シャチには「方言」も「流行」もある。海の王者は文化を受け継いでいた

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同じ海にいるシャチは、どの群れも同じ獲物を食べている
北太平洋東部には、サケなど魚を主に食べる群れと、アザラシなど哺乳類を狩る群れが、同じ海域で別々に暮らしている。
- 対象
- 北太平洋東部のシャチ個体群
- 規模
- 数百頭を数十年追跡
- 研究の種類
- 長期野外観察・音声分析
- 確かさ
- ★★★☆☆
シャチは群れごとに鳴き声の方言や狩りの方法、食べ物の好みがちがい、それを親から子へ学んで受け継ぐ。一時的な「流行」まで記録されている。
ひとことで言うとシャチは群れごとに「ことば」や「料理」がちがう。おばあちゃんから学ぶんだ!
「文化」と聞くと、言葉や料理、お祭り、ファッションなど、人間だけのものを思い浮かべますよね。
でも海の中には、群れごとにちがう言葉を話し、ちがう料理を食べ、ときには謎の流行まで生まれる動物がいます。
海の王者、シャチです。
01生物学でいう「文化」とは?
まず言葉の確認をしておきましょう。
生物学で「文化」というとき、それは遺伝子ではなく、仲間から学ぶことで受け継がれていく行動のことを指します。生まれつきではなく、見て、まねして、覚えて、次の世代に伝わっていくもの。
たとえば日本人が箸を使うのは、遺伝ではなく、まわりの大人から学んだからですよね。シャチにも、これと同じような「学んで受け継ぐ行動」がたくさんあるのです。
02群れごとにちがう「方言」
この方言は、子どもが母親や家族の鳴き声を聞いてまねすることで受け継がれると考えられています。まさに、人間の子どもが家族の言葉を覚えるのと同じです。
03同じ海にいるのに「食べ物」がまったくちがう
もっと驚くのは食べ物です。
北太平洋の東側には、同じ海域に、サケなどの魚をおもに食べるシャチと、アザラシやイルカなどの哺乳類を狩るシャチが暮らしています。
どちらもシャチという同じ種類なのに、相手の獲物にはほとんど手を出しません。群れどうしが混ざって子どもを作ることもほとんどなく、鳴き声のスタイルも、群れの大きさも、狩りの方法もちがいます。
魚を食べるグループは、エコーロケーション(音を出して跳ね返りで獲物を探す技)をよく使います。一方、哺乳類を狩るグループは、耳のいい獲物に気づかれないよう、狩りの間はとても静かにしています。それぞれの「食文化」に合わせた狩りのルールが、何世代も受け継がれているのです。

041987年の謎の流行「サケの帽子」
この「サケの帽子」は、何十年もたってから再び目撃されたという報告もあり、研究者たちを驚かせています。
05群れを導くのは「おばあちゃん」
シャチのメスは、人間と同じように、子どもを産めなくなったあとも何十年も生きることがあります。これは動物の世界では珍しいことです。
2015年に『Current Biology』に載ったイギリス・エクセター大学などの研究(Brent ら)では、数百時間分の移動の映像を分析し、サケが少ない年ほど、年をとったメスが群れの先頭に立って泳ぐことが多いとわかりました。どこに行けば魚がいるか、長年の経験から知っているおばあちゃんが、群れを導いているらしいのです。
06まとめ
シャチには、群れごとの方言、食文化、狩りのルール、そして謎の流行までありました。それらは遺伝ではなく、家族から学んで受け継がれていきます。
海の王者が持っていたのは、強さだけではありません。何世代も積み重ねてきた「知恵」という財産だったのです。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerIn biology, culture means behavior that is passed on by learning from others, not through genes.
音声
4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
Orcas, or killer whales, live in family groups. Each group has its own way of calling, like a dialect. Young orcas learn these calls from their families. This is a kind of culture.
In the North Pacific, some groups eat fish, but other groups hunt seals in the same sea. Older females often lead the group when there is not much food. They know where to find fish.
68 words ・ CEFR A2
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シャチは家族の群れで暮らしています。それぞれの群れには、方言のように独自の鳴き方があります。若いシャチは、その鳴き声を家族から学びます。これは一種の文化です。
北太平洋では、魚を食べる群れもいれば、同じ海でアザラシを狩る群れもいます。食べ物が少ないときには、年をとったメスが群れを先導することがよくあります。どこに行けば魚がいるかを知っているのです。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
群れごとの方言や食べ物、年配のメスの知恵など、シャチの文化の話なので B。
Q2. Who often leads the group when there is not much food?
Older females often lead the group when there is not much food. とあるので C。
Q3. In this passage, "dialect" means ...
dialect は「方言」=その地域や集団に特有の話し方なので A。
In biology, culture means behavior that is passed on by learning from others, not through genes. Killer whales seem to have it. In 1991, a Canadian researcher found that each family group, or pod, off British Columbia had its own set of calls, a kind of dialect, and closely related pods had similar dialects.
In the eastern North Pacific, some killer whales eat mainly fish, while others hunt mammals such as seals, even in the same waters. In 1987, a strange fad of carrying dead salmon on their heads spread between groups but disappeared the next year. A 2015 study found that older females often led their groups when salmon were scarce.
