宇宙では腰や股関節の骨が1か月に約1〜1.5%ずつ減っていく。宇宙飛行士が毎日2時間も運動するワケ

読む前に予想してみよう!
宇宙では、体のすべての骨が同じように減っていく
減りやすいのは腰や脚など、地上で体重を支えていた骨。頭の骨はむしろ増える傾向も報告されている。
- 対象
- ISS長期滞在の宇宙飛行士
- 規模
- 単一研究14人〜メタ分析148人
- 研究の種類
- CT・DXAによる観察研究とメタ分析
- 確かさ
- ★★★★☆
宇宙では骨に重さがかからず、腰や股関節の骨が1か月に約1〜1.5%ずつ減る。宇宙飛行士は毎日の運動で対策するが、帰還後の回復には時間がかかる。
ひとことで言うと宇宙では骨や筋肉を使わないので、どんどん弱くなっちゃう。
宇宙でふわふわ浮かぶ生活。楽しそうに見えますよね。でも、その「楽ちん」の代償はかなり大きいのです。
宇宙に長くいると、骨と筋肉がどんどん減っていきます。調査によっては、腰や股関節の骨が1か月に約1〜1.5%のペースで減っていました。
地上で骨が減りやすい年代の人が、1年かけて失うのに近い量を、宇宙では1か月で失うこともある──そんな見積もりもあるほどです。
01骨は「使わないと捨てられる」
骨は、一度できたら変わらない“石”のようなものだと思っていませんか? 実は骨は、毎日少しずつ壊されては、作り直されている生きた組織です。
- 骨を壊す係(破骨細胞)
- 骨を作る係(骨芽細胞)
ふだんはこの2つのチームがバランスよく働いています。そして骨は、体重がかかったり、運動で刺激されたりすると「ここは必要だ」と判断して、丈夫に保たれます。
ところが宇宙では、骨に体重がかかりません。すると体は「この骨はもういらないかも」と判断し、壊す係が優勢になってしまうのです。
02減るのは「体を支えていた骨」
おもしろいことに、宇宙ではすべての骨が同じように減るわけではありません。
2020年にカナダ・マギル大学のスタブニチュクらが学術誌『npj Microgravity』で発表した、宇宙飛行士148人分のデータをまとめて分析した論文(メタ分析)によると、
- 腰や骨盤、脚の骨:はっきり減る
- 腕や胸の骨:ほとんど変わらない
- 頭の骨:むしろ少し増える傾向(平均で約2%)
つまり、地上で重さを支えていた骨ほど減りやすいのです。頭の骨が増えるのは、体液が頭のほうへ移動することとの関係が考えられています。

03筋肉もやせていく
骨と同じく、筋肉も使わなければやせていきます。とくに、ふくらはぎや太もも、背中など、地上で姿勢を保つために働いていた筋肉が衰えやすいことが分かっています。
そこで宇宙飛行士は、ISSで毎日2時間ほど運動しています。
- ベルトで体を固定して走るランニングマシン
- 真空の筒を使って重りのような負荷をかける筋トレ装置
- 自転車こぎの装置
とくに新しい筋トレ装置(ARED)が導入されてからは、骨の減り方が抑えられるようになりました。NASAのシボンガらが2019年に学術誌『Bone』で報告した分析でも、筋トレは骨の減少を部分的に防いでいたものの、完全には防げていませんでした。
さらに、NASAとJAXAの共同研究として、ルブランらが2013年に学術誌『Osteoporosis International』で報告した研究では、運動に加えて骨を守る薬(ビスホスホネート)を飲んだ宇宙飛行士7人で、骨の減少がさらに抑えられていました。
04地球に帰っても、すぐには戻らない
宇宙から帰ってきた宇宙飛行士は、しばらく自力でうまく歩けないこともあります。筋肉は比較的早く戻りますが、骨の回復には時間がかかるのです。
これまでの調査では、失った骨の半分を取り戻すのに数か月〜1年近くかかる例が多く、骨の内部の構造は完全には元に戻らない場合があることも報告されています。
05まとめ
- 宇宙では、腰や股関節の骨が1か月に約1〜1.5%減ることがある
- 減りやすいのは、地上で体重を支えていた骨
- 宇宙飛行士は毎日2時間ほど運動して対策している
ふだん「重いなあ」と感じている重力は、実は私たちの骨と筋肉を毎日きたえてくれる無料のトレーナー。今日の階段は、ちょっと感謝しながらのぼってみませんか?
