
「ノートは手書きのほうが身につく」という実験は、やり直すと差が出なかった
手書きノートでも、ノートなしと成績がはっきり違わなかった。
この判定の対象「授業のノートは、パソコンより手書きのほうが身につく」
もくじ
2013年ごろ、アメリカのプリンストン大学で、学生たちが15分ほどの講演の動画を見ていました。動画は、TED という講演会のものです。一部の学生はノートパソコンで、ほかの学生は紙とペンでノートを取ります。
動画のあと、学生たちは講演の中身についての小テストを受けました。すると、事実を覚えているかの問題では差がありませんでした。けれども、内容を理解して考える問題では、手書きの学生のほうが成績がよかったのです。
この実験の論文は2014年に出て、「ノートは手書きにしよう」という話として広まりました。ところが、その後に同じ方法でやり直すと、テストの成績に差は出ませんでした。
この記事では、まず2014年の実験を見ます。次に、やり直しの実験を2つ紹介します。最後に、24の研究をまとめた分析で、手書きの利点がどれくらいの大きさなのかを確かめます。
012014年の実験は、パソコンでノートを取ると考える問題の成績が下がると報告した
論文を書いたのは、プリンストン大学のパム・ミューラー(Pam A. Mueller)と、カリフォルニア大学ロサンゼルス校のダニエル・オッペンハイマー(Daniel M. Oppenheimer)です。題名は「ペンはキーボードより強し」でした。
2人は、3つの実験をしました。どれも、録画された講義を見ながらノートを取り、そのあとテストを受けるものです。結果は次のとおりでした。
- ノートを見直さずにテストを受けた2つの実験では、考える問題で手書きのほうが成績がよかった。
- 3つ目の実験では、1週間後のテストの前にノートを見直した人たちの間でだけ、差が出た。
- 3つの実験のすべてで、パソコンのノートのほうが語数が多かった。講師の言葉をそのまま写した部分も多かった。
2人の説明はこうです。パソコンを使う人は、講師の言葉をそのまま書き写しがちになる。内容を頭の中で整理して、自分の言葉で言いかえることをしない。そのため、学びが浅くなる、というのです。
この研究は、大きく取り上げられました。2014年8月のアメリカの新聞ワシントン・ポストには、「ノートパソコンは捨てて、ペンを持とう」という見出しの記事が出ました。教室でパソコンを許すか禁止するかを話し合うときにも、よく使われてきました。なお、この論文には2018年に、内容の一部を直す「訂正」が出ています。
022021年、同じ方法で142人がやり直すと、テストの成績に差は出なかった
2021年、タフツ大学のヘザー・アーリー(Heather L. Urry)らが、2014年の1つ目の実験を、同じ方法でやり直した結果を発表しました。載った雑誌も、元の論文と同じ『サイコロジカル・サイエンス』です。
講演の動画も、テストの問題も、元の実験と同じものを使いました。そして実験の前に、計画と分析のしかたを公開して登録しておきました。結果を見てから都合よく分析を変えられないようにするためです。この登録は、2017年3月7日でした。
参加したのは142人です。パソコンでノートを取った人が74人、手書きの人が68人でした。結果は次のとおりです。
- パソコンのノートは、手書きより語数が多かった。元の実験と同じ。
- 講師の言葉をそのまま写した部分も、パソコンが約13%、手書きが約8%で、パソコンのほうが多かった。これも元の実験と同じ。
- けれども、テストの成績には、はっきりした差がなかった。考える問題でも差は出なかった。
さらにアーリーらは、似たやり方の8つの研究の結果をまとめました。手書きの有利さは、ほとんどゼロでした。一方、パソコンのほうがノートの語数が多いことは、はっきり出ていました。
032019年の実験では、手書き・パソコン・ノートなしの組で、成績がはっきり違わなかった
2019年には、ケイラ・モアヘッド(Kayla Morehead)らも、やり直しの実験を発表しています。この研究は、2つの組を加えました。
- 専用のペンで書きこめる電子のノートで、ノートを取る組。
- ノートを取らずに、講義を見るだけの組。
手書きが少し有利に見える傾向はありました。けれども、どの組の間でも、成績ははっきりとは違いませんでした。ノートを取らなかった組とも、です。ノートを見直す時間をとると、組の差はさらに小さくなりました。
モアヘッドらは、いくつかのやり直し実験の結果もまとめました。手書きがわずかに有利でしたが、偶然の範囲を超える差ではありませんでした。そして、どちらの方法がよいかを決めるのは、まだ早すぎると結論しました。

0424の研究をまとめると、手書きで取って見直す利点は小さいながらあった
