ネズミをくすぐると「笑う」。人には聞こえない超音波の笑い声と、くすぐったさの脳の場所

読む前に予想してみよう!
ネズミはくすぐられると、人間に聞こえる大きな声で笑う
くすぐられたラットが出すのは約50キロヘルツの超音波で、人間の耳には聞こえない。特別な装置で聞こえる音に変換して記録する。
- 対象
- 実験用ラット(若い個体)
- 規模
- 複数匹(頭数は研究ごとに異なる)
- 研究の種類
- 行動実験・超音波の録音・脳の神経活動の記録
- 確かさ
- ★★★☆☆
ラットはくすぐられると、人に聞こえない50kHzの声で鳴き、手を追いかけて跳びはねる。脳には「くすぐったさ」の場所も。人の笑いと同じかは議論中。
ひとことで言うとネズミはくすぐられると、人には聞こえない高い声で「笑う」ような声を出す!
ネズミ(ラット)をくすぐったら、笑うと思いますか?
「そんなバカな」と思うかもしれません。でも、ラットをやさしくくすぐると、人間には聞こえない高い声で、さかんに鳴き始めます。そして、くすぐった手を自分から追いかけてくるのです。
この不思議な現象を、まじめに研究し続けた科学者たちがいます。
01人間の耳には聞こえない「チュチュチュ」
ラットは、仲間と遊ぶときなどに、約50キロヘルツという、とても高い声を出します。人間の耳に聞こえるのは、だいたい20キロヘルツまで。だから、この声は超音波で、そのままでは聞こえません。特別なマイクで録音し、聞こえる音に変換して調べます。
パンクセップさんはこの声を、論文のタイトルで「笑い?」と、はてなマーク付きで呼びました。2005年には『Science』に「冗談では済まない:動物の笑いから人間の喜びへ?」という小論を書き、動物にも喜びの感情の原型があるのではないかと問いかけています。

02脳には「くすぐったさ」の場所があった
では、ラットの脳の中では何が起きているのでしょうか。
この研究には、もう一つ面白い発見がありました。ラットを、高い台の上や明るい場所など不安を感じる状況に置くと、くすぐっても鳴き声が減り、脳の反応も弱まったのです。
人間も、気分がいいときにくすぐられると笑ってしまうけれど、嫌いな人や緊張している場面だとあまり笑えませんよね。くすぐったさは気分しだい、という点でも、ラットと人間は似ていました。
03どんでん返し:本当に「笑い」なの?
ただし、ラットの声を人間の笑いと同じものだと考えるのは、慎重であるべきです。
- 50kHzの声は、くすぐり以外にも、遊びや食べ物、仲間との出会いなど、いろいろな「よい場面」で出ます
- 「笑い」という言葉は、人間の感情をあてはめすぎてしまう危険があります
- パンクセップさん自身も、この言葉の使い方には難しさがあることを論文の中で認めています
研究者の多くは、「人間の笑いと進化的なルーツを共有しているかもしれない、ポジティブな気持ちのサイン」くらいに受け止めています。
04まとめ
ラットは、くすぐられると超音波で鳴き、手を追いかけ、跳びはねる。脳には「くすぐったさ」の場所があり、それは気分にも左右されていました。
それを「笑い」と呼ぶかどうかは、まだ議論の途中です。でも、楽しい気持ちのルーツが、人間だけのものではないかもしれない。そう考えると、ちょっとうれしくなりませんか?
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerRats make very high calls of around 50 kilohertz when they play, but humans can only hear sounds up to…
音声
4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
What happens when you tickle a rat? It makes many high sounds. People cannot hear them because they are too high. Scientists use special microphones to record them. Tickled rats also follow the person's hand and jump with joy.
But when rats feel afraid, they do not make these sounds very much. Some scientists call this rat laughter, but we do not know if it is the same as human laughter.
71 words ・ CEFR A2
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ネズミをくすぐると、何が起こるでしょうか。ネズミはたくさんの高い音を出します。その音は高すぎるので、人間には聞こえません。科学者たちは特別なマイクを使ってそれを録音します。くすぐられたネズミは、人の手を追いかけ、喜んで跳びはねもします。
しかし、ネズミが怖がっているときは、こうした音をあまり出しません。これをネズミの笑いと呼ぶ科学者もいますが、人間の笑いと同じかどうかはわかっていません。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
くすぐられたネズミの反応(高い声・手を追う・跳ねる)がテーマなので A。
Q2. Why can't people hear the rats' sounds?
People cannot hear them because they are too high. とあるので B。
Q3. In this passage, "with joy" means ...
joy は「喜び」。jump with joy で「喜んで跳びはねる」なので C。
Rats make very high calls of around 50 kilohertz when they play, but humans can only hear sounds up to about 20 kilohertz. In 2000, Jaak Panksepp and Jeffrey Burgdorf tickled young rats and found that they made many of these ultrasonic calls and learned to approach the hand, as if tickling were a reward.
In 2016, Shimpei Ishiyama and Michael Brecht recorded brain activity in tickled rats. Many nerve cells in the part of the brain that senses the body's trunk responded strongly, and stimulating them made the rats call even without tickling. When the rats were placed in stressful situations, though, they called less. Like humans, rats seem to enjoy tickling only when they are in a good mood.
