「不老不死のクラゲ」ベニクラゲは、若返ることはできても死ぬこともある
生き物No.047

「不老不死のクラゲ」ベニクラゲは、若返ることはできても死ぬこともある

傷つくと、赤ちゃんの姿にもどることがある。

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この判定の対象「ベニクラゲは、不老不死のクラゲだ」

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もくじ
  1. ベニクラゲの仲間は、大人のクラゲから子どもの姿のポリプに戻れる
  2. 京都大学の久保田さんは、1匹のクラゲから約2年で10回の若返りを記録した
  3. 若返るクラゲも、水が汚れれば死ぬ
  4. このクラゲは、人の船に乗って世界中の海に広がった
  5. 深掘り講義
  6. まとめ
  7. 英語で読む(A2・4択5問)
  8. 出典・ウラ取り

2009年5月15日、沖縄島の海岸で、小さなクラゲが1匹とれました。まだ大人になりきっていない、ベニクラゲの仲間です。久保田信(くぼた・しん)さんは、この1匹を出発点にして、和歌山の研究室で飼い始めました。久保田さんは、京都大学瀬戸臨海実験所(和歌山県白浜町)の研究者です。

3日後の5月18日、1回目の「若返り」が起きました。大人に向かって育つはずのクラゲが、体を縮めて、子どもの姿である「ポリプ」に戻ったのです。そこから約2年間で、若返りは10回繰り返されました。2011年に出た久保田さんの論文は、この10回を、当時一番多い記録として報告しています。

同じ論文には、ほとんど知られていない一文があります。若返りは、クラゲの体を針で50回以上つつくと、かんたんに起こせるというのです。そして、もう1つ。2011年4月、10回の若返りを重ねた群体の多くが、死にました。水の中の汚れで、窒息したのです。

この記事では、まずクラゲが子どもの姿に戻るとはどういうことかを説明します。次に、久保田さんの10回の若返りの記録と、それでもクラゲが死んだ理由を見ます。最後に、このクラゲが船に乗って世界中に広がった話と、若返りのしくみの研究を紹介します。

01ベニクラゲの仲間は、大人のクラゲから子どもの姿のポリプに戻れる

まず、クラゲの一生をおさらいします。ベニクラゲの仲間は、ふだん2つの姿をもっています。

1つは、ポリプです。ポリプは、岩などにくっついて、植物のように枝分かれしながら増えます。小さなイソギンチャクのような姿で、たくさんつながって「群体」をつくります。もう1つが、クラゲ(専門的にはメデューサ)です。クラゲはポリプから生まれて、海を漂います。クラゲは大人になると、卵や精子をつくります。普通のクラゲなら、大人になったあとでポリプに戻ることはありません。

ところが、ベニクラゲの仲間は、ポリプに戻ることができます。クラゲの体を縮めて丸いかたまりになり、そこから根を伸ばして、もう一度ポリプになるのです。チョウがイモムシに戻るようなものです。

1996年、イタリアの研究所のステファノ・ピライーノ(Stefano Piraino)らが、この逆戻りをくわしく報告しました。生まれたばかりのクラゲから、卵や精子を作れる大人のクラゲまで、どの段階でもポリプに戻れたのです。卵や精子を作れる大人になったあとで、子どもの姿の群体に戻る。体がたくさんの細胞でできた動物で、そんな例が見つかったのは、これが初めてでした。

02京都大学の久保田さんは、1匹のクラゲから約2年で10回の若返りを記録した

久保田さんは、クラゲを飼うために、細かい工夫をたくさんしました。新しい天然の海水を流しつづけ、水温は21〜29℃に保ちます。強い日光は藻を生やすので、避けます。えさは主に、ふ化したばかりのアルテミア(小さなエビの仲間の幼生)です。若返った直後の小さなポリプには、アルテミアを半分にしたものを針でつまんで、口元へ運びました。

夏から秋、水温が25〜29℃のときは、およそ1か月ごとに若返りが起きました。水温が22℃を下回る冬と春は、ヒーターで温めても、若返りの間隔が長くなりました。

論文には、何がきっかけで若返りが起きるかについても書かれています。生まれたばかりのクラゲを、小さな容器に何十匹も入れます。すると数日のうちに、若返るものが出てきます。久保田さんは、混み合って自由に泳げないストレスのせいかもしれない、と考えました。また、クラゲの体を針で50回以上つつくと、かんたんに若返りを起こせるといいます。ただし、10回の連続記録では、この針でつつく方法は使っていません。

7回若返った群体は、イタリアまで運ばれました。3日間の旅の間、水も替えず、えさもやりませんでした。そのため、ポリプの多くはしおれました。それでも、日本より塩分の濃い地中海の海水の中で、11日目には新しいクラゲの芽をつけました。

