宇宙飛行士は壁に張りついて眠る。1日16回の日の出と戦う「宇宙の睡眠事情」

読む前に予想してみよう!
宇宙ステーションでは、寝袋を壁に固定して眠る
無重力では体が浮いてしまうため、個室の壁などに寝袋を固定して、その中で眠る。
- 対象
- スペースシャトル・ISSの宇宙飛行士
- 規模
- 85人(シャトル64人・ISS 21人、飛行中のべ4,000日以上)
- 研究の種類
- 観察研究(手首型活動量計と睡眠記録)
- 確かさ
- ★★★☆☆
宇宙ステーションでは寝袋を壁に固定して眠る。外は約90分で昼夜が一巡し、船内は薄暗い人工照明。体内時計が乱れやすく、宇宙での睡眠は平均約6時間と短い。
ひとことで言うと宇宙では上も下もないから、壁にくっついて寝る!
宇宙飛行士は、宇宙でどうやって眠っているのでしょう? ベッドはあるの? 枕は? 寝返りは?
地上では当たり前の「眠る」という行為も、宇宙ではまったく別物になります。そして実は、睡眠不足は宇宙飛行の大きな課題のひとつとして、本気で研究されているんです。
01ベッドはない。寝袋を「壁に」くくりつける
国際宇宙ステーション(ISS)には、乗組員ひとりひとりに電話ボックスほどの小さな個室が用意されています。そこにあるのが、壁に固定された寝袋です。
無重力の宇宙では、体はふわふわ浮いてしまいます。何かにつかまっていないと、眠っている間に部屋の中をただよって、壁や機械にぶつかってしまうかもしれません。だから寝袋を壁に固定し、その中に体を入れて眠るのです。
宇宙には上も下もないので、地上から見れば「壁に立ったまま」眠っているように見えます。でも本人にとっては、立っているのか横になっているのか、ほとんど関係ありません。
無重力で眠ると、腕が自然と前にふわっと浮き上がるので、寝袋の中にしまったり、ベルトで留めたりする人もいるそうです。また、頭を支える必要がないので、枕を使わない人も多いといいます。

02意外な危険:自分の息で「二酸化炭素の空気だまり」
地上では、温まった空気は上へ、冷たい空気は下へと自然に流れます(対流)。ところが無重力では、この対流が起きません。
そのため、眠っている人の顔のまわりに、自分が吐いた二酸化炭素がたまりやすいのです。そこで宇宙ステーションの個室では、換気扇でしっかり空気を循環させることが欠かせません。換気がうまくいかないと、頭痛などの原因になると考えられています。
031日に16回の日の出! 体内時計はパニック
さらに大きな問題が、光です。
国際宇宙ステーションは、約90分で地球を1周しています。つまり、約45分ごとに昼と夜が入れ替わり、1日に約16回も日の出と日の入りを迎えるのです。
私たちの体内時計は、朝の光でリセットされます(朝日の記事で紹介しました)。でも、日の出が1日16回もあったら、体内時計は「いつが朝なのかわからない!」状態に……なりそうですよね。
ただ、実はここにひとつ落とし穴があります。宇宙飛行士は1日の大半を船内で過ごしていて、窓の外の日の出を浴び続けているわけではありません。むしろ問題は、船内の照明が地上の昼間に比べてずっと暗いことです。
ハーバード大学医学部などのDijkさんらが2001年にスペースシャトルの飛行士5人を調べた研究では、船内の昼間の明るさは場所によってわずか5〜80ルクスほど。晴れた日の屋外(数万ルクス)とは比べものにならない暗さで、体内時計に「今は昼だ!」とはっきり伝えることができません。体温のリズムの振れ幅も小さくなり、睡眠は1日6.5時間ほどでした。
つまり体内時計が乱れる本当の理由は、「日の出が多すぎる」ことよりも、「昼は暗すぎ、夜とのメリハリがない」ことと、ミッションの都合で夜中に作業したり、寝る時間がずれたりすることにあると考えられています。
同じチームのFlynn-Evansさんらの2016年の研究では、ISSの飛行士の睡眠を「体内時計と合った時間帯に寝た日」と「ずれた時間帯に寝た日」に分けて比べました。体内時計とずれた日は、睡眠が平均約1時間短く(6.4時間→5.4時間)、睡眠を助ける薬を使う割合も約2倍(11%→24%)になっていました。
04光で体内時計をコントロールする工夫
そこで宇宙ステーションでは、古い蛍光灯にかわって、照明の色や明るさを時間帯に合わせて変えられるLED照明が導入されました(Brainardさんらが2016年にその開発の経緯をまとめています)。
- 「朝」や作業時間には、青白い明るい光で目を覚ます
- 「夜」が近づくと、暖かい色の暗めの光にして眠りの準備をする
地上の私たちが朝日や夕焼けで自然にやっていることを、宇宙では照明でつくり出しているわけです。
05まとめ
宇宙飛行士は、壁に固定した寝袋で、窓の外の1日16回の日の出と、薄暗い船内の照明の中で眠っていました。宇宙での睡眠研究は、将来の月や火星への長い旅にも欠かせないテーマです。
そして、宇宙で編み出された「光で体内時計を整える」工夫は、夜ふかしになりがちな地上の私たちにとっても、ちゃんと役に立つヒントになっています。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerIn the space station, there is no bed in the usual sense.
