脳と心理ビミョー

左右の脳をつなぐ"橋"を切ったら、心は2つになる? 分離脳研究60年の答え

左右の脳をつなぐ"橋"を切ったら、心は2つになる? 分離脳研究60年の答え

読む前に予想してみよう!

脳梁を切った人の左の脳は、自分の左手がした行動に"もっともらしい理由"を作り話することがある

研究カード(どんな研究?)
対象
脳梁を切断した患者
規模
数人規模の症例研究の積み重ね
研究の種類
症例研究
確かさ
★★☆☆☆
3秒でわかる

左右の脳をつなぐ脳梁を切った人では、左右が別々に情報を処理する。でも「心が2人になる」とまでは言えない、という研究も。

ひとことで言うと右の脳と左の脳が話せなくなっても、「自分」は1人のままかも。

もくじ
  1. 右の脳は「見えた」のに、口では「見えない」
  2. 左の脳は"それっぽい言い訳"を作る
  3. では、心は2つになったのか?
  4. まとめ

私たちの脳は、左右2つの半球に分かれています。そのあいだを結ぶのが、約2億本ともいわれる神経線維の太い束、脳梁(のうりょう)です。

もし、この"橋"を切ってしまったら?

これは空想の話ではありません。1960年代のアメリカでは、薬で抑えられない重いてんかんの治療として、実際に脳梁を切る手術が行われました。発作が脳の片側からもう片側へ広がるのを防ぐためです。

01右の脳は「見えた」のに、口では「見えない」

手術を受けた人たちは、日常生活ではほとんど変わった様子がありませんでした。ところが、神経科学者スペリーと大学院生ガザニガが特別な実験をすると、驚くべきことが起きました。

右の脳は、ちゃんと「見て」いた。ただ、その情報が左の脳に渡らず、言葉にできなかったのです。この一連の研究でスペリーは1981年のノーベル生理学・医学賞を受賞しました(他の2人と共同受賞)。

02左の脳は"それっぽい言い訳"を作る

ガザニガはさらに有名な実験を行います。左半球にはニワトリの足、右半球には雪景色を見せ、それぞれに合う絵を選ばせました。

右手はニワトリを、左手は雪かき用のシャベルを選びます。理由を聞かれた患者は、こう説明しました。「ニワトリの足だからニワトリ。それで、ニワトリ小屋の掃除にはシャベルがいるでしょう」。

左の脳は雪景色を見ていません。それでも、左手の行動にもっともらしい理由を即興で作り上げたのです。ガザニガはこの働きを「インタープリター(解釈装置)」と名づけました。

左右の脳に別々の絵を見せる、分離脳研究の古典的な実験
左右の脳に別々の絵を見せる、分離脳研究の古典的な実験

03では、心は2つになったのか?

スペリー自身は、左右の半球にそれぞれ別々の意識があるかのように見えると論じました。ここから「分離脳の人の頭の中には2人いる」という話が広まります。

しかし2017年、オランダのピント(Pinto)らが、脳梁を完全に切った2人の患者を詳しく調べ直しました。すると、左右どちらの視野に出した刺激にも、左手・右手・言葉のどの方法でも、偶然よりはるかに高い精度で答えられたのです。

一方で、「左右の視野に出した2つの刺激が同じかどうか」を比べることはできませんでした。研究チームは、知覚は分かれていても、意識する主体は1人のままではないかと結論づけています。

04まとめ

脳梁を切ると、左右の脳は別々に見て、別々に動くことがある。でも、それで「心が2つになる」のかは、60年たった今も決着していません。

確かなのは、私たちの脳が、知らないうちに自分の行動に"もっともらしい物語"をつける名人だということ。あなたが今日した選択の理由、本当にそれで合っていますか?

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerThe two halves of the brain are joined by a thick bundle of nerve fibers called the corpus callosum. 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

The two halves of the brain are joined by a thick bundle of nerve fibers called the corpus callosum. In the 1960s, some people with severe epilepsy had it cut so that seizures could not spread from one side to the other. The neuroscientist Sperry and his graduate student Gazzaniga then tested these patients.

When a picture was flashed only to the right hemisphere, patients said they saw nothing, yet their left hand chose the correct object. In another test, the left hemisphere saw a chicken foot and the right saw a snowy scene. The left hand picked a shovel, and the patient explained that it was for cleaning the chicken house. Gazzaniga called this storytelling system the "interpreter."

119 words ・ CEFR B1

和訳を見る

脳の左右の半分は、脳梁と呼ばれる神経線維の太い束でつながっています。1960年代、重いてんかんを持つ人の中には、発作が片側からもう片側へ広がらないように、脳梁を切った人たちがいました。神経科学者スペリーと大学院生ガザニガは、その後これらの患者を調べました。

右半球にだけ絵を一瞬見せると、患者は何も見えなかったと言いましたが、左手は正しい物を選びました。別の実験では、左半球にニワトリの足を、右半球に雪景色を見せました。左手はシャベルを選び、患者はそれをニワトリ小屋の掃除のためだと説明しました。ガザニガはこの「話を作る仕組み」を「インタープリター(解釈装置)」と呼びました。

4択リーディングクイズ

Q1. Why was the corpus callosum cut in some patients?

Q2. In the chicken-and-snow test, what did the left hand choose?

Q3. What does the "interpreter" probably do?

重要単語

  • hemisphereB2
    名詞(脳の)半球The left hemisphere usually controls language. hemi-(半分)+sphere(球)。地理の the Northern Hemisphere「北半球」でも頻出。
  • corpus callosumC1
    名詞(句)脳梁The corpus callosum connects the two halves of the brain. ラテン語で「硬い体」の意。入試では bundle of nerve fibers と言い換えられることが多い。
  • severC1
    動詞切断するThe surgeons severed the nerve fibers. separate と同語源。sever ties with ~「~と関係を断つ」の比喩用法も。severe(厳しい)と混同注意。
  • consciousnessB2
    名詞意識Scientists still debate what consciousness is. conscious(意識している)+-ness。lose consciousness「意識を失う」。sc の綴りに注意。
  • interpretB2
    動詞解釈するWe interpret our own actions all the time. 名詞 interpreter は「通訳者」だが、本文では「解釈装置」。interpret A as B「AをBと解釈する」。
  • seizureB2
    名詞発作The medicine reduced the number of seizures. seize(つかむ)の名詞形。「押収」の意味もある。have a seizure「発作を起こす」。

4コマでわかる

左右の脳をつなぐ"橋"を切ったら、心は2つになる? 分離脳研究60年の答えの4コマ漫画
左右の脳をつなぐケーブルを切った人に、右の脳だけに絵を見せると「何も見えない」と答えるのに、左手はちゃんとその物を選ぶ。じゃあ心は2つ? 60年続く論争、最近の研究は意外な答えを出している。

押すと「マジかリスト」に保存されます

出典・参考文献(4件)タップで表示
  1. Gazzaniga, Bogen & Sperry (1962) Some functional effects of sectioning the cerebral commissures in man, PNASdoi.org
  2. Sperry (1968) Hemisphere deconnection and unity in conscious awareness, American Psychologistdoi.org
  3. Gazzaniga (2005) Forty-five years of split-brain research and still going strong, Nature Reviews Neurosciencedoi.org
  4. Pinto et al. (2017) Split brain: divided perception but undivided consciousness, Braindoi.org