クラゲが縮んで丸いかたまり(シスト)になり、根を伸ばしてポリプに戻る。これが「若返り」
クラゲが縮んで丸いかたまり(シスト)になり、根を伸ばしてポリプに戻る。これが「若返り」

03若返るクラゲも、水が汚れれば死ぬ

ここで、最初に書いた「群体の多くが死んだ」話に戻ります。2011年1月に9回目、3月末に10回目の若返りが起きました。ところが4月、群体の多くが死んでしまいました。原因は、水の中にたまった有機物(生き物の体やふんなどから出る汚れ)による窒息です。生き残ったのは、5回目と6回目に若返った群体の一部だけでした。

若返りの力は、「年をとって死ぬ」ことを避ける力です。けれども、水が汚れたり、酸素が足りなくなったりすれば、他の生き物と同じように死にます。

海の中でも同じです。スペイン国立研究評議会の海洋科学研究所は、こう説明しています。このクラゲも生態系の一員なので、他の生き物に食べられたり、感染症にかかったりして死ぬことがある。同じ研究所によると、このクラゲの直径はわずか4〜5mmです。そのため、海の中で観察するのは、ほぼ不可能だといいます。

04このクラゲは、人の船に乗って世界中の海に広がった

若返りの力は、このクラゲが遠くまで旅をするのにも役立ったようです。2009年の論文で、マリア・ピア・ミリエッタ(Maria Pia Miglietta)らは、このクラゲが人間の船に乗って世界中に広がったと報告しました。

クラゲは、飢えたり傷ついたりすると、ポリプに戻れます。そのため、船での長い旅でも生きのびやすいのです。たとえば、貨物船での旅や、バラスト水の中での旅です。バラスト水とは、船のバランスをとるために積む海水のことです。

チームは、いくつもの海でとったクラゲの遺伝子を比べました。とった場所は、日本、パナマの太平洋側と大西洋側、フロリダ、スペイン、イタリアです。比べたのは、ミトコンドリアという細胞の中の部品がもつ遺伝子(16S)の一部です。すると、違う場所でとれたクラゲどうしを比べても、遺伝子の違いは平均でわずか0.31%でした。日本、パナマ、スペイン、イタリアの15匹は、調べた部分がまったく同じ型でした。

それなのに、熱帯のクラゲと温帯のクラゲは、見た目が違っていました。遺伝子がほとんど同じでも、暮らす場所の条件に合わせて、形が変わるのです。見た目が違うので、同じクラゲが世界中に広がっていることに、人は気づきにくくなっています。論文の題名「静かな侵入(A silent invasion)」は、ここから来ています。

LECTURE

深掘り講義

ここから先は、もう一段深く。しくみ・史料・論争まで踏み込みます。

若返りでは、役割の決まった細胞が別の細胞に作り直される

私たちの体の細胞は、皮膚なら皮膚、筋肉なら筋肉と、役割が決まっています。細胞の役割が決まることを、「分化」といいます。いったん分化した細胞は、普通は別の種類の細胞には変わりません。

ベニクラゲの仲間の若返りでは、この普通のルールが成り立ちません。2022年のスペインの研究チームの説明によると、若返りの途中で、クラゲの体のつくりはすべて消えます。そして、どこも同じに見える、不透明なかたまり(シスト)になります。そこから根(ストロン)がのび、ポリプの芽が出てきます。クラゲの細胞が、ポリプを作る細胞へ作り直されているのです。このように、役割の決まった細胞が、別の役割の細胞に変わることを、分化転換といいます。

1996年、ピライーノらは、若返りにどの細胞が必要かを調べました。クラゲの体の一部を切り取ってみる実験です。その結果、2つの部分が残っているときだけ、ポリプに戻れました。傘の外側を覆う表皮の細胞と、消化管の一部です。論文はこの結果から、若返りを支えているのは分化転換だと考えました。そして、この変身の力は動物の中で他に例がない、と表現しました。

若返る種と若返れない種の遺伝子を比べると、違いが見つかった

2022年、スペインのオビエド大学などのチームは、2種のクラゲのゲノムを比べました。ゲノムとは、その生き物がもつ遺伝情報のすべてのことです。比べたのは、若返るベニクラゲ(Turritopsis dohrnii)と、成熟すると若返れない近い仲間(Turritopsis rubra)です。T. dohrnii のゲノムの大きさは、遺伝情報の文字にあたる「塩基対」で数えて、約3億9,000万(人の約8分の1)です。

