語学・英語学習ビミョー

英語で授業を受けると英語も教科も伸びる?「一石二鳥」説を検証したら意外な落とし穴

英語で授業を受けると英語も教科も伸びる?「一石二鳥」説を検証したら意外な落とし穴

読む前に予想してみよう!

英語で教科を学ぶクラスの生徒は、始める前から小学校の成績や家庭環境で有利なことが多い

研究カード(どんな研究?)
対象
中高生(英語で教科を学ぶ授業)
規模
38研究・7,434人
研究の種類
メタ分析
確かさ
★★★☆☆
3秒でわかる

英語で教科を学ぶ授業は、メタ分析では英語力に効果大。でも「もともと得意な生徒が選ばれていた」影響を除くと効果はほぼ消える研究も。教科の理解が下がった実験もある。

ひとことで言うと英語で授業を受けた子が伸びたのは、もともと得意な子が多かったからかも?

もくじ
  1. メタ分析では「英語力に効果大」
  2. 「もともと得意な子」が集まっていた
  3. 教科のほうは大丈夫?
  4. まとめ

数学や理科、歴史の授業を、ぜんぶ英語で受ける。日本でも、英語で教科を教える中高のコースや、英語だけで卒業できる大学のプログラムが増えています。

うたい文句はたいてい「英語も教科も、一石二鳥で身につく」。英語を"勉強"するのではなく、英語で"何かを学ぶ"から、自然に使える英語になる――たしかに理にかなっていそうです。

でも研究をていねいに見ていくと、この一石二鳥には、ちょっとしたトリックが潜んでいる可能性が見えてきました。

01メタ分析では「英語力に効果大」

英語で教科を学ぶ方法は、ヨーロッパではCLIL(クリル:内容言語統合型学習)、大学などではEMI(英語による授業)と呼ばれます。

最後の項目が、この記事のカギです。

02「もともと得意な子」が集まっていた

英語で教科を学ぶクラスは、多くの場合、生徒や保護者が自分で選んで入ります。すると、もともと英語が得意な子、勉強に意欲的な子、教育に熱心な家庭の子が集まりやすくなります。これを選抜効果といいます。

ドイツの研究チームは、進学校(ギムナジウム)の同学年の生徒を対象にした全数調査のデータで、この問題に正面から取り組みました(Feddermann ら, 2021)。CLILの生徒385人と、そうでない生徒5,578人を比べると、

  • CLILの生徒は、始める前から小学校の成績・家庭の社会的背景・認知能力で有利だった(選抜効果)
  • さらに、CLILに備えて英語の授業を多めに受けていた(準備効果)
  • この2つを統計的に取り除くと、CLIL自体の上乗せ効果は小さく、統計的にも意味のある差ではなくなった

つまり、「CLILの子は英語ができる」のは事実でも、その多くは「できる子がCLILを選んだ」ことで説明できてしまったのです。

スタート地点がずれていたら、ゴールの差だけでは速さを比べられない
スタート地点がずれていたら、ゴールの差だけでは速さを比べられない

03教科のほうは大丈夫?

では、もう一方の「教科の理解」はどうでしょう。

ドイツの中学2年生約1,800人を調べた研究では、英語で歴史を学ぶクラスは、英語のリスニングは伸びた一方で、英語の総合力の伸びはふつうのクラスと変わりませんでした。歴史の知識の伸びは同じ程度でしたが、CLILのクラスは週2時間ではなく3時間の授業を使っていました(Dallinger ら, 2016)。同じ程度の伸びなのに、授業時間は1.5倍だったわけです。

さらにシビアな結果もあります。スウェーデンの大学のオンライン・プログラミング講座で、2,263人の受講者をくじ引きのように無作為に英語版とスウェーデン語版に振り分けた実験では、英語版の受講者のほうがテストの正解数が少なく、途中でやめる人も多かったのです(Bälter ら, 2023)。

大学のEMIについては、83本の研究を整理した総説が、英語力が伸びると断言できる証拠も、教科の学習に明らかに悪いと言える証拠も、まだ足りないと結論づけています(Macaro ら, 2018)。

04まとめ

「英語で授業を受ければ一石二鳥」は、今のところビミョーです。英語で学ぶ生徒の英語力が高いのは事実ですが、その多くは「もともと得意な生徒が選んでいる」ことで説明できる可能性があり、教科の学習では、授業時間が多めに使われたり、成績が下がったりした例もあります。

英語で学ぶこと自体は、すばらしい挑戦です。だからこそ、「選べば勝手に伸びる」ではなく、予習やアウトプット練習とセットで使う。それが、研究から見える賢い付き合い方です。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerTeaching school subjects through English, known as CLIL or EMI, is often called killing two birds with one… 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

Teaching school subjects through English, known as CLIL or EMI, is often called killing two birds with one stone. A 2023 meta-analysis of 38 studies with 7,434 secondary students found large effects on English. However, the effect was smaller in studies that confirmed the two groups were similar at the start. This matters because students usually choose these classes.

