1年間ウォーキングした高齢者、記憶の司令塔「海馬」が約2%大きくなっていた

読む前に予想してみよう!
大人になると、脳の神経細胞が新しく作られることは一切ない
動物では海馬で新しい神経細胞が作られることが示されている。人でどの程度起きるかは議論が続いている。
- 対象
- 認知症のない高齢者
- 規模
- 約120人
- 研究の種類
- ランダム化比較試験
- 確かさ
- ★★★☆☆
1年間の有酸素運動で、高齢者の海馬の体積が約2%増えたという実験がある。脳の「肥料」BDNFが関わると考えられるが、頭がよくなる効果の大きさは議論中。
ひとことで言うと歩くと、記憶をつかさどる脳の一部が大きくなったという研究がある!
年をとると、物忘れが増えて、脳もだんだん小さくなっていく――。それは自然なことだと思われてきました。
ところが、1年間ウォーキングを続けた高齢者の脳で、記憶に関わる部分が大きくなっていたという研究があります。
運動は筋肉だけでなく、脳にも何かをしているのかもしれません。
01記憶の司令塔「海馬」
脳の奥深く、左右に1つずつある海馬(かいば)。名前のとおり、タツノオトシゴ(英語でシーホース)のような形をしています。
海馬は、新しいことを覚えたり、場所を覚えたりするときに大活躍する、いわば記憶の司令塔。そして、年齢とともに少しずつ小さくなっていくことが知られています。
021年間のウォーキング実験
研究チームは、これを「年齢による海馬の縮みを1〜2年分取り戻したようなもの」と説明しています。ウォーキング群では、記憶のテストの成績が上がった人ほど海馬の増え方が大きい傾向もありました。

03カギは脳の“肥料”BDNF
なぜ運動で脳が変わるのでしょう? そのカギとされるのが、BDNF(脳由来神経栄養因子)という物質です。
BDNFは、神経細胞が育ったり、つながりを強めたりするのを助ける物質で、よく「脳の肥料」にたとえられます。エリクソンさんらの研究でも、海馬が大きくなった人ほど、血液中のBDNFが増えていたと報告されています。
1999年には、アメリカ・ソーク研究所のファン・プラーグ(van Praag)さんらが『Nature Neuroscience』で、回し車で走ったマウスは、海馬で新しい神経細胞がたくさん生まれていたことを報告しました。
04「運動で頭がよくなる」はまだ言い過ぎ
ここで注意したいのは、海馬が大きくなること=テストの点が上がる、とは限らないことです。
実はエリクソンさんらの実験でも、記憶テストの成績は、ウォーキング群とストレッチ群の両方で同じくらい上がっていました。「歩いたほうが記憶力がぐんと伸びた」という結果ではなかったのです。
運動と記憶力・判断力の関係を調べた研究はたくさんありますが、効果の大きさは研究によってまちまちです。また、エリクソンさんらの研究は高齢者が対象で、若い人に同じことが起きるかは別の話です。
それでも、「運動が脳の健康を支える可能性がある」という方向性は、多くの研究で一致しています。
05まとめ
1年間のウォーキングで、高齢者の海馬が約2%大きくなった。その背景には、脳の肥料BDNFが関わっていると考えられています。
「頭がよくなる魔法」とまでは言えないけれど、歩くことは、脳へのささやかな贈りものかもしれません。今日の帰り道、少しだけ遠回りしてみませんか?
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerThe hippocampus is a small, seahorse-shaped part of the brain that plays a key role in memory.
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4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
Your brain has a part called the hippocampus. It helps you remember new things, and it gets smaller as you get older. In a study in the US, about 120 older people joined a one-year test.
One group walked three times a week. The other group did only stretching. The walking group's hippocampus grew by about 2 percent. The stretching group's hippocampus got about 1.4 percent smaller. But memory test scores improved in both groups.
75 words ・ CEFR A2
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脳には海馬という部分があります。海馬は新しいことを覚えるのを助けており、年をとるにつれて小さくなっていきます。アメリカのある研究で、約120人の高齢者が1年間の実験に参加しました。
一方のグループは週3回ウォーキングをしました。もう一方のグループはストレッチだけをしました。ウォーキングのグループの海馬は約2%大きくなりました。ストレッチのグループの海馬は約1.4%小さくなりました。でも、記憶テストの点数は両方のグループで上がりました。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
高齢者のウォーキングと海馬の大きさの変化についての研究なので D。
Q2. What happened to the walking group's hippocampus?
The walking group's hippocampus grew by about 2 percent. とあるので B。1.4%小さくなったのはストレッチ群。
Q3. In this passage, "improved" means ...
improve は「よくなる・向上する」。記憶テストの点数が上がったという意味なので C。
The hippocampus is a small, seahorse-shaped part of the brain that plays a key role in memory. It usually shrinks slowly with age. In a 2011 study, Erickson and his team in the United States randomly divided about 120 older adults without dementia into two groups. For one year, one group walked for about 40 minutes three times a week, while the other group did stretching and other light exercises.
Brain scans showed that the hippocampus grew by about 2 percent in the walking group but shrank by about 1.4 percent in the stretching group. People whose hippocampus grew more also had higher levels of BDNF, a protein that helps brain cells grow. However, memory scores improved similarly in both groups.
