週末の「寝だめ」で寝不足は返済できる? 研究でわかった睡眠の借金のややこしい真実

読む前に予想してみよう!
週末にたっぷり寝れば、平日の寝不足は完全にリセットできる
週末に好きなだけ寝ても、インスリンの効きの低下など代謝の乱れは防げなかったことが実験で示されている。
- 対象
- 健康な若い成人
- 規模
- 36人(3群)
- 研究の種類
- 実験施設でのランダム化比較試験(+大規模コホートの観察研究)
- 確かさ
- ★★★☆☆
週末に好きなだけ寝ても、平日の短い睡眠で起きた体の代謝の乱れは防げなかった実験がある。睡眠の借金返済には思ったより日数がかかる。
ひとことで言うと週末に寝坊しても、平日の寝不足は全部はチャラにならない!
平日は5〜6時間睡眠。そのかわり土日は昼まで寝て「寝だめ」する――。そんな生活、身に覚えはありませんか?
「週末にまとめて寝れば帳尻が合う」という作戦、実は科学的にはかなり分が悪いことがわかってきました。でも話はそう単純でもなく、「先に寝だめしておく」ことには意外な効果があるかもしれない、という研究まであるんです。
01寝不足は「借金」のようにたまっていく
睡眠の研究では、足りない睡眠が積み重なった状態を「睡眠負債」と呼びます。毎日少しずつ借りたお金がふくらんでいくのと同じで、1日1時間の不足でも、1週間で7時間ぶんの借金になります。
しかもやっかいなのは、本人がその借金に気づきにくいこと。睡眠不足が続くと「眠い」という感覚には慣れてくるのに、集中力や反応の速さは落ち続ける、という実験結果があります(6時間睡眠の別記事で詳しく紹介しています)。
02週末に爆睡しても、体の乱れは戻らなかった
週末、参加者はふだんより合計で約1.1時間多く眠り、その間は夜食も一時的に減りました。でも、月曜からまた寝不足が始まると体内時計は後ろにずれ、インスリンの効きは元の状態より約9〜27%落ちていました。体の内側で起きている変化は、たった2日では元に戻らないようなのです。
ただし、この実験の参加者は36人と少なく、期間も約2週間。何年も続く生活でどうなるかまでは、この実験からはわかりません。
さらに、週末に遅くまで寝ると、体内時計が後ろにずれてしまい、月曜の朝がますますつらくなるという副作用もあります(「社会的時差ボケ」の記事で詳しく解説しています)。

03借金返済には「数日」かかる
では、睡眠の借金はどうすれば返せるのでしょう?
日本の国立精神・神経医療研究センターの北村真吾さんらが2016年に『Scientific Reports』で報告した研究では、健康な若い男性に、実験室で毎晩長めに寝床にいてもらう生活を続けてもらい、その人が本来必要な睡眠時間を推定しました。すると、ふだんの睡眠は必要量より短い人が多く、わずか1時間ぶんの借金でも、元の状態に戻るまでに約4日かかったと報告されています。
つまり「土日の2日間で1週間分を返す」のは、どう考えても無理がある計算です。
04意外な逆転:「先に寝だめ」は効くかも?
ここで面白いのが、アメリカ陸軍のウォルター・リード陸軍研究所のRuppさんらが2009年に『Sleep』誌で報告した研究。健康な大人24人のうち、1週間毎晩10時間寝床にいてから、1日3時間しか寝られない1週間に入ったグループは、ふだんどおり寝ていたグループに比べ、寝不足中の注意力テストでのミスが少なく、回復も早かったといいます。
いわば「睡眠の貯金」。ただしこれは少人数の実験で、大事な試験や夜勤の前など「寝不足になるとわかっている時」の備えのヒントであって、毎週の寝不足を正当化するものではありません。
05寝だめは「まったくのムダ」でもない?
