虫にかじられた植物は「助けて」の匂いを出す。天敵のハチを呼ぶ“SOSの化学”

読む前に予想してみよう!
植物は、傷ついた仲間が出す匂いを受けとって自分の守りを固めることがある
トマトは隣の株が出した匂い物質を取りこみ、虫に効く物質に作りかえていた。
- 対象
- トウモロコシ、野生タバコ、トマト、シロイヌナズナ
- 規模
- 実験室と野外
- 研究の種類
- 行動実験・化学分析・イメージング
- 確かさ
- ★★★★☆
イモムシにかじられたトウモロコシは特別な匂いを出し、イモムシに卵を産む寄生バチを呼び寄せる。近くの植物もその匂いを受けとって守りを固める。
ひとことで言うとかじられた植物は、においで「たすけて!」とボディガードをよぶ!
芝刈りのあとに広がる、あの青くさい匂い。夏らしくて好きだという人も多いでしょう。
でも植物の立場からすると、あれは「ケガをした!」というサイン。しかも植物は、この“匂いの言葉”を使って、自分を食べる虫の天敵をわざわざ呼び寄せていることがわかってきました。
01イモムシの「口の液」がスイッチ
ポイントは、植物が「ただの傷」と「イモムシにかじられた傷」を区別していること。そして出す匂いが、イモムシの天敵にとっての“ここにいるよ”の看板になっていることです。
寄生バチに卵を産みつけられたイモムシは、やがて体の中から食べられてしまいます。植物は、自分で戦うかわりに用心棒を呼んでいるわけです。

02野生の世界でも本当に効いていた
「実験室の話でしょ?」と思うかもしれません。そこでドイツ・マックスプランク研究所のケスラー(Kessler)さんとボールドウィン(Baldwin)さん(2001年、『Science』)は、アメリカの砂漠に自生する野生のタバコで確かめました。
植物が出す匂い物質をいくつか人工的に放出させたところ、
- 天敵の虫が、害虫の卵を食べる率が上がった
- ある匂い(リナロール)では、害虫の蛾が卵を産みに来にくくなった
研究チームは、匂いを出すことで害虫の数を9割以上減らせる可能性があると見積もりました。
03隣の植物は「匂いを飲みこんで」身構える
この匂いを受けとるのは、虫だけではありません。
日本の研究チーム(Sugimotoら、2014年、『PNAS』)は、イモムシに食べられているトマトの隣に別のトマトを置きました。すると隣の株は、空気中の青葉の匂い成分((Z)-3-ヘキセノール)を取りこみ、それをイモムシに効く物質に作りかえてためこんでいたのです。
さらに2023年、埼玉大学などのチーム(Aratani、Toyotaら、『Nature Communications』)は、シロイヌナズナが傷ついた植物の匂いを浴びると、葉の気孔から匂いが入り、細胞のカルシウム信号がすばやく広がる様子を映像でとらえました。植物の「嗅覚」のしくみの一端が、目で見えたのです。
04まとめ
植物はただ食べられているだけの“受け身の存在”ではありませんでした。かじられたら匂いで助けを呼び、仲間の匂いを感じたら先回りして守りを固める。
次に草刈りの匂いをかいだら、思い出してください。いまこの瞬間も、足元では“SOSの化学”が飛びかっているのです。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerThe fresh smell of cut grass is actually a sign that plants are damaged.
音声
4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
When you cut grass, it smells fresh. For plants, this smell means "I am hurt." When caterpillars eat corn leaves, the corn sends out a special smell. This smell calls small wasps that lay their eggs inside caterpillars.
The wasps' babies then eat the caterpillars from the inside. So the plant calls a bodyguard! Nearby plants can also notice the smell and get ready to protect themselves.
