動物・植物ホント

虫が「道具」でハチを釣っていた。ハチの樹脂を前脚に塗る“釣り師”サシガメの作戦

虫が「道具」でハチを釣っていた。ハチの樹脂を前脚に塗る“釣り師”サシガメの作戦

読む前に予想してみよう!

道具を使う動物は、サルや鳥など脳の大きい動物だけである

研究カード(どんな研究?)
対象
サシガメの一種(ハリナシバチ専門の捕食者)
規模
野外観察4年+1群60匹×3群の実験
研究の種類
野外観察+操作実験+化学分析
確かさ
★★★☆☆
3秒でわかる

中国のサシガメの一種は、ハリナシバチの巣の樹脂を前脚に塗り、そのにおいで番兵バチを自分の脚元へおびき寄せて捕まえていた。昆虫の「道具使用」を実験で確かめた研究。

ひとことで言うと小さな虫が、ハチのベタベタを脚にぬって「えさ」にしてハチを釣っていた!

もくじ
  1. ハチの“防犯グッズ”を逆利用
  2. 「変装」ではなく「おとり」だった
  3. 塗り広げると、においが強くなる
  4. チンパンジーの「シロアリ釣り」との共通点
  5. まとめ

「道具を使う動物」と聞いて、何を思い浮かべますか? 木の枝でシロアリを釣るチンパンジー、石で貝を割るラッコ、針金を曲げるカラス……。どれも「頭のいい動物」のイメージですよね。

ところが、小さな虫が、道具を使ってハチを釣っていたことがわかりました。

2025年、中国農業大学や中国科学院シーサンパンナ熱帯植物園などのチームが科学誌『PNAS』に発表した研究です。主役は、中国南部・雲南省の森にすむサシガメの一種。この虫は、ハチ自身が巣に塗ったベタベタの樹脂を拝借し、ハチをおびき寄せる「えさ」に変えていたのです。

01ハチの“防犯グッズ”を逆利用

獲物になっているのはハリナシバチ。名前のとおり針がほとんど退化したハチで、かみついたり体当たりしたりして巣を守ります。

このハチは、巣の入り口のまわりにベタベタで刺激臭のある樹脂のしずくをたくさん置いています。侵入者が樹脂にくっついてもがくと、番兵バチが集まってきて攻撃する。アリや甲虫、ときにはヤモリまで撃退する、優秀な防犯システムです。

ところがサシガメは、この樹脂のしずくに前脚をひたし、前脚と中脚に均一に塗り広げるのです。準備ができたら巣の入り口で前脚を高く掲げ、近づいてきたハチをつかまえて、10〜50cm離れたすき間へ持ち帰ります。

02「変装」ではなく「おとり」だった

研究チームは最初、樹脂を塗るのは巣の一部や仲間のハチになりすます「変装」ではないかと考えました。

ところが実験すると、逆でした。樹脂を塗ったサシガメのほうが、ハチにより激しく、より頻繁に攻撃されたのです。変装なら攻撃は減るはず。つまり樹脂は、身を隠す道具ではなく、わざと目立つための道具だったのです。

しかもハチは、樹脂を塗った場所をねらって突っ込んできました。後ろ脚に塗られたサシガメは後ろ脚への攻撃が多くなり、自然グループほど狩りの効率は上がらなかった。前脚に塗ったサシガメは、ハチが自分から捕獲用の前脚に飛び込んでくるので、効率よく捕まえられたのです。

前脚に塗った樹脂が「釣りえさ」になっていた
前脚に塗った樹脂が「釣りえさ」になっていた

03塗り広げると、においが強くなる

では、なぜハチはサシガメの脚に引き寄せられるのでしょう。巣の入り口には、もともと樹脂がたくさんあるのに。

チームは、半日空気にさらした樹脂を用意し、針で塗り広げる前と後で、出てくるにおい成分(揮発性物質)を比べました。すると成分の種類は変わらないのに、においの量がはっきり増えていたのです。

樹脂は時間がたつと固まり、においも弱まっていきます。それを脚の上で引き伸ばすことで、においを強めていたと考えられます。研究チームは、これが樹脂にからまってもがく侵入者の状態に似ているため、番兵バチが「敵だ!」と反応するのではないかと推測しています。

04チンパンジーの「シロアリ釣り」との共通点

ジェーン・グドールは1960年代、チンパンジーが枝をシロアリの巣に差し込み、かみついてきたシロアリを釣り上げる様子を報告しました。相手の防衛反応を利用して獲物を手に入れるという点で、サシガメの作戦はそっくりです。

