語学・英語学習ビミョー

「理解できる英語を浴びるだけで話せる」は本当? クラッシェンのインプット仮説、40年の評価

「理解できる英語を浴びるだけで話せる」は本当? クラッシェンのインプット仮説、40年の評価

読む前に予想してみよう!

カナダの「イマージョン教育」で何年も外国語漬けで学んだ子は、聞く力も話す正確さもネイティブ並みになった

研究カード(どんな研究?)
対象
第二言語の学習者(読書・イマージョン教育など)
規模
多数の研究
研究の種類
理論論文+相関研究+実験研究の総合
確かさ
★★★☆☆
3秒でわかる

「少しだけ難しい、理解できる英語」を大量に浴びることは確かに語学の土台。でも、それだけでは話す・書く正確さが育ちにくいことも、カナダの研究などで分かってきた。

ひとことで言うとわかる英語をたくさん聞いて読むのは大事。でも話す練習もいる!

もくじ
  1. 「i+1」——少しだけ難しい英語がカギ
  2. 支持する証拠:読むと単語が増える
  3. 批判①:「確かめようがない」
  4. 批判②:浴びるだけでは身につかないものがある
  5. まとめ

「英語は勉強するな。わかる英語をたくさん聞いて読めば、自然に話せるようになる」

そんな学習法を聞いたことはありませんか。そのルーツにあるのが、アメリカの言語学者スティーブン・クラッシェンが1970〜80年代に打ち出した「インプット仮説」です。

英語教育の世界で最も有名で、最も議論された理論のひとつ。40年以上たった今、研究者たちはこの説をどう評価しているのでしょうか。

01「i+1」——少しだけ難しい英語がカギ

クラッシェンの主張の中心はこうです。

  • 言語は、意味のわかるメッセージ(理解可能なインプット)を受け取ることで身につく
  • ちょうどいいのは、今の実力(i)より少しだけ上(+1)の英語
  • 話す力は、インプットが十分たまれば自然に出てくる

さらに、不安や緊張が強いと学びが妨げられる「情意フィルター」という考えも加えました。

02支持する証拠:読むと単語が増える

インプットの大切さを示す研究は、たくさんあります。クラッシェン自身も、読書量の多い人ほど語彙やつづりの力が高いことを示す研究を集め、「単語やつづりは教わるより読んで身につく部分が大きい」と論じました。

やさしい本をたくさん読む「多読」で語彙や読む速さが伸びることも、多くの研究で報告されています。意味のわかる英語を大量に浴びることが土台になる——この点は、今ではほとんどの研究者が認めています。

「わかる英語」をたくさん読むことは、語彙を育てる土台になる
「わかる英語」をたくさん読むことは、語彙を育てる土台になる

03批判①:「確かめようがない」

一方で、批判も早くから出ました。言語学者グレッグらは、「i+1」の「1」が何なのか、どうやって測るのかがはっきりしないと指摘。どんな結果が出ても説明できてしまう理論は、科学的に検証しにくいという批判です。

04批判②:浴びるだけでは身につかないものがある

もう一つの大きな批判は、インプットだけでは身につきにくい文法があるというもの。

言語学者ホワイトは、学習者の母語と英語で語順のルールが違う場合など、「それは英語では言わない」という情報が、ただ聞いているだけでは得にくいことを指摘しました。

母語では自然な語順が英語では使えない場合、聞く英語の中に「その言い方が出てこない」というだけでは、学習者はそれが間違いだと気づきにくいのです。

05まとめ

「理解できる英語を浴びる」ことは、間違いなく英語力のエンジンです。そこはクラッシェンが正しかった。

でも、それだけで話す・書く正確さまで育つかというと、研究の答えは「ビミョー」。たっぷりのインプットに、少しのアウトプットと気づきを足すのが、今の研究が勧めるバランスです。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerIn the 1970s and 1980s, the American linguist Stephen Krashen proposed the input hypothesis. 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

In the 1970s and 1980s, the American linguist Stephen Krashen proposed the input hypothesis. He argued that we acquire a language by understanding messages slightly above our current level, which he called 'i + 1', and that speaking ability appears naturally once we have enough input. He also suggested that anxiety can block learning, an idea called the affective filter. There is good evidence that reading a lot helps learners build vocabulary.

