カモノハシの毛は紫外線で青緑に光るが、何の役に立つのかは分かっていない
生き物No.236

カモノハシの毛は紫外線で青緑に光るが、何の役に立つのかは分かっていない

茶色いカモノハシの毛が、紫外線で青緑に光った。

うなり度 読む時間7分 出典6件 確認した事実32件
もくじ
  1. 「紫外線で光る」とは、見えない光を吸って、見える光を出すこと
  2. 2020年、博物館にあるカモノハシの古い標本3体で、毛が光るのが見つかった
  3. 2023年の研究では、冷凍した新しい標本は、薬品で保存した標本より光が弱かった
  4. 深掘り講義
  5. まとめ
  6. 英語で読む(A2・4択5問)
  7. 出典・ウラ取り

アメリカのシカゴにあるフィールド自然史博物館。暗くした部屋で、研究者が古いカモノハシのはく製に、紫外線のライトを当てました。普通の明かりの下では、どこから見ても茶色の毛です。ところが紫外線を当てると、その毛が緑から青緑の色に浮かび上がりました。

この発見は、2020年10月に、ほ乳類の研究雑誌『マンマリア(Mammalia)』で発表されました。調べたのは、博物館にあるカモノハシの標本3体です。一番古いものは、1889年に集められたメスでした。

ただし、その後の研究で、話は少し複雑になりました。2023年、オーストラリアの研究チームが、薬品で保存した標本と、薬品を使わずに冷凍しておいた新しい標本を比べました。すると、冷凍の新しい標本のほうが、光り方が弱かったのです。

この記事では、まず「紫外線で光る」とはどういうことかを説明します。次に、2020年の発見の中身を紹介します。最後に、その光が何の役に立つのか、研究者の意見が分かれている点を見ていきます。

01「紫外線で光る」とは、見えない光を吸って、見える光を出すこと

紫外線は、人の目には見えない光です。

物の中には、紫外線のような波長の短い光を吸って、代わりに波長の長い光を出すものがあります。この現象を蛍光と呼びます。生き物の体で起きる蛍光は、「生物蛍光」と呼ばれます。

光の色は、波長で決まります。波長は、ナノメートル(1mmの100万分の1)という単位で表します。人の目に見える光は、およそ400〜700ナノメートルです。紫外線は、それより短い波長の光です。

大事なのは、蛍光は「光を当てたときだけ」起きるということです。生き物が自分で光を作り出しているのではありません。暗闇に置いたカモノハシの毛が、ひとりでに光ることはないのです。

022020年、博物館にあるカモノハシの古い標本3体で、毛が光るのが見つかった

発見したのは、アメリカのウィスコンシン州にあるノースランド大学の、ポーラ・スペス・アニッチ(Paula Spaeth Anich)らのチームです。このチームは、2019年に、アメリカ大陸のモモンガの毛が紫外線で光ることを報告していました。そして、モモンガなどの標本を調べていたシカゴの博物館で、カモノハシも光ることに気づいたのです。

チームが調べた標本は、次の3体です。

  • フィールド自然史博物館のメス。1889年にタスマニアで集められた、はく製。
  • 同じ博物館のオス。タスマニアで集められたはく製で、集めた年の記録はない。オスかどうかは、足首のけづめから見分けた。
  • ネブラスカ大学州立博物館のオス。1909年に、オーストラリアのニューサウスウェールズ州で集められた。

チームは暗い部屋で、普通の光と、波長385〜395ナノメートルの紫外線のライトで写真を撮りました。すると、背中側の毛も腹側の毛も、緑から青緑に光りました。オスとメスで、光り方に違いはありませんでした。

さらに、腹側の毛の5か所を、光の波長を測る装置で調べました。毛は200〜400ナノメートルの紫外線を吸い、500〜600ナノメートルの見える光を出していました。出てくる光の山は、約500ナノメートルでした。この波長は、緑から青緑に見える光です。

チームは、「単孔類」というほ乳類のグループで、生物蛍光を報告したのは初めてだとしています。単孔類は、カモノハシやハリモグラの仲間です。カモノハシのメスは卵を産みますが、子どもには乳を飲ませます。

同じカモノハシの毛でも、普通の明かりでは茶色、紫外線を当てると緑〜青緑に見える。
同じカモノハシの毛でも、普通の明かりでは茶色、紫外線を当てると緑〜青緑に見える。

