昔の人は夜中に一度起きていた? 「第一の眠り」と「第二の眠り」をめぐる歴史ミステリー

読む前に予想してみよう!
産業革命前のヨーロッパには、夜を2回に分けて眠る習慣の記録がある
歴史学者エカーチが、日記や裁判記録などから「第一の眠り」「第二の眠り」という表現を数多く見つけた。
- 対象
- 歴史資料・実験参加者・狩猟採集民
- 規模
- 実験は少人数、野外調査は3集団
- 研究の種類
- 歴史研究・実験室研究・野外観察
- 確かさ
- ★★☆☆☆
産業革命前のヨーロッパには、夜を「第一の眠り」と「第二の眠り」に分けて眠る記録が多く残る。ただし狩猟採集民の調査では分割睡眠は一般的でなく、議論が続く。
ひとことで言うと昔の人は、夜中に一度起きてから二度目の眠りについていたかも!
夜中の2時や3時に、ふと目が覚めてしまう。「また眠れなかった…自分は不眠症なのかも」と不安になる人もいるでしょう。
でももしかすると、昔の人にとって、夜中に一度起きるのはごく普通のことだったのかもしれません。歴史の記録をたどると、人々が夜を「第一の眠り」と「第二の眠り」に分けて過ごしていたらしい痕跡が、たくさん見つかっているのです。
01古い日記や裁判記録に出てくる「第一の眠り」
この話を広めたのは、アメリカ・バージニア工科大学の歴史学者A・ロジャー・エカーチ(Ekirch)さんです。
真夜中の“すきま時間”に人々がしていたことも、記録に残っています。
- お祈りをしたり、考えごとをしたりする
- 夢について振り返る
- 家の用事をすませる
- 近所の人とおしゃべりする
今の私たちから見ると不思議ですが、夜が長く、明かりも貴重だった時代には、自然なリズムだったのかもしれません。

02実験で再現:長い夜を与えると、眠りは2つに割れた
歴史の記録だけではありません。実験でも似たことが起きました。
アメリカ国立精神衛生研究所のWehr(ウェア)さんは1992年、健康な参加者に、ふだんの「明るい時間16時間」から、明るい時間10時間・暗い時間14時間(冬の長い夜のような環境)に切り替えて数週間過ごしてもらう実験を報告しました。すると、多くの参加者の眠りが2つのかたまりに分かれ、その間に1〜3時間ほど静かに目覚めている時間があらわれたのです。
人工の光がなく夜が長い環境では、人間の眠りは自然と2回に分かれやすいのかもしれない――エカーチさんの歴史研究と、きれいに重なる結果でした。
03でも「人類の本来の眠り」とは言い切れない
ところが、話はそう単純ではありません。
アメリカ・ニューメキシコ大学のYetishさん、UCLAのSiegelさんらは2015年、『Current Biology』誌で、電気のない暮らしを続けるタンザニア、ナミビア、ボリビアの3つの狩猟採集・農耕の人々の睡眠を、腕時計型の装置で測りました。すると、夜中に長く起きている分割睡眠は一般的ではなかったのです。
つまり、分割睡眠は「人類共通の本来の姿」というより、特定の地域・時代・季節の環境で生まれた眠り方だった可能性もあります。
歴史学の内部でも議論は続いています。2023年には、歴史家のBoyceさんが『Medical History』誌で、近世イングランドの資料を読み直し、分割睡眠とは違う眠り方でも資料を説明できるのではないかと疑問を投げかけました。これに対してエカーチさん本人が2024年に同じ雑誌で反論しており、歴史資料の読み方そのものが論点になっています。
「人間の本来の眠りは分割睡眠だから、夜中に起きるのが正しい」という主張を見かけることがありますが、これは言いすぎです。証拠は歴史資料と一部の実験が中心で、現代の生活にそのまま当てはめられるかはわかっていません。
04まとめ
昔のヨーロッパの人々は、夜中に一度起きて、ロウソクの明かりのもとで過ごしてから「第二の眠り」についていたらしい。ただし、それが人類みんなの“本来の眠り”かどうかは、まだ決着していません。
夜中に目が覚めてしまったら、「昔の人もこうだったかも」と思ってみてください。それだけで、真夜中の不安が少し軽くなるかもしれません。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerWaking up in the middle of the night may not always be a problem.
