ナマケモノが、わざわざ木から下りてうんちをする理由は分かっていない
生き物No.117

ナマケモノが、わざわざ木から下りてうんちをする理由は分かっていない

「毛のガを育てるため」説には反論がある。

グレーGRAY

この判定の対象「ナマケモノは、ガと藻のために木から下りてうんちをする」

うなり度 読む時間9分 出典4件 確認した事実29件
もくじ
  1. ナマケモノの毛には、藻やガなど、たくさんの生き物が住んでいる
  2. ガの幼虫は、ナマケモノのふんの中で育つ
  3. 2014年の説:ナマケモノは、ガのおかげで毛に生えた藻を食べている
  4. 2021年の反論:ナマケモノが毛の藻を食べている証拠は足りない
  5. 深掘り講義
  6. まとめ
  7. 英語で読む(A2・4択5問)
  8. 出典・ウラ取り

中南米の森で、ミユビナマケモノが、高い木からゆっくり下りてきます。根もとに着くと、短いしっぽで、地面に小さなくぼみを作ります。そこにふんをして、落ち葉をかけ、また木の上へ戻っていきます。ミユビナマケモノは、これをおよそ週に1回繰り返します。

普段は木の上で暮らす動物が、なぜわざわざ地面まで下りるのでしょうか。2014年、アメリカの研究チームが、一つの答えを出しました。「ナマケモノの毛に住んでいる、ガと藻のためだ」という説です。この説は、ニュースなどで広く紹介されました。

ところが2021年、別の研究チームが、長い総説を出しました。総説とは、その分野の研究をまとめて読み、評価する論文です。その総説には、2014年の説には「少なくとも5つの問題がある」と書かれていました。

この記事では、まずナマケモノの毛に住む生き物と、ガの暮らし方を紹介します。次に、2014年の説の中身と、2021年の反論をならべます。そして、どこまでが分かっていることなのかを確かめます。

01ナマケモノの毛には、藻やガなど、たくさんの生き物が住んでいる

まず、ナマケモノには、2つのグループがあります。前足の指が2本の「フタユビナマケモノ」と、3本の「ミユビナマケモノ」です。後ろ足の指は、どちらも3本です。現在、ナマケモノは6種が生きています。

2つのグループは、見た目は似ていても、暮らし方が違います。フタユビは、葉のほかに、果物なども食べます。ミユビは、ほとんど葉だけを食べ、少ない種類の木にこだわって暮らします。

葉は栄養が少なく、消化にも時間がかかります。ミユビナマケモノは、ほ乳類で一番消化がゆっくりです。代謝(体がエネルギーを使う速さ)も、体の大きさから予想される値の半分以下しかありません。ノドチャミユビナマケモノという種類では、1日に使うエネルギーが体重1kg当たり162kJ(キロジュール。エネルギーの量の単位)です。これは、ほ乳類で最も低い値です。

そんなナマケモノの毛の中には、たくさんの生き物が住んでいます。

  • 緑色の藻。ナマケモノの毛でしか見つかっていない種類もいる。
  • ナマケモノガという、小さなガ。
  • ダニや甲虫、カビ、細菌。

雨季になると、ナマケモノの毛は、藻で緑っぽく見えることが多くなります。乾季には、茶色や灰色に戻ることもあります。

02ガの幼虫は、ナマケモノのふんの中で育つ

ナマケモノとガの関係は、1976年に、科学誌サイエンスで報告されました。ナマケモノガの幼虫は、ミユビナマケモノのふんの中で育ちます。

メスのガは、普段はナマケモノの毛の中にいます。ナマケモノが週1回地面に下りてくると、メスのガは毛から離れて、新しいふんに卵を産むと考えられています。ふんの中で育って成虫になったガは、森の上のほうへ飛んでいき、また別のナマケモノを探します。

ガは、ナマケモノの体を食べるわけではありません。そのため長いあいだ、ナマケモノとガの関係は片利共生だと考えられてきました。片利共生とは、片方(ガ)だけが得をして、もう片方(ナマケモノ)には得も損もない関係です。

でも、そうだとすると、不思議なことがあります。地面に下りるのは、ナマケモノにとって大仕事です。2014年の論文によると、木を下りてふんをするのに、1日に使うエネルギーの約8%がかかると見積もられています。

しかも、地面に下りるのは危険です。論文の著者たちが記録した、大人のナマケモノの死のうち、半分以上は、地面か地面の近くで食べられたものでした。ガが得をするだけなら、ナマケモノがそんな危険をおかすのは、割に合わないように見えます。

