ゴアテックスの素材は、ゆっくり伸ばすと切れる樹脂の棒を一気に引っぱって生まれた
失敗から生まれたNo.267

ゴアテックスの素材は、ゆっくり伸ばすと切れる樹脂の棒を一気に引っぱって生まれた

ゴアテックスは、樹脂の棒を一気に引っぱったら生まれた。

うなり度 読む時間8分 出典7件 確認した事実34件
もくじ
  1. ボブ・ゴアは、水道管のすき間をふさぐテープを作るために樹脂を伸ばしていた
  2. 樹脂の棒は、ゆっくり伸ばすと切れた
  3. 一気に引っぱった棒は、もとの長さの約10倍に伸び、太さはほとんど変わらなかった
  4. 伸ばした樹脂の膜は、雨つぶを通さず、汗から出る水蒸気を通した
  5. ゴアは裁判所でも、ゆっくり引くと切れることを実演した
  6. 深掘り講義
  7. まとめ
  8. 英語で読む(A2・4択5問)
  9. 出典・ウラ取り

1969年10月のある夜のことです。アメリカ・デラウェア州の会社で、化学技術者のボブ・ゴア(Robert W. Gore)が、白い樹脂の棒と格闘していました。オーブンで温めた棒を両手でつかみ、少しずつ伸ばそうとします。ところが棒は、何度やってもぷつんと切れてしまいました。

その夜の最後に、ゴアはやり方を逆にしました。ゆっくりではなく、一気に引っぱったのです。すると棒は切れずに、両腕を広げた長さまで伸びました。この「伸びた樹脂」が、ゴアテックスの素材になりました。ゴアテックスは、雨は通さないのに、汗から出る水蒸気は通す布です。

この記事では、まずゴアがなぜ樹脂の棒を伸ばしていたのかを見ます。次に、一気に引っぱった棒に何が起きたのかを、特許と裁判所の記録で確かめます。最後に、この発明をめぐる裁判で、ゴアの父の機械が特許の一部を無効にした話を紹介します。

01ボブ・ゴアは、水道管のすき間をふさぐテープを作るために樹脂を伸ばしていた

ゴアが伸ばしていた樹脂は、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)です。デュポン社が「テフロン」の名前で売っていた樹脂です。

ゴアが働いていた「W・L・ゴア&アソシエイツ」(以下、ゴア社)は、ゴアの両親のビルとヴィーヴが、1958年に自宅の地下室で始めた会社です。最初は、PTFEで包んだ電線やケーブルを作っていました。1969年には、この会社の細いケーブルが、アポロ11号の宇宙飛行士が月に置いた地震計にも使われています。

会社では、PTFEのテープも売っていました。水道管のねじに巻いて、つなぎ目から水がもれないようにするテープです。判決文によると、会社の「401」というテープを伸ばす機械では、テープが切れて困っていました。ゴアが調べていたのは、PTFEを引き伸ばして、このテープを作る新しい方法でした。

02樹脂の棒は、ゆっくり伸ばすと切れた

ゴア社の発表によると、ゴアは温めたPTFEの棒を、長さの約10%だけ伸ばそうとしていました。10cmの棒なら、11cmにするくらいです。ところが、実験は失敗続きでした。のちの裁判の判決文には、ゆっくりていねいに伸ばしても、少し伸ばしただけで棒が切れた、と書かれています。

当時の専門家の常識では、棒を切らずに伸ばす方法は2つしかありませんでした。伸ばす速さを遅くするか、樹脂の中の「結晶」を減らすかです。結晶とは、分子が規則正しく並んだ部分のことです。ゴアは、この常識どおりにやって、失敗し続けていたのです。

アメリカの新聞ボストン・グローブによると、ゴアは2019年に会社が作った動画で、その夜のことを話しています。夕方6時近くになり、最後にもう一度だけ試すことにしました。そのとき、棒に向かってこう言ったそうです。「ゆっくり伸びないなら、速く伸ばしてやる」。ゴアはオーブンから棒を出し、ぐいっと引っぱりました。アメリカの科学史研究所(Science History Institute)の伝記によると、このときゴアはいらだっていました。

03一気に引っぱった棒は、もとの長さの約10倍に伸び、太さはほとんど変わらなかった

棒は切れませんでした。1983年の判決文によると、できるだけ速く引っぱると、棒はもとの長さの10倍以上に伸びました。ゴア社の発表では「1000%近く」、科学史研究所の伝記では「約800%」と、資料によって数字には少し幅があります。どの資料でも、もとの長さの10倍前後です。しかも、長さがこれだけ変わったのに、棒の太さはほとんど変わりませんでした。