では、手書きに利点はまったくないのでしょうか。2024年、エイブラハム・フラニガン(Abraham E. Flanigan)らが、それまでの研究をまとめて分析しました。たくさんの研究を集めて1つの答えを出す方法を、メタ分析と言います。
集めたのは、21本の論文にふくまれる24の研究です。対象は大学生でした。結果は次のとおりです。
- 手書きでノートを取って見直すと、成績が高くなる効果があった。効果の大きさは「g=0.25」ほど。
- ノートの量は、パソコンのほうがずっと多かった。効果の大きさは「g=0.92」ほど。
g は「効果の大きさ」を表す数です。0なら差はまったくなく、数が大きいほど差がはっきりしています。
g=0.25 を、40人のクラスのテストの順位にあてはめてみます。点数が平均を真ん中になだらかに広がっているとすると、ちょうど真ん中の20番の人が、16番くらいに上がるほどの差です。ノートの量の g=0.92 のほうは、真ん中の20番の人が7番くらいまで上がるほどの差にあたります。手書きで成績が上がる効果は、パソコンでノートの量が増える効果より、ずっと小さいのです。
フラニガンらは、手書きのノートのほうが、勉強して覚えるのに役立つと結論しました。アーリーらの論文によると、2020年にも、教室での研究をまとめた別の分析が、手書きの小さな有利さを見つけています。
深掘り講義
ここから先は、もう一段深く。しくみ・史料・論争まで踏み込みます。
ノートの働きは「書くとき」と「見直すとき」の2つ
ノートを取る研究では、ノートの働きを2つに分けて考えることがあります。1つは、書いているその場で、内容が頭に入る働きです。もう1つは、あとで見直すための材料になる働きです。
2014年の論文が強く主張したのは、1つ目の働きでした。手書きだと自分の言葉でまとめるので、その場で深く理解できる、というものです。けれども、2021年のアーリーらは、見直しなしのテストで差を見つけられませんでした。そして、手書きがその場の理解を深めるという考えは支持されなかった、と書いています。
一方、2014年の3つ目の実験では、ノートを見直した人の間でだけ差が出ました。2024年のフラニガンらの分析も、「手書きで取って見直す」ことの効果を調べています。ところが、2019年のモアヘッドらの実験では、見直すと組の差はかえって小さくなりました。見直しが手書きの利点を大きくするのかどうかは、研究によって結果が分かれています。
手書きの利点は、テストの順位でいうとどれくらいか
フラニガンらの分析で、手書きの効果の大きさは「g=0.25」ほどでした。この数を、テストの点にあてはめて考えてみます。
点数が、平均を真ん中に左右へなだらかに広がっているとします。そのとき g=0.25 の差があると、手書き組の真ん中の人は、パソコン組の中に入れると、下から数えて約60%の位置に来ます。差がゼロなら、ちょうど50%の位置です。つまり、ちょうど真ん中より少し上、というくらいの差です。
一方、パソコンでノートの量が増える効果は「g=0.92」でした。こちらでは、パソコン組の真ん中の人は、手書き組の中で下から約82%の位置に来ます。ノートの量の差は、成績の差よりずっとはっきりしているのです。フラニガンらは、手書きのノートを取ると、授業の成績が上がることが期待できると書いています。ただし、その上がり方は小さいものです。
「そのまま写す」ことは、本当に悪いのか
2014年の論文は、パソコンで講師の言葉をそのまま写すことが学びに悪い、と主張しました。2021年のやり直しでも、パソコンのほうがそのまま写す割合は高く出ました。
けれども、「そのまま写す割合が高い人ほど成績が悪い」という関係は、やり直しでは安定して出ませんでした。逆に、ノートの語数が多い人ほど成績がよい、という関係は、元の実験とやり直しの両方で見られました。パソコンには「たくさん書ける」という利点もあるのです。
有名な研究は、やり直されることで確かになる
心理学では2010年代に、有名な研究を大人数でやり直す取り組みが進みました。アーリーらも論文の中で、そうした取り組みを紹介しています。アーリーらのやり直しは、実験の前に計画を公開しておく「事前登録」もしていました。
もう1つ大事なのは、人数です。2014年の1つ目の実験の分析は65人でした。2021年のやり直しは142人で、2倍以上です。人数が少ないと、偶然の差が大きく出たり、本当の差が見えなかったりします。モアヘッドらが書いたとおり、今ある研究から「どちらがよい」と決めるのは、まだ早すぎるのです。
05まとめ
「ノートは手書きのほうが身につく」は、2014年の実験から広まりました。けれども、同じ方法で142人がやり直すと、テストの成績に差は出ませんでした。ノートを取らない組とも、成績がはっきり違わない実験もありました。
24の研究をまとめると、手書きで取って見直す利点は、小さいながら見つかりました。パソコンでも手書きでも、あとで見直すことは忘れないでください。