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原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
Do you sometimes wake up in the middle of the night? Long ago, this may have been normal. A historian found many old diaries and letters from Europe that talk about a "first sleep" and a "second sleep."
People went to bed early, woke up for one or two hours, and then slept again. They prayed or talked with neighbors. But today, some groups without electric light do not sleep this way.
72 words ・ CEFR A2
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夜中に目が覚めることはありますか?昔は、それが普通だったのかもしれません。ある歴史学者が、ヨーロッパの古い日記や手紙の中に「第一の眠り」と「第二の眠り」について書かれたものをたくさん見つけました。
人々は早く寝て、1〜2時間起きて、それからまた眠りました。彼らはお祈りをしたり、近所の人と話したりしました。しかし今日、電気の明かりのない一部の集団は、このようには眠っていません。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
昔の人が「第一の眠り」と「第二の眠り」に分けて寝ていたという話なので D。
Q2. How long did people stay awake between the two sleeps?
woke up for one or two hours, and then slept again とあるので A。
Q3. In this passage, a "historian" is a person who ...
historian は「歴史学者」。過去を研究する人なので C。
Waking up in the middle of the night may not always be a problem. In 2001, an American historian reported that old diaries, letters and court records from pre-industrial Britain often mentioned a "first sleep" and a "second sleep." People seem to have gone to bed early, stayed awake for an hour or two around midnight, and then slept again until morning. He believes this habit was lost after artificial light spread.
A 1992 experiment supported the idea. When participants spent weeks with 14 hours of darkness each night, many began sleeping in two parts. However, in 2015, researchers measured the sleep of three groups who live without electricity in Africa and South America, and found that this kind of sleep was not common.
124 words ・ CEFR B1
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夜中に目が覚めることは、いつも問題だとは限らないかもしれません。2001年、アメリカの歴史学者は、産業革命前のイギリスの古い日記、手紙、裁判記録に「第一の眠り」と「第二の眠り」がよく登場すると報告しました。人々は早く寝て、真夜中ごろに1〜2時間起きていて、それから朝まで再び眠っていたようです。彼は、この習慣は人工の明かりが広まった後に失われたと考えています。
1992年の実験はこの考えを支持しました。参加者が毎晩14時間の暗闇の中で数週間過ごすと、多くの人が2つに分けて眠り始めたのです。しかし2015年、研究者たちはアフリカと南アメリカで電気なしで暮らす3つの集団の睡眠を測定し、このような眠り方は一般的ではないことを発見しました。
4択リーディングクイズ
Q1. According to the historian, why was the habit of two sleeps lost?
He believes this habit was lost after artificial light spread. とあるので B。
Q2. What happened in the 1992 experiment?
many began sleeping in two parts とあるので C。
Q3. What does the 2015 study suggest?
電気のない集団でも分割睡眠は一般的でなかったので、すべての人間にとって自然とは限らないと推論できる。A。
Waking in the small hours is often seen as a symptom of insomnia, but historical research suggests it may once have been routine. In 2001, the historian A. Roger Ekirch published an analysis of diaries, letters, court records, medical texts and literature from pre-industrial Britain, in which references to a "first sleep" and a "second sleep" were common. People apparently retired early, spent an hour or two awake around midnight praying, reflecting on dreams or visiting neighbors, and then slept until dawn. Ekirch argued that the spread of artificial lighting erased this pattern. A 1992 experiment appeared to support him: when volunteers were exposed to 14 hours of darkness nightly for several weeks, their sleep often split into two blocks separated by one to three hours of quiet wakefulness.
But a 2015 study of three societies living without electricity in Tanzania, Namibia and Bolivia found that segmented sleep was uncommon. Even among historians the issue is contested; a 2023 reassessment questioned how widespread the practice really was, prompting a reply from Ekirch in 2024. Claims that segmented sleep is humanity's natural pattern therefore go beyond the evidence.