032014年の説:ナマケモノは、ガのおかげで毛に生えた藻を食べている

そこで、ジョナサン・パウリ(Jonathan Pauli)らは、こんな仮説を立てました。ナマケモノも、ガから得をしているのではないか。つまり、両方が得をする相利共生なのではないか、というのです。

チームは2012年8月、コスタリカの首都サンホセから北東に約85kmの森で調査しました。大人のフタユビナマケモノ14頭と、ミユビナマケモノ19頭を捕まえました。そして、毛にいるガを、掃除機のような道具で集めました。毛も少し切りとって調べました。

結果は、次のとおりです。

  • ガの数は、ミユビが平均15.2匹(4〜39匹)、フタユビが平均4.5匹(0〜21匹)。
  • ガの多いナマケモノほど、毛に窒素(植物や藻の肥料になる成分)が多かった。
  • 窒素が多い毛ほど、藻がたくさん生えていた。

さらに、チームは、ナマケモノの胃の中身を調べました。すると、ナマケモノの毛でしか知られていない「トリコフィルス」という藻が見つかりました。見つかったのは、ミユビでは12頭中2頭、フタユビでは16頭中6頭です。また、毛の藻には脂質(あぶら)が多く、ナマケモノが普段食べる葉の3〜5倍ありました。

ナマケモノの毛には藻が生え、そのあいだをナマケモノガが歩き回っている
ナマケモノの毛には藻が生え、そのあいだをナマケモノガが歩き回っている

パウリらは、これらの結果をつなげて、次のような流れを考えました。

  1. ナマケモノが地面に下りてふんをするので、ガは卵を産める。
  2. ガが毛の中で死んで分解されたり、ふんの成分を運んだりして、毛に窒素が増える。
  3. その窒素を肥料にして、毛の藻がよく育つ。
  4. ナマケモノはその藻を食べて、足りない栄養を補う。

つまり、ナマケモノは自分の毛で、食べるための藻を育てている、という説です。この説は、ニュースで広く伝えられました。ただし、論文の中でも、著者たちは「おそらく」「〜のようだ」という言い方をしています。

042021年の反論:ナマケモノが毛の藻を食べている証拠は足りない

2021年、マヤ・カウプ(Maya Kaup)らは、ナマケモノの毛に住む生き物について、長い総説を書きました。その中で、パウリらの説には、少なくとも5つの問題があると指摘しました。

  1. 胃の中の藻を「トリコフィルス」だと決めたのは、形を見ただけだった。でも、この藻は、形で見分けるのが難しい。
  2. ナマケモノの胃の中の藻を、遺伝子で調べた研究は、まだない。ナマケモノは、枝や幹をなめて何かを食べることがある。胃の藻は、毛ではなく、木から来たのかもしれない。
  3. 昼も夜も、何千時間と観察しても、ナマケモノがネコのように自分の毛をなめたり、毛の藻を食べたりする様子は、記録されていない。
  4. 胃から藻が見つかったミユビは、1か所で調べた12頭中、2頭だけだった。
  5. ガがナマケモノに何かを返しているという証拠がない。あったとしても、小さいかもしれない。

カウプらは、ガの暮らし方にも疑問を出しています。幼虫がふんの中で育つには、3〜4週間かかります。そのあいだに、ナマケモノは別の場所へ移動します。羽化した(成虫になった)ガが、元のナマケモノを見つけられるかどうかは、分かっていません。

LECTURE

深掘り講義

ここから先は、もう一段深く。しくみ・史料・論争まで踏み込みます。

違う生き物どうしの共生は、得と損で3つに分けられる

違う種類の生き物が、くっついて暮らすことを、共生と呼びます。共生は、それぞれが得をするか損をするかの組み合わせで、3つに分けられます。

  • 相利共生:両方が得をする(+/+)
  • 片利共生:片方だけ得をし、もう片方は得も損もない(+/0)
  • 寄生:片方が得をし、もう片方が損をする(+/−)

ナマケモノとガは、もともと片利共生(+/0)だとされてきました。パウリらは、これを相利共生(+/+)だと考え直そうとしたわけです。

相利共生の例としては、ほかの魚の寄生虫を食べてあげる「掃除魚」や、アカシアの木を守るアリが知られています。パウリらの論文も、こうした例を引き合いに出しています。

「ガが多いと藻が多い」だけでは、ガが藻を増やしたとは言えない

パウリらのデータで強いのは、次の2つの関係です。「ガが多いほど、毛の窒素が多い」「窒素が多いほど、藻が多い」。このように、2つの量が一緒に増えたり減ったりする関係を、相関と呼びます。