棒の手ざわりも変わりました。かたくてつやのあった棒が、やわらかく曲げやすい棒になったのです。科学史研究所の伝記によると、伸びたPTFEは、中の約70%が空気の、細かいすき間だらけのつくりになっていました。

普通、ものは引っぱって長くすると細くなります。ところがこの棒は、太さを保ったまま、中にすき間を作って長くなりました。ゴアの特許には、この材料のつくりも書かれています。小さな「かたまり」がたくさんあり、それぞれが細い糸でつながっています。糸の長さは、伸ばし方によって5〜500マイクロメートルです。1マイクロメートルは1mmの1000分の1なので、0.005〜0.5mmです。

一気に伸ばしたPTFEの中は、小さなかたまりと細い糸がつながった、すき間だらけのつくりになる。
一気に伸ばしたPTFEの中は、小さなかたまりと細い糸がつながった、すき間だらけのつくりになる。

04伸ばした樹脂の膜は、雨つぶを通さず、汗から出る水蒸気を通した

ゴア社の年表によると、伸ばしたPTFEは、まず1970年に電気のケーブルに使われました。1973年には工場で使うフィルター、1975年には人の血管の代わりに使う人工血管が商品になりました。

一番有名な使い道は、布です。伸ばしたPTFEを薄い膜にして、布に貼り合わせました。判決文はこの布を、液体の水は通さず、水蒸気は通す、という正反対の性質をあわせ持つ材料だと書いています。雨つぶは中に入らず、汗から出た水蒸気は外に逃げるのです。ゴア社が、この布を初めて売ったのは1976年でした。

05ゴアは裁判所でも、ゆっくり引くと切れることを実演した

ゴア社は、ガーロック社が特許を侵害した(許可なく特許のやり方を使った)として、裁判を起こしました。最初の裁判のあと、1983年11月14日に、アメリカの連邦控訴裁判所が判決を出しました。控訴裁判所は、最初の裁判の判決に納得できないときに、もう一度判断してもらう上の裁判所です。

判決文には、めずらしい場面が書かれています。ゴアは最初の裁判でも、控訴裁判所で意見を述べる場でも、樹脂の棒を実際に伸ばして見せたのです。結晶の多いPTFEをゆっくり伸ばそうとすると切れる。速く伸ばすと、やわらかくて大きく伸びた棒ができる。裁判官たちの前で、1969年の夜と同じことをくり返したわけです。

LECTURE

深掘り講義

ここから先は、もう一段深く。しくみ・史料・論争まで踏み込みます。

特許が決めた「毎秒10%より速く伸ばす」は、どのくらいの速さか

ゴアの特許の中心は、PTFEを伸ばす速さです。特許では、毎秒10%を超える速さで伸ばすことにしています。たとえば長さ10cmの棒なら、1秒に1cmより速く伸ばすということです。温度は、約35℃から、PTFEの結晶が溶ける約327℃までのあいだです。特許の実験の例には、毎秒約400%で伸ばしたものもあります。10cmの棒なら、1秒に40cm伸ばす速さです。

なぜ速いと切れないのか。特許は、たいていの材料とは逆に、結晶の多いPTFEは速く引いても切れない、という事実を書いているだけです。詳しいしくみまでは書いていません。分かっているのは、速く伸ばすと、材料が切れる代わりに、かたまりと糸のつくりに変わるということです。

ゴアの父が作った機械は、発明の前から毎秒10%より速く樹脂を伸ばしていた、と裁判所は判断した

1983年の判決は、ゴア社にとって痛いものでした。問題になったのは、先ほどのテープを伸ばす機械「401」です。この機械を発明したのは、ボブの父のビル・ゴアでした。

この機械では、テープが2本のローラーの間で引き伸ばされます。判決文によると、ローラーの間が4フィート(約1.2m)より短ければ、伸ばす速さは毎秒10%を超えます。最初の裁判所は、次のように判断しました。401のローラーの間は4フィートより短かったので、この機械は1969年10月より前から、毎秒10%より速くPTFEを伸ばしていたはずだ。この機械で作ったテープは、1969年10月24日にエクスポート・ツール社へ送られていた。そしてボブは、発明した日がこの出荷より前だと証明できなかった。つまり、ボブが発明する前に、同じやり方がすでに使われていたことになる。

