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「英語脳」は存在する? 脳科学で調べたら、上級者の頭の中でも母語がこっそり働いていた

「英語脳」は存在する? 脳科学で調べたら、上級者の頭の中でも母語がこっそり働いていた

読む前に予想してみよう!

英語がペラペラな人は、英語を読むとき母語の知識をまったく使っていない

研究カード(どんな研究?)
対象
バイリンガル・第二言語学習者
規模
数十人規模の研究多数
研究の種類
脳画像・脳波研究+レビュー
確かさ
★★★☆☆
3秒でわかる

英語専用の「別の脳」ができるわけではない。英語も日本語とほぼ同じ言語ネットワークを使い、上達すると働き方が"省エネ"になる。上級者でも母語は無意識に動いていた。

ひとことで言うと英語専用の脳ができるんじゃない。同じ脳が英語に慣れていくんだ!

もくじ
  1. 1997年『Nature』の衝撃:「母語と外国語は別の場所?」
  2. その後の研究:「別の脳」ではなく「同じ回路の使い方の違い」
  3. 上達すると、脳は「省エネ」になる
  4. それでも母語は「こっそり」働いている
  5. まとめ

「日本語で考えてから訳すから遅いんだ。英語脳を作れ!」

英語学習の広告や本で、よく見かける言葉です。英語専用の回路が頭の中にできれば、訳さずにスラスラ話せる——なんだかワクワクしますよね。

では、脳科学の研究は「英語脳」について何と言っているのでしょうか。答えは、半分正しくて、半分ちがうでした。

011997年『Nature』の衝撃:「母語と外国語は別の場所?」

これだけ見ると、「大人の英語学習者には別の英語エリアがある=英語脳!」と言いたくなります。

02その後の研究:「別の脳」ではなく「同じ回路の使い方の違い」

ところが、その後たくさんの研究が積み重なると、見え方が変わってきました。

脳科学者ペラーニとアブタレビは2005年のレビューで、第二言語も基本的には母語と同じ言語ネットワークを使っているとまとめています。違いが出るのは、習得年齢・熟達度・接触量によって処理の負担が変わるときで、とくに熟達度が低いときや言語を切り替えたり制御したりする負担があるときに、周辺の領域が追加で働くことがあるというのです。

つまり、英語のための新しい脳ができるのではなく、同じ回路を、慣れないうちは「がんばって」使っている状態に近いわけです。

03上達すると、脳は「省エネ」になる

日本の研究もあります。東京大学の酒井邦嘉らのグループは、13歳と19歳の日本人を対象に、英語の動詞の過去形を判断する課題中の脳活動を調べました。

すると、英語の熟達度が高い19歳のグループのほうが、左前頭葉(左下前頭回)の活動が低かったのです。ただしこれは13歳と19歳という別々の集団を比べた研究で、同じ人を追いかけたものではないため、年齢の違いも混ざっています。習熟した課題ほど少ない活動ですむ——脳が効率よく働くようになったと解釈されています。

慣れないうちは脳がフル稼働。上達すると、同じことを少ないエネルギーで処理できる
慣れないうちは脳がフル稼働。上達すると、同じことを少ないエネルギーで処理できる

04それでも母語は「こっそり」働いている

では、上級者になれば日本語は一切使わなくなるのでしょうか。

イギリスの研究者ティエリーとウーは2007年、中国語と英語のバイリンガルに、英単語のペアの意味が関連しているかを判断してもらいました。実は、半分のペアには中国語に訳すと同じ漢字が含まれるという隠れた仕掛けがありました。

本人たちは仕掛けに気づかず、成績にも差は出ませんでした。ところが脳波には、中国語の訳が無意識に動いた痕跡がはっきり出ていたのです。英語だけで考えているつもりでも、母語は裏で静かに働いていました。

これは母語が英語の「邪魔」をしているというより、脳が持っているすべての言語知識を、自然に総動員している姿だと考えられます。

05まとめ

「英語脳」は、英語専用の新しい脳ではありません。母語と同じ言語の回路が、英語にも慣れて効率よく働けるようになった状態、と言うのが正確です。

そして上級者の頭の中でも、母語はこっそり働いている。日本語を敵視せず、同じ脳を英語にも慣らしていく——それが脳科学から見た近道です。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerIs there a special 'English brain'? 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

Is there a special 'English brain'? A 1997 study in Nature found that in people who learned a second language as adults, the activity for their first and second languages was centered in slightly different places.

