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「誰かがそこにいる」気配の正体。ロボットで"見えない人"を作り出した実験

「誰かがそこにいる」気配の正体。ロボットで"見えない人"を作り出した実験

読む前に予想してみよう!

誰もいないのに人の気配を感じるのは、必ず病気のサインである

研究カード(どんな研究?)
対象
神経疾患の患者と健康な参加者
規模
患者12人の病変解析+健康な参加者での実験
研究の種類
病変解析+ロボットを用いた実験
確かさ
★★★☆☆
3秒でわかる

誰もいないのに人の気配を感じる体験は、脳の3つの領域の損傷と関係していた。ロボットで触覚のタイミングをずらすと、健康な人にも同じ感覚を作り出せた。

ひとことで言うと「誰かいる」気配は、体の感覚のズレから脳が作り出すことがある。

もくじ
  1. きっかけは、手術前の患者の「影の人」
  2. 3つの脳領域の地図
  3. ロボットで「幽霊」を作る
  4. なぜこんな仕組みがあるのか
  5. どんでん返し:「全部これで説明できる」わけではない
  6. まとめ

夜、ひとりの部屋で作業していると、「うしろに誰かいる」気がする。

登山家が極限状態で「もうひとりの同行者」を感じる話も有名です。こうした体験は気配感(feeling of a presence)と呼ばれ、世界中の文化で語られてきました。

オカルトとして片づけるのは簡単ですが、脳科学はこれを実験室で作り出すところまで来ています。

01きっかけは、手術前の患者の「影の人」

2006年、スイスの研究チームは、てんかんの手術前の検査を受けていた患者の脳を電気で刺激したところ、「すぐそばに誰かがいる」という感覚がくり返し生じたと報告しました。

刺激した場所は、左の側頭頭頂接合部。体の感覚と視覚、自分の位置の情報が集まる場所です。しかも、その「見えない人」は、患者が姿勢を変えると同じように動いたといいます。

つまり、「誰か」は自分の体の姿勢をなぞる存在だったのです。

023つの脳領域の地図

03ロボットで「幽霊」を作る

ここからがすごいところです。研究チームは、健康な人にも同じ感覚を起こせるか試しました。

参加者は、前にあるロボットの棒を指で動かします。すると、背中にある別のロボットが、その動きをなぞって背中を触ります。自分の動きと背中の感覚がぴったり同時なら、「自分で自分の背中を触っている」と感じます。

ところが、背中を触るタイミングを約0.5秒遅らせると――

自分の動きと背中の触覚を「0.5秒だけ」ずらすと、脳は他人の存在を作り出す
自分の動きと背中の触覚を「0.5秒だけ」ずらすと、脳は他人の存在を作り出す

04なぜこんな仕組みがあるのか

私たちの脳は、自分が動かすたびに「こう動いたから、こう感じるはず」と予測しています。予測と実際がそろえば「これは自分」、ずれれば「これは外から来たもの」と判断します。

自分でくすぐっても笑いにくいのも、この予測のおかげです。

05どんでん返し:「全部これで説明できる」わけではない

ただし、この実験が示したのは「似た感覚を作れる」ということです。人が報告するあらゆる気配体験が、同じ仕組みだとは証明されていません。

参加者の数も多くはなく、「不気味さ」の感じ方には個人差があると考えられます。文化や信念によって、体験の解釈(「幽霊だ」「亡き人だ」)が変わる可能性もあります。

06まとめ

  • 「誰かがいる」気配感は、脳の3つの領域(側頭頭頂・島・前頭頭頂)の働きと関係する
  • 電気刺激や、動きと触覚のタイミングのずれで人工的に起こせる
  • 正体は、自分の体から来た信号を「他人」と取り違える現象
  • すべての体験が同じ仕組みとは限らない

背後の気配は、どうやら外から来るのではなく、自分の脳が生み出していたようです。怖いというより、ちょっと感動的な話ではないでしょうか。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerMany people have felt that someone is close by when no one is there, especially when they are tired or… 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

Many people have felt that someone is close by when no one is there, especially when they are tired or alone in extreme places such as high mountains. In 2014, Blanke and his team in Switzerland studied 12 patients with brain damage who had experienced this feeling. Their damage was in three areas that combine information about touch, body position and movement.

The team then tested healthy volunteers. Each person moved a robot arm in front of them while another robot touched their back. When the touch happened at the same time, people felt they were touching themselves. But when it was delayed by about half a second, many felt that an invisible person was behind them.

117 words ・ CEFR B1

和訳を見る

多くの人が、誰もいないのに誰かが近くにいると感じたことがあります。特に疲れているときや、高い山のような極限の場所でひとりでいるときです。2014年、スイスのブランケと彼のチームは、この感覚を経験した脳損傷のある患者12人を調べました。

彼らの損傷は、触覚・体の位置・運動についての情報をまとめる3つの領域にありました。次にチームは健康なボランティアで試しました。各参加者は目の前のロボットアームを動かし、その間に別のロボットが背中に触れました。触れるタイミングが同時だと、人々は自分で自分に触れていると感じました。しかし約0.5秒遅らせると、多くの人が見えない誰かが後ろにいると感じたのです。

4択リーディングクイズ

Q1. What did the brain areas linked to the feeling have in common?

Q2. What happened when the touch on the back was at the same time as the movement?

Q3. What can we infer from the experiment?

重要単語

  • presenceB2
    名詞存在・いる感じHe felt the presence of another person. present(いる)の名詞形。in the presence of ~「~のいる前で」。
  • illusionB2
    名詞錯覚The feeling is a kind of bodily illusion. optical illusion「目の錯覚」。allusion(ほのめかし)と混同注意。
  • lesionC1
    名詞病変・損傷部位The lesions were in three brain regions. 医学論文で頻出。brain lesion「脳の病変」。
  • proprioceptionC1
    名詞自己受容感覚(体の位置の感覚)Proprioception tells you where your arm is. proprio-(自分自身の)+ception(受け取ること)。目を閉じても手の位置がわかる感覚。
  • hallucinationC1
    名詞幻覚Some hallucinations involve other people. 動詞 hallucinate。visual / auditory hallucination「幻視/幻聴」。
  • delayB1
    名詞・動詞遅れ/遅らせるA short delay changed what people felt. without delay「すぐに」は頻出熟語。
  • misattributeC1
    動詞(原因・出どころを)取り違えるThe brain may misattribute its own signals to someone else. mis-(誤って)+attribute A to B(AをBのせいにする)。

動画でもっと知る

4コマでわかる

「誰かがそこにいる」気配の正体。ロボットで"見えない人"を作り出した実験の4コマ漫画
「後ろに誰かいる」という気配。研究者が脳の損傷部位を調べたうえで、ロボットで背中を触るタイミングをわざとずらす実験をしたら、健康な人にも「見えない誰かがいる」感覚が生まれ、途中でやめてほしいと言う人まで出たらしい。

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出典・参考文献(3件)タップで表示
  1. Blanke et al. (2014) Neurological and Robot-Controlled Induction of an Apparition, Current Biologydoi.org
  2. Arzy et al. (2006) Induction of an illusory shadow person, Naturedoi.org
  3. Blanke et al. (2004) Out-of-body experience and autoscopy of neurological origin, Braindoi.org