控訴裁判所は、この判断を変えませんでした。特許には、守ってほしい権利を1つずつ書きます。これを「請求項」と呼びます。ゴアの特許のうち、「毎秒10%より速く伸ばす」という一番広い権利(請求項1)などは無効になりました。一方で、毎秒約100%で伸ばすなど、もっとせまい条件の権利(請求項3など)は有効とされました。伸ばしてできた材料そのものについての、もう一つの特許も有効とされました。3人の裁判官のうち1人は、請求項3なども無効にすべきだと反対しました。

判決文の考え方はこうです。機械を使っていた人たちが、その良さに気づいていなかったとしても関係ない。同じやり方をくり返し使っていたなら、そのやり方はすでに使われていたことになる。

別の会社が秘密にして使っていた、ニュージーランド製の機械は、ゴアの特許を無効にしなかった

裁判では、もう一つの機械も問題になりました。1966年、ニュージーランドのジョン・クロッパーが、PTFEのテープを伸ばす機械を作りました。1968年、この機械はアメリカのバッド社に売られ、PTFEのテープ作りに使われました。

売買の契約で、バッド社は機械の中身をもらさないと約束していました。社員にも秘密を守る書類に署名させていました。クロッパーは裁判で、機械が動くのを見ても、樹脂を伸ばしているのか、どのくらいの速さなのかは分からない、と証言しました。控訴裁判所は、こう判断しました。秘密のまま使われていた機械からは、世の中の人がゴアの発明を知ることはできない。だから、この機械はゴアの特許を無効にする理由にならない。

ゴアの失敗は、専門家の常識どおりにゆっくり伸ばしたことだった

ゴアの話は、偶然の発見としてよく紹介されます。でも記録を読むと、失敗の中身ははっきりしています。専門家の常識どおりにゆっくり伸ばし、そのたびに棒が切れたことです。成功したのは、その常識と逆のことを試したときでした。ゴア社の発表も、正しい伸ばし方は常識と逆だったと書いています。

06まとめ

ゴアテックスの素材は、1969年10月の夜に生まれました。ボブ・ゴアは、水道管用のテープを作るために、温めたPTFEの棒を伸ばそうとしていました。ゆっくり伸ばすと棒は切れ続け、最後に一気に引っぱると、棒は約10倍に伸びました。

この材料は、ケーブル、フィルター、人工血管、雨具の布に使われるようになりました。ゴアは裁判所でも、ゆっくりだと切れ、速いと伸びることを実演しています。ゴアテックスの雨具を見たら、その中の膜は、ゆっくりだと切れる棒を一気に引っぱって生まれた材料だと思い出してください。

人に話すなら、こう言おう

ゴアテックスの素材って、ゆっくり伸ばすと切れる樹脂の棒を、いらだって一気に引っぱったら約10倍に伸びたのが始まりなんだって。発明した人は、裁判所でもその実演をしたらしいよ。
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英語で読む

The Rod That Stretched When He Pulled Fast

CEFR A2207 words4択 5問全訳つき
0:00

英文をタップすると、その文の訳が出ます。

One night in October 1969, Bob Gore was working with a white plastic rod in Delaware, in the United States.1969年10月のある夜、ボブ・ゴアは、アメリカのデラウェア州で白い樹脂の棒を使って作業をしていました。 The plastic was called PTFE.その樹脂はPTFEと呼ばれていました。 His family company made tape from it for water pipes.彼の家族の会社は、それで水道管用のテープを作っていました。

Gore heated the rod in an oven and tried to stretch it slowly.ゴアは棒をオーブンで温め、ゆっくり伸ばそうとしました。 He wanted to make it only about 10 percent longer.彼は、棒を約10%だけ長くしたいと思っていました。 But the rod broke again and again.でも、棒は何度も何度も切れてしまいました。 Experts at the time believed that slow stretching would stop the rod from breaking.当時の専門家は、ゆっくり伸ばせば棒は切れないと信じていました。

Gore became frustrated.ゴアはいらだちました。 For one last try, he took a hot rod out of the oven and pulled it very fast.最後にもう一度だけ試そうと、彼は温めた棒をオーブンから出して、とても速く引っぱりました。 This time, the rod did not break.今度は、棒は切れませんでした。 It became about ten times longer, but it stayed almost as thick as before.棒は約10倍の長さになりましたが、太さは前とほとんど同じままでした。 Inside, it was now full of tiny holes, and about 70 percent of it was air.中は小さなすき間だらけになり、約70%が空気になっていました。

