語学・英語学習ホント

日本人の耳には「存在しない母音」が聞こえていた。カタカナ英語の背景にある「耳の錯覚」

日本人の耳には「存在しない母音」が聞こえていた。カタカナ英語の背景にある「耳の錯覚」

読む前に予想してみよう!

日本人がstrikeを「ストライク」と発音してしまうのは、口の筋肉が英語に慣れていないことだけが原因だ

研究カード(どんな研究?)
対象
日本語・フランス語話者の大人
規模
各実験 少人数規模
研究の種類
知覚実験+脳波(ERP)
確かさ
★★★★☆
3秒でわかる

日本語話者は子音が連続する音を聞くと、実際にはない「ウ」を脳が勝手に補って聞いてしまう。この“耳の錯覚”がカタカナ発音の背景にあると考えられている。

ひとことで言うと日本人の耳は、英語の子音のすき間に「ウ」をこっそり足して聞いていた!

もくじ
  1. 「ebzo」が「エブゾ」に聞こえる実験
  2. 錯覚は脳の「一瞬」で起きていた
  3. なぜ「ウ」なのか? 日本語の「拍」のしくみ
  4. 錯覚は「直せない」のか?
  5. まとめ

「strike」は英語では1音節。でも日本語では「ス・ト・ラ・イ・ク」の5拍になります。

この差を「日本人は口が英語に慣れていないから」と思っていませんか? 実は研究によると、口を動かす前の耳の段階で、すでに日本語のくせが働いていました。日本語話者の脳は、子音と子音のあいだに実際には存在しない「ウ」を補って聞いているのです。

01「ebzo」が「エブゾ」に聞こえる実験

一方フランス語話者は「ebzo」と「ebuzo」を簡単に区別できました。ところが逆に、日本語では当たり前の長い母音と短い母音(ebuzo と ebuuzo)の区別は、フランス語話者のほうが苦手でした。

つまり、どちらが優れているという話ではありません。耳は母語のルールに合わせて“調整”されているのです。

02錯覚は脳の「一瞬」で起きていた

2000年には同じ研究グループが、脳波(ERP)でこの現象を確かめました。

フランス語話者の脳では、「ebuzo ebuzo ebuzo → ebzo」と音が変わった瞬間に、「あ、違う音だ」という自動的な脳の反応(ミスマッチ反応)が出ました。ところが日本語話者では、この反応がほとんど出ない、または弱かったのです。

この反応は、本人が意識して考えるよりずっと早い段階のもの。日本語話者の脳は、音を聞いた直後に自動で日本語の形「子音+母音」に変換していると考えられます。

母語の「フィルター」が、子音のすき間に母音を足していた
母語の「フィルター」が、子音のすき間に母音を足していた

03なぜ「ウ」なのか? 日本語の「拍」のしくみ

日本語は基本的に「子音+母音」で1拍(モーラ)を作る言語です。「ん」「っ」を除いて、子音だけで終わる拍はありません。

大竹らの研究(1993年)でも、日本語話者は音声をモーラ単位で切り分けて聞く傾向があることが示されています。だから英語の「st」や「k」で終わる音が来ると、脳が「これは何かの拍の途中だ」と判断し、一番目立たない母音「ウ」(t・d の後は「オ」)を補うわけです。

カタカナ英語の「ストライク」は、この耳の補正をそのまま口に出した形だと考えられます(発音そのものを測った研究ではありません)。

04錯覚は「直せない」のか?

ここでどんでん返し。錯覚は脳の早い段階で起きますが、だから一生直らない、とまでは言えません。デュプーらの実験は、上級者やトレーニング後の変化を直接測ったものではないからです。

ただ、「カタカナで覚えた単語を口だけで直す」よりも、耳で「母音が無い」ことを確かめる練習が出発点になる、とは言えそうです。

05まとめ

カタカナ英語は「下手な発音」ではなく、日本語に最適化された耳が働いた結果でもある、と考えられます。

だからこそ、直す順番は耳→口。「ここに母音は無い」と気づける耳を作れば、口も自然についてきます。今日はまず、「desk」の最後で息だけ出して止める練習から始めてみましょう。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerWhy do Japanese learners often pronounce "strike" with five beats instead of one? 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

Why do Japanese learners often pronounce "strike" with five beats instead of one? A common answer is that their mouths are not used to English, but research suggests an important cause may lie in the ears. In 1999, Dupoux and his colleagues played sounds such as "ebzo" and "ebuzo" to Japanese and French speakers.

