「ダチョウは怖いと頭を砂にうずめる」はウソ
都市伝説ファクトチェックNo.062

「ダチョウは怖いと頭を砂にうずめる」はウソ

古代ローマの記録では「砂」ではなく「やぶ」だった。

ウソFALSE

この判定の対象「ダチョウは怖いと頭を砂にうずめる」

うなり度 読む時間7分 出典5件 確認した事実15件
もくじ
  1. ダチョウは、地面にふせて、頭と首を土の色にまぎれさせる
  2. 巣の卵を転がすときも、ダチョウは頭を地面近くまで下げる
  3. 古代ローマの記録では、ダチョウが首をつっこむ先は「砂」ではなく「やぶ」だった
  4. 深掘り講義
  5. まとめ
  6. 英語で読む(A2・4択5問)
  7. 出典・ウラ取り

アフリカのサバンナを思いうかべてください。ダチョウの群れが草を食べていて、遠くにライオンのような敵が現れたとします。逃げきれないと感じたダチョウは、体を低くします。そして地面にぺたりとふせ、長い首を前の地面にまっすぐのばしました。

遠くから見ると、そこには丸い体だけが残って見えます。頭と首は、土の色にまぎれて見えません。まるで、頭を砂の中にうずめたかのようです。

「ダチョウは怖いと、頭を砂にうずめて隠れる」。日本でもよく聞く話です。でも、アメリカのサンディエゴ動物園は、はっきり「ダチョウは頭を砂にうずめない」と説明しています。しかも、この話の古い記録として知られる古代ローマの文章には、「砂」は出てきません。

この記事では、まずダチョウが危険なときに本当はどうしているかを、動物園の説明で確かめます。次に、巣の卵の世話も誤解のもとかもしれないことを紹介します。最後に、古代ローマの記録で、ダチョウが首をつっこんだ先が何だったかを見ます。

01ダチョウは、地面にふせて、頭と首を土の色にまぎれさせる

サンディエゴ動物園によると、ダチョウは危険を感じても逃げられないとき、地面にどさっとふせて、じっと動かなくなります。頭と首は、体の前の地面にぺたりとつけます。

ダチョウの頭と首は、体よりも薄い色をしています。そのため、地面にくっつけると土の色にまぎれます。遠くからは体だけが見えるので、「頭を砂にうずめた」ように見えるのです。

地面にふせる行動は、砂に顔をつっこんで目をつぶる行動とは、まったく違います。敵に見つからないように身を隠す、りっぱな作戦です。

そもそもダチョウは、逃げるのが得意な鳥です。短い距離なら時速約70km、走り続けるときでも時速約50kmで走れます。1歩の幅は3〜5mにもなります。それでも逃げきれないと、ライオンも倒せるほどの強いけりで反撃すると、動物園は説明しています。

02巣の卵を転がすときも、ダチョウは頭を地面近くまで下げる

アメリカのスミソニアン国立動物園は、「頭を砂にうずめる」という話のもとについて、もう一つの説明をあげています。ダチョウの巣は、地面を浅くひっかいただけのくぼみです。ダチョウは巣の卵を転がすとき、頭を地面近くまで下げます。頭を下げて卵を転がす姿が、「頭を砂にうずめる」という話のもとになったのかもしれない、というのです。

ダチョウの巣の使い方は、ちょっと変わっています。それを調べたのが、研究者のブライアン・バートラム(Brian C. R. Bertram)です。1979年、バートラムは東アフリカの野生のダチョウを調べ、科学誌『ネイチャー』に報告しました。

バートラムの報告によると、1つの巣に2〜7羽のメスが卵を産みます。1羽のメスがその巣に産む卵は、最大13個です。巣全体では30〜40個もの卵が集まることがあります。ところが、巣を守って卵を温めるのは、「主なメス」と呼ばれる1羽だけです。オスが、そのメスを手伝います。