187 words ・ CEFR B2
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真夜中に目が覚めることは不眠の症状と見なされがちですが、歴史研究は、それがかつてはごく普通のことだったかもしれないと示しています。2001年、歴史学者のA・ロジャー・エカーチは、産業革命前のイギリスの日記、手紙、裁判記録、医学書、文学作品を分析した論文を発表し、その中では「第一の眠り」と「第二の眠り」への言及がよく見られました。人々はどうやら早く床につき、真夜中ごろに1〜2時間起きて、祈ったり夢を振り返ったり近所を訪ねたりして過ごし、それから夜明けまで眠っていたようです。エカーチは、人工照明の普及がこのパターンを消し去ったと主張しました。1992年の実験は彼を支持しているように見えました。ボランティアが数週間、毎晩14時間の暗闇にさらされると、彼らの睡眠はしばしば、1〜3時間の静かな覚醒をはさんだ2つのかたまりに分かれたのです。
それでも、タンザニア、ナミビア、ボリビアで電気なしに暮らす3つの社会を調べた2015年の研究では、分割睡眠はまれでした。歴史学者の間でさえこの問題には異論があります。2023年の再検討は、その慣習が実際にどれほど広まっていたかに疑問を投げかけ、2024年にはエカーチからの反論を招きました。したがって、分割睡眠が人類の自然なパターンだという主張は証拠の範囲を超えています。
4択リーディングクイズ
Q1. What kinds of sources did Ekirch analyze?
diaries, letters, court records, medical texts and literature from pre-industrial Britain とあるので B。
Q2. What did the 2015 study of three societies find?
found that segmented sleep was uncommon とあるので D。
Q3. What is the author's conclusion?
最終文 Claims that segmented sleep is humanity's natural pattern therefore go beyond the evidence. が結論なので C。
重要単語
- segmentedC1形容詞分割されたSegmented sleep was common in some old records.
segment「部分、区切り」から。market segment「市場の区分」でも使う。 - pre-industrialC1形容詞産業革命前のPre-industrial homes had little artificial light.
pre-(前の)+industrial。the Industrial Revolution「産業革命」とセットで。 - artificial lightB2名詞(句)人工の光Artificial light changed how people sleep.
artificial ⇔ natural。artificial intelligence (AI)「人工知能」でおなじみ。 - hunter-gathererC1名詞狩猟採集民Researchers measured the sleep of hunter-gatherers.
hunt(狩る)+gather(集める)。人類学・歴史系長文の頻出語。 - debateB2名詞・動詞論争、議論/議論するThe debate among historians continues.
a heated debate「白熱した議論」。a debate about [on] ...「〜についての議論」の形でもよく使う。 - contestedC1形容詞異論のある、争われているThe idea of natural two-part sleep is still contested.
contest「異議を唱える、争う」の過去分詞。a contested election「争点となった選挙」。
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- Circadian Rhythms(NIH 国立一般医科学研究所)nigms.nih.gov
- 眠りのメカニズム(厚生労働省 e-ヘルスネット)kennet.mhlw.go.jp
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産業革命前のヨーロッパの古い記録に「第一の眠り」「第二の眠り」という言葉がたくさん出てくるらしい。夜中に1〜2時間起きて、祈ったり近所を訪ねたりしてから、また寝ていたとか。夜中に目が覚めるの、実は昔は普通だった?
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出典・参考文献(5件)タップで表示
- Ekirch (2001) Sleep we have lost: pre-industrial slumber in the British Isles, American Historical Reviewdoi.org
- Wehr (1992) In short photoperiods, human sleep is biphasic, Journal of Sleep Researchdoi.org
- Yetish et al. (2015) Natural sleep and its seasonal variations in three pre-industrial societies, Current Biologydoi.org
- Boyce (2023) Have we lost sleep? A reconsideration of segmented sleep in early modern England, Medical Historydoi.org
- Ekirch (2024) Reflections on 'Have we lost sleep?', Medical Historydoi.org
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。