Japanese listeners often reported hearing a "u" even when there was no vowel, and they found it hard to tell the two sounds apart. French listeners had no trouble here but struggled with long and short vowels, which Japanese speakers distinguish easily. This shows that our ears are tuned to the rules of our first language. Because Japanese is built on units of a consonant plus a vowel, the brain fills in the missing vowel.

129 words ・ CEFR B1

和訳を見る

なぜ日本人学習者は「strike」を1拍ではなく5拍で発音してしまうことが多いのでしょうか。よくある答えは「口が英語に慣れていないから」ですが、研究は重要な原因が耳にある可能性を示しています。1999年、デュプーらは日本語話者とフランス語話者に「ebzo」や「ebuzo」のような音を聞かせました。

日本語話者は、母音がまったく無いときでも「ウ」が聞こえたと答えることが多く、2つの音を聞き分けるのにも苦労しました。フランス語話者はこの組み合わせを難なく区別できましたが、日本語話者なら簡単に区別できる長い母音と短い母音の区別には苦戦しました。このことは、私たちの耳が母語のルールに合わせて調整されていることを示しています。日本語は「子音+母音」の単位でできているため、脳が欠けている母音を補ってしまうのです。

4択リーディングクイズ

Q1. According to the passage, what may be an important cause of "katakana English"?

Q2. What did French listeners find difficult?

Q3. What can we infer from the study?

重要単語

  • consonant clusterC1
    名詞(句)子音の連続"Street" begins with a consonant cluster: s, t, and r. cluster は「房・かたまり」。str- や -sks のように母音をはさまず子音が続く部分。日本語にはほぼ無いので要注意ポイント。
  • vowelB1
    名詞母音Most Japanese words end in a vowel. 発音は /ˈvaʊəl/(ヴァウエル)。反対語は consonant(子音)。a vowel sound「母音の音」の形でよく使う。
  • syllableB2
    名詞音節"Strike" has only one syllable in English. 母音を中心とした音のまとまり。日本語の「拍(モーラ)」とは単位が違うので、strike は英語1音節・日本語5拍になる。
  • illusionB2
    名詞錯覚The extra vowel is an illusion created by the brain. optical illusion「目の錯覚」と同じ語。形容詞 illusory「錯覚の」は B2 以上の長文で出る。
  • perceiveB2
    動詞知覚する・気づくWe perceive sounds through the filter of our first language. 名詞 perception。perceive A as B「A を B とみなす」は入試頻出の型。
  • discriminateC1
    動詞識別する・聞き分けるJapanese listeners found it hard to discriminate "ebzo" from "ebuzo." discriminate A from B「A と B を区別する」。「差別する」の意味もあるが、音声学では「聞き分ける」の意味で使う。
  • epenthesisC1
    名詞(音声学)挿入、母音挿入Vowel epenthesis turns "desk" into "desuku." 音声学の専門用語で、語の中に本来ない音が入る現象。発音は /ɪˈpenθəsɪs/。カタカナ英語の「ウ」「オ」の追加がまさにこれ。

動画でもっと知る

4コマでわかる

日本人の耳には「存在しない母音」が聞こえていた。カタカナ英語の背景にある「耳の錯覚」の4コマ漫画
「ebzo」という音を聞かせると、日本人は高い確率で「ebuzo(エブゾ)」と聞いてしまうらしい。実際には無い「ウ」が聞こえる“耳の錯覚”。カタカナ英語の背景にはこの錯覚がありそう。

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出典・参考文献(3件)タップで表示
  1. Dupoux, Kakehi, Hirose, Pallier & Mehler (1999) Epenthetic vowels in Japanese: A perceptual illusion? Journal of Experimental Psychology: Human Perception and Performancedoi.org
  2. Dehaene-Lambertz, Dupoux & Gout (2000) Electrophysiological correlates of phonological processing: A cross-linguistic study. Journal of Cognitive Neurosciencedoi.org
  3. Otake, Hatano, Cutler & Mehler (1993) Mora or syllable? Speech segmentation in Japanese. Journal of Memory and Languagedoi.org