人に話すなら、こう言おう
「ノートは手書きのほうが身につく」っていう有名な実験、同じやり方でやり直したら差が出なかったんだって。しかもそのやり直しは、大学の授業の学生たちがやって、著者が88人もいるらしいよ。
英語で読む
Pen or Laptop?
英文をタップすると、その文の訳が出ます。
Should you take notes with a pen or with a laptop?ノートは、ペンで取るべきでしょうか、それともノートパソコンで取るべきでしょうか。 In 2014, a famous study gave a clear answer.2014年、ある有名な研究が、はっきりした答えを出しました。 Students at Princeton University watched a short talk and took notes.プリンストン大学の学生たちが、短い講演を見てノートを取りました。 Students who wrote by hand did better on questions about ideas.手で書いた学生のほうが、考え方を問う問題で成績がよかったのです。
The researchers had a reason.研究者たちには、理由の説明がありました。 Laptop users often typed the speaker's words exactly.パソコンを使う人は、話し手の言葉をそのまま打ちこむことが多かったのです。 They did not put the ideas into their own words, so they learned less.考えを自分の言葉に直さなかったので、学ぶことが少なかった、というわけです。 A newspaper told readers to put away the laptop and pick up a pen.ある新聞は、読者に「パソコンをしまってペンを持とう」と呼びかけました。
But in 2021, a team at Tufts University did the same test again with 142 students.しかし2021年、タフツ大学のチームが、142人の学生で同じ実験をもう一度行いました。 Laptop notes were longer, and they had more of the speaker's exact words.パソコンのノートは長く、話し手の言葉そのままの部分も多くなりました。 But the test scores were about the same.でも、テストの点数はほぼ同じでした。 The paper has 88 authors, because a teacher and the students in a class did the study together.この論文の著者は88人います。先生と授業の学生たちが、一緒にこの研究をしたからです。
In 2019, another study added a group that took no notes at all.2019年の別の研究は、ノートをまったく取らない組を加えました。 The scores of the groups were not clearly different, even for that group.組の間の点数は、その組もふくめて、はっきりとは違いませんでした。
In 2024, researchers put 24 studies together.2024年、研究者たちが24の研究をまとめました。 They found a small advantage for taking and reviewing notes by hand.手で書いたノートを取って見直すことに、小さな利点が見つかりました。 But the difference in the amount of notes was much bigger.でも、ノートの量の差のほうが、ずっと大きかったのです。 Laptop users wrote far more.パソコンを使う人のほうが、はるかに多く書きました。 So the pen may help a little, but it is not magic.つまり、ペンは少し役に立つかもしれませんが、魔法ではありません。 Whatever you use, read your notes again later.何を使うにしても、あとでノートを読み返しましょう。
4択問題 Reading Quiz
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Q1What is this story mainly about?