121 words ・ CEFR B1
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海馬は、タツノオトシゴのような形をした脳の小さな部分で、記憶に重要な役割を果たしています。海馬はふつう、年齢とともにゆっくり縮んでいきます。2011年に発表された研究で、アメリカのエリクソンさんのチームは、認知症のない高齢者約120人をくじ引きで2つのグループに分けました。1年間、一方のグループは週3回約40分ウォーキングをし、もう一方のグループはストレッチなどの軽い運動をしました。
脳の画像検査で、海馬はウォーキング群では約2%大きくなりましたが、ストレッチ群では約1.4%縮んでいました。海馬が大きく増えた人ほど、脳の細胞が育つのを助けるタンパク質であるBDNFの値も高くなっていました。しかし、記憶テストの点数は両方のグループで同じくらい上がりました。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
1年間のウォーキングで海馬が大きくなったという研究の紹介なので A。
Q2. How often did the walking group exercise?
walked for about 40 minutes three times a week とあるので C。
Q3. What can we infer from the last sentence?
memory scores improved similarly in both groups から、海馬が大きくなっても記憶の点数でははっきりした差が出なかったと推測できるので B。
For a year, about 120 older adults without dementia were split into two groups. One group walked for around 40 minutes three times a week. The other did stretching exercises. Erickson and colleagues, who published this randomized controlled trial in 2011, were watching the hippocampus, a seahorse-shaped structure deep in the brain that is central to forming new memories and that usually shrinks with age.
MRI scans showed that hippocampal volume rose by about 2 percent in the walking group and fell by about 1.4 percent in the stretching group. The authors compared the gain to turning back one to two years of age-related decline. Memory, however, told a less exciting story. Scores improved by about the same amount in both groups, so the bigger hippocampus did not bring a clear memory advantage.
Researchers disagree about how much new neuron growth happens in adult humans, and these volunteers were all older adults. Two clues point the same way. People whose hippocampus grew more had higher blood levels of BDNF, a protein often described as fertilizer for the brain, and earlier work in mice had shown that running increases the birth of new neurons in the hippocampus.
196 words ・ CEFR B2
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1年間、認知症のない高齢者約120人が2つのグループに分けられました。一方のグループは週3回、約40分ずつウォーキングをしました。もう一方はストレッチ運動をしました。2011年にこのランダム化比較試験を発表したエリクソンさんらが注目していたのは海馬です。
海馬は脳の奥にあるタツノオトシゴの形をした構造で、新しい記憶をつくるのに中心的な役割を果たし、ふつうは年齢とともに縮んでいきます。MRI検査の結果、海馬の体積はウォーキング群では約2%増え、ストレッチ群では約1.4%減っていました。著者らはこの増加を、年齢による衰えを1〜2年分巻き戻したようなものだとたとえました。しかし、記憶についての結果はそれほど劇的ではありませんでした。点数は両群で同じくらい向上しており、海馬が大きくなっても、はっきりした記憶力の優位にはつながらなかったのです。
大人の人間で新しい神経細胞がどれくらい生まれるのかについては研究者の意見が分かれており、しかも今回の参加者は全員が高齢者でした。それでも、2つの手がかりは同じ方向を指しています。海馬が大きく増えた人ほど、「脳の肥料」とよくたとえられるタンパク質BDNFの血中濃度が高く、またそれ以前のマウスの研究では、走ることで海馬の新しい神経細胞の誕生が増えることが示されていました。
4択リーディングクイズ
Q1. How did the authors describe the change in the walking group?
The authors compared the gain to turning back one to two years of age-related decline とあるので D。
Q2. What role does BDNF play, according to the passage?
BDNF, a protein often described as fertilizer for the brain とあるので A。
Q3. Why does the author say memory "told a less exciting story"?
直後に Scores improved by about the same amount in both groups と理由が書かれているので B。海馬が大きくなっても記憶力ではっきり勝ったわけではない。
重要単語
- hippocampusC1名詞海馬The hippocampus plays a key role in memory.
ギリシャ語で「馬+海の怪物」=タツノオトシゴ。形が似ていることから。複数形は hippocampi。 - aerobic exerciseB2名詞(句)有酸素運動Walking is a simple form of aerobic exercise.
aero-(空気)+bio(生命)。反対は anaerobic exercise(無酸素運動)。 - neurogenesisC1名詞神経新生Running boosted neurogenesis in mice.
neuro-(神経)+genesis(誕生)。旧約聖書の Genesis(創世記)と同じ語。 - volumeB1名詞体積、容積/音量/(本の)巻MRI scans measured brain volume.
多義語。turn up the volume「音量を上げる」、a large volume of data「大量のデータ」も頻出。 - cognitiveC1形容詞認知のExercise may support cognitive health.
cognition(認知)の形容詞。recognize(認識する)と同語源。cognitive decline「認知機能の低下」。 - shrinkB2動詞縮むThe hippocampus tends to shrink with age.
活用は shrink-shrank-shrunk。服が洗濯で縮むときにも使う。 - overstateC1動詞誇張する、大げさに言うWe should not overstate the results.
over-(過度に)+state(述べる)。反対は understate(控えめに言う)。研究の限界を述べる定番語。
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高齢者に1年間ウォーキングしてもらったら、記憶に関わる脳の「海馬」が約2%大きくなっていたらしい。ストレッチだけのグループは逆に少し小さくなっていた。運動は脳にとっての“肥料”になるのかも。
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出典・参考文献(3件)タップで表示
- Erickson et al. (2011) Exercise training increases size of hippocampus and improves memory, PNASdoi.org
- van Praag, Kempermann & Gage (1999) Running increases cell proliferation and neurogenesis in the adult mouse dentate gyrus, Nature Neurosciencedoi.org
- Szuhany, Bugatti & Otto (2015) A meta-analytic review of the effects of exercise on brain-derived neurotrophic factor, Journal of Psychiatric Researchdoi.org
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。














