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イヌの鼻は人の何倍?「1万倍」「1億倍」より面白い、においをかぎ分ける鼻の仕組み

イヌの鼻は人の何倍?「1万倍」「1億倍」より面白い、においをかぎ分ける鼻の仕組み

読む前に予想してみよう!

どんな匂いでも、イヌは人間より必ず敏感にかぎ分けられる

研究カード(どんな研究?)
対象
イヌ2匹の閾値測定、イヌの鼻の3Dモデルほか
規模
小規模実験+シミュレーション+総説
研究の種類
行動実験・流体解析・総説
確かさ
★★★☆☆
3秒でわかる

イヌの嗅覚は人よりはるかに鋭いが「〇倍」は物質しだい。1兆分の1レベルの濃度をかぎ分けた実験もあれば、人のほうが敏感な匂いもある。

ひとことで言うとイヌの鼻はすごい。でも「何倍」かは、においによってちがう!

もくじ
  1. 1兆分の1レベルの濃度をかぎ分けた
  2. 「人間は鼻が悪い」は19世紀の思いこみ?
  3. イヌの鼻は「空気の通り道」がすごい
  4. 病気の匂いまでかぎ分ける
  5. まとめ

「イヌの嗅覚は人の1万倍」「いや100万倍」「1億倍らしい」……。ネットで調べると、数字がバラバラで困ってしまいます。

結論から言うと、イヌの鼻が人よりはるかにすごいのは本当。でも「何倍」とひとことで言うのは、じつは科学的には無理があるのです。そして調べていくと、数字よりずっと面白い、イヌの鼻の“設計のうまさ”が見えてきます。

011兆分の1レベルの濃度をかぎ分けた

1兆分の1とは、ざっくり言えば東京ドーム1杯分の水に、スポイトで20滴ほどたらしたくらいの薄さ。人間にはまず無理なレベルです。

ただし、この研究で調べたのは2匹だけ。同じ物質でも、実験のやり方によって測られる限界は大きく変わり、以前の研究とは何十倍〜何万倍も違う値が出ていました。「〇倍」という数字が出回るのに、ばらつきが大きいのはこのためです。

02「人間は鼻が悪い」は19世紀の思いこみ?

では、人間の鼻はダメなのでしょうか? アメリカの神経科学者マクガン(McGann)さんは、2017年に『Science』でこう指摘しました。

「人の嗅覚は弱い」というイメージは、実験の結果ではなく、19世紀の解剖学者が唱えた説から広まった思いこみ。人の嗅球(においの情報を処理する脳の部分)も、神経細胞の数は他の哺乳類と大きくは変わらず、物質によっては、人のほうがイヌやネズミより敏感なものもあるというのです。

つまり「イヌは人の〇倍」は、どの匂いで比べるかで答えが変わってしまうわけです。

03イヌの鼻は「空気の通り道」がすごい

じゃあ、イヌの鼻の強さはどこから来るのか。数の違い(嗅覚の細胞が人よりずっと多い)だけではありません。

アメリカ・ペンシルベニア州立大学の研究チーム(Cravenら、2010年)は、イヌの鼻の中をMRIで撮影して3Dモデルを作り、くんくん嗅ぐときの空気の流れをコンピューターで再現しました。すると、

  • 鼻の奥に、においの細胞がびっしり並んだ特別な“小部屋”(嗅覚陥凹)があり、嗅いだ空気が効率よくそこへ運ばれる
  • 左右の鼻の穴で別々に空気をとりこむので、どちらの匂いが強いかを比べて、匂いの方向を知る手がかりにできる可能性がある

ことがわかりました。人の鼻には、この“小部屋”がありません。

イヌの鼻の奥には、匂いを集めるための“小部屋”がある
イヌの鼻の奥には、匂いを集めるための“小部屋”がある

04病気の匂いまでかぎ分ける

こうした鼻の力をいかして、イヌは空港の麻薬・爆発物探知だけでなく、病気の匂いをかぎ分ける研究にも登場しています。2021年の総説(Kokocińska-Kusiakら)では、がんや新型コロナウイルス感染症などで、体から出る匂いの変化をイヌがかぎ分けられる可能性が紹介されています。

