動物・植物

花の香りは「虫へのラブレター」、ときどき「ニセの恋文」。1700種以上の香り分子の駆け引き

花の香りは「虫へのラブレター」、ときどき「ニセの恋文」。1700種以上の香り分子の駆け引き

読む前に予想してみよう!

花の香りはすべて、虫にとって「本物のごほうび」の合図である

研究カード(どんな研究?)
対象
種子植物の花の香り(約1000の分類群のデータ)など
規模
大規模な文献集計+個別実験
研究の種類
総説・化学分析・分子生物学
確かさ
★★★★☆
3秒でわかる

花の香りは1700種類以上の分子の組み合わせ。決まった虫を呼ぶ“専用回線”にもなれば、メスのハチになりすます“ニセの恋文”にもなる。

ひとことで言うと花のにおいは、虫をよぶ「手紙」。ときにはウソの手紙も!

もくじ
  1. 香りの正体は「分子のカクテル」
  2. 夜に香る花、腐った肉のにおいの花
  3. メスのハチに化ける「ニセの恋文」
  4. 香りは「勝手にもれる」のではなかった
  5. まとめ

バラの甘い香り、ユリのむせるような香り、キンモクセイの秋の香り。私たちが「いいにおい」と感じる花の香りは、もともと人間のためのものではありません。

花の香りは、花粉を運んでくれる虫や鳥へのメッセージ。そしてその中には、正直なラブレターもあれば、まっ赤なウソの手紙も混じっているのです。

01香りの正体は「分子のカクテル」

1つの花の香りは、数種類から数十種類の分子がまざったカクテルです。同じ分子でも、まぜる割合が変われば別の香りになります。花はこの「レシピ」で、どの虫を呼ぶかを選んでいるのです。

02夜に香る花、腐った肉のにおいの花

香りを出す時間帯にも意味があります。たとえば夜に強く香る花の多くは、夜に飛ぶ蛾に花粉を運んでもらっています。昼に香りを出しても、届けたい相手は寝ているからです。

いっぽうで、世界最大級の花序(花の集まり)として知られるショクダイオオコンニャクは、腐った肉のようなにおいを放ちます。呼びたい相手は、腐肉に集まる甲虫やハエ。人間にはひどいにおいでも、彼らにとっては「えさや産卵場所がありそう」という合図になります。

夜の花は蛾を、腐肉のにおいの花はハエや甲虫を呼ぶ
夜の花は蛾を、腐肉のにおいの花はハエや甲虫を呼ぶ

03メスのハチに化ける「ニセの恋文」

もっとすごいのが、ヨーロッパのランの仲間(オフリス属)です。

1999年に『Nature』に発表された研究(Schiestlら)で、あるオフリスの花が出す香りが、相手となるハチのメスの性フェロモンとほぼ同じ成分だとわかりました。オスのハチは花をメスとかんちがいして飛びつき、そのとき体に花粉がつきます。

しかもこの花は、蜜をまったく出しません。オスのハチは何ももらえず、ただ花粉を運ばされる――まさに「ニセの恋文」による、ちゃっかり受粉作戦です。

04香りは「勝手にもれる」のではなかった

香りの分子は小さくて気体になりやすいので、昔は「細胞から自然にしみ出している」と考えられていました。ところが2017年、ペチュニアの研究(Adebesinら、『Science』)で、香り分子を細胞の外へ積極的に運び出すポンプ(ABC輸送体)が見つかりました。このポンプを減らすと、香りの放出が減り、香り分子が細胞膜にたまって花の細胞にとって有害なレベルにまでなったのです。

花はエネルギーを使って、わざわざ香りを“発信”していたわけです。

05まとめ

花の香りは、虫たちとの化学のおしゃべりでした。正直なごほうびの合図もあれば、だましのテクニックもある。

次に花の香りをかぐときは、「この香り、本当は誰に向けたメッセージなんだろう?」と考えてみてください。あなたは、花と虫の秘密の手紙を、こっそりのぞき見しているのかもしれません。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerFlower scents were not made for humans. 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

Flower scents were not made for humans. They are messages to animals that carry pollen. A 2006 study collected data from about 1,000 plant groups and found more than 1,700 scent chemicals. Each scent is a mixture of several to dozens of chemicals, and changing the mix creates a different message.

Flowers that smell strongest at night are often pollinated by moths, while the giant corpse flower smells like rotten meat to attract beetles and flies. Some European orchids go further. Their scent is almost the same as the sex pheromone of female bees, so male bees try to mate with the flower and carry its pollen away. The orchid gives them no nectar at all.

116 words ・ CEFR B1

和訳を見る

花の香りは人間のために作られたものではありません。花粉を運ぶ動物へのメッセージです。2006年の研究は約1000の植物グループのデータを集め、1700種類以上の香りの化学物質を見つけました。一つひとつの香りは数種類から数十種類の化学物質の混合物で、混ぜ方を変えると別のメッセージになります。

夜にいちばん強く香る花は蛾に受粉してもらうことが多く、一方、巨大なショクダイオオコンニャクは腐った肉のようなにおいで甲虫やハエを引き寄せます。ヨーロッパのランの中には、さらに上を行くものがいます。その香りはメスのハチの性フェロモンとほぼ同じなので、オスのハチは花と交尾しようとして、花粉を運んでいきます。ランはハチに蜜をまったく与えません。

4択リーディングクイズ

Q1. What is the passage mainly about?

Q2. What does the corpse flower smell like?

Q3. Why could the orchid's scent be called a "fake love letter"?

重要単語

  • scentB2
    名詞香りThe scent of the flower is strongest at night. cent(セント)、sent と同音。smell より上品・快い香りに使うことが多い。
  • pollinatorC1
    名詞送粉者(花粉を運ぶ生き物)Bees and moths are important pollinators. pollen(花粉)→ pollinate(受粉させる)→ pollinator。pollution(汚染)とは別語。
  • volatileC1
    形容詞揮発性の、不安定なVolatile compounds easily turn into gas. ラテン語 volare(飛ぶ)から。a volatile market「不安定な市場」のように経済記事でも頻出。
  • mimicC1
    動詞まねるSome orchids mimic the smell of female bees. 過去形は mimicked(k が入る)。名詞 mimicry は生物の「擬態」。
  • deceiveB2
    動詞だますThe orchid deceives male bees without giving them food. 名詞は deception、形容詞 deceptive。receive と同じ -ceive のつづり。
  • lureC1
    動詞おびき寄せるThe flower lures flies with a smell of rotting meat. 名詞で「(釣りの)ルアー、魅力」。attract より「だまして誘う」ニュアンス。
  • nectarB2
    名詞(花の)蜜Bees collect nectar from flowers. ギリシャ神話の「神々の飲み物(ネクタル)」から。ジュースの「ネクター」も同じ語。

動画でもっと知る

花の香りから見つかった化学物質は1700種類以上。夜に香る花は蛾を、腐肉のにおいの花はハエを呼ぶ。メスのハチのフェロモンそっくりの香りでオスをだまして受粉させるランまでいる。

押すと「マジかリスト」に保存されます

出典・参考文献(4件)タップで表示
  1. Knudsen et al. (2006) Diversity and Distribution of Floral Scent, The Botanical Reviewdoi.org
  2. Raguso (2008) Wake Up and Smell the Roses: The Ecology and Evolution of Floral Scent, Annual Review of Ecology, Evolution, and Systematicsdoi.org
  3. Schiestl et al. (1999) Orchid pollination by sexual swindle, Naturedoi.org
  4. Adebesin et al. (2017) Emission of volatile organic compounds from petunia flowers is facilitated by an ABC transporter, Sciencedoi.org