032023年の研究では、冷凍した新しい標本は、薬品で保存した標本より光が弱かった

博物館のはく製などの標本には、ヒ素やホウ砂という薬品が使われてきました。西オーストラリア博物館では、1980年代より前の標本にはヒ素、それより後の標本にはホウ砂が使われています。そこで、「薬品のせいで光っているのでは?」という疑問が出てきます。

アニッチらは、「博物館の標本なら何でも光るわけではない」と考えていました。チームが以前調べたとき、夜に活動するモモンガの標本は光りましたが、同じ博物館にある、昼に活動するリスの標本は光らなかったからです。

2023年、西オーストラリア博物館とカーティン大学などのチームが、この点を詳しく調べました。チームは、カモノハシの標本2種類を比べました。

  • 薬品で保存した標本(ヒ素で保存したもの、ホウ砂で保存したもの)。
  • 死んだあと薬品を使わずに冷凍しておいた、新しい標本。

冷凍の標本は、まず冷凍のまま測りました。そのあと、同じ個体をホウ砂で保存して、もう一度測りました。

結果は、どちらの薬品で保存した標本も、冷凍のときの測定より強く光りました。また、カモノハシの光は、同じ方法で測ったコアラやタスマニアデビルより弱いものでした。

このチームは、350ナノメートルの光を当てて測りました。カモノハシで一番光ったのは、腹側の白っぽい毛でした。光の山は約450ナノメートルで、青に見える光でした。2020年の研究の「約500ナノメートル」とは数字が違いますが、当てた光や測り方が違うことにも注意が必要です。

研究チームは、新しい標本の光が弱いことから、光の役目は「あっても小さい」と考えています。

LECTURE

深掘り講義

ここから先は、もう一段深く。しくみ・史料・論争まで踏み込みます。

2020年のチームは「紫外線が見える敵から隠れるため」かもしれないと推測した

カモノハシは、夕方から夜にかけて、川や湖で活動します。水にもぐるときは目を閉じていて、物にふれる感覚や、生き物が出す弱い電気を感じる力で、獲物を探します。

アニッチらは、こう推測しました。カモノハシは主に触覚や電気を感じる力でまわりを知るので、毛の光は、仲間どうしのやりとりでは、別の種との関係ほど大事ではないだろう。例えば、毛が紫外線を吸うので、紫外線が見える捕食者から見えにくくなるのかもしれない、という考えです。

ただし、チーム自身も、「標本の数が少ないので、役目について結論は出せない」と書いています。そして、野生のカモノハシを調べる研究が欠かせない、としています。

2023年のチームは「目を閉じて狩りをするので、合図にはなりにくい」と考えた

2023年のチームは、別の見方をしています。カモノハシは目を閉じて水中の獲物をとるので、腹の光が「目で見る合図」になるとは考えにくい、というのです。

その代わりに、一つの可能性を挙げています。水の中で、腹側を明るく見せる効果です。水の中の生き物の多くは、腹側が明るい色をしていて、目立ちにくくなっています。このような色の付き方を「カウンターシェーディング」と呼びます。ただし、カモノハシの光がこの役目を持つというのも、可能性の一つとして挙げられているだけです。

このチームは、125種のほ乳類を調べて、光る性質がほ乳類に広く見られることも報告しました。光るのは、色素の少ない白っぽい毛や皮膚が多く、夜に活動する種でよく見られました。そして、光に特別な役目があるかどうかは分からない、と結論づけています。

光って見えるのが本当に蛍光かどうかは、当てる光の波長を変えて確かめる

紫外線を当てて色がついて見えても、それが蛍光だとは限りません。当てた光が毛の表面ではね返ったり、散らばったりしているだけ(散乱)の場合もあるからです。

2023年のチームは、これを見分けるために、当てる光の波長を3通りに変えて測りました。散乱なら、当てる光の波長を変えると、はね返る光の波長も一緒にずれます。蛍光なら、出てくる光の波長はあまり変わりません。測った結果、調べた何種かの動物では、出てくる光の山はずれませんでした。そこでチームは、ほ乳類の毛の「光」は本当の蛍光だと結論づけました。