05まとめ

「イヌの鼻は人の〇倍」という数字は、どの匂いで、どうやって測ったかで大きく変わります。数字よりも大事なのは、イヌの鼻が匂いを集める空気の通り道から作りが違う、ということ。

散歩中、地面を夢中でかぎ回る愛犬は、私たちには見えない「匂いの地図」を読んでいます。少し立ち止まって、その世界を想像してみてください。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerYou may have heard that a dog's sense of smell is 10,000 or even 100 million times better than ours. 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

You may have heard that a dog's sense of smell is 10,000 or even 100 million times better than ours. Dogs have excellent noses. In a 2006 study, two pet dogs found a box with a banana-like smell at concentrations of about one part per trillion. However, only two dogs were tested, and different methods give very different results. A neuroscientist also pointed out in 2017 that humans are more sensitive than dogs to some smells.

So the answer depends on the smell. In 2010, researchers made a 3D model of a dog's nose and found that air is carried efficiently to a special area full of smell cells. Dogs also take in air separately through each nostril, which may help them find the direction of a smell.

128 words ・ CEFR B1

和訳を見る

犬の嗅覚は私たちの1万倍、あるいは1億倍もすぐれていると聞いたことがあるかもしれません。犬はすばらしい鼻を持っています。2006年の研究では、2匹の飼い犬が、およそ1兆分の1という濃度のバナナのような匂いが入った箱を見つけました。しかし調べたのは2匹だけで、方法が違えば結果も大きく変わります。また2017年には、ある神経科学者が、匂いによっては人のほうが犬より敏感だと指摘しました。

つまり答えは匂いしだいなのです。2010年、研究者たちは犬の鼻の3Dモデルを作り、空気が匂いの細胞でいっぱいの特別な場所へ効率よく運ばれることを発見しました。さらに犬は左右の鼻の穴で別々に空気を取りこみ、それが匂いの方向をつかむのに役立つ可能性があります。

4択リーディングクイズ

Q1. What is the main idea of the passage?

Q2. What did the researchers use in the 2010 study?

Q3. Why may dogs be able to find the direction of a smell?

重要単語

  • sniffB2
    動詞くんくん嗅ぐDogs sniff several times per second. 擬音語由来。sniff at ~「~の匂いをかぐ」。smell は「匂う・嗅ぐ」の一般語。
  • olfactoryC1
    形容詞嗅覚のThe olfactory system detects smells. ラテン語 olfacere(匂いをかぐ)から。視覚 visual、聴覚 auditory、触覚 tactile とセットで覚える。
  • thresholdC1
    名詞閾値(感じとれる最小量)、敷居The detection threshold was extremely low. もとは「家の敷居」。on the threshold of ~「~の始まりに」という比喩も頻出。
  • concentrationB2
    名詞濃度、集中The dog found the odor at a very low concentration. concentrate(集中する・濃縮する)の名詞形。化学の文脈では「濃度」と訳す。
  • sensitiveB1
    形容詞敏感なHumans are more sensitive to some smells than dogs. be sensitive to ~「~に敏感だ」。sensible(分別のある)との区別は入試の定番。
  • nostrilC1
    名詞鼻の穴Dogs take in air separately through each nostril. nose+thrill(穴)が語源。thrill(ぞくぞくさせる)ももとは「突き通す」の意味。
  • detection dogB2
    名詞(句)探知犬Detection dogs work at airports and hospitals. detect(見つけ出す)→ detection。detective(探偵)も同語源。

動画でもっと知る

「イヌの嗅覚は人の1億倍」などの数字は、匂いの種類で大きく変わる。2匹のイヌが1兆分の1〜2の濃度をかぎ分けた実験がある一方、人のほうが敏感な匂いもあるらしい。

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出典・参考文献(4件)タップで表示
  1. Walker et al. (2006) Naturalistic quantification of canine olfactory sensitivity, Applied Animal Behaviour Sciencedoi.org
  2. Craven, Paterson & Settles (2010) The fluid dynamics of canine olfaction: unique nasal airflow patterns as an explanation of macrosmia, Journal of the Royal Society Interfacedoi.org
  3. McGann (2017) Poor human olfaction is a 19th-century myth, Sciencedoi.org
  4. Kokocińska-Kusiak et al. (2021) Canine Olfaction: Physiology, Behavior, and Possibilities for Practical Applications, Animalsdoi.org