ロンドンのタクシー運転手は、海馬の後ろ側が大きかった。4年間の追跡でわかった"脳が育つ"証拠

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ロンドンのタクシー運転手の研究では、合格した訓練生だけ海馬の後ろ側の灰白質が増えていた
不合格の人や、比較のための一般の人では変化が見られなかった。
- 対象
- ロンドンのタクシー運転手・訓練生
- 規模
- 79人の訓練生+対照31人ほか
- 研究の種類
- 横断研究+縦断研究
- 確かさ
- ★★★☆☆
ロンドンの道を丸暗記したタクシー運転手は、海馬の後ろ側が大きかった。訓練生を4年追うと、合格した人だけ増えていた。
ひとことで言うと道をたくさん覚えると、脳の「地図係」が大きくなるらしい!
カーナビがあれば、知らない街でも迷わない時代。でもロンドンには、頭の中の地図だけで街じゅうを走れるタクシー運転手たちがいます。
ロンドンでいわゆる「ブラックキャブ」の運転手になるには、「ザ・ナレッジ(The Knowledge)」と呼ばれる超難関試験に合格しなければなりません。中心部の何万もの通りや目印を覚え、最短ルートを即答する試験で、準備には3〜4年かかるといわれます。
そんな人たちの脳は、ほかの人と違うのでしょうか?
01記憶の司令塔「海馬」の後ろ側が大きかった
海馬は、タツノオトシゴのような形をした脳の部位。新しい記憶を作るのに欠かせず、頭の中の地図を作る役割もあると考えられています。
02「もともと海馬が大きい人がなっただけ」では?
ただし、この結果だけでは「道を覚えたから海馬が大きくなった」とは言い切れません。もともと海馬が大きく、方向感覚のいい人がタクシー運転手を選んだだけかもしれないからです。運転そのものや、仕事のストレスの影響かもしれません。
そこでマグワイアさんたちは、2つの方法で確かめました。
ひとつは、バスの運転手との比較(2006年)。バス運転手も長時間運転し、ストレスもありますが、決まったルートを走ります。比べると、海馬の後部が大きいのはタクシー運転手だけでした。

03訓練生を4年間追いかけた
もうひとつが決定的でした。2011年、研究チームは試験勉強を始めたばかりの訓練生79人と、比較用の一般男性31人の脳を調べ、3〜4年後にもう一度調べたのです。
訓練生のうち合格したのは39人。結果は——
- 合格した人:海馬の後部の灰白質が増えていた
- 不合格・途中でやめた人:変化なし
- 一般の人:変化なし
しかも、訓練を始める前の時点では、のちに合格する人と不合格の人で海馬に違いは見られませんでした。「覚えたから変わった」という見方を強く支持する結果です。
04実は「代償」もあった?
面白いのは、タクシー運転手が万能ではなかったこと。複雑な図形を覚えて後で描く、といった新しい視覚的な情報の記憶では、運転手のほうが成績が低い場面がありました。海馬の前側が小さめだったことと関係があるのかもしれない、と研究者は推測しています。
05まとめ
ロンドンのタクシー運転手の脳は、運転手歴が長いほど海馬の後ろ側が大きい傾向があった。しかも4年間の追跡で、それが「もともと」ではなく「学んだ結果」である可能性が高まりました。
大人の脳も、使い方しだいで変わる。毎日の「覚える努力」は、ちゃんと脳に跡を残しているのかもしれません。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerTo become a London taxi driver, you must pass an exam called "the Knowledge," which requires memorizing…
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4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
Taxi drivers in London must learn thousands of streets. They study for three or four years to pass a very hard test. Scientists looked at their brains. The back part of the hippocampus, a part of the brain for memory and maps, was bigger in taxi drivers.
Then the scientists followed 79 trainees for about four years. Only the people who passed the test had more gray matter there. Learning seemed to change their brains.
75 words ・ CEFR A2
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ロンドンのタクシー運転手は、何千もの通りを覚えなければなりません。とても難しい試験に合格するために、3〜4年勉強します。科学者たちは彼らの脳を調べました。記憶や地図に関わる脳の部分「海馬」の後ろ側が、タクシー運転手では大きかったのです。
次に科学者たちは、79人の訓練生を約4年間追いかけました。そこの灰白質が増えていたのは、試験に合格した人だけでした。学ぶことが脳を変えたようです。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
道を覚えることで海馬が変化したという研究が中心なので B。
Q2. Who had more gray matter after about four years?
Only the people who passed the test had more gray matter there. とあるので D。
Q3. In this passage, "trainees" are people who ...
trainee は train(訓練する)+-ee(~される人)で「訓練を受けている人」なので A。
To become a London taxi driver, you must pass an exam called "the Knowledge," which requires memorizing tens of thousands of streets and landmarks. In 2000, researchers at University College London used MRI to compare licensed taxi drivers with other people. The drivers had a larger back part of the hippocampus, an area linked to memory and mental maps, and the longer they had driven, the larger it tended to be.
However, it was possible that people with a large hippocampus simply chose this job. So the team followed 79 trainees and 31 other men for three to four years. Only the 39 trainees who passed showed an increase in gray matter, which suggests that learning itself changed their brains.
