭の骨のうち脳が入っている部分。

  • cushion名詞
    クッション、衝撃をやわらげる物

    She sat on a soft cushion.

    彼女はやわらかいクッションに座った。

    💡 動詞では「衝撃をやわらげる」の意味にもなる。

  • peck名詞
    (くちばしで)つつくこと

    The chicken gave the corn a quick peck.

    ニワトリはトウモロコシをさっとつついた。

    💡 woodpecker は wood(木)+ pecker(つつく者)。

  • shock名詞
    衝撃

    The shock of the crash broke the glass.

    衝突の衝撃でガラスが割れた。

    💡 「驚き」の意味もある。soften the shock で「衝撃をやわらげる」。

  • pressure名詞
    圧力

    Check the pressure of your bike tires.

    自転車のタイヤの空気圧を確かめなさい。

    💡 「プレッシャー(心の重荷)」の意味でも使う。

  • gravity名詞
    重力

    Gravity makes an apple fall to the ground.

    重力のせいで、リンゴは地面に落ちる。

    💡 400 times gravity で「重力の400倍」。単位の g はここから。

  • waste動詞
    むだにする

    Don't waste water when you brush your teeth.

    歯をみがくとき、水をむだにしてはいけない。

    💡 名詞では「むだ、ごみ」。waste of time で「時間のむだ」。

SOURCES出典・ウラ取り

この記事の事実は、次の資料を実際に開いて確認しています(確認した事実 22件)。

  1. Van Wassenbergh, S. ほか (2022) Woodpeckers minimize cranial absorption of shocks, Current Biology 32(14):3189-3194doi.org
  2. Van Wassenbergh, S., Mielke, M. (2024) Why woodpeckers don't get concussions, Physics Today 77(1):54-55doi.org
  3. Gibson, L. J. (2006) Woodpecker pecking: how woodpeckers avoid brain injury, Journal of Zoology 270:462-465doi.org
  4. May, P. R. A., Newman, P., Fuster, J. M., Hirschman, A. (1976) Woodpeckers and head injury, The Lancet 307:454-455doi.org
  5. The 2006 Ig Nobel Prize Winners(Improbable Research)improbable.com

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