チームは、老化やDNAの修理にかかわる、約1,000個の遺伝子に注目しました。そして、この2種と、他の刺胞動物(クラゲやイソギンチャクの仲間)11種のゲノムを比べました。すると若返る種では、いくつかの遺伝子に、変化があったり、数が増えたりしていました。それは、次のような働きにかかわる遺伝子です。

  • DNAをコピーしたり、修理したりする働き
  • 染色体のはしを守る「テロメア」を保つ働き
  • 細胞がさびつく(酸化する)のを防ぐ働き
  • 幹細胞(いろいろな細胞のもとになる細胞)にかかわる働き

さらに、若返りの途中では、2つのことが起きていました。細胞には、その細胞の役割を固定しておく「PRC2」というしくみがあります。1つめは、このPRC2が働きかける遺伝子が、抑えられていたことです。2つめは、細胞を「なんにでもなれる状態」に近づける遺伝子が、働いていたことです。チームは、これらが若返りを起こすしくみの手がかりになると考えています。ただし、これは2つの種を比べて見えてきた候補です。本当にこれらの遺伝子が若返りを起こしているのかは、これから確かめる段階です。

「不老不死のクラゲ」として広まった名前は、もともと若返れない別の種の名前だった

クラゲの名前にも、落とし穴があります。1996年の論文は、このクラゲを Turritopsis nutricula という名前で報告しました。ところが2026年、ミリエッタらは、本物の T. nutricula をとって調べました。とった場所は、アメリカ東海岸のノースカロライナ州の島です。T. nutricula が、新しい種として最初に名前をつけられた場所の近くです。その結果、本物の T. nutricula は、西大西洋だけにいる別のグループでした。そして、クラゲからポリプへ戻れなかったと報告しました。

つまり、「不老不死のクラゲ」として有名になった名前の、本来の持ち主は、若返れない種だったことになります。同じ属(近い仲間のまとまり)でも、若返れる種と若返れない種がいるのです。久保田さんの論文も、日本のクラゲを Turritopsis sp.(種名は未確定)と書いています。どの種が、どんな条件で、何回若返れるのか。それを調べるには、まず、調べている生き物がどの種なのかを正しく決める必要があります。

05まとめ

ベニクラゲの仲間は、大人のクラゲから、子どもの姿のポリプに戻ることができます。京都大学の久保田さんは、沖縄でとった1匹から、約2年で10回の若返りを記録しました。針で50回以上つつけば若返りを起こせることも、論文に書き残しました。

それでも2011年4月には、群体の多くが水の汚れで窒息して死にました。ここでいう「不老不死」は、年をとって死ぬことがない、という意味です。どんなことがあっても死なない、という意味ではありません。直径4〜5mmのこのクラゲは、人の船に乗って、気づかれないまま世界中の海へ運ばれてきました。

人に話すなら、こう言おう

不老不死のクラゲって、針で50回以上つつくと赤ちゃんの姿に戻るんだって。京大の先生は1匹から10回も若返るのを記録したんだけど、水が汚れたら窒息して死んじゃったらしい。不死でも無敵じゃないんだね。
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英語で読む

The Jellyfish That Goes Back to Being a Baby

CEFR A2214 words4択 5問全訳つき
0:00

英文をタップすると、その文の訳が出ます。

On May 15, 2009, one small jellyfish was caught on the coast of Okinawa.2009年5月15日、沖縄の海岸で小さなクラゲが1匹とられました。 Shin Kubota, a scientist at Kyoto University, started to keep it.京都大学の科学者、久保田信さんがそのクラゲを飼い始めました。 Three days later, the jellyfish did something strange.3日後、そのクラゲは不思議なことをしました。 It turned back into a baby.赤ちゃんの姿に戻ったのです。

A young jellyfish of this kind lives as a polyp on a rock.この種類のクラゲは、子どものころはポリプとして岩の上で暮らします。 Later, it becomes a swimming jellyfish and can make eggs or sperm.その後、泳ぐクラゲになり、卵や精子をつくれるようになります。 But this jellyfish can shrink into a small ball and grow into a polyp again.でもこのクラゲは、縮んで小さなかたまりになり、もう一度ポリプに育つことができます。 Its cells change their jobs, so old body parts become new ones.細胞が役割を変えるので、古い体の部分が新しい部分になるのです。

Kubota kept the animals in clean seawater at 21 to 29 degrees Celsius.久保田さんは、21〜29℃のきれいな海水でクラゲを飼いました。 In about two years, they went back to being babies 10 times.約2年のあいだに、クラゲは10回赤ちゃんの姿に戻りました。 He also wrote down a useful tip.彼は、役に立つコツも書き残しています。 If you poke a jellyfish with a needle 50 times or more, it will easily turn young.針でクラゲを50回以上つつくと、簡単に若返るというのです。