この話は主に何についてのものですか。
正解:C Whether notes by hand are really better than notes on a laptop
第1段落で2014年の研究を紹介し、第3〜5段落でやり直しやまとめの研究を説明しているので、正解はC。Bの新聞は第2段落に出てくるだけ。
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Q2How many students were in the 2021 test?
2021年の実験には、何人の学生が参加しましたか。
正解:A 142
第3段落1文目に with 142 students とあるので、正解はA。88は論文の著者の数、24は2024年にまとめた研究の数、2014は年。
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Q3Why does the 2021 paper have so many authors?
2021年の論文には、なぜそんなに多くの著者がいるのですか。
正解:B Because a teacher and students in a class did the study.
第3段落4文目に because a teacher and the students in a class did the study together とあるので、正解はB。Dは、実験に参加した142人が著者になったとは書かれていないので誤り。
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Q4In paragraph 5, the word "advantage" is closest in meaning to ...
第5段落の advantage という語に最も意味が近いのは…
正解:D a good point
第5段落2文目の a small advantage for taking and reviewing notes by hand は「手書きでノートを取って見直すことの小さな利点」という意味なので、正解はD。Aは逆の意味。
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Q5Which is true about the 2024 study?
2024年の研究について正しいのはどれですか。
正解:D It found that the difference in the amount of notes was bigger than the score difference.
第5段落2〜3文目で、手書きの利点は小さく、ノートの量の差のほうがずっと大きかったとあるので、正解はD。Aは5文目の it is not magic と、Bは4文目と合わない。
重要語 Key Words(タップで裏返る)
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laptop名詞ノートパソコン
I do my homework on a laptop.
私はノートパソコンで宿題をする。
💡 lap(ひざ)の上に置けるコンピューター、が語源。
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notes名詞メモ、ノート(に書いた内容)
Can I see your notes from math class?
数学の授業のノートを見せてくれる?
💡 take notes で「ノートを取る、メモする」。notebook は帳面そのもの。
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exactly副詞正確に、そのまま
Please copy the sentence exactly.
その文をそのまま写してください。
💡 会話の Exactly! は「その通り!」。
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speaker名詞話し手、講演者
The speaker talked about space for an hour.
講演者は1時間、宇宙について話した。
💡 スピーカー(音を出す機械)の意味もある。
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author名詞著者、作者
Who is the author of this book?
この本の作者はだれですか。
💡 論文では、研究をした人が author として名前を並べる。
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advantage名詞利点、有利な点
Living near school is a big advantage.
学校の近くに住んでいるのは大きな利点だ。
💡 反対語は disadvantage(不利な点)。
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review動詞見直す、復習する
I review my notes before every test.
私はテストの前にいつもノートを見直す。
💡 名詞で「批評、レビュー」の意味もある。
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amount名詞量
Drink a large amount of water in summer.
夏は水をたくさん飲みなさい。
💡 a large amount of 〜 で「大量の〜」。数えられないものに使う。
SOURCES出典・ウラ取り
この記事の事実は、次の資料を実際に開いて確認しています(確認した事実 24件)。
- Mueller, P. A. & Oppenheimer, D. M. (2014) The pen is mightier than the keyboard: Advantages of longhand over laptop note taking, Psychological Sciencedoi.org
- Urry, H. L. ほか (2021) Don't Ditch the Laptop Just Yet: A Direct Replication of Mueller and Oppenheimer's (2014) Study 1 Plus Mini Meta-Analyses Across Similar Studies, Psychological Sciencedoi.org
- Urry, H. L. ほか 同論文の公開原稿(PsyArXiv)osf.io
- Morehead, K., Dunlosky, J. & Rawson, K. A. (2019) How Much Mightier Is the Pen than the Keyboard for Note-Taking? A Replication and Extension of Mueller and Oppenheimer (2014), Educational Psychology Reviewdoi.org
- Flanigan, A. E. ほか (2024) Typed Versus Handwritten Lecture Notes and College Student Achievement: A Meta-Analysis, Educational Psychology Reviewdoi.org
文章はすべて資料をもとに独自の言葉で書いています。画像はオリジナルのイメージです。誤りにお気づきの方は訂正窓口へ。
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