脳の中には"GPS"があった。部屋の特定の場所でだけ光る細胞と、方眼紙のような地図の細胞

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「場所細胞」や「グリッド細胞」はネズミでしか見つかっておらず、人には存在しない
てんかん手術前の患者の脳の記録などで、人でも場所や格子状のパターンに反応する細胞が報告されている。
- 対象
- ラット・てんかん手術前の患者・健康な成人
- 規模
- 数匹〜数十人
- 研究の種類
- 単一神経記録・fMRI研究
- 確かさ
- ★★★★☆
ネズミの海馬には「部屋のこの場所」で反応する場所細胞、近くの嗅内皮質には三角形の格子状に反応するグリッド細胞があった。人でも似た細胞が見つかっている。
ひとことで言うと脳には「今どこにいるか」を教える地図の細胞があるんだ!
スマホの地図アプリは、GPSで「今どこにいるか」を教えてくれます。
でも、スマホがなくても、私たちは自分の部屋の中でどこに立っているかわかるし、目を閉じても、だいたいドアの方向を指させます。それができるのは、脳の中にも"位置を知る仕組み"があるからです。
その仕組みを見つけた研究者たちは、2014年のノーベル生理学・医学賞を受賞しました。
01部屋の「この場所」でだけ反応する細胞
オキーフさんはこれを「場所細胞」と名づけました。たくさんの場所細胞がそれぞれ違う場所を担当することで、海馬の中に「この部屋の地図」ができていると考えたのです。
02床に"方眼紙"を敷いたような細胞
それから30年以上たった2005年、ノルウェーのモーザー(Moser)夫妻らのチームが、さらに驚く細胞を見つけました。
場所は、海馬のすぐ近くにある嗅内皮質(きゅうないひしつ)。そこには、ラットが部屋の中を動き回ると、いくつもの場所で規則正しく反応する細胞がありました。反応する点を床に書き込んでいくと、正三角形をすき間なく並べた格子の頂点の位置になっていたのです。
この細胞は「グリッド細胞(格子細胞)」と名づけられました。まるで床に方眼紙を敷いて座標を測っているかのようです。

032つの細胞で「脳内GPS」
研究者たちは、こう考えています。
- グリッド細胞:方眼のような座標で、どれだけ・どの方向に動いたかを計算する
- 場所細胞:その情報をもとに「ここは〇〇の場所だ」と特定の場所を表す
ほかにも、頭がどの方向を向いているかで反応する細胞や、壁の近くで反応する細胞なども見つかっています。こうした細胞のチームワークで、脳は自分の位置を把握しているのです。2014年、オキーフさんとモーザー夫妻は「脳内の位置決定システムを作る細胞の発見」でノーベル賞を受けました。
04人の脳にもあった?
「でも、それはネズミの話でしょ?」——その疑問に答える研究も進んでいます。
- 2003年、てんかんの手術前に脳に電極を入れた患者さんが、パソコンの中の仮想の街でタクシー運転手になって移動するゲームをした。すると海馬に、街の特定の場所で反応する細胞が見つかった
- 2010年、fMRIを使った研究で、人が仮想空間を歩き回るときに、グリッド細胞があると予測される特有の信号が嗅内皮質などで見つかった
- 2013年には、患者さんの脳の記録から、格子状のパターンで反応する細胞が直接報告された
05どんでん返し:「GPS」は、たとえにすぎない
ただし「脳内GPS」という言葉には注意も必要です。
本物のGPSは、宇宙の人工衛星からの信号で絶対的な位置を測ります。脳の仕組みは、自分の動きの積み重ねと目印を組み合わせて位置を推定するもので、目印がない暗闇では少しずつズレていくこともあります。
また、人の研究の多くは画面の中の仮想空間での実験で、記録できるのも手術が必要な患者さんに限られます。ネズミで見つかった仕組みが、人でもまったく同じ形で働いているかは、まだ研究が続いています。
06まとめ
脳の中には、部屋の特定の場所で反応する細胞と、方眼紙のように空間に座標を振る細胞がありました。ネズミで見つかったこの仕組みは、人の脳でも似た形で働いているようです。
今日、駅から家まで歩くとき、あなたの頭の中では、たくさんの"地図の細胞"が次々にバトンをつないでいるのかもしれません。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerEven without GPS, we can sense where we are in a room.