120 words ・ CEFR B1
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ロンドンのタクシー運転手になるには、「ザ・ナレッジ」と呼ばれる試験に合格しなければなりません。この試験では、何万もの通りや目印を暗記する必要があります。2000年、ロンドン大学(UCL)の研究者たちはMRIを使って、資格を持つタクシー運転手とそれ以外の人々を比べました。運転手は、記憶や頭の中の地図に関わる領域である海馬の後ろ側が大きく、運転歴が長いほどそれが大きい傾向がありました。
しかし、もともと海馬が大きい人がこの仕事を選んだだけという可能性もありました。そこで研究チームは、79人の訓練生と31人の一般男性を3〜4年間追跡しました。灰白質の増加が見られたのは合格した39人の訓練生だけで、学習そのものが脳を変えたことを示唆しています。
4択リーディングクイズ
Q1. What did the 2000 study find about taxi drivers?
the longer they had driven, the larger it tended to be とあるので D。後部は「大きかった」ので C は逆。
Q2. Why did the team follow trainees for several years?
もともと海馬が大きい人がこの仕事を選んだだけかもしれない、という可能性を確かめるためなので B。
Q3. What can we infer from the result that only those who passed showed an increase?
合格者(=道を覚えきった人)だけが増えた、という結果から「学習が脳を変えた」と推論できるので A。
To get a license, a London taxi driver must pass "the Knowledge," an exam on the city's tangled streets that usually takes three to four years of study. In 2000, Maguire and colleagues found that in these drivers the rear part of the hippocampus was larger than in non-drivers. The longer a man had driven, the bigger it tended to be. A single snapshot cannot rule out the possibility that people with a naturally large hippocampus are drawn to the job.
So the team kept testing. Bus drivers, who face similar stress and driving hours but follow fixed routes, showed no such enlargement in a 2006 study. The strongest evidence came from scanning 79 trainees and 31 controls and rescanning them three to four years later. Gray matter in the posterior hippocampus grew only in the 39 trainees who qualified, and before training, future passers and failures had looked the same.
But all the participants were men, the groups were modest, and those who passed may have been more motivated. MRI also cannot show which cellular changes produce the extra volume. And the gain may come at a price, since drivers did worse on some tests of new visual memory.
200 words ・ CEFR B2
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ロンドンでタクシー運転手の資格を得るには、「ザ・ナレッジ」に合格しなければなりません。これは街の入り組んだ通りに関する試験で、通常3〜4年の勉強が必要です。2000年、マグワイアらは、こうした運転手では海馬の後ろの部分が運転手でない人より大きいことを発見しました。運転歴が長い人ほど、そこが大きい傾向がありました。ただ、ある一時点の比較だけでは、生まれつき海馬が大きい人がこの仕事に引き寄せられた可能性を排除できません。
そこでチームは検証を続けました。2006年の研究では、同様のストレスと運転時間を抱えながらも決まったルートを走るバスの運転手には、こうした拡大は見られませんでした。最も強力な証拠は、79人の訓練生と31人の対照群をスキャンし、3〜4年後にもう一度スキャンした研究から得られました。海馬後部の灰白質が増えたのは資格を得た39人の訓練生だけで、しかも訓練前には、のちに合格する人と不合格になる人の間に差はありませんでした。
ただし、参加者は全員男性で、グループの規模も大きくなく、合格者のほうが意欲が高かった可能性もあります。また、MRIでは、増えた体積の背後にどのような細胞レベルの変化があるのかはわかりません。さらに、この増加には代償があるのかもしれません。運転手は、新しい視覚的記憶のテストの一部で成績が低かったのです。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the main idea of the passage?
横断研究・バス運転手との比較・縦断研究を通して「学習で海馬後部が大きくなるらしい」と示すのが主旨なので A。
Q2. Why were bus drivers compared with taxi drivers?
バス運転手は who face similar stress and driving hours but follow fixed routes。ナビゲーション学習の影響だけを切り分けるための比較なので C。
Q3. Which is NOT mentioned as a limitation of the research?
訓練生は rescanning them three to four years later とあるので D は本文と矛盾する。A・B・C は But all the participants were men 以降に挙げられている。
重要単語
- hippocampusC1名詞海馬The hippocampus helps us form new memories.
ギリシャ語で「タツノオトシゴ」。複数形は hippocampi。形容詞 hippocampal。 - navigationB2名詞道案内、ナビゲーションGood navigation skills save time in a big city.
動詞 navigate(進路を決める・うまく切り抜ける)。navigate a difficult situation のような比喩も頻出。 - gray matterC1名詞(句)灰白質Learning may change the gray matter of the brain.
神経細胞の体が集まる部分。口語では「頭脳・知力」の意味も。英式は grey matter。 - longitudinalC1形容詞縦断的な(同じ人を長く追う)A longitudinal study follows the same people for years.
longitude(経度)と同語源。cross-sectional(横断的な)と対で覚える。 - traineeB1名詞訓練生、研修生The trainee studied the map every day.
-ee は「~される人」。employee, interviewee も同じ型。trainer は「教える側」。 - plasticityC1名詞可塑性(変化する性質)Brain plasticity continues in adulthood.
plastic(形を変えられる)+-ity。neuroplasticity は脳科学系長文の定番語。 - correlateC1動詞相関するHippocampus size correlated with years of driving.
correlate with ~「~と相関する」。名詞 correlation。相関≠因果 は入試の頻出論点。
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ロンドンのタクシー運転手は、2万を超える道を3〜4年かけて覚える超難関試験に合格した人たち。その脳を調べたら記憶の中枢「海馬」の後ろ側が大きかった。しかも訓練生を4年追うと、合格者だけが増えていたらしい。
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出典・参考文献(3件)タップで表示
- Maguire et al. (2000) Navigation-related structural change in the hippocampi of taxi drivers, PNASdoi.org
- Maguire, Woollett & Spiers (2006) London taxi drivers and bus drivers: a structural MRI and neuropsychological analysis, Hippocampusdoi.org
- Woollett & Maguire (2011) Acquiring "the Knowledge" of London's layout drives structural brain changes, Current Biologydoi.org
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。












