体と健康・食ホント

「体の細菌は人間の細胞の10倍」はまちがい。計算し直したら“ほぼ1対1”だった

「体の細菌は人間の細胞の10倍」はまちがい。計算し直したら“ほぼ1対1”だった

読む前に予想してみよう!

数で数えると、人の体の細胞のうち8割以上は赤血球である

研究カード(どんな研究?)
対象
「標準的な成人男性」(体重70kg)のモデル
規模
既存データの再集計
研究の種類
推計研究(文献データにもとづく計算)
確かさ
★★★☆☆
3秒でわかる

長年「細菌は人の細胞の10倍」と言われてきたが、2016年の再計算で約1.3対1とわかった。トイレに行くと比率が逆転することもある。

ひとことで言うと体の細菌と自分の細胞の数は、だいたい同じくらいだった!

もくじ
  1. 「10倍」はどこから来た?
  2. ゼロから計算し直してみた
  3. 細菌は「大腸」に集中している
  4. 人の細胞の8割以上は「赤血球」
  5. トイレに行くと比率が逆転!?
  6. まとめ

「人間の体には、自分の細胞の10倍もの細菌がすんでいる。私たちは“細菌の乗り物”なのだ」。

こんな話を、本やテレビで聞いたことがあるかもしれません。インパクト抜群で、教科書や講演でも何十年も使われてきました。

ところが2016年、イスラエルの研究者たちがこの数字をゼロから計算し直したところ、まったくちがう答えが出てきたんです。

01「10倍」はどこから来た?

この「10倍」という数字は、1970年代に、ある研究者がざっくりした見積もりとして出したものがもとになったと言われています。

当時は「腸の中の細菌の密度」と「人の細胞の数」を、かなり大まかな仮定で計算していました。そのざっくり数字がそのまま引用され続けたわけです。

有名な人や本が一度言った数字は、「みんな使っているから正しいはず」と思われがちです。でも、もとをたどると誰も確かめ直していなかった――科学の世界でも、ときどきこういうことが起こります。

02ゼロから計算し直してみた

「10倍」どころか、ほぼ同じくらいだったんです。

03細菌は「大腸」に集中している

細菌のほとんどは、大腸にすんでいます。胃や小腸は、大腸に比べると細菌がずっと少ないこともわかりました。

昔の計算は、細菌がぎっしりいる大腸の密度を、消化管全体に広げて考えていた部分があり、それが「多すぎる見積もり」の一因になったと考えられています。

細菌はとても小さいので、全部集めても重さは約0.2kgほど。数は多くても、体重のほんの一部です。

細菌と人の細胞の数は、ほぼつり合っていた
細菌と人の細胞の数は、ほぼつり合っていた

04人の細胞の8割以上は「赤血球」

もうひとつの驚きは、人の細胞の内訳です。約30兆個の人の細胞のうち、8割以上が赤血球でした。

赤血球は、酸素を運ぶ小さな円盤形の運び屋。とても小さいので数はダントツに多いものの、体の重さでいえばほんの一部です。重さでは、筋肉や脂肪の細胞のほうがずっと大きな割合を占めています。

05トイレに行くと比率が逆転!?

この研究には、ちょっと笑える一文もあります。大腸の中身には細菌がたくさん含まれているため、1回の排便で、体の細菌の数がかなり減る可能性があるというのです。

つまり、トイレの前後で「細菌が多い」「人の細胞が多い」が入れ替わることもありうる――それくらい、両者は“いい勝負”ということですね。

06まとめ

「細菌は人の細胞の10倍」は、昔のざっくり計算がひとり歩きした数字でした。最新の見積もりでは、ほぼ1対1。

有名な数字ほど、一度「どうやって計算したの?」と疑ってみる。それが科学の楽しさであり、強さでもあります。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerFor decades, textbooks and speakers repeated a surprising claim: bacteria in the human body outnumber our… 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

For decades, textbooks and speakers repeated a surprising claim: bacteria in the human body outnumber our own cells by ten to one. However, this figure came from a rough estimate made in the 1970s, and almost nobody checked it again. In 2016, researchers at the Weizmann Institute of Science in Israel recalculated the numbers using newer data.