1羽のメスが温められる卵は、約20個までです。温めきれずにあふれた卵は、巣の外へ1〜2m押し出され、そのままだめになります。そしてバートラムは、主なメスが自分の産んだ卵は押し出さないことを見つけました。主なメスは、自分の卵とほかのメスの卵を見分けているのです。

卵を転がしたり、より分けたりするとき、ダチョウは何度も頭を地面に近づけます。その姿を遠くから見た人が、「地面に頭をつっこんでいる」と思ったとしても、不思議ではありません。

ダチョウは巣の卵を転がすとき、頭を地面近くまで下げる。これも「頭をうずめる」話のもとかもしれない。
ダチョウは巣の卵を転がすとき、頭を地面近くまで下げる。これも「頭をうずめる」話のもとかもしれない。

03古代ローマの記録では、ダチョウが首をつっこむ先は「砂」ではなく「やぶ」だった

では、「ダチョウが頭を隠す」という話は、どこから来たのでしょうか。古い記録として知られるのが、古代ローマのプリニウスが書いた百科事典『博物誌』です。その第10巻の最初の章が、ダチョウの話です。

プリニウスは、ダチョウのおろかな点として、こう書いています。体はこんなに大きいのに、首を隠しただけで、体全体が隠れたと思い込んでいる、と。

ここで注目したいのは、ダチョウが首を隠す場所です。ラテン語の原文では、その場所は frutice と書かれています。これは frutex(フルテクス)という言葉が、文の中で形を変えたものです。frutex は「やぶ」「茂み」という意味です。1855年の英訳でも、「頭と首をやぶにつっこむ」となっています。砂は出てきません。

同じ章には、ダチョウについてのほかの話も書かれています。ダチョウは馬に乗った人より背が高く、走れば追いこす、という話です。ここまでは、今の知識とも合います。ところが同じ章には、ひづめのような足で石をつかみ、追ってくる人に投げつける、という話もあります。何でも消化してしまう、という話も並んでいます。

LECTURE

深掘り講義

ここから先は、もう一段深く。しくみ・史料・論争まで踏み込みます。

地面にふせて首をのばすと、ダチョウの目立つ形が消える

地面にふせる作戦が効く理由を、「形」と「動き」から考えてみましょう。

立っているダチョウは、細長い首と丸い体という、とても目立つ形をしています。ところが地面にふせて首をのばすと、首の線が地面にとけこみます。しかも、じっと動きません。残るのは、遠くから見ると岩や土のかたまりのような丸い体だけです。さらに、サンディエゴ動物園が言うように、薄い色の頭と首は土の色にまぎれます。そのため、ますます見つかりにくくなります。

一方、ダチョウ自身はとても目のよい鳥です。目の直径は約5cmで、陸上の動物でいちばん大きいといいます。スミソニアン国立動物園によれば、目は脳より大きいほどです。ダチョウは群れで暮らしています。長い首の上の大きな目で遠くを見張れるので、群れの誰かが危険に早く気づけます。

1つの巣に何羽もが卵を産み、主なメスは自分の卵を残す

バートラムの報告で注目されたのは、主なメスが自分の卵を見分けていたことです。主なメスは、ほかのメスの卵も巣に受け入れます。そして、温めきれない分は外に押し出します。そのとき、自分の卵だけは残すのです。

ほかのメスの卵を巣に置いておくことには、主なメスにとっても意味があるかもしれません。サンディエゴ動物園は、何羽かで1つの巣を使うほうが、メスがそれぞれ自分の巣を守るより、全体としてより多くのひながかえると説明しています。卵は、およそ45日でひながかえります。卵を温めるのは、昼は地味な色のメス、夜は黒いオスです。昼は目立たない色のメスが、夜は暗やみにとけこむ黒いオスが温めるのです。ここにも、まわりの色にまぎれる工夫がある、と考えることもできます。

