誰にも読めない本「ヴォイニッチ手稿」、統計で調べたら"ただのデタラメ"ではなさそうだった

読む前に予想してみよう!
ヴォイニッチ手稿は、すでに専門家によって解読されている
「解読した」という主張は何度も出ているが、専門家に認められたものはまだない。
- 対象
- ヴォイニッチ手稿(イェール大学バイネキ図書館所蔵)
- 規模
- 写本1冊
- 研究の種類
- 統計・情報理論・古文書学による分析
- 確かさ
- ★★☆☆☆
600年前の羊皮紙に、未知の文字でびっしり書かれた本。まだ誰も読めないが、統計分析では「本物の言語に近い構造がある」という結果が出ている。
ひとことで言うと世界一なぞの本は、まだ読めない。でも中身はでたらめじゃないかも。
見たことのない植物の絵。星の図。そして、どの言語とも一致しない文字でびっしり埋め尽くされたページ――。
アメリカ・イェール大学の図書館に保管されているヴォイニッチ手稿は、「世界でいちばん謎めいた本」と呼ばれています。100年以上、暗号の専門家や言語学者が挑んできましたが、いまだに1文も確実には読めていません。
でも、科学者たちは「読めない本」から、少しずつ手がかりを引き出しています。
01手稿の「わかっていること」
名前の由来は、1912年にこの本を手に入れた古書商ウィルフリッド・ヴォイニッチ。それ以前には、16世紀末〜17世紀に神聖ローマ皇帝ルドルフ2世の周辺にあったと伝えられるなど、持ち主の歴史がかなりたどれます。
材料の分析も進んでいます。羊皮紙・インク・顔料は15世紀前半のものと考えられ、羊皮紙の放射性炭素年代は1404〜1438年ごろとされます。つまり、「20世紀にヴォイニッチ本人がでっちあげた」という説は、ほぼ否定されました。

02統計で見ると「言語っぽい」
読めなくても、単語の出方や並び方は数えられます。
また、よく使う単語ほど何倍も多く出てくる「ジップの法則」に近いパターンも、昔から知られています。
03一方で「普通の言語と違う」点も
言語学者ボーエンとリンデマンは2021年のレビューで、ヴォイニッチ手稿を自然言語として扱う根拠を整理する一方、奇妙な特徴も指摘しました。
たとえば、次に来る文字がかなり予測しやすいこと。普通の言語より文字の並びの自由度が低く、同じような単語が何度もくり返されます。
ここから、「文字を音に対応させた普通の言語ではなく、何らかのルールで書き換えた(暗号化した)言語では?」「母音を省くような特殊な書き方では?」といった仮説が生まれています。
04どんでん返し:それでも「でっちあげ説」は残る
英国の研究者ラグは2004年、穴をあけたカードを使う16世紀の暗号技術を応用すれば、言語っぽい無意味な文字列を大量に作れることを示しました。統計的な特徴だけでは、「本物の言語」と「巧妙なでっちあげ」を完全には区別できない、という反論です。
さらに、古文書学者デイヴィスは2020年、文字の書きぐせを細かく比べ、複数の書き手(論文では5人)が関わっていた可能性を示しました。手稿が1人のいたずらではなく、チームで作られたなら、何のために? という新しい謎も生まれています。
05まとめ
- ヴォイニッチ手稿は15世紀前半の羊皮紙に、未知の文字で書かれた本
- 統計分析では、単語の分布に本物の言語に近い構造がある
- 一方で文字の並びは予測しやすすぎるなど、普通の言語と違う特徴もある
- 「解読した」という主張は、まだ1つも認められていない
読めないからこそ、数学・言語学・歴史学が手を組む。600年前の謎は、学問の「総合格闘技」の舞台になっているのです。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerKept at Yale University, the Voynich Manuscript is often called the world's most mysterious book.