121 words ・ CEFR B1
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ラットは遊ぶときに約50キロヘルツのとても高い声を出しますが、人間に聞こえるのは約20キロヘルツまでの音だけです。2000年、ヤーク・パンクセップさんとジェフリー・バーグドーフさんは若いラットをくすぐり、ラットがこうした超音波の声をたくさん出し、まるでくすぐりがごほうびであるかのように手に近づくことを学ぶのを発見しました。
2016年、イシヤマ・シンペイさんとミヒャエル・ブレヒトさんは、くすぐられたラットの脳の活動を記録しました。体の胴体の感覚を受け持つ脳の部分にある多くの神経細胞が強く反応し、それらを刺激すると、くすぐらなくてもラットが鳴きました。ただ、ラットをストレスのかかる状況に置くと、鳴き声が減りました。人間と同じように、ラットも気分がよいときだけくすぐりを楽しむようです。
4択リーディングクイズ
Q1. What did Panksepp and Burgdorf find in 2000?
made many of these ultrasonic calls and learned to approach the hand とあるので B。
Q2. What happened when the researchers stimulated the nerve cells?
stimulating them made the rats call even without tickling とあるので A。
Q3. What can we infer from the final part of the passage?
ストレス下では鳴き声が減り、気分がよいときだけ楽しむようだ、とあるので D。
Rats give off ultrasonic calls of about 50 kilohertz, far above the roughly 20-kilohertz limit of human hearing, when they play or are in other positive situations. The late neuroscientist Jaak Panksepp asked seriously whether these calls were a kind of laughter. In a 2000 study, he and Jeffrey Burgdorf found that young rats tickled by hand called in large numbers and learned to seek out the tickling hand.
By breeding the rats that called most, they created a high-calling line in just four generations. In 2016, Shimpei Ishiyama and Michael Brecht recorded neurons in the trunk region of the rat's somatosensory cortex. Many fired hard during tickling, and stimulating deep layers electrically set off calls with no touch. On a raised platform under bright light, conditions that make rats anxious, both the calls and the neural responses died down, much as human ticklishness depends on mood.
Is laughter the right word? Rats also make these calls around food, play and social contact, and the word risks projecting human feelings onto animals, as Panksepp himself admitted. Many researchers prefer to describe the calls as a sign of positive feeling that may share evolutionary roots with our own laughter.
198 words ・ CEFR B2
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ラットは遊んでいるときやほかのよい場面で、人間の聴覚の限界である約20キロヘルツをはるかに超える、約50キロヘルツの超音波の声を出します。故・神経科学者ヤーク・パンクセップさんは、この声が一種の笑いなのかどうかを真剣に問いました。2000年の研究で、パンクセップさんとジェフリー・バーグドーフさんは、手でくすぐられた若いラットがこの声を大量に出し、くすぐる手を自分から求めるようになることを発見しました。最もよく鳴くラットをかけ合わせることで、わずか4世代でよく鳴く系統も作り出しました。
2016年、イシヤマ・シンペイさんとミヒャエル・ブレヒトさんは、ラットの体性感覚野のうち胴体を受け持つ領域の神経細胞を記録しました。多くの細胞がくすぐりに激しく反応し、深い層を電気で刺激すると、触れなくても鳴き声が引き起こされました。ラットを不安にさせる条件である、明るい光の下の高い台の上では、鳴き声と神経の反応の両方が弱まりました。人間のくすぐったさが気分に左右されるのとよく似ています。
では、「笑い」という言葉は正しいのでしょうか。ラットは食べ物や遊び、仲間との触れ合いの場面でもこの声を出しますし、この言葉は人間の感情を動物にあてはめてしまう危険があります。パンクセップさん自身もそれを認めていました。多くの研究者は、この声を、人間の笑いと進化的なルーツを共有しているかもしれないポジティブな気持ちのサインと表現するほうを好みます。
4択リーディングクイズ
Q1. What did Panksepp and Burgdorf achieve through selective breeding?
created a high-calling line in just four generations とあるので B。
Q2. What happened when rats were placed in anxiety-inducing conditions?
both the calls and the neural responses died down とあるので C。die down は「弱まる、静まる」。
Q3. Why are many researchers careful about calling the sounds "laughter"?
Rats also make these calls around food, play and social contact, and the word risks projecting human feelings onto animals とあり、ほかの場面でも出ること、人間の感情をあてはめる危険があることを理由に挙げているので A。
重要単語
- tickleB1動詞くすぐるThe researcher tickled the rat's belly.
形容詞 ticklish「くすぐったがりの」。be tickled pink は「大喜びする」という口語表現。 - ultrasonicC1形容詞超音波のRats make ultrasonic calls that we cannot hear.
ultra-(超えた)+sonic(音の)。名詞は ultrasound「超音波(検査)」。 - vocalizationC1名詞発声Tickling increased the number of vocalizations.
vocal(声の)の名詞形。動物の鳴き声を学術的に言うときの定番語。 - anxietyB2名詞不安Anxiety suppressed the response to tickling.
形容詞 anxious。be anxious about ~「~を心配する」、be anxious to do「~したがる」の区別が入試頻出。 - cortexC1名詞(大脳)皮質Neurons in the cortex responded to tickling.
複数形は cortices。cerebral cortex「大脳皮質」、visual cortex「視覚野」。 - suppressC1動詞抑える、抑制するAnxiety suppressed the rats' calls.
sup-(下に)+press(押す)。suppress a yawn「あくびをかみ殺す」。名詞は suppression。
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ネズミをくすぐると、人間には聞こえない超音波で「チュチュチュ」と鳴き、くすぐった手を追いかけてくるらしい。しかも不安なときは、くすぐっても鳴き声が減る。人間の「くすぐったいけど気分次第」とそっくり。
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出典・参考文献(3件)タップで表示
- Panksepp & Burgdorf (2000) 50-kHz chirping (laughter?) in response to conditioned and unconditioned tickle-induced reward in rats, Behavioural Brain Researchdoi.org
- Panksepp (2005) Beyond a Joke: From Animal Laughter to Human Joy?, Sciencedoi.org
- Ishiyama & Brecht (2016) Neural correlates of ticklishness in the rat somatosensory cortex, Sciencedoi.org
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。













