幽体離脱は脳で再現できた。電気刺激とVRゴーグルで「自分を後ろから見る」体外離脱体験の脳科学

読む前に予想してみよう!
幽体離脱は、健康な人でも実験室で似た体験を起こすことができる
背後に置いたカメラの映像をゴーグルで見ながら体に触れられると、体の外にいるような錯覚が起きた。
- 対象
- てんかん患者・健康な成人
- 規模
- 症例報告〜数十人規模の実験
- 研究の種類
- 症例研究・実験研究
- 確かさ
- ★★★☆☆
幽体離脱(体外離脱体験)は、脳の側頭頭頂接合部への電気刺激や、VRゴーグルを使った錯覚で再現できる。魂が抜けるのではなく、脳の「自分の位置」計算のズレらしい。
ひとことで言うと幽体離脱は、脳が「自分はどこにいる?」を計算しまちがえて起きる!
「寝ていたら、天井近くから自分の体を見下ろしていた」――いわゆる幽体離脱。科学では体外離脱体験(out-of-body experience)と呼ばれます。
結論から言うと、幽体離脱は脳の特定の場所を刺激したり、VRゴーグルで感覚をだましたりすることで、実験的に再現できることがわかっています。魂が体から抜け出しているのではなく、脳が「自分はいまどこにいるのか」を計算する仕組みが、一時的にズレて起きる現象だと考えられています。
01脳の一点を刺激したら「自分を上から見ている」感覚が起きた
さらに同じグループは2004年、体外離脱体験や、自分の姿が外に見える体験(自己像幻視)をした神経疾患の患者6人を詳しく調べました。すると5人で、脳の側頭頭頂接合部(そくとうとうちょうせつごうぶ、TPJ)という場所に損傷や異常が見つかりました。患者たちは「浮いている」「回転している」といった平衡感覚の異常や、手足が縮んだように感じる体験もしていました。
02幽体離脱の正体は「自分の位置」の計算ミス
私たちは普段、「自分は自分の体の中にいる」と当たり前に感じています。でも実はこれ、脳が毎瞬毎瞬つくり出している感覚です。
脳は、目から入る映像、皮膚の触覚、体の傾きや動きを感じる平衡感覚(前庭感覚)、筋肉や関節からの情報をまとめて、「自分はここにいて、こんな姿勢だ」と判断しています。側頭頭頂接合部は、そうした情報をつなぎ合わせる交差点のような場所です。
ここがうまく働かないと、視点の位置と体の位置がバラバラになり、「自分を外から見ている」感覚が生まれる――これが有力な説明です。

03健康な人でもVRで幽体離脱できた
2007年、Science 誌に2つの研究が同時に発表されました。
ひとつは、当時ロンドン大学ユニバーシティ・カレッジ(UCL)にいたエールソンの実験。参加者は頭にゴーグルをつけ、自分の2メートルほど後ろに置いたカメラの映像を見ます。実験者が参加者の胸を棒でつつきながら、同時にカメラの前(つまり映像の中の「胸があるはずの位置」)でも棒を動かすと、参加者は「自分の体の後ろに座っている」ような感覚を報告しました。映像の中でハンマーを振り下ろすと、皮膚の汗の反応(驚きの反応)まで出ました。
もうひとつは、スイス連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)のレンゲンハーガーとブランケらの実験。目の前に映し出された「自分の背中」がなでられるのを見ながら実際に背中をなでられると、参加者は自分の位置が映像の体のほうへ引き寄せられたように感じました。
つまり、目で見ている情報と体の感覚をずらすだけで、健康な人の「自分の居場所」は動いてしまうのです。
04どんでん返し:再現できた=すべて解明、ではない
ここまで読むと「幽体離脱の謎は解けた!」と思うかもしれません。でも話はそこまで単純ではありません。
電気刺激の研究はごく少数の患者での報告で、VR実験で起きるのは「体の後ろにいるような気がする」程度の感覚。臨死体験や睡眠中に語られる、鮮明で「本物そっくり」な体験と完全に同じとは言えません。また、なぜ一部の人だけが自然に体験しやすいのかも、まだよくわかっていません。
05まとめ
幽体離脱(体外離脱体験)は、脳で再現できる現象でした。電気刺激でもVRでも、「自分はここにいる」という当たり前の感覚が、意外なほどあっけなく動いてしまいます。
私たちの「自分」は体の中に最初から固定されているわけではなく、脳が毎秒つくり直している作品なのかもしれません。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerAn out-of-body experience is the feeling of seeing your own body from outside.
