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1518年、街の人々が何日も踊り続けた「ダンシング・マニア」。呪いでも毒でもない、有力な説明とは

1518年、街の人々が何日も踊り続けた「ダンシング・マニア」。呪いでも毒でもない、有力な説明とは

読む前に予想してみよう!

1518年の「踊りの流行」で、市当局は踊りをやめさせるどころか、楽団や舞台を用意した

研究カード(どんな研究?)
対象
1518年ストラスブールの記録
規模
数十〜最大400人規模とされる
研究の種類
歴史資料の分析・レビュー
確かさ
★★☆☆☆
3秒でわかる

1518年ストラスブールで、数十〜数百人が止まらずに踊り続けた記録がある。麦角中毒説より、飢饉と信仰が生んだ「集団心因性」の反応とみる説が有力。

ひとことで言うと昔、たくさんの人が止まらず踊った事件がある。原因は心と社会のストレスかも。

もくじ
  1. 「もっと踊らせれば治る」という驚きの対策
  2. 犯人は「カビ毒」? 麦角中毒説の弱点
  3. 本命は「飢饉」と「呪いへの信仰」
  4. 「集団心因性疾患」は今も起きている
  5. どんでん返し:本当に「死者が出た」のか?
  6. まとめ

1518年の夏、神聖ローマ帝国の都市ストラスブール(現在のフランス東部)で、ひとりの女性が通りで踊り始めました。

そして、止まらなかった。数日のうちに踊る人は増え、記録によっては数十人から最大400人ほどが、何日も、何週間も踊り続けたとされています。

ホラー映画のようですが、これは複数の年代記や市の記録に残る実際の出来事です。いったい何が起きていたのでしょうか。科学と歴史学の目で、落ち着いて読み解いてみます。

01「もっと踊らせれば治る」という驚きの対策

当時の医師たちは、これを「血が熱くなりすぎた病気」と考えました。そこで市当局がとった対策が驚きです。

なんと、ホールを開放し、木の舞台を作り、楽団を雇ったのです。踊り切らせれば熱が冷めて治る、という考えでした。

もちろん、逆効果でした。音楽と見物人に囲まれ、踊る人はさらに増えたと伝えられています。やがて当局は方針を変え、踊りや音楽を禁止し、踊る人々を山あいの聖ウィトゥス(聖ヴァイト)の礼拝所へ連れて行きました。

当局は「踊り切れば治る」と考え、舞台と楽団まで用意したと記録されている
当局は「踊り切れば治る」と考え、舞台と楽団まで用意したと記録されている

02犯人は「カビ毒」? 麦角中毒説の弱点

よく紹介される説明が、麦角(ばっかく)中毒です。ライ麦などに生えるカビの一種が作る物質には、幻覚やけいれんを起こす成分が含まれます。

ただ、医学史家ジョン・ウォーラーは、この説に疑問を投げかけています。麦角中毒は手足の血のめぐりを悪くし、激しいけいれんを起こします。そんな状態で、何日もリズムよく踊り続けるのは難しいというのです。

03本命は「飢饉」と「呪いへの信仰」

ウォーラーが注目したのは、当時の社会の状態です。

ストラスブール周辺では、その数年前から凶作と飢饉、さらに天然痘や梅毒などの病気が続いていました。人々は極度の不安と疲れの中にいたのです。

そしてこの地域には、「聖ウィトゥスを怒らせると、踊りの呪いをかけられる」という言い伝えがありました。

ポイントは、心と社会が作り出した反応でも、体は本当に限界まで動いてしまうということです。

04「集団心因性疾患」は今も起きている

研究者バーソロミューとウェズリーは、歴史上の集団心因性疾患を整理し、時代によって症状の形が変わることを示しました。

1900年以前は、踊りやけいれんのような体の動きが中心でした。20世紀以降は、「変なにおいがした」「食中毒らしい」といったきっかけで不安にもとづく症状が一斉に広がるタイプが目立つといいます。

つまり、1518年の人々が特別だったわけではありません。不安とうわさがそろえば、現代の学校や職場でも似たことは起こりうるのです。

05どんでん返し:本当に「死者が出た」のか?