音声
4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
The Voynich Manuscript is a very old book in a library at Yale University. It has pictures of strange plants and stars. It is written in letters that nobody knows. For more than 100 years, experts have tried to read it, but no one can.
Scientists tested the old animal-skin pages. They come from the early 1400s. Studies also show that the words follow patterns like a real language.
69 words ・ CEFR A2
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ヴォイニッチ手稿は、イェール大学の図書館にあるとても古い本です。そこには奇妙な植物や星の絵があります。誰も知らない文字で書かれています。100年以上にわたって専門家が読もうとしてきましたが、誰も読めません。
科学者たちは古い動物の皮でできたページを調べました。それは1400年代前半のものです。研究では、単語が本物の言語のようなパターンに従っていることも示されています。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
誰も読めない古い本「ヴォイニッチ手稿」が全体のテーマなので C。
Q2. When were the pages of the book made?
They come from the early 1400s. とあるので A。100年以上というのは読もうとしてきた期間。
Q3. In this passage, "patterns" means ...
pattern は「(くり返し見られる)規則性・型」。単語の出方の規則性のことなので B。
Kept at Yale University, the Voynich Manuscript is often called the world's most mysterious book. It is filled with drawings of unknown plants and stars, and its text is written in a script that matches no known alphabet. Tests show that the parchment dates from around 1404 to 1438, so the idea that the book seller Wilfrid Voynich created it himself in the twentieth century is almost certainly wrong.
Although no one can read it, researchers can still count its words. In 2013, a study led by Montemurro found that some words appear mainly in certain sections, such as the plant or star pages, just as words cluster around topics in real languages. This suggests the book may contain a genuine message.
122 words ・ CEFR B1
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イェール大学に保管されているヴォイニッチ手稿は、しばしば世界で最も謎めいた本と呼ばれます。未知の植物や星の絵で埋め尽くされ、文章はどの既知のアルファベットとも一致しない文字で書かれています。検査によると羊皮紙は1404年〜1438年ごろのものなので、古書商ウィルフリッド・ヴォイニッチが20世紀に自分で作ったという説は、ほぼ確実に誤りです。
誰も読めないとはいえ、研究者は単語を数えることはできます。2013年、モンテムッロが率いた研究では、本物の言語で単語が話題ごとにかたまって現れるのと同じように、一部の単語が植物や星のページなど特定の章に主に現れることがわかりました。これは、この本に本当のメッセージが含まれている可能性を示しています。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the main idea of the passage?
読めないが、単語の分布から本物のメッセージを含む可能性が示されていることが要点なので D。
Q2. Why is the idea that Voynich created the book himself almost certainly wrong?
the parchment dates from around 1404 to 1438, so ... is almost certainly wrong とあるので B。
Q3. What does the Montemurro study suggest about the words in the book?
一部の単語が植物や星のページなど特定の章に集中していた=絵の話題と対応している、と読み取れるので A。
To be accepted, a decipherment of the Voynich Manuscript would have to work across the whole text and pass expert review. After more than a century of effort by cryptographers and linguists, nobody has reliably read even one sentence. A few facts are solid.
Radiocarbon dating places its parchment between about 1404 and 1438, which largely rules out the theory that its twentieth-century owner forged it. Statistics have added more. In 2013, Montemurro and colleagues used information theory to show that certain words cluster in particular sections and match the illustrations, a pattern typical of meaningful text.
The word frequencies also resemble Zipf's law. Other measurements pull the opposite way. In a 2021 review, Bowern and Lindemann noted that the next character is unusually easy to predict, and some researchers have taken this as a sign of an encoded language or an unusual writing system.
In 2004, Rugg showed that a card-and-grid method available in the sixteenth century could generate language-like nonsense. If a hoaxer could produce such patterns, statistics alone cannot tell a real language from a clever fake. Then there is the handwriting. Davis's 2020 analysis of it suggests that five different scribes wrote the pages.