However, critics pointed out that 'i + 1' is hard to measure. Also, in Canadian immersion programs, children who studied in French for years understood it very well but still made grammar errors when speaking and writing.

109 words ・ CEFR B1

和訳を見る

1970〜80年代、アメリカの言語学者スティーブン・クラッシェンはインプット仮説を提唱しました。彼は、私たちは今のレベルより少しだけ上のメッセージを理解することで言語を習得し、それを「i+1」と呼びました。そして、十分なインプットがあれば話す力は自然に現れると主張しました。また彼は、不安が学習を妨げることがあると示唆し、これは情意フィルターと呼ばれます。たくさん読むことが学習者の語彙を増やすのに役立つという確かな証拠があります。

しかし、批判者たちは「i+1」は測るのが難しいと指摘しました。また、カナダのイマージョン教育では、何年もフランス語で学んだ子どもたちはフランス語をとてもよく理解しましたが、話したり書いたりするときにはまだ文法の誤りがありました。

4択リーディングクイズ

Q1. According to Krashen, what is the "affective filter"?

Q2. What was a problem for children in the Canadian immersion programs?

Q3. What would the critics most likely say about the input hypothesis?

重要単語

  • comprehensible inputC1
    名詞(句)理解可能なインプット(意味がわかる英語)Graded readers give you a lot of comprehensible input. comprehensible(理解できる)と comprehensive(包括的な)の区別は入試の語彙問題で超頻出。
  • hypothesisB2
    名詞仮説Scientists test a hypothesis with experiments. 複数形 hypotheses。propose / test / support a hypothesis が定番のコロケーション。
  • acquisitionC1
    名詞習得Language acquisition takes time. 動詞 acquire。second language acquisition(SLA、第二言語習得)は言語系長文の頻出語。
  • falsifiableC1
    形容詞反証可能な(間違いを確かめられる)A good theory should be falsifiable. falsify(反証する、偽造する)+-able。科学哲学者ポパーの考えで、科学論の長文に出る。
  • immersionC1
    名詞没入・外国語漬けの教育Immersion students learn math in French. immerse(浸す)の名詞形。be immersed in ~「~に没頭している」も頻出。
  • affective filterC1
    名詞(句)情意フィルター(不安などが学びをせき止める心の壁)High anxiety may raise your affective filter. affective は「感情の、情意の」。effective(効果的な)と綴りが1字違いなので注意。
  • consensusC1
    名詞(大多数の)一致した意見The consensus is that input is necessary but not sufficient. reach a consensus「合意に達する」。scientific consensus は科学系長文で頻出。

動画でもっと知る

「わかる英語をたくさん浴びれば、勝手に話せるようになる」。クラッシェンの有名な説だ。読書で単語が伸びる証拠は多い。でも何年も外国語漬けの授業を受けたカナダの子は、聞く力は抜群なのに文法の正確さが伸び悩んでいた。

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出典・参考文献(4件)タップで表示
  1. Krashen (1989) We Acquire Vocabulary and Spelling by Reading: Additional Evidence for the Input Hypothesis, The Modern Language Journaldoi.org
  2. Gregg (1984) Krashen's Monitor and Occam's Razor, Applied Linguisticsdoi.org
  3. White (1987) Against Comprehensible Input: the Input Hypothesis and the Development of Second-language Competence, Applied Linguisticsdoi.org
  4. Swain & Lapkin (1995) Problems in Output and the Cognitive Processes They Generate: A Step Towards Second Language Learning, Applied Linguisticsdoi.org