67 words ・ CEFR A2
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草を刈ると、さわやかなにおいがします。植物にとって、このにおいは「ケガをした」という意味です。イモムシがトウモロコシの葉を食べると、トウモロコシは特別なにおいを出します。このにおいは、イモムシの体の中に卵を産む小さなハチを呼び寄せます。
ハチの子どもは、イモムシを内側から食べてしまいます。つまり植物はボディガードを呼んでいるのです!近くの植物もそのにおいに気づき、身を守る準備をすることができます。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
かじられた植物がにおいでハチ(ボディガード)を呼ぶ話なので A。
Q2. What does the special smell call?
This smell calls small wasps とあるので C。
Q3. In this passage, "bodyguard" means ...
bodyguard は「護衛」。イモムシを退治して植物を守ってくれるハチのたとえなので B。
The fresh smell of cut grass is actually a sign that plants are damaged. In 1990, American researchers found that corn seedlings chewed by caterpillars released large amounts of special smelling chemicals. Damaging the leaves artificially was not enough, but adding liquid from a caterpillar's mouth caused the release.
Female parasitic wasps, which lay their eggs inside caterpillars, learned to use this smell to find their targets. In 2001, a study of wild tobacco showed that such smells helped predators eat more pest eggs. Nearby plants respond too. In 2014, a Japanese team found that tomato plants absorbed a smell from damaged neighbors and changed it into a substance that works against caterpillars.
113 words ・ CEFR B1
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刈った草のさわやかなにおいは、実は植物が傷ついたというサインです。1990年、アメリカの研究者たちは、イモムシにかじられたトウモロコシの芽が、特別なにおいの化学物質を大量に出すことを発見しました。人工的に葉を傷つけるだけでは足りませんでしたが、イモムシの口から出る液を加えると、においが放出されました。
イモムシの体内に卵を産む寄生バチのメスは、このにおいを使って獲物を見つけることを学習しました。2001年、野生のタバコの研究では、こうしたにおいによって、捕食者が害虫の卵をより多く食べるようになることが示されました。近くの植物も反応します。2014年、日本のチームは、トマトが傷ついた隣の株から出たにおいを取りこみ、イモムシに効く物質に作りかえることを発見しました。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
傷ついた植物がにおいで天敵を呼び、隣の植物も守りを固める話なので D。
Q2. What caused corn to release the special smell?
Damaging the leaves artificially was not enough, but adding liquid from a caterpillar's mouth caused the release. とあるので A。
Q3. Why might it be useful for a plant to tell caterpillar damage from other damage?
イモムシがいるときだけにおいを出せば、むだなく天敵を呼べると推測できる。正解は C。
In 1990, Turlings and colleagues reported in Science that corn seedlings under attack by caterpillars gave off large amounts of terpene volatiles. Damaging the leaves mechanically produced little of the scent. Putting fluid from the caterpillar's mouth on the wounds did the trick. Female parasitic wasps, which lay their eggs inside caterpillars, learned to follow this odor to their hosts, so the plant was recruiting the enemy of its enemy.
Biologists call this indirect defense. The green smell of cut grass belongs to the same family of injury signals. Field evidence came in 2001, when Kessler and Baldwin released certain volatiles from wild tobacco. Predators ate more pest eggs, and one compound, linalool, deterred moths from laying eggs; the pair estimated that volatiles could cut pest numbers by more than 90 percent.
Neighbors pick up the message too. In 2014, Sugimoto and colleagues showed that tomatoes absorbed a green-leaf volatile from infested plants nearby and turned it into a compound that works against caterpillars. Nobody yet knows how far such signals carry in open fields, or whether the sender gains anything when its neighbors arm themselves. In 2023, researchers filmed calcium signals racing through leaves after exposure to the smell.
