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失った手が痛む「幻肢痛」。鏡1枚で痛みがやわらぐ理由を、脳科学は書き換え続けている

失った手が痛む「幻肢痛」。鏡1枚で痛みがやわらぐ理由を、脳科学は書き換え続けている

読む前に予想してみよう!

手足を失った人が感じる「幻肢」の感覚は、気のせいである

研究カード(どんな研究?)
対象
手足を切断した人
規模
数十人規模の研究が複数
研究の種類
脳機能イメージング・小規模ランダム化試験
確かさ
★★★☆☆
3秒でわかる

手足を失った人の多くが「ないはずの手」の痛みを感じる。脳の地図の作りかえが原因とされたが、2013年の研究は逆の可能性を示し、議論が続いている。

ひとことで言うとないはずの手が痛むことがある。鏡を使うとやわらぐ人もいる。

もくじ
  1. 脳の中には「体の地図」がある
  2. 鏡1枚で起きた、不思議なこと
  3. どんでん返し:「地図の混乱」説への反論
  4. ミラーセラピーは「万能」ではない
  5. まとめ

手を失った人が、「ないはずの手」の存在を感じる。指を曲げた感じがする。そして、その手が痛む。

これは怪談ではありません。幻肢(げんし)と幻肢痛と呼ばれる、医学的に知られた現象です。切断を経験した人の多くが幻肢を感じ、かなりの割合の人が痛みも経験すると報告されています。

ないものが痛む。脳はいったい何をしているのでしょうか。

01脳の中には「体の地図」がある

脳の感覚をつかさどる領域には、体の部位が順番に並んだ地図があります。手の感覚は手の担当エリア、顔は顔の担当エリアへ届きます。

1995年、ドイツの研究者フロールらは、腕を切断した人の脳を磁気を使った方法で調べ、地図の作りかえ(再編成)の大きさと、幻肢痛の強さが強く関係する(相関係数0.93)と報告しました。

ここから、「手からの入力が来なくなり、隣の領域(顔など)が手のエリアに侵入する。この地図の混乱が痛みの原因だ」という説明が広まりました。

02鏡1枚で起きた、不思議なこと

同じころ、もう1つの有名な研究が登場します。

視覚が触覚や運動の感覚を書き換える――このミラーセラピーの発想は、その後リハビリに応用されました。2007年には、米国の研究者らが切断を経験した22人を対象にした小規模なランダム化試験の結果を『NEJM』に報告し、鏡を使った群で痛みの改善が見られたとしています。

鏡で「もう一方の手」を映すだけ。安価だが、痛みがやわらぐ人がいる
鏡で「もう一方の手」を映すだけ。安価だが、痛みがやわらぐ人がいる

03どんでん返し:「地図の混乱」説への反論

ところが2013年、英オックスフォード大学のメイキンらが、定説をゆさぶる研究を発表しました。

つまり、「地図が壊れたから痛い」ではなく、「痛みを感じ続けることで地図が維持される」のかもしれない、という見方です。

04ミラーセラピーは「万能」ではない

ミラーセラピーは安全で費用も安く、試す価値がある方法とされています。ただし、研究の多くは参加者が少なく、本物の鏡と「見せかけの鏡」を比べる盲検化が難しいという弱点があります。

効く人と効かない人がいて、効果の大きさの推定にも幅があります。

05まとめ

  • 幻肢痛は、失った手足に痛みを感じる実在の現象
  • 「脳の体の地図の作りかえが原因」という説が長く有力だった
  • 2013年の研究は「手のエリアは保たれていた」と報告し、因果が逆の可能性を示した
  • 鏡を使うミラーセラピーは有望だが、効く人・効かない人がいる

脳は体の「設計図」を持っていて、体が変わっても簡単には手放さない。幻肢痛は、その執着が生む切ない現象なのかもしれません。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerAfter losing an arm or a leg, many people still feel that it is there. 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

After losing an arm or a leg, many people still feel that it is there. A large number also feel pain in it. This is called phantom limb pain. The brain has a map of the body.

In 1995, a team led by Flor reported that the more this map had changed after amputation, the stronger the pain was. Around the same time, Ramachandran developed mirror therapy. Patients looked at the reflection of their remaining hand in a mirror, and it looked like the missing hand. Some said their pain became weaker.

Then, in 2013, a study by Makin found something different. People with strong phantom pain actually had a well-preserved hand area in the brain. This result did not fit the old idea about the changing map.

128 words ・ CEFR B1

和訳を見る

腕や脚を失った後も、多くの人はそれがまだそこにあると感じます。そこに痛みを感じる人もたくさんいます。これは幻肢痛と呼ばれています。脳には体の地図があります。

1995年、フロールが率いるチームは、切断後にこの地図が変化した程度が大きいほど、痛みが強いと報告しました。ほぼ同じころ、ラマチャンドランはミラーセラピーを開発しました。患者が残っている手を鏡に映して見ると、それが失った手のように見えました。痛みが弱くなったと言う人もいました。

ところが2013年、メイキンによる研究は違うことを見つけました。強い幻肢痛のある人は、実は脳の手の領域がよく保たれていたのです。この結果は、地図が変化するという以前の考えと合いませんでした。

4択リーディングクイズ

Q1. What did Flor's team report in 1995?

Q2. How does mirror therapy work, according to the passage?

Q3. Why is Makin's 2013 study important in the passage?

重要単語

  • amputationC1
    名詞切断(手術)Phantom sensations often follow amputation. 動詞 amputate。am-(周りを)+putare(切る)。
  • phantom limbC1
    名詞(句)幻肢(ないはずの手足の感覚)He still felt his phantom limb every day. phantom は「幻・幽霊」。limb は「手足」。b は発音しない /lɪm/。
  • cortexC1
    名詞(大脳)皮質The sensory cortex contains a map of the body. 複数形 cortices。cerebral cortex「大脳皮質」。形容詞は cortical。
  • reorganizationC1
    名詞再編成・作りかえCortical reorganization was once seen as the cause. re-(再び)+organization。企業の「組織再編」でも使う。
  • mirror therapyB2
    名詞(句)ミラーセラピー(鏡を使う治療)Mirror therapy can reduce pain for some patients. therapy は「治療・療法」。therapist は「療法士」。
  • chronic painB2
    名詞(句)慢性の痛みChronic pain changes how the brain works. chronic(慢性の)⇔ acute(急性の)。
  • correlationC1
    名詞相関(関係)There was a strong correlation between the two measures. Correlation does not imply causation.「相関は因果を意味しない」は研究の鉄則。

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4コマでわかる

失った手が痛む「幻肢痛」。鏡1枚で痛みがやわらぐ理由を、脳科学は書き換え続けているの4コマ漫画
失った手が痛む幻肢痛。鏡で残った手を映すだけで痛みがやわらぐ人がいる。原因は脳の地図の書きかえ…とされてきたが、2013年の研究は「地図は保たれていた」と報告。

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出典・参考文献(4件)タップで表示
  1. Ramachandran & Rogers-Ramachandran (1996) Synaesthesia in phantom limbs induced with mirrors, Proceedings of the Royal Society Bdoi.org
  2. Flor et al. (1995) Phantom-limb pain as a perceptual correlate of cortical reorganization following arm amputation, Naturedoi.org
  3. Makin et al. (2013) Phantom pain is associated with preserved structure and function in the former hand area, Nature Communicationsdoi.org
  4. Chan et al. (2007) Mirror Therapy for Phantom Limb Pain, New England Journal of Medicinedoi.org