カモノハシの毛からは、赤っぽく光る物質「ポルフィリン」と同じ重さの分子も見つかった

ほ乳類の毛が光る原因として、研究者が注目している物質の一つが、ポルフィリンです。ポルフィリンの仲間は、紫外線を当てるとピンクや赤っぽく光ります。トビウサギやハリネズミの毛の赤っぽい光は、ポルフィリンによるものだと分かっています。

2025年、オーストラリアのジェームズ・クック大学のチームは、冷凍保存されていたメスのカモノハシの毛を調べました。紫外線を当てると、毛はほかの動物よりにぶく、銀色がかった灰色からくすんだ緑に光りました。毛から取り出した物質の中には、ポルフィリンの一種(プロトポルフィリン)と同じ重さの分子がありました。ピンクに光る物質を取り出したあと、残った毛を近くでよく見ると、少しピンクにも光っていました。ただし、カモノハシの毛の緑っぽい光が何の物質によるものかは、この研究でも突き止められていません。

別の研究チームは、2023年の論文で、ほ乳類の毛の赤っぽい光について、こう指摘しています。ポルフィリンは光で壊れやすいので、赤っぽい光は、夕方や夜に活動するほ乳類で多く見つかる。だとすれば、この光は合図のためではなく、体の働きから生まれた「副産物」なのかもしれない、というのです。

カモノハシの毛の光が、役に立つ性質なのか、それとも副産物なのか。この問いには、まだ答えが出ていません。

04まとめ

2020年、アメリカのノースランド大学のチームは、博物館にあるカモノハシの標本3体に紫外線を当てました。すると、茶色の毛が緑から青緑に光りました。一番古い標本は、1889年に集められたものです。

ところが2023年の研究では、冷凍した新しい標本は、薬品で保存した標本より光が弱いと分かりました。光が何の役に立つのか、それとも役目のない副産物なのかは、研究者の意見が分かれていて、まだ決着していません。

カモノハシの毛が光るのは、紫外線を当てたときだけです。暗闇で自分から光るわけではない、というところまでが、今のところ確かな事実です。

人に話すなら、こう言おう

カモノハシの茶色い毛って、紫外線のライトを当てると青緑に光るんだって。でも、見つかったのは博物館の古い標本で、冷凍した新しい標本だと光が弱いらしいよ。
READ IN ENGLISH

英語で読む

The Platypus Under a UV Light

CEFR A2219 words4択 5問全訳つき
0:00

英文をタップすると、その文の訳が出ます。

In a dark room in a museum in Chicago, scientists pointed a UV light at an old platypus.シカゴの博物館の暗い部屋で、科学者たちが古いカモノハシの標本に紫外線のライトを向けました。 In normal light, its fur was brown.ふつうの明かりでは、その毛は茶色でした。 But under the UV light, the fur turned green and blue-green.ところが紫外線のライトの下では、毛が緑や青緑に変わったのです。

UV light is light that our eyes cannot see.紫外線は、私たちの目には見えない光です。 The fur takes in this light and gives out light that we can see.毛はこの光を吸いこんで、私たちに見える光を出します。 This is called fluorescence.これを蛍光といいます。 So the platypus does not glow by itself in the dark.だから、カモノハシが暗闇で自分から光るわけではありません。

The team from Northland College in the United States studied three museum animals.アメリカのノースランド大学のチームは、博物館の3体の標本を調べました。 The oldest one was a female from 1889.一番古いものは、1889年のメスでした。 The team had found glowing fur on flying squirrels before.このチームは以前、モモンガの毛が光るのを見つけていました。 Male and female animals glowed in the same way.オスとメスは同じように光りました。 They reported their discovery in 2020.チームは2020年にこの発見を発表しました。 They thought the glow might help the platypus hide from some enemies.チームは、この光が、カモノハシがある種の敵から隠れる助けになるかもしれないと考えました。

But in 2023, a team in Australia found something new.でも2023年、オーストラリアのチームが新しいことを見つけました。 Old museum animals were often kept with chemicals.博物館の古い標本は、薬品を使って保存されていることが多くありました。 A fresh, frozen platypus glowed less than the ones kept with chemicals.冷凍した新しいカモノハシは、薬品で保存したものより光が弱かったのです。 Also, a platypus closes its eyes when it hunts underwater.また、カモノハシは水中で狩りをするとき、目を閉じています。 So the team thinks the glow may not be very important.そのためチームは、この光はあまり重要ではないのかもしれないと考えています。