A German study of 385 CLIL students and 5,578 other students found that the CLIL group already had better grades, family backgrounds and thinking skills. After these differences and extra English lessons were controlled, the added effect of CLIL was small and not significant. Subject learning also needs attention. In a large Swedish experiment, students who took a course in English got fewer answers right and dropped out more often.

129 words ・ CEFR B1

和訳を見る

学校の教科を英語で教えることは、CLILやEMI(英語による授業)と呼ばれ、しばしば一石二鳥だと言われます。中高生7,434人を含む38本の研究の2023年のメタ分析は、英語に大きな効果を見つけました。しかし、2つのグループが開始時に似ていると確認した研究では、効果はより小さくなりました。生徒はふつうこうしたクラスを自分で選ぶので、これは重要です。

ドイツでCLILの生徒385人とそれ以外の生徒5,578人を比べた研究では、CLILのグループはすでに成績、家庭環境、思考力で有利でした。こうした違いと追加の英語の授業を統制すると、CLILの上乗せ効果は小さく、有意ではありませんでした。教科の学習にも注意が必要です。スウェーデンの大規模な実験では、英語で講座を受けた学生は正解数が少なく、途中でやめることも多かったのです。

4択リーディングクイズ

Q1. What does "killing two birds with one stone" mean in this passage?

Q2. In the German study, what happened after the differences were controlled?

Q3. Why does the writer say "This matters because students usually choose these classes"?

重要単語

  • mediumB2
    名詞媒体・手段English is the medium of instruction in this course. 複数形は media。the medium of instruction は「授業で使う言語」。
  • selectionB1
    名詞選抜・選択Selection can make a program look more effective than it is. 動詞 select。selection bias(選択バイアス)は統計・研究の頻出語。
  • backgroundB1
    名詞背景・生い立ちStudents from different backgrounds join the class. family / social background で「家庭環境・社会的背景」。
  • comparableB2
    形容詞比較できる・同程度のThe two groups reached comparable results. compare(比べる)+-able。アクセントは第1音節(COM-pa-ra-ble)。
  • randomizedC1
    形容詞無作為化されたA randomized trial is a strong way to test cause and effect. random(でたらめな・無作為の)+-ize。randomized controlled trial(RCT)は因果を調べる強力な方法。
  • dropoutB2
    名詞脱落・中途退学(者)The dropout rate was higher in the English course. 句動詞 drop out(やめる)の名詞形。dropout rate で「脱落率」。
  • encouragingB2
    形容詞心強い・励みになるThe first results looked encouraging. encourage(励ます)の -ing 形容詞。encouraged は「(人が)励まされた」。
「理科や社会を英語で学べば、英語も教科も一石二鳥」。中高生のメタ分析では英語力の効果は大きかった。ところがドイツの約6000人のデータで「もともと得意な子が選ばれていた分」を差し引くと、効果はほぼ消えたらしい。

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出典・参考文献(5件)タップで表示
  1. Macaro et al. (2018) A systematic review of English medium instruction in higher education, Language Teachingdoi.org
  2. Lee, Lee & Lo (2023) Effects of EMI-CLIL on secondary-level students' English learning: A multilevel meta-analysis, Studies in Second Language Learning and Teachingdoi.org
  3. Feddermann, Möller & Baumert (2021) Effects of CLIL on second language learning: Disentangling selection, preparation, and CLIL-effects, Learning and Instructiondoi.org
  4. Dallinger, Jonkmann, Hollm & Fiege (2016) The effect of content and language integrated learning on students' English and history competences – Killing two birds with one stone?, Learning and Instructiondoi.org
  5. Bälter, Kann, Mutimukwe & Malmström (2023) English-medium instruction and impact on academic performance: a randomized control study, Applied Linguistics Reviewdoi.org