騒がしい居酒屋でも「自分の名前」は聞こえることがある。脳の聞き分けフィルターの正体

読む前に予想してみよう!
片耳の話に集中しているとき、もう片方の耳の言葉が途中で外国語に変わっても気づかないことが多い
1950年代の実験で、無視している側の言語の変化には多くの人が気づかなかった。
- 対象
- 大学生・てんかん患者
- 規模
- 数十人規模の聴取実験+脳表電極の少数例
- 研究の種類
- 実験研究(追試あり)
- 確かさ
- ★★★★☆
雑音の中から特定の声だけを聞き取る「カクテルパーティー効果」。無視しているはずの音でも、自分の名前には約3人に1人が気づいた。
ひとことで言うとうるさい場所でも、脳は聞きたい声だけを選んで聞いている!
ガヤガヤした居酒屋。周りのテーブルの会話なんてまったく耳に入っていなかったのに、遠くの誰かがあなたの名前を口にした瞬間、ハッと振り向いてしまう。
この、雑音の中から特定の声を拾い上げる能力はカクテルパーティー効果と呼ばれています。パーティー会場のような騒がしい場所でも、目の前の相手と会話できる。当たり前のようで、実は長年コンピューターが苦戦してきた超高度な技です。
01片耳ずつ別の話を聞かせる実験
この現象に最初に科学のメスを入れたのは、イギリスの研究者でした。
つまり脳は、注意を向けていない音の「中身」はほぼスルーしているのに、声の高さのような「見た目」はチェックしているらしい、と分かったのです。
02それでも「自分の名前」は通り抜ける
ところが話はここで終わりません。数年後、別の研究者が同じような実験で、無視している側の耳に参加者自身の名前を流しました。すると、約3人に1人が自分の名前に気づいたのです(1959年)。
この実験はもともと小規模な予備的なものでしたが、1995年に米ミズーリ大のウッドとコーワンが、より厳密な条件で追試しました。結果は34.6%。ほぼ同じ「3人に1人」が再現されたのです。逆に言えば、3人に2人は自分の名前にすら気づかなかった、ということでもあります。
中身をスルーしているはずなのに、名前だけはフィルターをすり抜ける。これは脳が、無視している音もある程度はこっそり処理していて、重要な情報が来たら注意を切り替える仕組みを持っていることを示しています。

03「名前に気づく人」ほど集中が苦手?
面白いのは、名前に気づくかどうかに個人差があること。
米イリノイ大シカゴ校のコンウェイらの研究で、ワーキングメモリ(情報を一時的に頭に置いておく「脳の作業台」)の容量が小さい人ほど、無視している耳の自分の名前に気づきやすかったという結果が出ました(Psychonomic Bulletin & Review, 2001)。容量が小さいグループでは約65%が気づいたのに対し、大きいグループでは約20%でした。
一見、「名前に気づく=耳ざとくて優秀」に思えますが、裏を返すと「本来集中すべき話から注意がそれやすい」とも言えるわけです。作業台が大きい人は、目の前の課題に注意をがっちりキープできていた、という解釈です。
04脳の中で「聞きたい声」が大きくなる
最近は脳の中を直接のぞく研究も進んでいます。米カリフォルニア大サンフランシスコ校のメスガラニとチャンは、てんかんの治療のために脳の表面に電極を置いていた患者さんに協力してもらい、2人が同時に話す音声を聞いたときの、聴覚に関わる脳の部位の活動を直接記録しました(Nature, 2012)。
すると、脳の活動は注意を向けた人の声だけを強く反映していて、まるでその声だけが流れているかのようだったのです。耳には両方の声が届いているのに、脳の中では、聞きたい声のボリュームが上がっている――そんなイメージです。脳の活動から「どちらの声を聞いているか」「何と言ったか」を読み取ることもできました。ただし参加者は数人と少なく、特殊な条件での記録である点は覚えておきましょう。
05まとめ
カクテルパーティー効果は、脳が常に「聞き流し」と「聞き耳」を同時にこなしている証拠でした。
次に騒がしい場所で自分の名前が聞こえたら、思い出してください。あなたの脳は、何百もの音の中から、ずっと見張りを続けていたんです。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerAt a busy party, we can follow one conversation and ignore the others.
