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ブロッコリーが苦く感じるのは、わがままじゃなかった。苦味センサー「TAS2R38」の個人差

ブロッコリーが苦く感じるのは、わがままじゃなかった。苦味センサー「TAS2R38」の個人差

読む前に予想してみよう!

同じ物質でも、人によってひどく苦く感じたり、ほとんど味がしなかったりすることがある

研究カード(どんな研究?)
対象
成人の参加者・培養細胞
規模
数十〜数百人規模の研究が複数
研究の種類
遺伝子解析+味覚テスト+受容体の機能実験
確かさ
★★★★☆
3秒でわかる

苦味センサーの遺伝子TAS2R38の型によって、ブロッコリーなどの苦味の感じ方がちがう。同じ野菜でも、人によって本当に「別の味」がしている。

ひとことで言うと苦い野菜が苦手なのは、舌のセンサーが敏感だからかも!

もくじ
  1. 発見のきっかけは、実験室で舞った「粉」
  2. 2003年、ついに犯人の遺伝子が判明
  3. ブロッコリーの苦さもこのセンサーが関係
  4. 苦味センサーは「毒見係」だった?
  5. まとめ

「ブロッコリー、苦いから食べたくない」「え、全然苦くないけど?」

こんな会話、家族や友だちとしたことはありませんか。実はこれ、どちらかがウソをついているわけでも、わがままを言っているわけでもない可能性があります。

苦味を感じるセンサーの遺伝子には個人差があり、同じ野菜でも人によって本当に苦さがちがうことがわかっているのです。

01発見のきっかけは、実験室で舞った「粉」

話は1930年ごろのアメリカにさかのぼります。化学会社の研究者アーサー・フォックスが、PTC(フェニルチオカルバミド)という物質を扱っていたとき、粉が舞い上がりました。

近くにいた同僚は「ひどく苦い!」と言いました。ところがフォックス本人は、何の味もしなかったのです。

不思議に思ったフォックスは、たくさんの人にPTCをなめてもらい、「苦いと感じる人」と「ほぼ無味の人」にはっきり分かれることを報告しました(1932年)。この「味覚の個人差」は、その後70年にわたって遺伝学の教材として使われることになります。

022003年、ついに犯人の遺伝子が判明

ヒトの苦味センサーは25種類ほどあり、TAS2R38はそのうちの1つ。PTCのように、分子の中に「窒素・炭素・硫黄」が並んだ特定の形の物質をキャッチするのが得意です。

03ブロッコリーの苦さもこのセンサーが関係

では、なぜブロッコリーなのでしょうか。

ブロッコリー、キャベツ、カブ、クレソンなどのアブラナ科の野菜には、PTCと似た形の部分をもつ成分が含まれています。2006年の研究では、TAS2R38がPAV型の人はアブラナ科の野菜をより苦く感じ、AVI型の人はそれほど苦く感じない傾向が示されました。

つまり、ブロッコリーが苦手な人は、舌のセンサーがその苦味成分を敏感にキャッチしているのかもしれません。

センサーの型がちがうと、同じ苦味成分でも「キャッチできる人」と「素通りする人」に分かれる
センサーの型がちがうと、同じ苦味成分でも「キャッチできる人」と「素通りする人」に分かれる

もちろん、ブロッコリーの好き嫌いを決めるのはこの遺伝子だけではありません。調理法、においや食感、子どものころの食経験なども大きく影響します。遺伝子は「苦く感じやすいかどうか」のスタート地点を決めているにすぎないのです。

04苦味センサーは「毒見係」だった?