112 words ・ CEFR B1
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生物学でいう文化とは、遺伝子ではなく、ほかの個体から学ぶことで受け継がれる行動のことです。シャチにはそれがあるようです。1991年、カナダの研究者は、ブリティッシュコロンビア沖の家族の群れ(ポッド)がそれぞれ独自の鳴き声のセット、つまり一種の方言を持ち、近い血縁の群れほど方言が似ていることを発見しました。
北太平洋の東部では、同じ海域にいても、主に魚を食べるシャチもいれば、アザラシなどの哺乳類を狩るシャチもいます。1987年には、死んだサケを頭にのせて泳ぐという奇妙な流行が群れの間に広がりましたが、翌年には消えました。2015年の研究では、サケが少ないときには年をとったメスが群れを先導することが多いとわかりました。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
文化の定義を示し、方言・食べ物の違い・流行・年配のメスの役割を挙げているので A。
Q2. What happened to the "salmon hat" fad?
spread between groups but disappeared the next year とあるので D。
Q3. Why might older females lead their groups when salmon are scarce?
食べ物が少ないときに先導するので、長年の経験で餌場を知っていると推測できる。正解は B。
In 1987, a female killer whale began carrying a dead salmon on her head. Other pods picked up the habit, and within a year it had largely vanished. Biologists count fads like this as evidence of culture, meaning behavior passed on through social learning instead of genes, and killer whales are among the strongest examples outside humans.
Their calls are another sign. In 1991, John Ford reported that resident pods off British Columbia each have a distinct repertoire of calls. More closely related pods share more similar dialects, which points to calves learning calls from their families. Diet follows traditions too.
In the eastern North Pacific, fish-eating and mammal-eating killer whales share the same waters but rarely interbreed. The fish-eaters often use echolocation, while the mammal-hunters stay quiet so their sharp-eared prey do not hear them. In 2015, Brent and colleagues found that females past reproductive age were more likely to lead their groups in years when salmon were scarce.
Their ecological knowledge may help explain why menopause evolved. Proving that all this is culture is hard. The two ecotypes also differ genetically, and dialect learning is inferred largely from correlations, so genes and environment are difficult to rule out.
200 words ・ CEFR B2
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1987年、1頭のメスのシャチが、死んだサケを頭にのせて運び始めました。この習慣はほかの群れにも広がり、1年もたたないうちにほぼ消えてしまいました。生物学者はこうした流行を文化の証拠とみなします。
文化とは、遺伝子ではなく社会的学習によって伝わる行動のことで、シャチは人間以外で最も強力な例の一つです。鳴き声もその証拠です。1991年、ジョン・フォードは、ブリティッシュコロンビア沿岸に定住するシャチの群れがそれぞれ独自の鳴き声のレパートリーを持つことを報告しました。血縁の近い群れほど方言が似ていることから、子どもは家族から鳴き声を学んでいると考えられます。食べ物にも伝統があります。
北太平洋東部では、魚を食べるシャチと哺乳類を食べるシャチが同じ海域にいながら、ほとんど交配しません。魚食のシャチはエコーロケーションをよく使い、哺乳類を狩るシャチは、耳のよい獲物に気づかれないよう静かにしています。2015年、ブレントらは、サケが少ない年には、繁殖年齢を過ぎたメスが群れを先導する傾向が強いことを見いだしました。
彼女たちの生態的な知識が、閉経が進化した理由を説明する助けになるかもしれません。これらがすべて文化だと証明するのは難しいことです。2つの生態型は遺伝的にも異なり、方言の学習も主に相関関係から推測されているので、遺伝や環境の影響を排除しにくいのです。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
流行・方言・食性・年配メスの知識を文化の証拠として示し、Proving that all this is culture is hard. と証明の難しさも述べているので C。
Q2. Why do mammal-hunting killer whales stay quiet?
stay quiet so their sharp-eared prey do not hear them とあるので B。
Q3. Why is it difficult to separate culture from other influences?
The two ecotypes also differ genetically とあるので D。行動の差が遺伝によるものか文化によるものか区別しにくい。
重要単語
- dialectB2名詞方言Each pod has its own dialect of calls.
dia-(通して)+lect(話す)。accent(なまり)は発音の違い、dialect は語彙・文法も含む違い。 - podC1名詞(シャチ・イルカなどの)群れThe pod traveled together along the coast.
主にクジラ・イルカ類の群れに使う語。「さや(豆のさや)」の意味もある。 - cultureA2名詞文化Some scientists say whales have culture.
ラテン語 cultura(耕すこと)から。agriculture(農業)と同語源。動物の文化は入試頻出テーマ。 - menopauseC1名詞閉経Killer whales are one of the few animals with menopause.
meno(月)+pause(停止)。「おばあちゃん仮説」とセットで出る。 - echolocationC1名詞反響定位(エコーロケーション)Fish-eating orcas often use echolocation.
echo(反響)+location(位置の特定)。コウモリやイルカの能力として長文に出る。 - social learningC1名詞(句)社会的学習Culture is passed on through social learning.
他者を見てまねて学ぶこと。genetic(遺伝的)な伝達と対比される。 - scarceB2形容詞乏しい、不足しているOlder females led the group when salmon were scarce.
名詞 scarcity(不足)。副詞 scarcely は「ほとんど~ない」で hardly と同義。
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公式・一次情報をチェック
- Male killer whales protected by post-menopause mothers(エクセター大学)news.exeter.ac.uk
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シャチは群れごとに鳴き声の「方言」があり、魚しか食べない群れと、アザラシを狩る群れが同じ海にいるらしい。1987年には「死んだサケを頭にのせる」謎の流行が群れの間に広がった記録まである。
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出典・参考文献(3件)タップで表示
- Ford (1991) Vocal traditions among resident killer whales (Orcinus orca) in coastal waters of British Columbia, Canadian Journal of Zoologydoi.org
- Rendell & Whitehead (2001) Culture in whales and dolphins, Behavioral and Brain Sciencesdoi.org
- Brent et al. (2015) Ecological knowledge, leadership, and the evolution of menopause in killer whales, Current Biologydoi.org
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。