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerBone is living tissue.
音声
4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
In space, astronauts float, so their bones do not carry their body weight. Because of this, their bones become weaker. In one study, their hip bones lost about 1.4 to 1.5 percent each month.
The bones that hold up the body on Earth, like the hips and legs, lose the most. Muscles also get smaller. So astronauts exercise for about two hours every day. After they come back to Earth, their bones need a long time to recover.
78 words ・ CEFR A2
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宇宙では宇宙飛行士は浮かんでいるので、骨が体重を支えません。そのため、骨が弱くなっていきます。ある研究では、股関節の骨が1か月に約1.4〜1.5%減っていました。
腰や脚のように、地球で体を支えている骨が最も減ります。筋肉も小さくなります。そこで宇宙飛行士は、毎日約2時間運動します。地球に戻ってきた後も、骨が回復するには長い時間がかかります。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
宇宙で骨や筋肉が弱くなること、その対策と回復について述べているので A。
Q2. How long do astronauts exercise every day?
astronauts exercise for about two hours every day とあるので C。
Q3. In this passage, "recover" means ...
recover は「回復する・元に戻る」。弱くなった骨が元に戻るまで時間がかかるという文脈なので B。
Bone is living tissue. It is broken down and rebuilt every day, and when it carries body weight or is used in exercise, the body keeps it strong. In space, however, bones no longer support any weight, so breaking down becomes faster than rebuilding. In a 2004 study of 14 astronauts who stayed on the ISS for four to six months, spine bones lost about 0.9 percent a month, and hip bones about 1.4 to 1.5 percent.
A 2020 analysis of data from 148 space travelers found that bones in the hips and legs clearly decreased, while the arms and chest hardly changed. To slow this loss, astronauts exercise for about two hours a day. Even so, bones recover slowly after they return.
123 words ・ CEFR B1
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骨は生きた組織です。毎日壊されては作り直されており、体重を支えたり運動で使われたりすると、体は骨を丈夫に保ちます。ところが宇宙では、骨がもう重さを支えないため、作り直すよりも壊すほうが速くなります。ISSに4〜6か月滞在した宇宙飛行士14人を調べた2004年の研究では、背骨の骨は1か月に約0.9%、股関節の骨は約1.4〜1.5%減っていました。
宇宙飛行者148人分のデータを分析した2020年の研究では、腰や脚の骨ははっきり減った一方、腕や胸はほとんど変わりませんでした。この減少を遅らせるため、宇宙飛行士は1日約2時間運動します。それでも、帰還後の骨の回復はゆっくりです。
4択リーディングクイズ
Q1. Why do bones get weaker in space?
bones no longer support any weight, so breaking down becomes faster than rebuilding とあるので D。
Q2. According to the 2004 study, how much did hip bones lose each month?
hip bones about 1.4 to 1.5 percent とあるので B。0.9% は背骨の値。
Q3. What can we infer from the 2020 analysis?
腰や脚の骨は減り、腕や胸はほとんど変わらなかった。地上で体重を支えていた骨ほど減りやすいと推論できるので A。
Far from being inert, bone is constantly broken down by one set of cells and rebuilt by another, and mechanical loading tells the body which bone is worth keeping. In weightlessness that signal largely disappears, and the balance tips toward breakdown. In a 2004 study of 14 astronauts who spent four to six months on the ISS, Lang and colleagues measured losses of roughly 0.9 percent per month in the spine and 1.4 to 1.5 percent in the hip.
A 2020 meta-analysis of 148 space travelers confirmed that the loss is concentrated in weight-bearing bones such as the pelvis and legs, while the skull tended to gain about 2 percent. Astronauts now exercise for around two hours daily, and a 2019 analysis found that resistance training offered partial, not complete, protection; adding bone-protecting drugs further reduced the loss in a small study of seven astronauts. These figures should be read carefully. Different scanning methods produce different monthly rates, samples are small, and most comparisons are observational rather than randomized. Even when bone density returns after landing, its internal structure may not fully recover.