一方で、スウェーデンの約4万4000人を13年間追跡したÅkerstedtさんらの2019年の研究では、65歳未満の人のうち、平日も週末もずっと5時間以下しか寝ない人は、ずっと6〜7時間寝る人より死亡率が高かったのに対し、平日は短くても週末に長く寝る人では、死亡率の上昇は見られませんでした。
ただしこれは、最初にアンケートで睡眠時間を一度たずねただけの観察研究です。「週末の寝だめで寿命が守られる」と証明したわけではなく、ほかの生活習慣の違いが混ざっている可能性もあります。代謝を細かく測った実験(Depnerさんら)とは見ているものが違う、という点も押さえておきましょう。
06まとめ
週末の寝だけでは、「借金の完済」にはならない。これが今のところの科学の答えです。
睡眠の借金は、まとめて返すより、こまめに借りないのがいちばん。今夜15分だけ早く布団に入るところから始めてみませんか?
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerSleeping late on weekends is a popular way to make up for short weeknights.
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4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
Many people sleep only five or six hours on weekdays and then sleep until noon on weekends. Can this pay back the lost sleep? A 2019 experiment in the US says no.
People who slept five hours on weekdays and slept as long as they liked on weekends still ate more at night and gained weight. Lost sleep is like a debt. It is better not to build it up.
70 words ・ CEFR A2
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多くの人は、平日に5〜6時間しか眠らず、週末に昼まで眠ります。これで失った睡眠を取り戻せるのでしょうか?アメリカの2019年の実験は「いいえ」と言っています。
平日は5時間眠り、週末は好きなだけ眠った人たちも、やはり夜にたくさん食べて体重が増えました。失った睡眠は借金のようなものです。ためないほうがよいのです。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the main idea of the passage?
週末の寝だめでは平日の睡眠不足を完全には取り戻せない、という主旨なので A。
Q2. What happened to people who slept as long as they liked on weekends?
still ate more at night and gained weight とあるので C。
Q3. In this passage, a "debt" is ...
debt は「借金」。返さなければならないものなので B。
Sleeping late on weekends is a popular way to make up for short weeknights. A 2019 study in the US suggests it does not work very well. Healthy young adults lived in a research facility for about two weeks.
One group slept nine hours every night, and another slept five. A third group slept five hours on weekdays but as long as they wanted on weekends. Just like the five-hour group, the weekend group ate more after dinner and gained weight, and their insulin worked less well.
Paying back lost sleep also takes time. In a 2016 Japanese study, recovering from just one hour of sleep debt took about four days. By that measure, a weekend is much too short to repay a whole week of short nights.
128 words ・ CEFR B1
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週末に遅くまで眠るのは、平日の短い睡眠を埋め合わせるよくある方法です。アメリカの2019年の研究は、これがあまりうまくいかないことを示しています。健康な若い成人が約2週間研究施設で暮らしました。
あるグループは毎晩9時間眠り、別のグループは毎晩5時間眠りました。3つ目のグループは、平日は5時間、週末は好きなだけ眠りました。週末のグループも、5時間のグループと同じように夕食後に多く食べて体重が増え、インスリンの効きも悪くなりました。
失った睡眠を取り戻すのにも時間がかかります。2016年の日本の研究では、たった1時間の睡眠負債から回復するのに約4日かかりました。その基準で考えると、週末だけでは1週間分の短い睡眠を返すにはとても足りません。
4択リーディングクイズ
Q1. How many groups were there in the 2019 study?
毎晩9時間、毎晩5時間、平日5時間で週末は好きなだけ、の3グループが登場するので D。
Q2. According to the 2016 Japanese study, how long did it take to recover from one hour of sleep debt?
recovering from just one hour of sleep debt took about four days とあるので A。
Q3. What is the writer's conclusion?
最終文 a weekend is much too short to repay a whole week of short nights が結論なので B。
Thirty-six healthy young adults spent about two weeks living in a sleep laboratory at the University of Colorado Boulder in 2019. Researchers randomly assigned them to sleep nine hours a night, five hours a night, or five hours on weekdays with unlimited sleep at the weekend. In practice, the weekend group slept only about 1.1 hours extra in total.
Once the short nights resumed, their body clocks shifted later and their insulin sensitivity fell by roughly 9 to 27 percent, so the lie-ins did not protect their metabolism. Sleeping extra in advance may work better. In a 2009 experiment, people who extended their sleep before a stretch of severe restriction made fewer attention errors during it. A large Swedish cohort study offers a more hopeful result.