でも、相関があっても、片方がもう片方の原因だとは限りません。原因と結果の関係のことを、因果と呼びます。

例えば、ミユビナマケモノは、フタユビナマケモノよりガも藻も多いナマケモノです。でも藻が多いのは、ガのせいではなく、毛のつくりの違いのせいかもしれません。ミユビの毛には横向きのひびがあり、雨水を吸いこみます。毛が湿りやすければ、ガがいなくても、藻は育ちやすい可能性があります。

因果を確かめるには、実験がいります。例えば、ガを取りのぞいた毛と、そのままの毛で、藻の育ち方を比べる方法があります。パウリらも、論文の最後で、こうした実験が今後必要だと書いています。

ナマケモノが木を下りてふんをする理由には、ほかの説もある

ナマケモノが木の根もとでふんをする理由には、ほかにも、いくつかの説が出されてきました。

  • 好きな木の根もとに、肥料をあげている。
  • ふんをする場所のにおいで、ほかのナマケモノと連絡をとっている。
  • 木の上からふんを落とすと、音や動きで目立つので、それを避けている。

カウプらによれば、どの説にも、はっきりした証拠はまだありません。動物が「なぜ」その行動をするのかは、一つの実験では決めにくい問いです。食べ物、敵、仲間、体のつくりなど、いろいろな理由が重なっている可能性もあります。

ナマケモノの毛のカビから、病気を起こす小さな生き物やがん細胞に効く物質が見つかった

ナマケモノの毛に住む生き物は、医学の面でも注目されています。2014年、研究者たちは、パナマのソベラニア国立公園で、ミユビナマケモノの毛からカビを84株、培養(増やして育てること)しました。遺伝子で調べると、カビは28のグループ(系統)に分かれました。

それらのカビから取り出した物質(抽出物)を試すと、効き目のあるものがありました。マラリアの原虫、シャーガス病という病気の原虫、乳がんの細胞に効くものです。原虫とは、1つの細胞でできた小さな生き物で、病気のもとになるものもいます。また、50の抽出物のうち20は、少なくとも1種類の細菌が増えるのを抑えました。

ただし、これは試験管の中での結果です。すぐに薬になる、という意味ではありません。

05まとめ

ミユビナマケモノは、およそ週に1回、木の根もとまで下りてふんをします。そのふんの中でナマケモノガの幼虫が育つことは、1976年から知られています。ナマケモノの毛には藻なども生えていて、その重さは平均で125.5gにもなりました。

「ナマケモノは、ガと藻を育てるために木から下りる」という2014年の説は、まだ仮説です。2021年の総説は、何千時間観察しても、ナマケモノが自分の毛の藻を食べる様子は記録されていない、と指摘しています。

人に話すなら、こう言おう

ナマケモノって週に1回くらい、わざわざ木から下りてうんちするんだって。毛に住むガを育てるためって説が有名なんだけど、別の研究者が「証拠が足りない」って5つも反論してるらしいよ。
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英語で読む

Why Does the Sloth Come Down?

CEFR A2230 words4択 5問全訳つき
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英文をタップすると、その文の訳が出ます。

About once a week, a three-toed sloth climbs slowly down its tree.およそ週に1回、ミユビナマケモノは自分の木をゆっくり下りてきます。 At the bottom, it makes a small hole with its short tail and leaves its poop there.根もとに着くと、短いしっぽで小さな穴を作り、そこにうんちをします。 Then it covers the hole with leaves and climbs back up.それから穴を葉っぱでおおい、また木を登っていきます。

Why does an animal that lives in the trees do this?木の上で暮らす動物が、なぜこんなことをするのでしょうか。 Many small living things live in a sloth's fur.ナマケモノの毛には、たくさんの小さな生き物が住んでいます。 There are green algae, tiny plants that make the fur look green.毛を緑色に見せる小さな植物の仲間、緑色の藻がいます。 There are also small moths, and their babies grow up in sloth poop.小さなガもいて、その子どもはナマケモノのうんちの中で育ちます。

