虫が「道具」でハチを釣っていた。ハチの樹脂を前脚に塗る“釣り師”サシガメの作戦

読む前に予想してみよう!
道具を使う動物は、サルや鳥など脳の大きい動物だけである
ハチの樹脂を脚に塗ってハチをおびき寄せるサシガメなど、昆虫にも道具使用と呼べる行動が見つかっている。
- 対象
- サシガメの一種(ハリナシバチ専門の捕食者)
- 規模
- 野外観察4年+1群60匹×3群の実験
- 研究の種類
- 野外観察+操作実験+化学分析
- 確かさ
- ★★★☆☆
中国のサシガメの一種は、ハリナシバチの巣の樹脂を前脚に塗り、そのにおいで番兵バチを自分の脚元へおびき寄せて捕まえていた。昆虫の「道具使用」を実験で確かめた研究。
ひとことで言うと小さな虫が、ハチのベタベタを脚にぬって「えさ」にしてハチを釣っていた!
「道具を使う動物」と聞いて、何を思い浮かべますか? 木の枝でシロアリを釣るチンパンジー、石で貝を割るラッコ、針金を曲げるカラス……。どれも「頭のいい動物」のイメージですよね。
ところが、小さな虫が、道具を使ってハチを釣っていたことがわかりました。
2025年、中国農業大学や中国科学院シーサンパンナ熱帯植物園などのチームが科学誌『PNAS』に発表した研究です。主役は、中国南部・雲南省の森にすむサシガメの一種。この虫は、ハチ自身が巣に塗ったベタベタの樹脂を拝借し、ハチをおびき寄せる「えさ」に変えていたのです。
01ハチの“防犯グッズ”を逆利用
獲物になっているのはハリナシバチ。名前のとおり針がほとんど退化したハチで、かみついたり体当たりしたりして巣を守ります。
このハチは、巣の入り口のまわりにベタベタで刺激臭のある樹脂のしずくをたくさん置いています。侵入者が樹脂にくっついてもがくと、番兵バチが集まってきて攻撃する。アリや甲虫、ときにはヤモリまで撃退する、優秀な防犯システムです。
ところがサシガメは、この樹脂のしずくに前脚をひたし、前脚と中脚に均一に塗り広げるのです。準備ができたら巣の入り口で前脚を高く掲げ、近づいてきたハチをつかまえて、10〜50cm離れたすき間へ持ち帰ります。
02「変装」ではなく「おとり」だった
研究チームは最初、樹脂を塗るのは巣の一部や仲間のハチになりすます「変装」ではないかと考えました。
ところが実験すると、逆でした。樹脂を塗ったサシガメのほうが、ハチにより激しく、より頻繁に攻撃されたのです。変装なら攻撃は減るはず。つまり樹脂は、身を隠す道具ではなく、わざと目立つための道具だったのです。
しかもハチは、樹脂を塗った場所をねらって突っ込んできました。後ろ脚に塗られたサシガメは後ろ脚への攻撃が多くなり、自然グループほど狩りの効率は上がらなかった。前脚に塗ったサシガメは、ハチが自分から捕獲用の前脚に飛び込んでくるので、効率よく捕まえられたのです。

03塗り広げると、においが強くなる
では、なぜハチはサシガメの脚に引き寄せられるのでしょう。巣の入り口には、もともと樹脂がたくさんあるのに。
チームは、半日空気にさらした樹脂を用意し、針で塗り広げる前と後で、出てくるにおい成分(揮発性物質)を比べました。すると成分の種類は変わらないのに、においの量がはっきり増えていたのです。
樹脂は時間がたつと固まり、においも弱まっていきます。それを脚の上で引き伸ばすことで、においを強めていたと考えられます。研究チームは、これが樹脂にからまってもがく侵入者の状態に似ているため、番兵バチが「敵だ!」と反応するのではないかと推測しています。
04チンパンジーの「シロアリ釣り」との共通点
ジェーン・グドールは1960年代、チンパンジーが枝をシロアリの巣に差し込み、かみついてきたシロアリを釣り上げる様子を報告しました。相手の防衛反応を利用して獲物を手に入れるという点で、サシガメの作戦はそっくりです。
ただし大きな違いもあります。チンパンジーにとってシロアリは季節のおやつですが、このサシガメにとってハリナシバチは成長にも繁殖にも欠かせない主食。研究チームは、特定の獲物に頼りきった暮らしこそが、複雑な道具使用を生む圧力になったのではないかと考えています。
05まとめ
小さなサシガメは、ハチの防犯グッズである樹脂を奪い、塗り広げてにおいを強め、ハチを自分の「捕獲ゾーン」へ呼び込んでいました。
道具を使う知恵は、大きな脳だけの特権ではないのかもしれません。次に虫を見かけたら、「この子にもすごい作戦があるのかも」と、ちょっとだけ観察してみてください。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerTool use was once thought to be unique to clever animals with big brains, such as chimpanzees and crows.