So is this jellyfish immortal?では、このクラゲは不死なのでしょうか。 Not really.そうとは言えません。 In April 2011, most of Kubota's colonies died because the water became too dirty.2011年4月、久保田さんの群体の多くは、水が汚れすぎたために死にました。 In the sea, other animals can eat these jellyfish, and illness can kill them too.海の中では、ほかの動物に食べられることもあるし、病気で死ぬこともあります。

These jellyfish are only 4 to 5 millimeters wide.このクラゲの直径は、わずか4〜5ミリです。 They can travel very far inside ships, because they can become young when they are hungry or hurt.おなかがすいたりけがをしたりすると若返れるので、船の中に入って遠くまで旅ができます。 Now the same kind lives in Japan, Panama, Spain, and Italy.今では同じ種類のクラゲが、日本、パナマ、スペイン、イタリアにいます。

4択問題 Reading Quiz

  1. Q1What is this story mainly about?

    この話は主に何についてのものですか。

  2. Q2How many times did Kubota's jellyfish go back to being babies in about two years?

    久保田さんのクラゲは、約2年で何回赤ちゃんの姿に戻りましたか。

  3. Q3Why did most of Kubota's colonies die in April 2011?

    2011年4月に久保田さんの群体の多くが死んだのはなぜですか。

  4. Q4In paragraph 3, the word "poke" is closest in meaning to

    第3段落の poke という語に最も意味が近いのはどれですか。

  5. Q5Which is true about this jellyfish?

    このクラゲについて正しいのはどれですか。

重要語 Key Words(タップで裏返る)

  • jellyfish名詞
    クラゲ

    A jellyfish floated near the boat.

    1匹のクラゲがボートの近くにただよっていた。

    💡 jelly(ゼリー)+ fish。魚ではないが fish がつく。複数形も jellyfish のことが多い。

  • coast名詞
    海岸、沿岸

    We drove along the coast.

    私たちは海岸ぞいに車を走らせた。

    💡 beach は砂浜、coast は陸と海の境目の地域全体。

  • shrink動詞
    縮む

    My shirt shrank in the wash.

    シャツが洗濯で縮んだ。

    💡 過去形は shrank、過去分詞は shrunk。

  • cell名詞
    細胞

    Your body is made of many cells.

    体はたくさんの細胞でできている。

    💡 もとは「小部屋」の意味。cell phone の cell も同じ語。

  • poke動詞
    つつく

    Don't poke the cat with a stick.

    棒でネコをつつかないで。

    💡 指や棒の先で軽く突くこと。poke fun at ~ で「~をからかう」。

  • needle名詞
    針

    She used a needle to fix the button.

    彼女は針を使ってボタンをつけ直した。

    💡 縫い針・注射針・松の葉にも使う。pin は「留め針、ピン」。

  • immortal形容詞
    不死の

    In the story, the king wanted to be immortal.

    物語の中で、王は不死になりたがった。

    💡 im(ない)+ mortal(死ぬ運命の)。

  • colony名詞
    群体、集団

    Ants live in a large colony.

    アリは大きな集団で暮らす。

    💡 生き物の「群れ・群体」のほか、歴史では「植民地」の意味でも出る。

SOURCES出典・ウラ取り

この記事の事実は、次の資料を実際に開いて確認しています(確認した事実 26件)。

  1. Piraino, S. ほか (1996) Reversing the Life Cycle: Medusae Transforming into Polyps and Cell Transdifferentiation in Turritopsis nutricula, The Biological Bulletin 190:302-312doi.org
  2. Kubota, S. (2011) Repeating rejuvenation in Turritopsis, an immortal hydrozoan, Biogeography 13:101-103(京都大学学術情報リポジトリ)hdl.handle.net
  3. Pascual-Torner, M. ほか (2022) Comparative genomics of mortal and immortal cnidarians unveils novel keys behind rejuvenation, PNAS 119(36):e2118763119doi.org
  4. Miglietta, M. P., Lessios, H. A. (2009) A silent invasion, Biological Invasions 11:825-834doi.org
  5. Miglietta, M. P. ほか (2026) The Identity of Turritopsis nutricula McCrady 1857 (Hydrozoa, Cnidaria), Zootaxa 5750:109-118doi.org
  6. The immortal jellyfish: a tiny creature with infinite power(スペイン国立研究評議会 海洋科学研究所)icm.csic.es

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文章はすべて資料をもとに独自の言葉で書いています。画像はオリジナルのイメージです。誤りにお気づきの方は訂正窓口へ。

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