In 2014, a team in Costa Rica studied 33 sloths.2014年、コスタリカのチームがナマケモノ33頭を調べました。 Sloths with more moths had more nitrogen in their fur, and more nitrogen came with more algae.ガの多いナマケモノは毛の窒素が多く、窒素が多いと藻も多くなっていました。 The team also found algae in some sloth stomachs.チームは、いくつかのナマケモノの胃の中から藻も見つけました。 So they had an idea.そこで、彼らはある考えを出しました。 The sloth comes down to help the moths, the moths help the algae, and the sloth eats the algae.ナマケモノはガを助けるために下り、ガは藻を助け、ナマケモノはその藻を食べる、というものです。

The idea was widely reported in the news.この考えは、ニュースで広く伝えられました。 But in 2021, other scientists listed at least five problems with it.でも2021年、別の科学者たちがこの考えには少なくとも5つの問題があると挙げました。 Algae were found in only 2 of 12 three-toed sloths.藻が見つかったミユビナマケモノは、12頭中2頭だけでした。 And in thousands of hours of watching, nobody saw a sloth lick or eat the algae on its fur.そして、何千時間も観察しても、ナマケモノが毛の藻をなめたり食べたりするところを見た人はいませんでした。

So the sloth's weekly trip is still a mystery.ですから、ナマケモノの週1回の旅は、まだなぞのままです。 Both teams still use the same word for the fur, though.それでも、両方のチームは毛のことを同じ言葉で呼んでいます。 They call it an ecosystem, a small world of living things that moves very, very slowly.それは「生態系」、つまり、とてもとてもゆっくり動く生き物たちの小さな世界です。

4択問題 Reading Quiz

  1. Q1What is this story mainly about?

    この話は主に何についてのものですか。

  2. Q2How many three-toed sloths had algae in their stomachs?

    胃に藻があったミユビナマケモノは何頭でしたか。

  3. Q3According to the 2014 idea, what do the moths do?

    2014年の考えによると、ガは何をしますか。

  4. Q4In paragraph 5, the word "mystery" is closest in meaning to …

    第5段落の mystery という語に最も意味が近いのはどれですか。

  5. Q5Which is true about the story?

    この話について正しいものはどれですか。

重要語 Key Words(タップで裏返る)

  • sloth名詞
    ナマケモノ

    The sloth hung from the branch all day.

    そのナマケモノは一日中枝にぶら下がっていた。

    💡 slow(遅い)と同じ語源。もとは「怠けること」という意味の語。

  • fur名詞
    (動物の)毛、毛皮

    My cat has soft white fur.

    うちのネコはやわらかい白い毛をしている。

    💡 人の髪は hair。動物の体の毛全体は fur。

  • algae名詞
    藻(も)

    Green algae grew on the old pond.

    古い池に緑色の藻が生えた。

    💡 複数形の扱いが多い。単数は alga。発音は「アルジー」。

  • moth名詞
    ガ(蛾)

    A moth flew around the light.

    1匹のガが明かりのまわりを飛んだ。

    💡 チョウは butterfly。th の音に注意。

  • poop名詞・動詞
    うんち(をする)

    The dog left its poop in the park.

    その犬は公園にうんちを残していった。

    💡 くだけた言い方。科学の文では dung や feces を使う。

  • nitrogen名詞
    窒素

    Plants need nitrogen to grow.

    植物は育つのに窒素を必要とする。

    💡 元素記号 N。空気の約8割をしめる気体。

  • ecosystem名詞
    生態系

    A small pond is an ecosystem too.

    小さな池も一つの生態系だ。

    💡 eco-(環境)+ system(しくみ)。生き物とまわりの環境のまとまり。

  • mystery名詞
    なぞ、ふしぎ

    How the old box got here is a mystery.

    その古い箱がどうやってここに来たのかはなぞだ。

    💡 形容詞は mysterious(なぞめいた)。

SOURCES出典・ウラ取り

この記事の事実は、次の資料を実際に開いて確認しています(確認した事実 29件)。

  1. Pauli, J. N. ほか (2014) A syndrome of mutualism reinforces the lifestyle of a sloth, Proceedings of the Royal Society B 281:20133006doi.org
  2. Kaup, M., Trull, S., Hom, E. F. Y. (2021) On the move: sloths and their epibionts as model mobile ecosystems, Biological Reviews 96:2638-2660doi.org
  3. Waage, J. K., Montgomery, G. G. (1976) Cryptoses choloepi: A Coprophagous Moth That Lives on a Sloth, Science 193:157-158doi.org
  4. Higginbotham, S. ほか (2014) Sloth Hair as a Novel Source of Fungi with Potent Anti-Parasitic, Anti-Cancer and Anti-Bacterial Bioactivity, PLoS ONE 9:e84549doi.org

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