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4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
How do we know where we are without a phone map? In 1971, a scientist in London found brain cells in rats that became active only in one part of a room. He called them place cells.
In 2005, scientists in Norway found grid cells. They fire at many points that make a pattern of triangles on the floor. Some of these scientists won the Nobel Prize in 2014.
69 words ・ CEFR A2
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スマホの地図がなくても、私たちはどうやって自分がどこにいるかわかるのでしょうか。1971年、ロンドンのある科学者は、ラットの脳で、部屋のある一部にいるときだけ活動する細胞を見つけました。彼はそれを場所細胞と呼びました。
2005年、ノルウェーの科学者たちはグリッド細胞を見つけました。この細胞は、床の上に三角形の模様を作る多くの点で反応します。これらの科学者たちのうち何人かは2014年にノーベル賞を受賞しました。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
自分の位置を知るための脳の細胞(場所細胞・グリッド細胞)が話題なので B。
Q2. When were grid cells found?
In 2005, scientists in Norway found grid cells. とあるので C。2014年はノーベル賞の年。
Q3. In this passage, "pattern" means ...
pattern は「模様・規則的な形」。三角形が並んだ模様という意味なので A。
Even without GPS, we can sense where we are in a room. In 1971, O'Keefe and a colleague in London recorded cells in the hippocampus of rats moving freely. Some cells fired only when a rat was in a particular spot, and O'Keefe called them place cells. Over 30 years later, a Norwegian team led by the Mosers found grid cells in a nearby area.
When the spots where they fired were marked on the floor, they formed a grid of triangles, like graph paper. Grid cells seem to measure distance and direction, while place cells mark specific locations. Similar cells have been found in humans who played navigation games before brain surgery.
113 words ・ CEFR B1
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GPSがなくても、私たちは部屋の中で自分がどこにいるかを感じ取ることができます。1971年、ロンドンのオキーフと同僚は、自由に動き回るラットの海馬の細胞を記録しました。ある細胞はラットが特定の場所にいるときだけ反応し、オキーフはそれを場所細胞と呼びました。30年以上たってから、モーザー夫妻が率いるノルウェーのチームが、近くの領域でグリッド細胞を見つけました。
その細胞が反応した場所を床に書き込むと、方眼紙のように三角形の格子ができました。グリッド細胞は距離と方向を測り、場所細胞は特定の位置を示しているようです。脳の手術前にナビゲーションのゲームをした人たちでも、似た細胞が見つかっています。
4択リーディングクイズ
Q1. When did place cells fire?
Some cells fired only when a rat was in a particular spot とあるので A。
Q2. What pattern did the firing spots of grid cells form?
they formed a grid of triangles, like graph paper とあるので D。
Q3. How were similar cells found in humans?
humans who played navigation games before brain surgery とあるので C。
Even with our eyes closed, we can usually point toward the door of a familiar room, because the brain maintains its own positioning system. Its discovery began in 1971, when O'Keefe and Dostrovsky recorded hippocampal neurons in freely moving rats and found cells that fired only when the animal occupied a particular location; O'Keefe named them place cells. In 2005, a Norwegian team led by the Mosers, a husband and wife, identified grid cells in the neighboring entorhinal cortex. Each fires at multiple locations that form a lattice of equilateral triangles, as if the floor were covered with graph paper.
Grid cells are thought to calculate distance and direction from self-motion, while place cells represent specific positions; other cells encode head direction or nearby walls. O'Keefe and the Mosers shared the 2014 Nobel Prize. Evidence in humans has followed: epilepsy patients navigating a virtual town revealed place-responsive cells, fMRI detected grid-like signals, and direct recordings identified grid-like neurons. But the "GPS" label is only a metaphor, since the brain estimates position from movement and landmarks and can drift in darkness, and most human data come from virtual environments and surgical patients.