音声
4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
Some people say they once saw their own body from the ceiling. This is called an out-of-body experience. Scientists can now make this feeling in the lab. In 2002, doctors sent a weak electric current to one small part of a patient's brain.
The patient felt like they were looking down at their own body on the bed. Healthy people can feel something similar with VR goggles. The brain makes mistakes about where the self is.
76 words ・ CEFR A2
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天井から自分の体を見たことがある、と言う人がいます。これは体外離脱体験(幽体離脱)と呼ばれます。科学者たちは今では、この感覚を実験室で作り出すことができます。2002年、医師たちは患者の脳のある小さな部分に弱い電流を流しました。
その患者は、ベッドの上の自分の体を見下ろしているように感じました。健康な人も、VRゴーグルで似たような感覚を味わうことができます。脳は「自分がどこにいるか」をまちがえることがあるのです。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
体外離脱体験の感覚が脳で作り出せることを説明しているので B。
Q2. What did the doctors do in 2002?
doctors sent a weak electric current to one small part of a patient's brain とあるので D。
Q3. In the passage, "similar" means ...
similar は「似ている」。something similar で「似たようなもの」なので A。
An out-of-body experience is the feeling of seeing your own body from outside. In 2002, Swiss doctors were testing the brain of a patient with epilepsy before surgery. When they stimulated an area on the right side of the brain with weak electricity, the patient reported seeing their own body lying on the bed from above.
Later research pointed to a region called the temporoparietal junction, which combines information from vision, touch and the sense of balance. In 2007, two experiments showed that healthy people can have a similar illusion. Participants wore goggles that showed video from a camera behind them. When what they saw matched what they felt, they felt as if they were outside their own body.
119 words ・ CEFR B1
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体外離脱体験とは、自分の体を外から見ているように感じることです。2002年、スイスの医師たちは、てんかんの患者の脳を手術前に検査していました。脳の右側のある部分を弱い電気で刺激したところ、患者はベッドに横たわる自分の体を上から見ていると訴えました。
その後の研究では、側頭頭頂接合部と呼ばれる領域が注目されました。そこは視覚、触覚、平衡感覚からの情報をまとめる場所です。2007年には、2つの実験によって、健康な人も似たような錯覚を体験できることが示されました。参加者は、自分の後ろに置いたカメラの映像を映すゴーグルをつけました。目で見ているものと体で感じるものが一致すると、参加者は自分の体の外にいるかのように感じたのです。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the main idea of the passage?
電気刺激やVRで体外離脱体験を再現し、脳の働きとして研究できることが主旨なので C。D は健康な人の実験と矛盾する。
Q2. What does the temporoparietal junction do?
which combines information from vision, touch and the sense of balance とあるので A。
Q3. What can we infer from the 2007 experiments?
後ろのカメラの映像と体の感覚を組み合わせると「体の外にいる」と感じたので、見え方と感覚で自分の位置の感じ方が変わると推測できる。B が正解。
Out-of-body experiences, in which people feel that they are viewing their own body from outside, have long been associated with the supernatural, but neuroscience suggests a more ordinary explanation. In 2002, Swiss researchers electrically stimulated the brain of a patient being assessed before epilepsy surgery. Stimulation near the right angular gyrus led the patient to report a view of their own body in bed from above; the experience could be induced repeatedly at that site.
