脳と心理ホント

脳そのものは痛みを感じない。手術中に患者が"起きたまま"おしゃべりできる理由

脳そのものは痛みを感じない。手術中に患者が"起きたまま"おしゃべりできる理由

読む前に予想してみよう!

脳の組織そのものに触れても、ほとんど痛みは感じない

研究カード(どんな研究?)
対象
神経膠腫(グリオーマ)の成人患者
規模
90報・8,091人(メタ分析)
研究の種類
観察研究のメタ分析
確かさ
★★★☆☆
3秒でわかる

脳の組織には痛みのセンサーがほぼない。だから頭皮と硬膜を麻酔すれば、起きたまま話しながら脳の手術ができる。

ひとことで言うと脳は「痛い」を感じる場所なのに、脳自体は痛くないんだって!

もくじ
  1. 痛みのセンサーは「脳の外側」にあった
  2. 起きたまま手術する「覚醒下手術」
  3. 90年前の「脳の地図づくり」から続く技術
  4. 本当に効果があるの?
  5. まとめ

「痛い!」と感じているのは、脳です。

なのに、脳そのものは痛みを感じない——そう聞いたら、ちょっと混乱しませんか?

実際、脳外科には患者さんが起きたまま受ける手術があります。頭を開けたまま、医師と会話したり、絵の名前を答えたりするのです。ホラー映画のようですが、これは世界中で行われている、れっきとした治療法です。

01痛みのセンサーは「脳の外側」にあった

体のあちこちには、ケガを知らせる痛みのセンサー(侵害受容器)があります。ところが、脳の中身である神経の組織には、このセンサーがほとんどありません。

つまり「頭痛」も、脳がズキズキしているわけではありません。脳を包む膜や血管のまわりの神経が、痛みの信号を出していると考えられています。

02起きたまま手術する「覚醒下手術」

この性質を利用したのが、覚醒下手術(アウェイク・クラニオトミー)です。

局所麻酔をかけるのは、メスを入れる頭皮や、硬膜などの「痛みを感じる部分」。施設によっては、頭を開ける間は鎮静薬で眠らせることもあります。脳の表面が見えたら患者さんに目を覚ましてもらい、医師が弱い電気で脳の一部を刺激しながら、「この絵は何ですか?」「手を握ってください」とお願いします。

もし刺激した瞬間に言葉が出なくなれば、そこは話すのに欠かせない場所。医師はそこを避けて腫瘍を取り除きます。

電気で刺激して反応を確かめ、「大事な場所」に目印をつけていく
電気で刺激して反応を確かめ、「大事な場所」に目印をつけていく

0390年前の「脳の地図づくり」から続く技術

この方法のルーツは、1930年代にカナダで活躍した脳外科医ペンフィールドたちの研究です。彼らはてんかんの手術中、起きている患者の脳を電気で刺激し、「手がピリピリする」「口が勝手に動く」といった反応を記録しました。こうして描かれたのが、体の各部分が脳のどこに対応するかを示す有名な「脳の地図」です。

現代の覚醒下手術も、その延長線上にあります。アメリカの1人の脳外科医が27年間に行った約860件の覚醒下手術をまとめた報告では、詳しく分析された611件のうち、マッピングが途中で中止されたのはわずか3件(0.5%)でした。

04本当に効果があるの?

神経膠腫(グリオーマ)の手術を受けた成人8,000人以上のデータを集めた2012年のメタ分析では、脳を刺激して機能の場所を確かめながら手術した場合、後に残る重い後遺症は約3.4%、確かめなかった場合は約8.2%でした。しかも腫瘍をより多く取り切れていました。

05まとめ

脳は体じゅうの痛みを感じ取る「司令塔」なのに、自分自身の痛みはほとんど感じません。その不思議な性質のおかげで、患者さんと会話しながら、言葉や動きを守る手術ができるのです。

次に頭が痛くなったら、「いま痛いのは、脳を包む膜の方かもしれない」と思い出してみてください。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerIt may sound strange, but the brain, which senses pain all over the body, can hardly feel pain itself. 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

It may sound strange, but the brain, which senses pain all over the body, can hardly feel pain itself. In 1940, two American researchers tested which parts of the head hurt when they were touched during surgery. Pain came from the scalp, the membranes around the brain and large blood vessels, but not from the brain tissue. This fact is used in a type of operation called awake surgery.

