脳と心理ビミョー

鉄の棒が頭を貫通しても生きた男、フィニアス・ゲージ。「人格が激変した」話は盛られていた?

鉄の棒が頭を貫通しても生きた男、フィニアス・ゲージ。「人格が激変した」話は盛られていた?

読む前に予想してみよう!

フィニアス・ゲージは事故後、一生まともに働くことができなかった

研究カード(どんな研究?)
対象
1人の患者(ゲージ)
規模
1人
研究の種類
症例研究・頭蓋骨の画像解析・歴史資料の再検討
確かさ
★★☆☆☆
3秒でわかる

1848年、鉄の棒が頭を貫いても生き延びたゲージ。「人格が別人に」の話は有名だが、その後は駅馬車の御者として働くほど回復していたとする研究もある。

ひとことで言うと頭に大ケガをしても、人はだんだん回復できることがあるんだ。

もくじ
  1. 「ゲージはもはやゲージではない」
  2. 頭蓋骨をコンピュータで再現
  3. どんでん返し:彼はちゃんと"立ち直って"いた?
  4. まとめ

1848年9月、アメリカ・バーモント州の鉄道工事現場で、ある事故が起きました。

岩を爆破するため、穴に火薬を詰めて鉄の棒で突き固めていたとき、火花が散って火薬が爆発。長さ約1.1メートル、太さ約3センチ、重さ約6キロの鉄の棒が、現場監督フィニアス・ゲージさん(25歳)の左のほおの下から入り、頭のてっぺんを突き抜けて飛んでいったのです。

信じられないことに、ゲージさんは命を取りとめました。事故の直後には、意識もあり、話もできたと記録されています。

01「ゲージはもはやゲージではない」

ゲージさんを治療した医師ハーロウ(Harlow)は、のちに経過を報告しています。

この話は、脳の前の部分(前頭葉)が、人格や感情のコントロールに関わっていることを示す証拠として、何十年も教科書に載り続けました。

02頭蓋骨をコンピュータで再現

ゲージさんの頭蓋骨と鉄の棒は、今もアメリカのハーバード大学の博物館に保管されています。

1994年、アメリカの神経科学者ダマシオさんらは、頭蓋骨の測定データと現代の画像技術を使い、鉄の棒の通り道を再現しました。その結果、左右両方の前頭前野、特に感情と判断に関わる部分が傷ついたと推定しました。

2012年の別の研究では、損傷の中心は左の前頭葉だったとしつつ、脳の神経線維のネットワークが広い範囲で断ち切られた可能性を示しています。

170年以上たった今も、ゲージさんの物語は研究され続けている
170年以上たった今も、ゲージさんの物語は研究され続けている

03どんでん返し:彼はちゃんと"立ち直って"いた?

ところが、この有名な話には続きがあります。

ゲージさんの記録を長年調べてきたオーストラリアの心理学者マクミラン(Macmillan)さんは、教科書に書かれた「人格の激変」の多くが、元の記録よりも大げさに脚色されていることを指摘しました。

さらに2010年の論文では、新たに見つかった資料などから、こう論じています。

  • ゲージさんは事故の数年後、南米チリに渡り、駅馬車の御者として数年間働いた
  • 馬を操り、決まった時刻に、決まったルートで乗客を運ぶ仕事は、計画性や注意力がなければ務まらない
  • 決まった手順のある仕事が、彼の回復を助けたのかもしれない

つまり、ゲージさんは「一生、別人のまま」だったのではなく、時間をかけて社会に適応していった可能性が高いのです。彼は事故からおよそ12年後、てんかんの発作が続いた末に亡くなりました。

04まとめ

鉄の棒が頭を貫いても生き延びたフィニアス・ゲージ。彼の物語は、前頭葉と人格の関係を考えるきっかけになりました。

でも、その「その後」を丁寧に追うと、見えてきたのは回復していく一人の人間の姿でした。有名な話を聞いたときこそ、「それ、元の記録には何て書いてある?」と問い直してみたいですね。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerIn September 1848, an accident happened at a railway construction site in Vermont. 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

In September 1848, an accident happened at a railway construction site in Vermont. While Phineas Gage, a 25-year-old foreman, was packing explosive powder into a hole, it exploded. An iron rod about 1.1 meters long entered under his left cheek and came out of the top of his head. Gage survived and could even talk.

His doctor, Harlow, later reported that Gage had become moody, rude and unable to stick to plans. For decades, textbooks used his case to show that the frontal lobes control personality. However, an Australian psychologist found that many textbook versions were more dramatic than the original records, and that Gage later worked for years as a stagecoach driver.

113 words ・ CEFR B1

和訳を見る

1848年9月、バーモント州の鉄道建設現場で事故が起きました。25歳の現場監督フィニアス・ゲージが穴に火薬を詰めていたとき、それが爆発したのです。長さ約1.1メートルの鉄の棒が彼の左のほおの下から入り、頭のてっぺんから突き抜けました。ゲージは生き延び、話すことさえできました。

彼の主治医ハーロウは後に、ゲージは気まぐれで口が悪くなり、計画をやり通せなくなったと報告しました。何十年ものあいだ、教科書は前頭葉が人格を制御していることを示すために彼の症例を使ってきました。しかし、オーストラリアの心理学者は、教科書の多くの記述が元の記録より劇的になっていること、そしてゲージがその後何年も駅馬車の御者として働いていたことを明らかにしました。

4択リーディングクイズ

Q1. Where did the iron rod enter Gage's head?

Q2. Why did textbooks use Gage's case for decades?

Q3. What does the Australian psychologist's finding suggest?

重要単語

  • frontal lobeC1
    名詞(句)前頭葉The frontal lobe helps us plan and control our behavior. frontal(前の)+lobe(葉・耳たぶ)。temporal lobe(側頭葉)、occipital lobe(後頭葉)も併せて。
  • personalityB1
    名詞人格、性格His personality seemed to change after the accident. personal+-ity。「有名人」の意味もある(a TV personality)。
  • exaggerateB2
    動詞誇張するTextbooks may exaggerate famous stories. g が2つ。綴りミスの多い頻出語。類義語 embellish(脚色する)、overstate。
  • recoverB1
    動詞回復するMany patients recover slowly over time. recover from ~「~から回復する」。名詞 recovery。
  • skullB2
    名詞頭蓋骨The skull protects the brain. 学術語では cranium。skull and crossbones は「どくろマーク」。
  • embellishC1
    動詞(話を)脚色する、飾り立てるRetellings often embellish the original facts. em-(中に)+bel(美しい)。「美しく飾る」から「話を盛る」へ。

4コマでわかる

鉄の棒が頭を貫通しても生きた男、フィニアス・ゲージ。「人格が激変した」話は盛られていた?の4コマ漫画
1848年、長さ1m超・重さ約6kgの鉄の棒が頭を貫通しても生き延びた男、フィニアス・ゲージ。「人格が別人になった」話で教科書の常連だけど、事故の数年後には南米チリで駅馬車の御者として働いていたらしい。

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出典・参考文献(4件)タップで表示
  1. Harlow (1868/1993) Recovery from the passage of an iron bar through the head, History of Psychiatry(再録)doi.org
  2. Damasio et al. (1994) The return of Phineas Gage: clues about the brain from the skull of a famous patient, Sciencedoi.org
  3. Macmillan & Lena (2010) Rehabilitating Phineas Gage, Neuropsychological Rehabilitationdoi.org
  4. Van Horn et al. (2012) Mapping connectivity damage in the case of Phineas Gage, PLoS ONEdoi.org