People under 65 who slept briefly on weekdays but longer at weekends did not have higher mortality. That finding rests on a single self-report from each person, though, and an observational study of this kind cannot separate cause from coincidence. Repaying sleep debt is slow in any case. A 2016 Japanese study estimated that recovering from just one hour of lost sleep took about four days.
192 words ・ CEFR B2
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2019年、36人の健康な若い成人が、コロラド大学ボルダー校の睡眠実験施設で約2週間暮らしました。研究者たちは彼らを無作為に、毎晩9時間眠る、毎晩5時間眠る、平日は5時間で週末は無制限に眠る、のいずれかに割り当てました。実際には、週末グループが余分に眠ったのは合計で約1.1時間だけでした。
短い夜が再び始まると、体内時計は後ろにずれ、インスリン感受性はおよそ9〜27%低下しました。週末の寝だめは代謝を守らなかったのです。前もって多めに眠るほうが効果があるかもしれません。2009年の実験では、厳しい睡眠制限の期間の前に睡眠を延ばしておいた人は、その期間中の注意のミスが少なくなりました。スウェーデンの大規模なコホート研究は、もっと希望の持てる結果を示しています。
平日は短く週末は長く眠る65歳未満の人に、死亡率の上昇は見られなかったのです。ただし、この結果は一人につき1回の自己申告に基づいており、この種の観察研究では原因と偶然の一致を区別できません。いずれにしても、睡眠負債の返済には時間がかかります。2016年の日本の研究は、たった1時間の睡眠不足から回復するのに約4日かかると推定しました。
4択リーディングクイズ
Q1. What happened to insulin sensitivity in the weekend recovery group?
their insulin sensitivity fell by roughly 9 to 27 percent とあるので C。
Q2. What does the 2009 experiment suggest?
people who extended their sleep before a stretch of severe restriction made fewer attention errors とあり、前もって多めに眠ることが役立つ可能性を示しているので A。
Q3. What weakness of the Swedish study does the author point out?
rests on a single self-report from each person ... an observational study of this kind cannot separate cause from coincidence とあるので D。
重要単語
- sleep debtB2名詞(句)睡眠負債(たまった睡眠不足)It takes several days to pay back sleep debt.
debt の b は黙字。be in debt「借金している」、pay back a debt「借金を返す」。 - recoveryB1名詞回復Weekend recovery sleep did not fix everything.
recover from ~「~から回復する」。recovery sleep「回復睡眠」。 - metabolismB2名詞代謝Lack of sleep can disturb your metabolism.
形容詞 metabolic。metabolic syndrome「メタボリックシンドローム」の語源。 - insulin sensitivityC1名詞(句)インスリン感受性(インスリンの効きやすさ)Insulin sensitivity dropped after a week of short sleep.
インスリンは血糖値を下げるホルモン。感受性が下がると糖尿病のリスクに関係する。 - restrictionB2名詞制限Sleep restriction made the participants eat more at night.
restrict「制限する」。restrictions on ~「~に対する制限」。 - compensateC1動詞埋め合わせる、補うYou cannot fully compensate for lost sleep on weekends.
compensate for ~「~を埋め合わせる」= make up for ~。名詞 compensation「補償」。
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- Sleep Deprivation and Deficiency(NIH 国立心肺血液研究所)nhlbi.nih.gov
- 睡眠対策(厚生労働省)mhlw.go.jp
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出典・参考文献(5件)タップで表示
- Depner et al. (2019) Ad libitum weekend recovery sleep fails to prevent metabolic dysregulation during a repeating pattern of insufficient sleep and weekend recovery sleep, Current Biologydoi.org
- Kitamura et al. (2016) Estimating individual optimal sleep duration and potential sleep debt, Scientific Reportsdoi.org
- Rupp et al. (2009) Banking sleep: realization of benefits during subsequent sleep restriction and recovery, Sleepdoi.org
- Åkerstedt et al. (2019) Sleep duration and mortality - Does weekend sleep matter?, Journal of Sleep Researchdoi.org
- Van Dongen et al. (2003) The cumulative cost of additional wakefulness: dose-response effects on neurobehavioral functions and sleep physiology from chronic sleep restriction and total sleep deprivation, Sleepdoi.org
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。