Their model was a typical man aged 20 to 30 who weighs 70 kilograms. They estimated about 38 trillion bacteria and 30 trillion human cells, a ratio of about 1.3 to 1. Most of the bacteria live in the colon, while the stomach and small intestine contain far fewer. The study also found that over 80 percent of human cells are red blood cells.

121 words ・ CEFR B1

和訳を見る

何十年もの間、教科書や講演者は「人の体の細菌は自分の細胞より10対1で多い」という驚きの主張をくり返してきました。しかし、この数字は1970年代のざっくりした見積もりから来たもので、ほとんど誰も確かめ直していませんでした。2016年、イスラエルのワイツマン科学研究所の研究者たちが、新しいデータを使って数を計算し直しました。

モデルにしたのは、体重70kgの20〜30歳の標準的な男性です。彼らは細菌を約38兆個、人の細胞を約30兆個と見積もり、比率は約1.3対1でした。細菌のほとんどは大腸にすんでおり、胃や小腸にはずっと少ないのです。この研究では、人の細胞の8割以上が赤血球であることもわかりました。

4択リーディングクイズ

Q1. What is the passage mainly about?

Q2. Where do most of the body's bacteria live?

Q3. What can we infer about the "ten to one" claim?

重要単語

  • bacteriaB1
    名詞(複数形)細菌Most bacteria in our body live in the colon. 単数形は bacterium。data(単数 datum)と同じくラテン語由来の複数形。発音は /bækˈtɪəriə/。
  • estimateB1
    名詞・動詞見積もり/見積もるScientists revised the old estimate. 名詞は /ˈestɪmət/、動詞は /ˈestɪmeɪt/ と語尾の発音が変わる。overestimate「過大評価する」も頻出。
  • ratioB2
    名詞比率The ratio of bacteria to human cells is about 1.3 to 1. the ratio of A to B「AとBの比率」の形で覚える。rate(割合)、rational(合理的な)と同語源。
  • outnumberC1
    動詞~より数が多いWomen outnumber men in this class. out-(~を上回る)+number。outlive(~より長生きする)、outweigh(~より重要だ)も同じ仲間。
  • red blood cellB1
    名詞(句)赤血球Red blood cells carry oxygen around the body. white blood cell(白血球)とセットで。生物系の長文で頻出。
  • colonC1
    名詞大腸(結腸)The colon is home to trillions of microbes. 記号の「:(コロン)」と同じつづり。large intestine(大腸)とも言う。
  • recalculateB2
    動詞計算し直すThe team recalculated the number of cells. re-(再び)+calculate。reconsider, reexamine と同じ作り。

4コマでわかる

「体の細菌は人間の細胞の10倍」はまちがい。計算し直したら“ほぼ1対1”だったの4コマ漫画
「人の体には自分の細胞の10倍の細菌がいる」と教科書にも載っていたけど、2016年にイスラエルの研究者が計算し直したら、だいたい1.3対1だったらしい。しかもトイレで大きいほうをすると、比率が逆転することもあるとか。

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出典・参考文献(4件)タップで表示
  1. Sender, Fuchs & Milo (2016) Revised Estimates for the Number of Human and Bacteria Cells in the Body, PLoS Biologydoi.org
  2. Sender, Fuchs & Milo (2016) Are We Really Vastly Outnumbered? Revisiting the Ratio of Bacterial to Host Cells in Humans, Celldoi.org
  3. Luckey (1972) Introduction to intestinal microecology, American Journal of Clinical Nutritiondoi.org
  4. Savage (1977) Microbial ecology of the gastrointestinal tract, Annual Review of Microbiologydoi.org