183 words ・ CEFR B2
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骨は決して不活発なものではなく、ある細胞たちに絶えず壊され、別の細胞たちに作り直されています。そして力学的な負荷が、どの骨を保つ価値があるかを体に伝えています。無重力ではその信号がほとんどなくなり、バランスは分解のほうに傾きます。ISSで4〜6か月を過ごした宇宙飛行士14人を調べた2004年の研究で、ラングらは、背骨で1か月に約0.9%、股関節で1.4〜1.5%の減少を測定しました。
宇宙飛行者148人を対象とした2020年のメタ分析では、減少は骨盤や脚など体重を支える骨に集中する一方、頭の骨は約2%増える傾向があることが確認されました。現在、宇宙飛行士は毎日2時間ほど運動しており、2019年の分析では、筋力トレーニングは骨の減少を完全にではなく部分的に防いでいたことが分かりました。さらに、7人の宇宙飛行士を対象とした小規模な研究では、骨を守る薬を加えることで減少がさらに抑えられました。ただし、これらの数値は慎重に読む必要があります。測定法が違えば1か月あたりの減少率も変わり、サンプルは少なく、比較のほとんどはランダム化されていない観察データです。さらに、着陸後に骨密度が戻っても、骨の内部構造は完全には回復しない可能性があります。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
宇宙での骨量減少のしくみ・データ、運動や薬による対策、そして数値の読み方の注意点まで述べているので C。
Q2. According to the passage, what did the 2019 analysis find about resistance training?
resistance training offered partial, not complete, protection とあるので D。A は not complete と矛盾。
Q3. Why does the author say the figures "should be read carefully"?
直後に、測定法で値が変わる・サンプルが少ない・ランダム化されていない観察データ、と理由が並んでいるので A。
重要単語
- bone densityB2名詞(句)骨密度Bone density drops quickly in space.
density は dense(密な)の名詞形。population density「人口密度」も入試頻出。 - weightlessnessB2名詞無重力状態Weightlessness makes bones and muscles weaker.
weight+-less(~がない)+-ness(名詞化)。語を分解すれば意味が推測できる好例。 - countermeasureC1名詞対策Exercise is the main countermeasure against bone loss.
counter-(対抗する)+measure(手段)。take measures against ~「~に対策を講じる」も覚えたい。 - resistance exerciseB2名詞(句)筋力トレーニング(抵抗運動)Resistance exercise helps keep bones strong.
resist(抵抗する)の名詞形 resistance。重りやバネの抵抗に逆らって行う運動のこと。 - recoveryB1名詞回復Bone recovery after spaceflight takes time.
recover(回復する)の名詞形。make a full recovery「完全に回復する」はよく出るコロケーション。 - tissueB2名詞(生体の)組織Bone is a living tissue that changes every day.
「ティッシュペーパー」と同じ語。生物では muscle tissue(筋組織)のように使う。 - weight-bearingC1形容詞体重を支える・荷重のかかるWeight-bearing bones lose the most mass in space.
bear(耐える・支える)から。bear in mind「心に留める」の bear と同じ動詞。
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- The Human Body in Space(NASA)nasa.gov
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ISSに長く滞在した宇宙飛行士の調査では、股関節の骨が1か月に約1〜1.5%ずつ減っていた。地上で骨が減りやすい年代の人の1年分に近い量が、宇宙では1か月で減ることも。だから毎日2時間ほど運動するらしい。
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出典・参考文献(4件)タップで表示
- Lang et al. (2004) Cortical and Trabecular Bone Mineral Loss From the Spine and Hip in Long-Duration Spaceflight, Journal of Bone and Mineral Researchdoi.org
- Stavnichuk et al. (2020) A systematic review and meta-analysis of bone loss in space travelers, npj Microgravitydoi.org
- Sibonga et al. (2019) Resistive exercise in astronauts on prolonged spaceflights provides partial protection against spaceflight-induced bone loss, Bonedoi.org
- LeBlanc et al. (2013) Bisphosphonates as a supplement to exercise to protect bone during long-duration spaceflight, Osteoporosis Internationaldoi.org
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。