苦味は、もともと植物の毒を見分けるための警報だったと考えられています。アブラナ科の苦味成分の中には、たくさんとると甲状腺のはたらきに影響しうるものもあります。

ではなぜ「感じない型」も世界中に残っているのか。感じない型にも何か別の役割があったのではという説もありますが、まだはっきりした答えは出ていません。

05まとめ

ブロッコリーの苦さは、苦味センサーTAS2R38の型によって人ごとに変わります。90年以上前に実験室で舞った粉から始まった研究は、「味の感じ方は人それぞれ」ということを遺伝子レベルで教えてくれました。

苦手な人がいたら、責めるより「あなたのセンサー、敏感なんだね」と言ってみてください。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerAround 1930, a chemist named Arthur Fox was working with a chemical called PTC when some of the powder flew… 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

Around 1930, a chemist named Arthur Fox was working with a chemical called PTC when some of the powder flew into the air. A colleague nearby complained that it was very bitter, but Fox himself tasted nothing. He later tested many people and found that they were clearly divided into "tasters" and "non-tasters."

In 2003, scientists discovered the main reason: a bitter taste receptor gene called TAS2R38. People with the PAV type of this gene can detect PTC well, while people with the AVI type hardly react to it. Later research showed that PAV-type people also tend to find broccoli and cabbage more bitter. So disliking these vegetables is not always just being picky.

114 words ・ CEFR B1

和訳を見る

1930年ごろ、アーサー・フォックスという化学者がPTCという化学物質を扱っていたとき、その粉の一部が空中に舞いました。近くにいた同僚はとても苦いと訴えましたが、フォックス本人は何の味も感じませんでした。彼は後にたくさんの人を調べ、人々が「感じる人」と「感じない人」にはっきり分かれることを発見しました。

2003年、科学者たちは主な理由を発見しました。TAS2R38という苦味受容体の遺伝子です。この遺伝子がPAV型の人はPTCをよく感じとれますが、AVI型の人はほとんど反応しません。後の研究で、PAV型の人はブロッコリーやキャベツもより苦く感じる傾向があることが示されました。だから、これらの野菜が嫌いなのは、必ずしもただの好き嫌いではないのです。

4択リーディングクイズ

Q1. How did Arthur Fox first notice differences in taste?

Q2. Which statement about the AVI type is true?

Q3. What does the writer suggest in the last sentence?

重要単語

  • bitterA2
    形容詞苦いSome vegetables taste bitter to me. 名詞は bitterness。比喩で a bitter experience(つらい経験)とも言う。
  • tasterB2
    名詞(ある味を)感じる人Tasters find this chemical very bitter. taste+-er。non-taster(感じない人)、supertaster(味に超敏感な人)もセットで。
  • geneB1
    名詞遺伝子A single gene can change how we taste food. 形容詞は genetic、学問は genetics。genome(ゲノム)との区別も入試で問われる。
  • toxinB2
    名詞毒素Bitterness may warn us of toxins in plants. 形容詞 toxic(有毒な)が頻出。detox(解毒)も同じ語根。
  • perceptionB2
    名詞知覚、感じ方Taste perception differs from person to person. perceive(知覚する)の名詞形。「認識・見方」の意味でも入試長文によく出る。
  • receptorC1
    名詞受容体(センサー)Bitter receptors on the tongue detect certain chemicals. receive(受け取る)+-or。taste receptor / smell receptor のように使う。
  • pickyB1
    形容詞好き嫌いの多い、えり好みするMy little brother is a picky eater. pick(選ぶ)から。a picky eater「偏食の人」はそのまま覚えたい定番表現。
ブロッコリーなどの野菜が「苦くて無理」な人、わがままじゃないかも。苦味センサーの遺伝子TAS2R38の型によって、同じ野菜の苦さの感じ方が変わるらしい。発見のきっかけは90年以上前、実験室で舞った粉だった。

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出典・参考文献(4件)タップで表示
  1. Fox (1932) The Relationship between Chemical Constitution and Taste, PNASdoi.org
  2. Kim et al. (2003) Positional Cloning of the Human Quantitative Trait Locus Underlying Taste Sensitivity to Phenylthiocarbamide, Sciencedoi.org
  3. Bufe et al. (2005) The Molecular Basis of Individual Differences in Phenylthiocarbamide and Propylthiouracil Bitterness Perception, Current Biologydoi.org
  4. Sandell & Breslin (2006) Variability in a taste-receptor gene determines whether we taste toxins in food, Current Biologydoi.org