ただし大きな違いもあります。チンパンジーにとってシロアリは季節のおやつですが、このサシガメにとってハリナシバチは成長にも繁殖にも欠かせない主食。研究チームは、特定の獲物に頼りきった暮らしこそが、複雑な道具使用を生む圧力になったのではないかと考えています。

05まとめ

小さなサシガメは、ハチの防犯グッズである樹脂を奪い、塗り広げてにおいを強め、ハチを自分の「捕獲ゾーン」へ呼び込んでいました。

道具を使う知恵は、大きな脳だけの特権ではないのかもしれません。次に虫を見かけたら、「この子にもすごい作戦があるのかも」と、ちょっとだけ観察してみてください。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerTool use was once thought to be unique to clever animals with big brains, such as chimpanzees and crows. 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

Tool use was once thought to be unique to clever animals with big brains, such as chimpanzees and crows. However, a study published in 2025 shows that an assassin bug in southern China uses a tool to hunt. This bug feeds mainly on stingless bees, which place drops of sticky resin around the entrance of their nests to trap enemies.

The bug dips its front legs into the resin and spreads it evenly. In experiments with three groups of 60 bugs, the bugs that coated their front legs with resin caught bees most successfully. The resin did not hide the bugs, though. Instead, its smell made guard bees attack the coated legs, bringing them right into the bug's grasp.

119 words ・ CEFR B1

和訳を見る

道具使用は、かつてはチンパンジーやカラスのような脳の大きい賢い動物に特有のものだと考えられていた。しかし、2025年に発表された研究は、中国南部のサシガメが狩りに道具を使うことを示している。このサシガメは主にハリナシバチを食べる。

このハチは、敵を捕らえるために巣の入り口のまわりにベタベタした樹脂のしずくを置く。サシガメは前脚を樹脂にひたし、均一に塗り広げる。60匹ずつ3つのグループに分けた実験では、前脚に樹脂を塗ったサシガメが最もうまくハチを捕まえた。ところが、樹脂はサシガメを隠してはいなかった。それどころか、そのにおいが番兵バチに塗られた脚を攻撃させ、ハチをまさにサシガメの手の中へと運んだのだ。

4択リーディングクイズ

Q1. Why do stingless bees put resin around their nests?

Q2. Which bugs caught bees most successfully?

Q3. What can we infer about the role of the resin?

重要単語

  • tool useB2
    名詞(句)道具使用Tool use was once thought to be unique to humans. 動物行動学の重要語。use a tool to do ~「~するために道具を使う」の形で覚える。
  • resinC1
    名詞樹脂The bees put sticky resin around their nest. 松やにのような植物由来のベタベタした物質。synthetic resin は「合成樹脂(プラスチック)」。
  • lureC1
    動詞・名詞おびき寄せる/おとりThe bug uses the smell to lure bees toward its legs. lure A into B「AをBにおびき寄せる」。釣りの「ルアー」と同じ語。
  • predatorB2
    名詞捕食者This insect is a specialist predator of stingless bees. 反対語は prey(獲物)。predator-prey relationship「捕食者と被食者の関係」は長文頻出。
  • volatileC1
    形容詞揮発性の;不安定なSpreading the resin released more volatile chemicals. 化学では「揮発性の」、経済では a volatile market「不安定な市場」。文脈で訳し分ける。
  • camouflageB2
    名詞・動詞カモフラージュ、擬装The researchers first thought the resin was a kind of camouflage. フランス語由来。mimicry(擬態)とセットで生物の長文によく出る。
  • intruderC1
    名詞侵入者Guard bees attack any intruder near the nest. intrude「侵入する、じゃまする」の名詞形。intrusion「侵入」も合わせて。

4コマでわかる

虫が「道具」でハチを釣っていた。ハチの樹脂を前脚に塗る“釣り師”サシガメの作戦の4コマ漫画
中国の森にいるサシガメは、ハチの巣の入り口にあるベタベタの樹脂を前脚に塗ってからハチに近づくらしい。樹脂のにおいにつられて番兵バチが脚に突っ込んできたところを、パクッ。虫なのに「道具でハチ釣り」をしていた。

押すと「マジかリスト」に保存されます

出典・参考文献(3件)タップで表示
  1. Chen et al. (2025) Tool use aids prey-fishing in a specialist predator of stingless bees, PNASdoi.org
  2. Goodall (1964) Tool-Using and Aimed Throwing in a Community of Free-Living Chimpanzees, Naturedoi.org
  3. Bentley-Condit & Smith (2010) Animal tool use: current definitions and an updated comprehensive catalog, Behaviourdoi.org