音声
4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
In a noisy restaurant, you can still hear your friend's voice. And if someone far away says your name, you often notice it. This is called the cocktail party effect.
In experiments, people listened to two different stories, one in each ear. They paid attention to only one story. They forgot most of the other one, but about one in three heard their own name in it.
67 words ・ CEFR A2
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騒がしいレストランでも、友だちの声は聞き取れます。そして、遠くの誰かがあなたの名前を言うと、よく気づきます。これはカクテルパーティー効果と呼ばれます。
実験で、人々は左右の耳でそれぞれ別の話を聞きました。彼らは片方の話だけに注意を向けました。もう一方の話はほとんど覚えていませんでしたが、約3人に1人はその中で自分の名前が聞こえました。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
騒がしい中でも特定の声や自分の名前を聞き取る「カクテルパーティー効果」の話なので C。
Q2. About how many people heard their own name in the other story?
about one in three heard their own name とあるので A。
Q3. In this passage, "noisy" means ...
noisy は noise(騒音)の形容詞で「騒がしい」。正解は D。
At a busy party, we can follow one conversation and ignore the others. This ability is known as the cocktail party effect. In the 1950s, a British scientist played a different message into each ear through headphones and asked people to repeat one of them. They remembered almost nothing from the ignored ear and often did not notice when it switched to a foreign language.
However, they did notice when a man's voice changed to a woman's. Later experiments showed that about one in three people noticed their own name in the ignored message. This suggests that the brain quietly processes ignored sounds and switches attention when something important appears.
110 words ・ CEFR B1
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にぎやかなパーティーでも、私たちは一つの会話についていき、ほかの会話を無視することができます。この能力はカクテルパーティー効果として知られています。1950年代、イギリスのある科学者は、ヘッドホンで左右の耳に別々のメッセージを流し、片方を復唱するよう人々に求めました。彼らは無視した耳の内容をほとんど何も覚えておらず、それが外国語に切り替わっても気づかないことがよくありました。
しかし、男性の声が女性の声に変わったときには気づきました。その後の実験で、約3人に1人が、無視していたメッセージの中の自分の名前に気づくことがわかりました。これは、脳が無視している音もこっそり処理していて、何か重要なものが現れたら注意を切り替えることを示しています。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the main idea of the passage?
脳は聞く声を選びつつ、無視した音もこっそり処理して重要な情報に反応する、という内容なので B。
Q2. What did people notice in the ignored ear?
外国語への切り替えには気づかないことが多かったが、they did notice when a man's voice changed to a woman's とあるので D。
Q3. What can we infer from the fact that people noticed their own name?
最終文 the brain quietly processes ignored sounds とあり、無視した音もある程度処理されていると推測できるので A。C は逆。
At a noisy party, most people can follow one voice and tune out the rest. Computers have long struggled to match this skill, known as the cocktail party effect. In 1953, British scientist Colin Cherry played a different message into each ear and asked participants to repeat one aloud. They recalled almost nothing from the other ear.
Many missed it when that message switched to a foreign language or to reversed speech, though they noticed physical changes, such as a male voice becoming female. A 1959 study then reported that about a third of listeners caught their own name in the ignored message. A stricter replication in 1995 confirmed the figure at 34.6 percent. In 2012, researchers took the question inside the brain, recording directly from the brain surface of a few epilepsy patients.
Auditory regions mainly represented the speaker the person was attending to, as if the other voice had been turned down. With so few patients, the result needs confirmation. Individual differences matter as well. In a 2001 study, people with smaller working memory capacity noticed their name far more often, about 65 percent versus 20 percent, probably because their attention drifted more easily from the main task.