音声
4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
How do astronauts sleep in space? There is no up or down, so their bodies float. They sleep in a sleeping bag that is fixed to the wall of a very small room.
The space station goes around Earth about every 90 minutes, so they can see about 16 sunrises a day. But the lights inside are quite dark. Astronauts often sleep only about six hours a night.
68 words ・ CEFR A2
和訳を見る
宇宙飛行士は宇宙でどのように眠るのでしょうか?上も下もないので、体は浮いてしまいます。彼らは、とても小さな部屋の壁に固定された寝袋の中で眠ります。
宇宙ステーションは約90分ごとに地球を一周するので、1日に約16回の日の出が見えます。しかし、船内の照明はかなり暗いのです。宇宙飛行士は一晩に約6時間しか眠らないことがよくあります。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
宇宙飛行士がどのように眠り、どれくらい眠れているかが全体のテーマなので D。
Q2. How often does the space station go around Earth?
goes around Earth about every 90 minutes とあるので C。
Q3. In this passage, "float" means ...
上も下もない無重力で体が「浮く」ことを表しているので B。
In the space station, there is no bed in the usual sense. Each crew member has a tiny private room, about the size of a phone booth, and sleeps in a sleeping bag attached to the wall. Because air does not move naturally in microgravity, fans are needed to stop breathed-out carbon dioxide from collecting around the face. Light is another problem.
The station orbits Earth about every 90 minutes, but the bigger issue is that the lights inside are much dimmer than daylight on Earth. A 2014 study of 85 astronauts found that they slept only about six hours a night in space, and many used medicine to help them sleep. To improve the situation, LED lights that change color and brightness were introduced.
125 words ・ CEFR B1
和訳を見る
宇宙ステーションには、ふつうの意味でのベッドはありません。乗組員はそれぞれ電話ボックスほどの小さな個室を持ち、壁に取り付けられた寝袋の中で眠ります。微小重力では空気が自然に動かないため、吐き出した二酸化炭素が顔のまわりにたまらないよう、換気扇が必要です。光も別の問題です。
ステーションは約90分ごとに地球を周回していますが、より大きな問題は、船内の照明が地上の昼の光よりずっと暗いことです。85人の宇宙飛行士を調べた2014年の研究では、彼らは宇宙で一晩に約6時間しか眠っておらず、多くが眠るために薬を使っていました。状況を改善するため、色と明るさが変わるLED照明が導入されました。
4択リーディングクイズ
Q1. Why are fans needed in the sleeping rooms?
fans are needed to stop breathed-out carbon dioxide from collecting around the face とあるので C。
Q2. What did the 2014 study find?
slept only about six hours a night in space, and many used medicine とあるので A。
Q3. According to the passage, what is the bigger problem with light?
the bigger issue is that the lights inside are much dimmer than daylight とあるので D。日の出の多さより船内の暗さが問題とされている。
Sleep is surprisingly difficult in orbit. Crew members on the space station rest in sleeping bags fixed to the walls of phone-booth-sized cabins, and because there is no convection in microgravity, ventilation fans are essential to prevent exhaled carbon dioxide from building up around the face. The station circles Earth roughly every 90 minutes, producing about 16 sunrises a day, yet researchers argue that the main threat to the body clock lies elsewhere. A 2001 study of shuttle crews measured daytime cabin light at only about 5 to 80 lux, far too dim to signal daytime clearly.
In a 2014 observational study of 85 astronauts, sleep in flight averaged about six hours, and hypnotic medication use was common. A 2016 analysis added that when sleep was scheduled out of line with the circadian rhythm, it was about an hour shorter and medication use roughly doubled. Because these were observational studies, factors such as noise, stress and microgravity itself are hard to separate. Tunable LED lighting has been installed on the station, but its benefit is still being evaluated.