Only the painful outer parts are numbed with local anesthesia, and the patient is woken up once the brain is exposed. The surgeon then stimulates small areas with a weak current while the patient names pictures. The surgeon avoids any spot where stimulation suddenly stops the patient from speaking, because that area is used for language, while removing the tumor.

129 words ・ CEFR B1

和訳を見る

奇妙に聞こえるかもしれませんが、体じゅうの痛みを感じ取る脳は、それ自体ではほとんど痛みを感じません。1940年、2人のアメリカ人研究者が、手術中に頭のどの部分に触れると痛むのかを調べました。痛みが生じたのは頭皮や脳を包む膜、太い血管で、脳の組織からではありませんでした。この事実は「覚醒下手術」と呼ばれる手術に利用されています。

痛みを感じる外側の部分だけを局所麻酔でまひさせ、脳が見えたところで患者に目を覚ましてもらいます。そして外科医は、患者に絵の名前を答えてもらいながら、弱い電流で小さな領域を刺激します。刺激で患者が突然話せなくなった場所は言葉に使われているので、外科医は腫瘍を取り除く際にそこを避けるのです。

4択リーディングクイズ

Q1. What did the researchers in 1940 find out?

Q2. What does the patient do during awake surgery?

Q3. Why is it useful for the patient to be awake?

重要単語

  • craniotomyC1
    名詞開頭手術The patient stayed calm during the craniotomy. crani-(頭蓋)+-tomy(切ること)。awake craniotomy で「覚醒下開頭手術」。
  • pain receptorB2
    名詞(句)痛みの受容器(センサー)The skin has many pain receptors. receptor は receive(受け取る)の仲間。receptor for ~「~の受容体」。
  • anesthesiaB2
    名詞麻酔Local anesthesia numbs only one part of the body. local anesthesia(局所麻酔)⇔ general anesthesia(全身麻酔)の対比で覚える。英式つづりは anaesthesia。
  • stimulateB2
    動詞刺激するThe doctor stimulated a small area with a weak current. 名詞は stimulus(刺激、複数形 stimuli)。stimulate the economy「景気を刺激する」も入試頻出。
  • membraneB2
    名詞膜A thin membrane covers the brain. cell membrane(細胞膜)は理科系長文の定番。発音は /ˈmembreɪn/。
  • mapB1
    動詞地図を作る、位置を特定するSurgeons map language areas before removing a tumor. 名詞「地図」だけでなく動詞で「位置を割り出す」。brain mapping「脳機能マッピング」。
  • tumorB2
    名詞腫瘍The surgeon removed the tumor safely. 英式は tumour。remove a tumor「腫瘍を摘出する」がセット。

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4コマでわかる

脳そのものは痛みを感じない。手術中に患者が"起きたまま"おしゃべりできる理由の4コマ漫画
脳の手術なのに、患者さんが起きたまま会話している…これ実際にある「覚醒下手術」。実は脳の組織そのものには痛みのセンサーがほとんどない。痛いのは頭皮や膜の方らしい。

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出典・参考文献(4件)タップで表示
  1. Ray & Wolff (1940) Experimental studies on headache: pain-sensitive structures of the head and their significance in headache, Archives of Surgerydoi.org
  2. Penfield & Boldrey (1937) Somatic motor and sensory representation in the cerebral cortex of man as studied by electrical stimulation, Braindoi.org
  3. Hervey-Jumper et al. (2015) Awake craniotomy to maximize glioma resection: methods and technical nuances over a 27-year period, Journal of Neurosurgerydoi.org
  4. De Witt Hamer et al. (2012) Impact of intraoperative stimulation brain mapping on glioma surgery outcome: a meta-analysis, Journal of Clinical Oncologydoi.org