音声
4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
Some animals use tools. Chimpanzees use sticks, and crows bend wires.
Now scientists have found a small insect that uses a tool, too. It is an assassin bug in southern China. It eats stingless bees. The bees put sticky resin around their nest.
The bug puts this resin on its front legs. The smell makes guard bees fly at its legs, and the bug catches them. Bugs with resin hunted better than bugs without it.
75 words ・ CEFR A2
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道具を使う動物がいます。チンパンジーは棒を使い、カラスは針金を曲げます。
今回、科学者たちは道具を使う小さな昆虫も見つけました。それは中国南部にいるサシガメです。それはハリナシバチを食べます。ハチは巣のまわりにベタベタした樹脂を置きます。
サシガメはこの樹脂を前脚に塗ります。そのにおいで番兵バチがサシガメの脚に向かって飛んできて、サシガメはそれを捕まえます。樹脂を塗ったサシガメは、塗らなかったサシガメよりうまく狩りをしました。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
サシガメが樹脂を前脚に塗ってハチを捕まえる話が中心なので B。
Q2. Where does the bug put the resin?
The bug puts this resin on its front legs とあるので A。
Q3. What does "sticky" mean in the passage?
sticky は「ベタベタする、くっつきやすい」という意味なので C。
Tool use was once thought to be unique to clever animals with big brains, such as chimpanzees and crows. However, a study published in 2025 shows that an assassin bug in southern China uses a tool to hunt. This bug feeds mainly on stingless bees, which place drops of sticky resin around the entrance of their nests to trap enemies.
The bug dips its front legs into the resin and spreads it evenly. In experiments with three groups of 60 bugs, the bugs that coated their front legs with resin caught bees most successfully. The resin did not hide the bugs, though. Instead, its smell made guard bees attack the coated legs, bringing them right into the bug's grasp.
119 words ・ CEFR B1
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道具使用は、かつてはチンパンジーやカラスのような脳の大きい賢い動物に特有のものだと考えられていた。しかし、2025年に発表された研究は、中国南部のサシガメが狩りに道具を使うことを示している。このサシガメは主にハリナシバチを食べる。
このハチは、敵を捕らえるために巣の入り口のまわりにベタベタした樹脂のしずくを置く。サシガメは前脚を樹脂にひたし、均一に塗り広げる。60匹ずつ3つのグループに分けた実験では、前脚に樹脂を塗ったサシガメが最もうまくハチを捕まえた。ところが、樹脂はサシガメを隠してはいなかった。それどころか、そのにおいが番兵バチに塗られた脚を攻撃させ、ハチをまさにサシガメの手の中へと運んだのだ。
4択リーディングクイズ
Q1. Why do stingless bees put resin around their nests?
place drops of sticky resin ... to trap enemies とあるので B。
Q2. Which bugs caught bees most successfully?
the bugs that coated their front legs with resin caught bees most successfully とあるので C。
Q3. What can we infer about the role of the resin?
樹脂はサシガメを隠さず、においで番兵バチを脚に引き寄せたとあるので、変装ではなく「おとり」として働いたと推測できる。A。
Tool use has long been regarded as a sign of advanced intelligence, reported mostly in primates, birds and a few other vertebrates. A 2025 study in PNAS challenges this view by documenting tool use in an assassin bug from southern China that specializes in hunting stingless bees. These bees defend their nests by depositing sticky resin droplets around the entrance; intruders that get stuck are attacked by guard bees. The bug collects this resin and spreads it over its front and middle legs.