200 words ・ CEFR B2
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騒がしいパーティーでも、たいていの人は一つの声についていき、ほかの声を聞き流すことができます。カクテルパーティー効果として知られるこの能力を、コンピューターは長年まねできずに苦労してきました。1953年、イギリスの科学者コリン・チェリーは、左右の耳に別々のメッセージを流し、参加者にその片方を声に出して復唱させました。彼らはもう一方の耳の内容をほとんど覚えていませんでした。
そちらのメッセージが外国語や逆再生に切り替わっても気づかない人が多かったのですが、男性の声が女性の声に変わるといった物理的な変化には気づきました。その後1959年の研究は、聞き手の約3分の1が無視しているほうのメッセージの中で自分の名前に気づいたと報告しました。1995年のより厳密な追試で、この数字は34.6パーセントと確認されました。2012年、研究者たちはこの問いを脳の内側へと持ち込み、少数のてんかん患者の脳の表面から直接記録しました。
聴覚に関わる領域は主にその人が注意を向けている話者を表しており、まるでもう一方の声の音量が下げられたかのようでした。調べられた患者がごく少数なので、この結果は確認が必要です。個人差も関係します。2001年の研究では、ワーキングメモリの容量が小さい人のほうが自分の名前にずっと気づきやすく(約65パーセント対20パーセント)、それはおそらく主な課題から注意がそれやすかったためです。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
多くの声の中から一つに注意を向ける仕組みを、聴取実験から脳の記録まで紹介しているので C。
Q2. What did the 2001 study suggest about people who noticed their name more often?
smaller working memory capacity の人ほど名前に気づきやすく、probably because their attention drifted more easily from the main task とあるので B。
Q3. Why does the author say the 2012 result needs confirmation?
With so few patients, the result needs confirmation とあるので D。
重要単語
- selective attentionC1名詞(句)選択的注意Selective attention helps us focus in a noisy room.
select(選ぶ)の形容詞 selective。pay attention to ~「~に注意を払う」は基本中の基本。 - dichotic listeningC1名詞(句)両耳分離聴(左右の耳に別の音を聞かせる方法)Dichotic listening tests send different messages to each ear.
dicho-(2つに分ける)は dichotomy(二分法)と同じ語源。 - working memoryC1名詞(句)ワーキングメモリ(作業記憶)Working memory lets you keep a phone number in mind.
情報を一時的に保持しながら処理する「脳の作業台」。短期記憶と区別して使われる。 - auditory cortexC1名詞(句)聴覚野The auditory cortex processes sounds we hear.
auditory は「聴覚の」。audience, audio, audition と同じ aud(聞く)が語源。 - unattendedC1形容詞注意を向けていないSome information in the unattended ear still gets through.
日常では「放置された」の意味。Do not leave your bags unattended.(荷物から目を離さないで)は空港の定番放送。 - clamorC1名詞喧騒、騒ぎShe heard her name above the clamor of the party.
イギリス英語では clamour。clamor for ~ で「~を声高に要求する」。
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ガヤガヤした場所でも自分の名前だけ耳に飛び込んでくる「カクテルパーティー効果」。無視している側の耳に名前を流す実験では、約3人に1人が気づいたらしい。脳のフィルター、優秀すぎる。
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- Cherry (1953) Some experiments on the recognition of speech, with one and with two ears, The Journal of the Acoustical Society of Americadoi.org
- Moray (1959) Attention in dichotic listening: affective cues and the influence of instructions, Quarterly Journal of Experimental Psychologydoi.org
- Wood & Cowan (1995) The cocktail party phenomenon revisited: how frequent are attention shifts to one's name in an irrelevant auditory channel?, Journal of Experimental Psychology: Learning, Memory, and Cognitiondoi.org
- Conway, Cowan & Bunting (2001) The cocktail party phenomenon revisited: the importance of working memory capacity, Psychonomic Bulletin & Reviewdoi.org
- Mesgarani & Chang (2012) Selective cortical representation of attended speaker in multi-talker speech perception, Naturedoi.org
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。