However, later research showed a different picture. A 2005 review concluded that a second language mostly uses the same network as the first language, and that extra areas work mainly when proficiency is low or switching languages is difficult. In Japan, a study found that 19-year-olds with higher English skills showed less activity in the left frontal lobe than 13-year-olds. This suggests that the brain becomes more efficient as learners improve.

107 words ・ CEFR B1

和訳を見る

特別な「英語脳」はあるのでしょうか。Nature誌に掲載された1997年の研究では、大人になってから第二言語を学んだ人では、母語と第二言語の活動の中心が少しずれていることがわかりました。

しかし、その後の研究は違った姿を示しました。2005年のレビューは、第二言語はおもに母語と同じネットワークを使っており、追加の領域が働くのは、おもに熟達度が低いときや言語の切り替えが難しいときだと結論づけました。日本では、英語力の高い19歳のほうが、13歳よりも左前頭葉の活動が低いことを示した研究がありました。これは、学習者が上達するにつれて脳がより効率的になることを示唆しています。

4択リーディングクイズ

Q1. What did the 1997 study find in people who learned a second language as adults?

Q2. According to the 2005 review, when do extra brain areas work?

Q3. What does the study of 13- and 19-year-olds suggest?

重要単語

  • second languageB1
    名詞(句)第二言語English is a second language for many people in Japan. 略して L2。厳密には、英語を日常で使わない環境で学ぶ場合は foreign language(外国語)と区別されることもある。
  • neural networkC1
    名詞(句)神経ネットワークThe same neural network handles both languages. neural は neuron(神経細胞)の形容詞。AI の「ニューラルネットワーク」の語源でもある。
  • unconsciousB2
    形容詞無意識のUnconscious translation happened in their brains. 「意識を失った」の意味もある。subconscious(潜在意識の)とほぼ同義で使われることも。
  • activationC1
    名詞活性化・脳の活動Activation went down as proficiency went up. activate(活性化させる)の名詞形。脳科学系の長文の頻出語。
  • efficientB2
    形容詞効率的なPractice makes your brain more efficient. energy-efficient(省エネの)など複合語でもよく出る。effective(効果的な)との区別に注意。
  • overlapB2
    動詞・名詞重なる/重なりThe brain areas for English and Japanese overlap. over(上に)+lap(重ねる)。overlap with ~「~と重なる」。
  • by-productC1
    名詞副産物The translation may be just a by-product. 本来の目的ではないのに生じるもの。side effect(副作用)と並んで長文で出る。

動画でもっと知る

4コマでわかる

「英語脳」は存在する? 脳科学で調べたら、上級者の頭の中でも母語がこっそり働いていたの4コマ漫画
「英語脳を作れ」とよく言われる。でも脳科学の答えは「英語専用の脳ができるわけではない」。英語も母語とほぼ同じ回路を使い、上達すると効率的に働く。しかも上級者でも、英単語を読むと母語の訳が無意識に動いていた。

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出典・参考文献(4件)タップで表示
  1. Kim et al. (1997) Distinct cortical areas associated with native and second languages, Naturedoi.org
  2. Perani & Abutalebi (2005) The neural basis of first and second language processing, Current Opinion in Neurobiologydoi.org
  3. Tatsuno & Sakai (2005) Language-Related Activations in the Left Prefrontal Regions Are Differentially Modulated by Age, Proficiency, and Task Demands, The Journal of Neurosciencedoi.org
  4. Thierry & Wu (2007) Brain potentials reveal unconscious translation during foreign-language comprehension, PNASdoi.org