191 words ・ CEFR B2
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目を閉じていても、私たちはふつう、慣れた部屋のドアの方向を指さすことができます。脳が独自の位置決定システムを持っているからです。その発見は1971年に始まりました。オキーフとドストロフスキーは、自由に動き回るラットの海馬の神経細胞を記録し、動物が特定の場所にいるときだけ反応する細胞を見つけたのです。オキーフはそれを場所細胞と名づけました。2005年、モーザー夫妻が率いるノルウェーのチームが、隣接する嗅内皮質でグリッド細胞を特定しました。それぞれの細胞は、まるで床に方眼紙が敷かれているかのように、正三角形の格子を作る複数の場所で反応します。グリッド細胞は自分の動きから距離と方向を計算し、場所細胞は特定の位置を表すと考えられています。
ほかにも、頭の向きや近くの壁を表す細胞があります。オキーフとモーザー夫妻は2014年のノーベル賞を共同受賞しました。人での証拠も続いています。仮想の街を移動したてんかん患者からは場所に反応する細胞が見つかり、fMRIではグリッド様の信号が検出され、直接の記録ではグリッド様の神経細胞が特定されました。しかし「GPS」という呼び名はたとえにすぎません。脳は動きと目印から位置を推定しており、暗闇ではずれていくことがあるからです。また、人のデータの多くは仮想環境と手術を受ける患者から得られたものです。
4択リーディングクイズ
Q1. Where were grid cells found?
identified grid cells in the neighboring entorhinal cortex とあるので B。場所細胞は海馬。
Q2. What are grid cells thought to do?
Grid cells are thought to calculate distance and direction from self-motion とあるので C。衛星信号は本物の GPS の話。
Q3. Why does the author say the "GPS" label is only a metaphor?
since the brain estimates position from movement and landmarks and can drift in darkness とあるので A。
重要単語
- place cellC1名詞(句)場所細胞A place cell fires in one part of the room.
海馬にある細胞。O'Keefe らが1971年に発見。 - grid cellC1名詞(句)グリッド細胞(格子細胞)Grid cells create a map like graph paper.
grid は「格子・碁盤の目」。電力網(the power grid)の意味でも頻出。 - navigationB2名詞道を見つけて進むことRats use their brains for navigation.
動詞 navigate。spatial navigation「空間ナビゲーション」は脳科学の定番テーマ。 - entorhinal cortexC1名詞(句)嗅内皮質The entorhinal cortex is next to the hippocampus.
ento-(内側)+rhinal(鼻の)。嗅覚系に近い位置にあることから。 - virtual realityB2名詞(句)仮想現実(VR)Participants explored a town in virtual reality.
virtual は「事実上の・仮想の」。virtually は「事実上・ほぼ」の意味で入試頻出。 - metaphorB2名詞比喩、たとえ"Brain GPS" is only a metaphor.
meta-(越えて)+phor(運ぶ)。simile(直喩:like を使う)との違いが入試で問われる。
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ネズミが部屋の「ある場所」に来たときだけ反応する細胞が、脳の海馬にあった。さらに、部屋の床に三角形の方眼を敷いたような位置で反応する細胞まで見つかり、2014年のノーベル賞に。人の脳でも似た細胞が記録されているらしい。
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出典・参考文献(5件)タップで表示
- O'Keefe & Dostrovsky (1971) The hippocampus as a spatial map. Preliminary evidence from unit activity in the freely-moving rat, Brain Researchdoi.org
- Hafting et al. (2005) Microstructure of a spatial map in the entorhinal cortex, Naturedoi.org
- Ekstrom et al. (2003) Cellular networks underlying human spatial navigation, Naturedoi.org
- Doeller, Barry & Burgess (2010) Evidence for grid cells in a human memory network, Naturedoi.org
- Jacobs et al. (2013) Direct recordings of grid-like neuronal activity in human spatial navigation, Nature Neurosciencedoi.org
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。