198 words ・ CEFR B2
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ヴォイニッチ手稿の解読が認められるには、文章全体に通用し、専門家の審査を通る必要があります。暗号研究者や言語学者が100年以上努力してきましたが、確実に読めた文はまだ1つもありません。確かな事実もいくつかあります。
放射性炭素年代測定によって羊皮紙は約1404年〜1438年のものとされ、20世紀の所有者が偽造したという説はほぼ否定されました。統計からわかったこともあります。2013年、モンテムッロらは情報理論を用いて、特定の単語が特定の章にかたまって現れ、挿絵と対応していることを示しました。これは意味のある文章に典型的なパターンです。
単語の頻度もジップの法則に似ています。一方で、逆の方向を指す測定結果もあります。2021年のレビューでボーエンとリンデマンは、次に来る文字が異常に予測しやすいことを指摘しました。
これを、暗号化された言語や特殊な書記体系のしるしと考える研究者もいます。2004年、ラグは16世紀にも使えたカードと格子を用いる方法で、言語のように見える無意味な文字列を作れることを示しました。でっちあげる人がこうしたパターンを作れるのなら、統計だけでは本物の言語と巧妙な偽物を見分けられません。さらに筆跡の問題もあります。デイヴィスによる2020年の筆跡分析は、5人の異なる書き手がページを書いたことを示唆しています。
4択リーディングクイズ
Q1. Which statement best summarizes the passage?
言語らしい統計的特徴がある一方、逆の方向を指す証拠もあり、まだ1文も読めていないので B。
Q2. What did Rugg's 2004 study demonstrate?
a card-and-grid method ... could generate language-like nonsense とあるので D。5人の書き手はデイヴィスの研究。
Q3. What does the author say would be needed to accept a claimed decipherment?
第1文 a decipherment ... would have to work across the whole text and pass expert review とあるので A。
重要単語
- manuscriptB2名詞写本・手書きの原稿The manuscript is kept in a university library.
manu-(手)+script(書かれたもの)。manual(手の)、manufacture と同語源。 - decipherC1動詞(暗号などを)解読するNobody has been able to decipher the text.
de-(外す)+cipher(暗号)。名詞は decipherment。読みにくい字を「判読する」にも使う。 - hoaxC1名詞でっち上げ・いたずらSome people think the book is a hoax.
a hoax call「いたずら電話」。fake よりも「人をだます企て」のニュアンスが強い。 - parchmentC1名詞羊皮紙The parchment was dated to the 15th century.
動物の皮を薄く加工した書写材料。古代都市ペルガモンが名の由来とされる。 - scriptB2名詞文字体系・台本The script does not match any known alphabet.
「台本」の意味が有名だが、学術文では「文字・書記体系」の意味でよく出る。 - statisticalB2形容詞統計的なStatistical tests can reveal hidden patterns.
名詞 statistics(統計・統計学)。statistically significant「統計的に有意な」は研究紹介の頻出表現。
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- The Beinecke Cipher (Voynich) Manuscript(イェール大学バイネキ稀覯本・写本図書館)beinecke.library.yale.edu
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15世紀の羊皮紙に未知の文字で書かれた「ヴォイニッチ手稿」。100年以上だれも読めないのに、単語の並びを情報理論で調べたら本物の言語に近い構造があったらしい。
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出典・参考文献(4件)タップで表示
- Montemurro & Zanette (2013) Keywords and Co-Occurrence Patterns in the Voynich Manuscript: An Information-Theoretic Analysis, PLoS ONEdoi.org
- Bowern & Lindemann (2021) The Linguistics of the Voynich Manuscript, Annual Review of Linguisticsdoi.org
- Davis (2020) How Many Glyphs and How Many Scribes? Digital Paleography and the Voynich Manuscript, Manuscript Studiesdoi.org
- Rugg (2004) An Elegant Hoax? A Possible Solution to the Voynich Manuscript, Cryptologiadoi.org
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。