Scientists still do not know why the fur glows.毛がなぜ光るのか、科学者たちにはまだ分かっていません。 It may be useful, or it may have no special job at all.役に立っているのかもしれないし、特に何の役目もないのかもしれません。 One thing is clear: you need a UV light to see the green glow.一つだけはっきりしているのは、緑の光を見るには紫外線のライトが必要だということです。

4択問題 Reading Quiz

  1. Q1What is this story mainly about?

    この話は主に何についてのものですか。

  2. Q2When was the oldest platypus in the study collected?

    研究で一番古いカモノハシは、いつのものですか。

  3. Q3Why does the 2023 team think the glow may not be very important?

    2023年のチームは、なぜこの光があまり重要ではないかもしれないと考えているのですか。

  4. Q4In paragraph 4, the word "fresh" is closest in meaning to

    第4段落の fresh という語に最も意味が近いのはどれですか。

  5. Q5Which is true about the story?

    この話の内容と合っているのはどれですか。

重要語 Key Words(タップで裏返る)

  • fur名詞
    (動物の)毛、毛皮

    My dog has soft white fur.

    うちの犬はやわらかい白い毛をしている。

    💡 数えられない名詞として使うことが多い。fur coat は「毛皮のコート」。

  • glow動詞・名詞
    光る、輝き

    The stars glow in the night sky.

    星が夜空で光っている。

    💡 炎を出さずに、ぼんやり光るイメージ。glow-in-the-dark で「暗闇で光る」。

  • museum名詞
    博物館、美術館

    We saw dinosaur bones at the museum.

    博物館で恐竜の骨を見た。

    💡 art museum は美術館、science museum は科学館。

  • fluorescence名詞
    蛍光

    Some minerals show fluorescence under UV light.

    紫外線の下で蛍光を示す鉱物がある。

    💡 形容詞は fluorescent(蛍光の)。蛍光灯は fluorescent light。

  • discovery名詞
    発見

    The discovery surprised many people.

    その発見は多くの人を驚かせた。

    💡 動詞は discover(発見する)。

  • chemical名詞
    化学薬品

    Wear gloves when you use strong chemicals.

    強い薬品を使うときは手袋をしなさい。

    💡 形容詞では「化学の」。chemistry は「化学」。

  • frozen形容詞
    冷凍した、凍った

    I bought some frozen vegetables.

    冷凍野菜を買った。

    💡 freeze(凍らせる)の過去分詞。freeze-froze-frozen。

  • hide動詞
    隠れる、隠す

    The cat likes to hide under the bed.

    その猫はベッドの下に隠れるのが好きだ。

    💡 hide-hid-hidden。hide and seek は「かくれんぼ」。

SOURCES出典・ウラ取り

この記事の事実は、次の資料を実際に開いて確認しています(確認した事実 32件)。

  1. Anich, P. S. ほか (2021) Biofluorescence in the platypus (Ornithorhynchus anatinus), Mammalia 85:179-181(2020年10月16日オンライン公開)doi.org
  2. Travouillon, K. J. ほか (2023) All-a-glow: spectral characteristics confirm widespread fluorescence for mammals, Royal Society Open Science 10:230325doi.org
  3. Reinhold, L. M., Rymer, T. L., Wilson, D. T. (2025) Luminophores in the fur of seven Australian Wet Tropics mammals, PLoS ONE 20:e0320432doi.org
  4. Toussaint, S. L. D. ほか (2023) Fur glowing under ultraviolet: in situ analysis of porphyrin accumulation in the skin appendages of mammals, Integrative Zoology 18:15-26doi.org
  5. Olson, E. R. ほか (2021) Vivid biofluorescence discovered in the nocturnal Springhare (Pedetidae), Scientific Reports 11:4125doi.org
  6. Warren, W. C. ほか (2008) Genome analysis of the platypus reveals unique signatures of evolution, Nature 453:175-183doi.org

公式ページで見てみよう

文章はすべて資料をもとに独自の言葉で書いています。画像はオリジナルのイメージです。誤りにお気づきの方は訂正窓口へ。

NEXT TRIVIAこの雑学にうなった人は、これにもうなる