200 words ・ CEFR B2
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1990年、ターリングスらは『Science』で、イモムシに食べられているトウモロコシの芽がテルペン類の揮発性物質を大量に出すことを報告しました。葉を機械的に傷つけただけでは、においはほとんど出ませんでした。傷口にイモムシの口から出る液をぬると、においが出たのです。イモムシの体内に卵を産む寄生バチのメスは、このにおいをたどって宿主を見つけることを学習しました。つまり植物は「敵の敵」を呼び寄せていたわけです。
生物学者はこれを「間接防御」と呼びます。刈りたての草の青くさいにおいも、同じ仲間のケガの信号です。野外での証拠は2001年に出ました。ケスラーとボールドウィンが野生のタバコから特定の揮発性物質を放出させたのです。捕食者が害虫の卵をより多く食べ、リナロールという物質は蛾に卵を産むのを思いとどまらせました。
2人は、揮発性物質によって害虫の数を9割以上減らせる可能性があると見積もりました。近くの植物もこの知らせを受け取ります。2014年、杉本らは、トマトが近くの食害を受けた株から出た青葉の揮発性物質を取りこみ、イモムシに効く化合物に作りかえることを示しました。こうした信号が開けた畑でどこまで届くのか、また隣の株が守りを固めたとき送り手に何か得があるのかは、まだだれにも分かっていません。2023年には、研究者たちが、においを浴びてまもなく葉の中をカルシウム信号がかけめぐる様子を撮影しました。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
においで天敵を呼ぶ間接防御と、隣の植物の反応を研究とともに述べているので C。
Q2. What did Kessler and Baldwin find about linalool?
linalool, deterred moths from laying eggs とあるので B。deter は「思いとどまらせる」。
Q3. Which question does the passage say has not been answered yet?
Nobody yet knows how far such signals carry in open fields, or whether the sender gains anything when its neighbors arm themselves. とあるので D。
重要単語
- herbivoreC1名詞植食者(植物を食べる動物)Caterpillars are common herbivores.
herb(草)+vore(食べる)。carnivore(肉食動物)、omnivore(雑食動物)とセットで覚える。 - parasitic waspC1名詞(句)寄生バチParasitic wasps lay their eggs inside caterpillars.
parasite(寄生虫)の形容詞 parasitic。wasp はハチの中でもスズメバチ・アシナガバチ類を指すことが多い。 - defenseB1名詞防御Plants have both direct and indirect defenses.
イギリス綴りは defence。defend(守る)、defensive(防御的な)。 - emitB2動詞放出するDamaged leaves emit a strong green smell.
e-(外へ)+mit(送る)。名詞 emission は carbon emissions「炭素排出」で頻出。 - neighborA2名詞隣のもの、近くの個体The neighbor plants responded to the smell.
イギリス綴りは neighbour。neighborhood(近所)。 - volatileC1形容詞・名詞揮発性の(物質)Corn releases volatiles when caterpillars chew it.
名詞で「揮発性物質」として複数形 volatiles でも使う。「不安定な」の意味も頻出。 - deterC1動詞思いとどまらせる、阻止するThe smell deterred moths from laying eggs.
deter A from ~ing「Aに~するのを思いとどまらせる」。名詞 deterrent(抑止力)。
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刈った芝生の青くさい匂いは、植物の「ケガのサイン」。イモムシにかじられたトウモロコシは特別な匂いで、イモムシに卵を産む寄生バチを呼び寄せる。植物は用心棒を呼んでいた。
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出典・参考文献(4件)タップで表示
- Turlings, Tumlinson & Lewis (1990) Exploitation of Herbivore-Induced Plant Odors by Host-Seeking Parasitic Wasps, Sciencedoi.org
- Kessler & Baldwin (2001) Defensive Function of Herbivore-Induced Plant Volatile Emissions in Nature, Sciencedoi.org
- Sugimoto et al. (2014) Intake and transformation to a glycoside of (Z)-3-hexenol from infested neighbors reveals a mode of plant odor reception and defense, PNASdoi.org
- Aratani et al. (2023) Green leaf volatile sensory calcium transduction in Arabidopsis, Nature Communicationsdoi.org
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。