In controlled experiments, bugs that applied resin naturally hunted more successfully and efficiently than bugs whose resin was placed on their back legs or bugs with no resin at all. The researchers first suspected chemical camouflage, but resin-coated bugs were actually attacked more often, and the attacks were concentrated on the coated body parts. Chemical analysis revealed that spreading the resin increased the release of volatile compounds, which may mimic a struggling intruder. The volatile measurements used resin spread with a needle, and the study did not test whether the behavior is learned or innate.
178 words ・ CEFR B2
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道具使用は長いあいだ高度な知能のしるしとみなされ、おもに霊長類や鳥、そのほか少数の脊椎動物で報告されてきた。PNAS誌の2025年の研究は、ハリナシバチの狩りを専門とする中国南部のサシガメでの道具使用を記録し、この見方に異を唱えている。このハチは巣の入り口のまわりにベタベタした樹脂のしずくを置いて巣を守り、くっついた侵入者は番兵バチに攻撃される。サシガメはこの樹脂を集め、前脚と中脚に塗り広げる。
対照実験では、自然に樹脂を塗ったサシガメは、樹脂を後ろ脚に塗られたサシガメや樹脂をまったく持たないサシガメより、うまく効率的に狩りをした。研究者たちは最初、化学的な擬態を疑ったが、樹脂を塗ったサシガメは実際にはより頻繁に攻撃され、その攻撃は塗られた部位に集中していた。化学分析によって、樹脂を塗り広げると揮発性物質の放出が増えることが明らかになり、それはもがく侵入者をまねているのかもしれない。揮発性物質の測定には針で塗り広げた樹脂が使われており、この行動が学習によるものか生まれつきのものかは、この研究では調べられていない。
4択リーディングクイズ
Q1. What view does the study challenge?
Tool use has long been regarded as a sign of advanced intelligence ... challenges this view とあるので B。
Q2. Why did the researchers reject the camouflage idea?
resin-coated bugs were actually attacked more often とあり、変装なら攻撃は減るはずなので C。
Q3. Which limitation is mentioned in the passage?
The volatile measurements used resin spread with a needle とあるので A。
重要単語
- tool useB2名詞(句)道具使用Tool use was once thought to be unique to humans.
動物行動学の重要語。use a tool to do ~「~するために道具を使う」の形で覚える。 - resinC1名詞樹脂The bees put sticky resin around their nest.
松やにのような植物由来のベタベタした物質。synthetic resin は「合成樹脂(プラスチック)」。 - lureC1動詞・名詞おびき寄せる/おとりThe bug uses the smell to lure bees toward its legs.
lure A into B「AをBにおびき寄せる」。釣りの「ルアー」と同じ語。 - predatorB2名詞捕食者This insect is a specialist predator of stingless bees.
反対語は prey(獲物)。predator-prey relationship「捕食者と被食者の関係」は長文頻出。 - volatileC1形容詞揮発性の;不安定なSpreading the resin released more volatile chemicals.
化学では「揮発性の」、経済では a volatile market「不安定な市場」。文脈で訳し分ける。 - camouflageB2名詞・動詞カモフラージュ、擬装The researchers first thought the resin was a kind of camouflage.
フランス語由来。mimicry(擬態)とセットで生物の長文によく出る。 - intruderC1名詞侵入者Guard bees attack any intruder near the nest.
intrude「侵入する、じゃまする」の名詞形。intrusion「侵入」も合わせて。
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中国の森にいるサシガメは、ハチの巣の入り口にあるベタベタの樹脂を前脚に塗ってからハチに近づくらしい。樹脂のにおいにつられて番兵バチが脚に突っ込んできたところを、パクッ。虫なのに「道具でハチ釣り」をしていた。
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- Chen et al. (2025) Tool use aids prey-fishing in a specialist predator of stingless bees, PNASdoi.org
- Goodall (1964) Tool-Using and Aimed Throwing in a Community of Free-Living Chimpanzees, Naturedoi.org
- Bentley-Condit & Smith (2010) Animal tool use: current definitions and an updated comprehensive catalog, Behaviourdoi.org
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。