この事件には、まだ謎が残ります。「踊りすぎで毎日何人も死んだ」という有名な話は、後の時代の記録に基づく部分があり、同時代の公的記録でどこまで確認できるかは議論があります。

また、500年前の出来事なので、人々の脳や体を直接調べることはできません。集団心因性という説明も、「最もつじつまが合う仮説」にとどまります。

06まとめ

  • 1518年のストラスブールで、多くの人が何日も踊り続けたという記録がある
  • 当局は「踊れば治る」と舞台や楽団を用意したが、逆効果だった
  • カビ毒説は弱く、飢饉・病気のストレス+「踊りの呪い」への信仰による集団心因性疾患という説が有力
  • 人数や死者数など、史料には不確かな部分も残る

「心が作る病気」は気のせいではありません。人間の脳は、信じていることを体で本当に表現してしまうほど強力なのです。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerIn 1518, a woman in Strasbourg started dancing in the street and could not stop. 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

In 1518, a woman in Strasbourg started dancing in the street and could not stop. Within days, dozens of others joined her, and some records say up to 400 people were affected. Doctors believed the dancers had overheated blood, so the city opened halls, built a stage and hired musicians, which only made the problem spread.

Some people blame a toxic fungus that grows on rye, but the medical historian John Waller points out that this poisoning causes severe spasms, which would make dancing for days very difficult. Instead, he argues that years of famine and disease left people extremely anxious. Because they also believed that Saint Vitus could punish people with a dancing curse, many may have fallen into a trance and danced together.

125 words ・ CEFR B1

和訳を見る

1518年、ストラスブールでひとりの女性が通りで踊り始め、止まれなくなりました。数日のうちに何十人もがそれに加わり、記録によっては最大400人が巻き込まれたとされています。医師たちは踊る人の血が熱くなりすぎていると考えたので、市はホールを開放し、舞台を作り、楽団を雇いましたが、それは問題を広げただけでした。

ライ麦に生えるカビ毒のせいだとする人もいますが、医学史家のジョン・ウォーラーは、この中毒は激しいけいれんを起こすため、何日も踊り続けるのはとても難しいはずだと指摘しています。代わりに彼は、何年も続いた飢饉と病気が人々を極度の不安に陥れたと主張します。さらに人々は聖ウィトゥスが踊りの呪いで罰を与えると信じていたため、多くの人がトランス状態に陥り、一緒に踊ったのかもしれません。

4択リーディングクイズ

Q1. What is the main purpose of the passage?

Q2. Why does John Waller doubt the fungus theory?

Q3. What can we infer about the city's plan to provide music and a stage?

重要単語

  • epidemicB2
    名詞流行(病気などの大流行)The town suffered a strange epidemic of dancing. epi-(上に)+demos(人々)=人々の上に広がるもの。pandemic は「世界的大流行」。
  • mass psychogenic illnessC1
    名詞(句)集団心因性疾患Mass psychogenic illness can spread through fear and belief. psycho(心)+-genic(~から生じる)。mass は「集団の」。
  • famineB2
    名詞飢饉Years of famine left people weak and anxious. famish(飢えさせる)と同語源。hunger より大規模な食料不足を指す。
  • chronicleC1
    名詞年代記(出来事の記録)Local chronicles describe the event in detail. chrono-(時間)が語源。chronic(慢性の)、chronological(年代順の)と仲間。
  • tranceC1
    名詞トランス状態・意識がぼんやりした状態Some dancers seemed to be in a trance. fall into a trance「トランス状態に陥る」の形で覚える。
  • exhaustionB2
    名詞極度の疲労Several people collapsed from exhaustion. exhaust(使い果たす)の名詞形。collapse from exhaustion「疲労で倒れる」は定番。

4コマでわかる

1518年、街の人々が何日も踊り続けた「ダンシング・マニア」。呪いでも毒でもない、有力な説明とはの4コマ漫画
1518年のフランス・ストラスブールで、人々が何日も踊り続けて止まらなくなる事件が記録されている。しかも当局は「もっと踊らせれば治る」と舞台と楽団まで用意したらしい。正体は毒?呪い?歴史学と医学の答え。

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出典・参考文献(3件)タップで表示
  1. Waller (2009) A forgotten plague: making sense of dancing mania, The Lancetdoi.org
  2. Waller (2008) In a spin: the mysterious dancing epidemic of 1518, Endeavourdoi.org
  3. Bartholomew & Wessely (2002) Protean nature of mass sociogenic illness, British Journal of Psychiatrydoi.org