A 2004 study of six neurological patients with such or related experiences found damage or abnormalities in the temporoparietal junction in five of them, often accompanied by disturbances of balance. This region integrates visual, tactile, vestibular and bodily signals to determine where the self is located, and a breakdown in this integration may separate the point of view from the body. In 2007, two studies extended the idea to healthy volunteers. When participants watched video of themselves filmed from behind while being touched in synchrony with what they saw, they reported feeling located outside their physical body. That said, the stimulation evidence comes from very few patients, and laboratory illusions are far weaker than the vivid experiences reported near death or during sleep.
198 words ・ CEFR B2
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自分の体を外から見ているように感じる体外離脱体験は、長いあいだ超自然的なものと結びつけられてきましたが、神経科学はもっと身近な説明を示しています。2002年、スイスの研究者たちは、てんかん手術の前に検査を受けていた患者の脳を電気で刺激しました。右の角回付近を刺激すると、患者はベッドの上の自分の体を上から見ていると報告しました。
同じ部位への刺激で、この体験はくり返し起こせました。こうした体験や関連する体験をした神経疾患の患者6人を調べた2004年の研究では、そのうち5人の側頭頭頂接合部に損傷や異常が見つかり、平衡感覚の乱れを伴うことも多くありました。この領域は視覚、触覚、前庭感覚、体からの信号を統合して自分がどこにいるかを決めており、この統合がうまくいかないと、視点と体が切り離されてしまうのかもしれません。2007年には、2つの研究がこの考えを健康なボランティアにまで広げました。参加者が後ろから撮影された自分の映像を見ながら、見ている映像と同期して体に触れられると、自分の体の外にいるように感じると報告したのです。しかし、電気刺激の証拠はごく少数の患者から得られたものであり、実験室の錯覚は、臨死時や睡眠中に語られる鮮明な体験よりはるかに弱いものです。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
体外離脱体験が「自分の位置」を決める脳の統合の失敗から生じるという神経科学の証拠が中心なので A。
Q2. What did the 2004 study of six patients find?
found damage or abnormalities in the temporoparietal junction in five of them とあるので D。
Q3. Which limitation does the author mention in the last sentence?
the stimulation evidence comes from very few patients, and laboratory illusions are far weaker ... とあるので C。
重要単語
- out-of-body experienceB2名詞(句)体外離脱体験(幽体離脱)She described an out-of-body experience during surgery.
略して OBE。near-death experience(臨死体験、NDE)とセットで出ることが多い。 - illusionB2名詞錯覚The VR setup created a strong illusion.
optical illusion「目の錯覚」が定番。be under the illusion that ~「~だと思い違いをしている」。 - perspectiveB2名詞視点The camera changed his visual perspective.
per-(通して)+spect(見る)。from a different perspective「別の観点から」は英作文で使える。 - stimulateB2動詞刺激するDoctors stimulated a small area of the brain.
名詞は stimulation(刺激すること)と stimulus(刺激そのもの、複数形 stimuli)。stimulate the economy「景気を刺激する」。 - self-consciousnessC1名詞自己意識Bodily self-consciousness depends on many senses.
日常語では「人目を気にすること」の意味が多い。研究では bodily self-consciousness(身体的自己意識)として使われる。 - vestibularC1形容詞前庭の(平衡感覚の)Vestibular signals tell us which way is up.
vestibule(玄関ホール)から。内耳の入り口にある平衡感覚の器官を指す。乗り物酔いの説明でも登場。
4コマでわかる

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幽体離脱は脳で再現できるらしい。てんかん治療中の患者の脳の一点を電気で刺激すると「ベッドに横たわる自分を上から見ている」感覚が起きた。VRゴーグルでも健康な人に“体の外にいる感覚”を作れた。
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出典・参考文献(4件)タップで表示
- Blanke, Ortigue, Landis & Seeck (2002) Stimulating illusory own-body perceptions, Naturedoi.org
- Blanke, Landis, Spinelli & Seeck (2004) Out-of-body experience and autoscopy of neurological origin, Braindoi.org
- Ehrsson (2007) The Experimental Induction of Out-of-Body Experiences, Sciencedoi.org
- Lenggenhager, Tadi, Metzinger & Blanke (2007) Video Ergo Sum: Manipulating Bodily Self-Consciousness, Sciencedoi.org
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。










