質問の言い方ひとつで、記憶は書き換わる。「見ていないガラス」を見た人たち

読む前に予想してみよう!
一度はっきり覚えた記憶は、ビデオのようにそのまま保存されている
記憶は思い出すたびに再構成され、あとから入った情報で変わることがある。
- 対象
- 大学生・成人
- 規模
- 数十〜150人規模の実験、追試123人
- 研究の種類
- 実験研究(事前登録の追試あり)
- 確かさ
- ★★★★☆
事故の動画を見た人に「激突した時」と聞くと、「ぶつかった時」より速度を高く答え、なかった割れガラスまで「見た」と答えやすくなった。記憶は再構成されるものだった。
ひとことで言うと記憶はビデオじゃない。思い出すたびに、少しずつ作り直されている!
「あの日のこと、はっきり覚えてる」。そう自信を持って言える思い出、あなたにもありますよね。
でも、その記憶があとから誰かの一言で書き換えられていたとしたら? しかも本人はまったく気づかずに。
心理学者エリザベス・ロフタスは、数十年にわたって、記憶がいかにもろく、作り変えられやすいかを実験で示してきました。その研究は、裁判の目撃証言のあり方まで変えることになります。
01「激突した」と聞くだけで、スピードが上がった
同じ映像を見ているのに、質問の言葉ひとつで、スピードの記憶も、あるはずのない光景の記憶も変わってしまったのです。
このように、あとから入ってきた情報で記憶がゆがむことを、事後情報効果と言います。
02記憶はビデオではなく「再構成」
なぜこんなことが起きるのか。今の考え方では、記憶は録画したビデオを再生するようなものではありません。
思い出すたびに、残っている断片をつなぎ合わせて、そのつど組み立て直している。その組み立ての途中で、あとから聞いた言葉や、ありそうな話が「部品」として混ざり込んでしまうのです。

03「迷子になった思い出」まで植え付けられた
ロフタスたちはさらに踏み込み、まるごと嘘の思い出を植え付けられるかも調べました。
参加者の家族の協力を得て、実際の子ども時代のエピソードの中に、「幼いころショッピングモールで迷子になった」という、実際にはなかった話を混ぜて読ませます。そして何度か思い出してもらうと、参加者24人のうち6人、約4人に1人が、その「迷子の記憶」を部分的、あるいはかなり具体的に思い出すようになったのです(Psychiatric Annals, 1995)。
この研究は人数が少ないことが弱点でしたが、2023年にアイルランドの研究チームが、5倍の123人で事前に分析計画を登録した追試を行いました。結果は、約35%が偽の迷子の記憶を語ったと判定され、元の研究の結論が支持されました(Memory, 2023)。
別の研究では、子ども時代の写真を加工して、乗ったことのない熱気球に乗っている写真を見せ、3回の面接でイメージしてもらうと、20人中半数が部分的または完全な偽の記憶を語ったという報告もあります(Psychonomic Bulletin & Review, 2002)。
ただし、「偽の記憶ができた」と判定する基準は研究によってまちまちです。8つの研究のデータを共通の基準で採点し直した分析では、はっきりした偽の記憶と判定できたのは約3割で、残りは「そうだったかもしれない」という信念レベルにとどまる人も多いことが分かりました(Memory, 2017)。
04目撃証言を見直すきっかけに
こうした研究は、社会にも大きな影響を与えました。目撃者の誤った証言が一因となって有罪となった人が、のちにDNA鑑定で無実と分かったケースが、アメリカなどで数多く明らかになったのです。
今では、警察の事情聴取で誘導するような質問を避ける、目撃者の記憶が汚染される前に早く記録する、といった工夫の重要性が広く議論されています。
05まとめ
記憶は、過去を保存した金庫ではなく、思い出すたびに書き直される「下書き」のようなものでした。
それは少し怖いことでもあり、同時に、過去の出来事の受け止め方を変えられる、柔軟さの裏返しでもあります。あなたの「はっきり覚えている」あの日の記憶も、もしかしたら何度目かのリメイク版かもしれません。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerPsychologist Elizabeth Loftus has shown that memory is surprisingly easy to change.
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4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
Our memories are not like videos. In a famous study, students watched a short video of a car accident.
Then they answered a question about the cars' speed. Some heard the word "smashed," and others heard "hit." One week later, more students who heard "smashed" said they saw broken glass. But there was no broken glass in the video. One word changed their memory.
64 words ・ CEFR A2
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私たちの記憶はビデオのようなものではありません。有名な研究で、学生たちが自動車事故の短い映像を見ました。
その後、車の速さについての質問に答えました。ある人たちは「激突した」という言葉を聞き、ほかの人たちは「ぶつかった」という言葉を聞きました。1週間後、「激突した」と聞いた学生のほうが、割れたガラスを見たと多く答えました。しかし、映像の中でガラスは割れていませんでした。たった一言が、彼らの記憶を変えたのです。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
質問の一言で記憶が変わった実験の話なので D。
Q2. What did more students who heard "smashed" say?
more students who heard "smashed" said they saw broken glass とあるので B。
Q3. In this passage, "smashed" means ...
smash は「激しくぶつかる・粉々にする」。hit より強い言葉なので C。
Psychologist Elizabeth Loftus has shown that memory is surprisingly easy to change. In a 1974 study, students watched a film of a car accident and were asked how fast the cars were going when they "smashed" or "hit" each other. Those who heard "smashed" gave higher speeds. A week later, 32% of them said they had seen broken glass, compared with 14% of the "hit" group, although no glass was broken.
Later, Loftus asked people to read a false story that they had been lost in a shopping mall as children. About one in four began to remember it. A 2023 replication with 123 people found similar results, with about 35% reporting a false memory.