プリニウスの文と、今よく聞く「頭を砂にうずめる」話は、3つの点で違う

プリニウスの文は、今の私たちがよく聞く「頭を砂にうずめる」話とは、3つの点で違います。

  • 隠す場所:元は「やぶ」。今は「砂」
  • 隠すもの:元のラテン語は「首」だけ(英訳では頭と首)。今は「頭」が中心
  • 場面:元は「ダチョウのおろかさ」の例の一つ。今は「怖いとき」の行動として語られる

話が人から人へ伝わるうちに、場所や体の部分が入れかわりました。そして、より単純で、頭にうかべやすい話になっていきました。ダチョウが住む砂漠やサバンナのイメージが、「やぶ」を「砂」に変えたのかもしれません。ただ、そう言える証拠になる資料は、今回は見つかりませんでした。

古い本には、正しい観察と、聞いただけの話が混ざっている

プリニウスの『博物誌』には、正しい観察と、聞いた話や思い込みが混ざっています。ダチョウが馬に乗った人より背が高いのは本当です。速く走るのも本当です。プリニウスは、大きな卵が器として使われ、羽が兵士のかぶとのかざりになるとも書いています。サンディエゴ動物園も、古代エジプトやアッシリア、バビロニアでダチョウの羽が取り引きされ、中世の騎士のかぶとをかざったと説明しています。卵や羽の使い道の話は、ほかの記録とも合います。

でも、石をつかんで投げつけるという話は、今の動物園の説明には出てきません。

古い本を読むときは、一文ずつ「これは観察か、聞いた話か」を考える必要があります。そして、今の研究で確かめられることは、確かめます。この記事では、ダチョウについてのプリニウスの文で、その作業をしてきました。

04まとめ

「ダチョウは怖いと頭を砂にうずめる」はウソです。危険なとき、ダチョウは地面にふせて頭と首をぺたりとつけ、土の色にまぎれます。巣の卵を転がすときに頭を下げる姿も、誤解のもとになったのかもしれません。

この話の古い記録として知られるのは、古代ローマのプリニウスの『博物誌』です。でもそのラテン語の原文で、ダチョウが首をつっこむのは「砂」ではなく、frutex、つまり「やぶ」でした。

人に話すなら、こう言おう

ダチョウが頭を砂にうずめるってウソなんだって。本当は地面にふせて首をぺたっとつけて、土の色にまぎれてるだけ。しかも古代ローマの記録だと「砂」じゃなくて「やぶ」だったらしいよ。
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英語で読む

Do Ostriches Hide Their Heads in the Sand?

CEFR A2217 words4択 5問全訳つき
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英文をタップすると、その文の訳が出ます。

Many people say that a scared ostrich puts its head in the sand.こわがったダチョウは頭を砂に入れる、と多くの人が言います。 They think the bird believes that it cannot be seen.その鳥は自分が見えていないと思いこんでいる、と考えるのです。 But zoo experts say this is not true.でも、動物園の専門家は、それは本当ではないと言います。

An ostrich is a very fast bird.ダチョウはとても速い鳥です。 It can run about 70 kilometers an hour for a short time.短い時間なら、時速約70キロメートルで走れます。 When it cannot run away, it lies down on the ground.逃げられないときは、地面にふせます。 It puts its long neck flat in front of its body.長い首を、体の前にぺたりとのばします。 Its head and neck are light in color, so they match the ground.頭と首は色が薄いので、地面の色にとけこみます。 From far away, it looks like the head is in the sand.遠くから見ると、頭が砂の中にあるように見えるのです。

There is another reason for the story.この話には、もう一つの理由があります。 An ostrich nest is a shallow hole in the ground.ダチョウの巣は、地面の浅いくぼみです。 Ostriches put their heads down low to turn their eggs.ダチョウは卵を転がすために、頭を低く下げます。 In 1979, a scientist found that the main female keeps her own eggs and pushes some other eggs out.1979年、ある科学者は、主なメスが自分の卵は残し、ほかの卵の一部を外に押し出すことを発見しました。