This new material was later used in cables, filters, and even artificial blood vessels.この新しい材料は、のちにケーブルやフィルター、さらに人工血管にも使われました。 In 1976, the company sold its first GORE-TEX fabric.1976年、会社は初めてゴアテックスの布を売りました。 Rain cannot get through it, but water vapor from sweat can.雨はその布を通り抜けられませんが、汗から出た水蒸気は通り抜けられます。

Years later, there was a court case about his patent.何年もあとに、彼の特許をめぐる裁判がありました。 Gore showed the judges the same thing.ゴアは裁判官たちに同じことをやって見せました。 When he stretched the plastic slowly, it broke.樹脂をゆっくり伸ばすと、切れました。 When he stretched it fast, it became a long, soft rod.速く伸ばすと、長くてやわらかい棒になりました。

4択問題 Reading Quiz

  1. Q1What is this story mainly about?

    この話は主に何についてのものですか。

  2. Q2How much longer did Gore first want to make the rod?

    ゴアは、はじめ棒をどのくらい長くしたいと思っていましたか。

  3. Q3Why did the rod not break the last time?

    最後のとき、棒が切れなかったのはなぜですか。

  4. Q4In paragraph 3, the word "frustrated" is closest in meaning to

    第3段落の frustrated という語に最も意味が近いのはどれですか。

  5. Q5Which is true about the new material?

    新しい材料について正しいのはどれですか。

重要語 Key Words(タップで裏返る)

  • stretch動詞
    伸ばす、引き伸ばす

    Please stretch your arms before you run.

    走る前に腕を伸ばしてください。

    💡 名詞で「ストレッチ(体を伸ばす運動)」。stretch out で「手足を伸ばす」。

  • rod名詞
    棒

    He used a metal rod to fix the fence.

    彼はフェンスを直すのに金属の棒を使った。

    💡 fishing rod で「釣りざお」。stick より細くまっすぐな棒に使うことが多い。

  • frustrated形容詞
    いらいらした、もどかしい

    I was frustrated because my computer was slow.

    コンピューターが遅くて、私はいらいらしていた。

    💡 うまくいかないときの気持ち。動詞 frustrate は「(人を)いらいらさせる」。

  • material名詞
    材料、素材

    Wood is a good material for houses.

    木は家に向いた材料だ。

    💡 raw material で「原料」。英語の教材を teaching materials とも言う。

  • fabric名詞
    布、生地

    This shirt is made of soft fabric.

    このシャツはやわらかい生地でできている。

    💡 cloth とほぼ同じ意味。服や家具に使う布によく使う。

  • vapor名詞
    蒸気、湯気

    Water vapor rose from the hot bath.

    熱いお風呂から湯気が立ちのぼった。

    💡 water vapor で「水蒸気」。イギリスつづりは vapour。

  • patent名詞
    特許

    The company got a patent for its new machine.

    その会社は新しい機械の特許を取った。

    💡 発明を一定の期間、自分だけが使える権利。get a patent で「特許を取る」。

  • court名詞
    裁判所、法廷

    The two companies met in court.

    その2つの会社は法廷で争った。

    💡 テニスなどの「コート」と同じつづり。court case で「裁判」。

SOURCES出典・ウラ取り

この記事の事実は、次の資料を実際に開いて確認しています(確認した事実 34件)。

  1. Robert W. Gore, Chairman Emeritus of W. L. Gore & Associates, and Inventor of GORE-TEX Technology Dies at 83(W. L. Gore & Associates, 2020)gore.com
  2. Our History(W. L. Gore & Associates)gore.com
  3. Robert W. Gore(Science History Institute)sciencehistory.org
  4. Robert W. Gore(National Inventors Hall of Fame)invent.org
  5. Gore, R. W. US Patent 3,953,566 "Process for producing porous products"(1976)patents.google.com
  6. W. L. Gore & Associates, Inc. v. Garlock, Inc., 721 F.2d 1540(Fed. Cir. 1983, Caselaw Access Project, Harvard Law School)static.case.law
  7. Marquard, B. (2020) Robert Gore, company president and inventor of Gore-Tex, dies at 83, The Boston Globebostonglobe.com

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文章はすべて資料をもとに独自の言葉で書いています。画像はオリジナルのイメージです。誤りにお気づきの方は訂正窓口へ。

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