115 words ・ CEFR B1
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心理学者エリザベス・ロフタスは、記憶が驚くほど変わりやすいことを示してきました。1974年の研究では、学生たちが自動車事故の映像を見て、車が「激突した」または「ぶつかった」ときにどのくらいの速さだったかを尋ねられました。「激突した」と聞いた人たちは、より速い速度を答えました。1週間後、その人たちの32%が割れたガラスを見たと答え、「ぶつかった」グループでは14%でしたが、実際にはガラスは割れていませんでした。
その後、ロフタスは、子どものころショッピングモールで迷子になったという嘘の話を人々に読ませました。約4人に1人がそれを思い出すようになりました。123人で行われた2023年の追試でも同様の結果が得られ、約35%が偽の記憶を語りました。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the main idea of the passage?
質問の言葉や嘘の話によって記憶が変わることを示す研究の紹介なので A。
Q2. What percentage of the "smashed" group said they had seen broken glass?
32% of them said they had seen broken glass とあるので C。14%は「ぶつかった」グループ。
Q3. What does the 2023 replication suggest?
123人の追試でも約35%が偽の記憶を語ったので、かなりの割合の人に偽の記憶が生じうると言える。正解は B。
We tend to treat vivid memories as faithful recordings, but decades of research by psychologist Elizabeth Loftus suggest otherwise. In a classic 1974 experiment, students watched footage of a traffic accident and were asked how fast the cars were going when they "smashed" into or "hit" each other. The verb alone shifted speed estimates upward, and a week later 32% of the "smashed" group reported seeing broken glass, compared with 14% of the "hit" group, even though no glass had broken. This misinformation effect supports the view that remembering is reconstruction: each time we recall an event, we reassemble fragments, and later information can slip in.
Loftus later showed that entire false events could be implanted. After reading a fabricated story about being lost in a shopping mall, about a quarter of 24 participants fully or partly remembered it, and a preregistered 2023 replication with 123 people found about 35%. Estimates vary with how a false memory is defined, however; when eight studies were rescored using common criteria, about 30% showed clear false memories, while many others only came to believe the event might have happened. Such findings have prompted courts and police to reconsider eyewitness testimony and leading questions.
200 words ・ CEFR B2
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私たちは鮮明な記憶を忠実な録画のように扱いがちですが、心理学者エリザベス・ロフタスの数十年にわたる研究はそうではないことを示しています。1974年の古典的な実験では、学生たちが交通事故の映像を見て、車が互いに「激突した」または「ぶつかった」ときにどのくらいの速さだったかを尋ねられました。動詞だけで速度の見積もりが上がり、1週間後には、ガラスは割れていなかったにもかかわらず、「激突した」グループの32%が割れたガラスを見たと答え、「ぶつかった」グループでは14%でした。この事後情報効果は、思い出すことは再構成であるという見方を支持します。出来事を思い出すたびに私たちは断片を組み立て直しており、あとから入った情報が紛れ込むことがあるのです。
ロフタスはその後、まるごと偽の出来事を植え付けられることを示しました。ショッピングモールで迷子になったという作り話を読んだ後、24人の参加者の約4分の1がそれを部分的に思い出し、123人で行われた事前登録の2023年の追試では約35%でした。ただし、推定値は偽の記憶をどう定義するかによって変わります。8つの研究を共通の基準で採点し直すと、はっきりした偽の記憶を示したのは約30%で、ほかの多くの人は、その出来事が起きたかもしれないと信じるようになっただけでした。こうした発見を受けて、裁判所や警察は目撃証言や誘導尋問を見直すようになっています。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
記憶は再構成されるもので、誤情報や作り話で変わりうることを示す研究を紹介しているので D。
Q2. According to the passage, why do false memory rates vary?
Estimates vary with how a false memory is defined とあるので A。D は preregistered と矛盾。
Q3. What does "reconstruction" mean in this passage?
直後に each time we recall an event, we reassemble fragments と説明されているので C。D は筆者が否定する見方。
重要単語
- eyewitnessC1名詞目撃者The eyewitness was sure, but she was wrong.
eye+witness(証人)。eyewitness testimony「目撃証言」は心理学・法律の長文の頻出表現。 - misinformationC1名詞誤情報Misinformation after an event can change our memory.
mis-(誤った)+information。意図的な偽情報は disinformation と区別される。 - reconstructC1動詞再構成する、組み立て直すWe reconstruct memories each time we recall them.
re(再び)+construct(組み立てる)。名詞 reconstruction は「復興」の意味でも使う。 - leading questionC1名詞(句)誘導尋問Police officers should avoid leading questions.
lead(導く)から。答えを特定の方向に導く質問。open question(開かれた質問)と対比される。 - implantC1動詞植え付けるResearchers tried to implant a false memory.
im(中に)+plant(植える)。名詞では歯科や医療の「インプラント」。 - fabricatedC1形容詞でっち上げられた、作り話のParticipants read a fabricated story about their childhood.
fabricate は「(話を)でっち上げる」のほか「製造する」の意味も。fabric(布)と同語源。
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- Loftus & Palmer (1974) Reconstruction of automobile destruction: an example of the interaction between language and memory, Journal of Verbal Learning and Verbal Behaviordoi.org
- Loftus & Pickrell (1995) The formation of false memories, Psychiatric Annalsdoi.org
- Wade et al. (2002) A picture is worth a thousand lies: using false photographs to create false childhood memories, Psychonomic Bulletin & Reviewdoi.org
- Murphy et al. (2023) Lost in the mall again: a preregistered replication and extension of Loftus & Pickrell (1995), Memorydoi.org
- Scoboria et al. (2017) A mega-analysis of memory reports from eight peer-reviewed false memory implantation studies, Memorydoi.org
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。