178 words ・ CEFR B2
和訳を見る
軌道上での睡眠は驚くほど難しいものです。宇宙ステーションの乗組員は、電話ボックスほどの大きさの個室の壁に固定された寝袋で休みます。微小重力では対流がないため、吐き出した二酸化炭素が顔のまわりにたまるのを防ぐには換気扇が欠かせません。ステーションは約90分ごとに地球を回り、1日に約16回の日の出をもたらしますが、研究者たちは体内時計への主な脅威は別のところにあると主張しています。2001年のシャトル乗員の研究では、昼間の船内の明るさはわずか約5〜80ルクスで、昼であることをはっきり伝えるにはあまりに暗いものでした。
85人の宇宙飛行士を対象とした2014年の観察研究では、飛行中の睡眠は平均約6時間で、睡眠薬の使用も一般的でした。2016年の分析はさらに、概日リズムとずれた時間に睡眠が予定されると、睡眠が約1時間短くなり、薬の使用がおよそ2倍になることを示しました。これらは観察研究なので、騒音、ストレス、微小重力そのものといった要因を切り分けるのは困難です。調光可能なLED照明がステーションに導入されましたが、その効果はまだ評価の途中です。
4択リーディングクイズ
Q1. According to the passage, what is the main threat to astronauts' body clocks?
16回の日の出よりも the main threat ... lies elsewhere として、船内の暗さと体内時計とずれたスケジュールが挙げられているので B。
Q2. What happened when sleep was scheduled out of line with the circadian rhythm?
it was about an hour shorter and medication use roughly doubled とあるので D。
Q3. Why does the author mention that the studies were observational?
観察研究なので騒音・ストレス・微小重力などの要因を are hard to separate と述べており、研究の限界を示すためなので C。
重要単語
- astronautB1名詞宇宙飛行士The astronaut slept in a small cabin.
astro-(星)+naut(船乗り)。astronomy(天文学)、nautical(航海の)と同語源。 - microgravityC1名詞微小重力(無重力に近い状態)In microgravity, your arms float in front of you.
micro-(微小な)+gravity(重力)。zero gravity より科学的に正確な言い方。 - circadian rhythmC1名詞(句)概日リズム(約24時間の体内リズム)Bright morning light resets your circadian rhythm.
circa(約)+dies(日)が語源で「約1日」。body clock と言いかえられる。 - orbitB2動詞・名詞(天体などの)周りを回る/軌道The station orbits Earth about every 90 minutes.
in orbit「軌道上で」もよく使う。他動詞なので orbit around としないのが基本。 - medicationB2名詞薬、薬物治療Some crew members needed medication to fall asleep.
medicine より「処方された薬・投薬」のニュアンス。be on medication「薬を服用中である」。 - dimB2形容詞薄暗いThe lights inside the station are dim.
dim the lights「照明を落とす」と動詞でも使える。反意語は bright。 - ventilationC1名詞換気Good ventilation keeps the air fresh.
ventilate(換気する)の名詞形。vent は「通気口」。
動画でもっと知る
動画は各チャンネルの公式埋め込みで表示しています(YouTube)。
この話題を TED で聞く
同じテーマの TED・TED-Ed を、
TED HACK で。英語の見どころ・使える表現・学習ミッションつきの日本語ガイドです。(運営:原田英語)
公式・一次情報をチェック
- International Space Station Facts and Figures(NASA)nasa.gov
- ISSでの日常生活(JAXA 有人宇宙技術部門)humans-in-space.jaxa.jp
このネタ、誰かに教えたくなった?
宇宙ステーションでは、寝袋を壁に固定して眠るらしい。上も下もないから、立って寝てるのか横になってるのかもわからない。窓の外では1日16回も日の出が来るうえ、船内は薄暗い照明で、体内時計が乱れやすいとか。
押すと「マジかリスト」に保存されます
出典・参考文献(4件)タップで表示
- Barger et al. (2014) Prevalence of sleep deficiency and use of hypnotic drugs in astronauts before, during, and after spaceflight: an observational study, Lancet Neurologydoi.org
- Flynn-Evans et al. (2016) Circadian misalignment affects sleep and medication use before and during spaceflight, npj Microgravitydoi.org
- Dijk et al. (2001) Sleep, performance, circadian rhythms, and light-dark cycles during two space shuttle flights, American Journal of Physiologydoi.org
- Brainard et al. (2016) The development of lighting countermeasures for sleep disruption and circadian misalignment during spaceflight, Current Opinion in Pulmonary Medicinedoi.org
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。