The story is very old.この話はとても古いものです。 A writer in ancient Rome named Pliny wrote about ostriches.古代ローマのプリニウスという書き手が、ダチョウについて書きました。 He said they hide their necks and think their whole body is hidden.ダチョウは首をかくし、体全体がかくれたと思いこむ、と彼は書きました。 But in his words, they hide in a bush, not in sand.でも彼の言葉では、かくれる場所は砂ではなく、やぶでした。

So the sand came later.つまり、砂は後から入ってきたのです。 No one knows exactly when.それがいつなのかは、だれもはっきりとは知りません。 Next time you see an ostrich lying flat, remember that it is hiding, not being silly.今度ぺたりとふせたダチョウを見たら、ばかなことをしているのではなく、かくれているのだと思い出してください。 It is a smart way to stay safe.それは、身を守るためのかしこい方法なのです。

4択問題 Reading Quiz

  1. Q1What is this story mainly about?

    この話は主に何についてのものですか。

  2. Q2How fast can an ostrich run for a short time?

    ダチョウは短い時間ならどれくらいの速さで走れますか。

  3. Q3Why does a lying ostrich look like its head is in the sand?

    ふせているダチョウは、なぜ頭が砂の中にあるように見えるのですか。

  4. Q4In paragraph 3, the word "shallow" is closest in meaning to

    第3段落の shallow という語に最も意味が近いのはどれですか。

  5. Q5Which is true about Pliny's story?

    プリニウスの話について正しいのはどれですか。

重要語 Key Words(タップで裏返る)

  • ostrich名詞
    ダチョウ

    The ostrich is the largest bird in the world.

    ダチョウは世界でいちばん大きな鳥だ。

    💡 複数形は ostriches。

  • scared形容詞
    こわがった、おびえた

    The little boy was scared of the dark.

    その小さな男の子は暗やみをこわがっていた。

    💡 be scared of 〜 で「〜がこわい」。scary は「こわい(ものが人をこわがらせる)」。

  • flat形容詞・副詞
    平らな;ぺたりと

    He lay flat on the grass and looked at the sky.

    彼は草の上にあおむけに寝そべって空を見た。

    💡 名詞では「アパート(イギリス英語)」の意味もある。

  • match動詞
    〜に合う、調和する

    Your bag matches your shoes.

    あなたのかばんは靴に合っている。

    💡 名詞では「試合」「マッチ(火をつける)」。

  • shallow形容詞
    浅い

    The children played in the shallow part of the river.

    子どもたちは川の浅い所で遊んだ。

    💡 反対は deep(深い)。

  • nest名詞
    巣

    A bird built a nest in the tree.

    鳥が木に巣を作った。

    💡 build a nest で「巣を作る」。

  • ancient形容詞
    古代の

    We learned about ancient Egypt in history class.

    歴史の授業で古代エジプトについて習った。

    💡 old よりずっと古い、何千年も前のものに使う。

  • bush名詞
    低木、やぶ、茂み

    The cat was hiding behind a bush.

    ネコはやぶの後ろにかくれていた。

    💡 「アフリカやオーストラリアの未開の土地」の意味もある。

SOURCES出典・ウラ取り

この記事の事実は、次の資料を実際に開いて確認しています(確認した事実 15件)。

  1. Pliny the Elder, Naturalis Historia 10.1(Mayhoff 校訂、Perseus Digital Library, Tufts University)perseus.tufts.edu
  2. Pliny the Elder, The Natural History 10.1(Bostock & Riley 英訳 1855、Perseus Digital Library)perseus.tufts.edu
  3. Ostrich(San Diego Zoo Wildlife Alliance)animals.sandiegozoo.org
  4. Ostrich(Smithsonian's National Zoo & Conservation Biology Institute)nationalzoo.si.edu
  5. Bertram, B. C. R. (1979) Ostriches recognise their own eggs and discard others, Naturedoi.org

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文章はすべて資料をもとに独自の言葉で書いています。画像はオリジナルのイメージです。誤りにお気づきの方は訂正窓口へ。

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