脳と心理ビミョー

バイオリン奏者の脳は「左手の指」の地図が大きかった。でも"音楽で頭が良くなる"は別の話

バイオリン奏者の脳は「左手の指」の地図が大きかった。でも"音楽で頭が良くなる"は別の話

読む前に予想してみよう!

子どもに楽器を習わせると、算数や国語の成績が上がることが確かめられている

研究カード(どんな研究?)
対象
音楽家・子ども
規模
小規模研究〜6,984人(メタ分析)
研究の種類
横断研究・介入研究・メタ分析
確かさ
★★★★☆
3秒でわかる

楽器の練習で、指や音を担当する脳の領域は確かに変わる。でも「楽器で学力やIQが上がる」は、質の高い研究ではほぼゼロだった。

ひとことで言うと楽器で脳は変わる。でも、勉強ができるようになるわけじゃないみたい。

もくじ
  1. 弦楽器奏者の「左手の指」は、脳の中で大きかった
  2. 「もともと才能がある人」が音楽家になっただけ?
  3. では、学力やIQは上がるの?
  4. まとめ

ピアノ、バイオリン、ギター。楽器の習い事は「頭が良くなる」とよく言われます。

実際、音楽家の脳がふつうの人と違うことは、たくさんの研究で示されてきました。でも、それは「頭が良くなる」と同じ意味なのでしょうか?

01弦楽器奏者の「左手の指」は、脳の中で大きかった

さらに、この違いは楽器を始めた年齢が若い人ほど大きい傾向がありました。

1998年には、音楽家の脳がピアノの音に対して、楽器経験のない人より約25%大きく反応することも報告されています(純音では差なし)。2003年には、プロのキーボード奏者の脳で、運動・聴覚・空間把握に関わる領域の灰白質が、アマチュアや楽器をしない人と違うことも示されました。

02「もともと才能がある人」が音楽家になっただけ?

ここで出てくるのが、おなじみの疑問。脳が違うから音楽家になれたのか、音楽をやったから脳が変わったのか?

これを確かめたのが、2009年の研究です。6歳前後の子どもを、ピアノのレッスンを15か月受けたグループと、受けなかったグループに分けて比べたところ、レッスンを受けた子のほうが、指の運動や聴覚に関わる領域に、より大きな構造的変化が見られました。しかも、その変化は指の器用さや音の聞き分けが伸びた度合いと関係していました。

少なくとも一部は、練習によって脳が変わると考えてよさそうです。

練習で変わるのは、主に「指」と「音」に関わる脳の場所
練習で変わるのは、主に「指」と「音」に関わる脳の場所

03では、学力やIQは上がるの?

ここからがどんでん返し。

「楽器で脳が変わる」なら、算数や国語、IQまで上がるのでは? と期待したくなります。これを調べた研究はたくさんありますが、2020年にイギリスのサラ(Sala)さんとゴベット(Gobet)さんがまとめたメタ分析は厳しい結論を出しました。

  • 54本の研究、のべ6,984人の子どものデータを分析
  • ランダムに割り付け、比較グループにも別の活動をさせた質の高い研究では、効果はほぼゼロ
  • 小さな効果が出たのは、割り付けがランダムでなく、しかも比較グループが「何もしない」研究だけ

つまり、楽器の練習は楽器に関わる力を伸ばしますが、それ以外の勉強に広がる(転移する)証拠は乏しいのです。

04まとめ

楽器の練習は、指や耳を担当する脳の領域を確かに変える。でも、それが学力やIQにまで広がる証拠は弱い。

「頭が良くなるから」ではなく、「音楽が好きだから」。それが、楽器を続けるいちばん科学的な理由なのかもしれません。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerStudies have shown that musicians' brains differ from those of other people. 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

Studies have shown that musicians' brains differ from those of other people. In 1995, German researchers found that string players had a larger brain area for the fingers of the left hand, which press the strings, but not for the right hand, which holds the bow.

But did practice change their brains, or were talented people more likely to become musicians? A 2009 study followed six-year-old children, and those who took piano lessons for 15 months showed greater changes in areas for finger movement and hearing than the others. Many parents hope that music will also raise math scores or IQ. However, a 2020 analysis of 54 studies with 6,984 children found almost no effect in well-designed studies. Music training improves musical skills but does not raise general intelligence.

129 words ・ CEFR B1

和訳を見る

音楽家の脳がほかの人の脳と違うことは、研究で示されてきました。1995年、ドイツの研究者たちは、弦楽器奏者は弦を押さえる左手の指を担当する脳の領域が大きいものの、弓を持つ右手ではそうでないことを発見しました。

しかし、練習が脳を変えたのでしょうか、それとも才能のある人が音楽家になりやすかったのでしょうか。2009年の研究では6歳の子どもたちを追跡し、15か月間ピアノのレッスンを受けた子のほうに、指の運動や聴覚に関わる領域のより大きな変化が見られました。多くの親は、音楽で算数の点数やIQも上がることを期待します。しかし、6,984人の子どもを含む54本の研究を2020年に分析したところ、きちんと設計された研究ではほとんど効果が見られませんでした。音楽の訓練は音楽の技能を伸ばしますが、一般的な知能は伸ばしません。

4択リーディングクイズ

Q1. What did the 1995 study find about string players?

Q2. Why was the 2009 study of children important?

Q3. Which statement would the writer most likely agree with?

重要単語

  • instrumentA2
    名詞楽器He plays two musical instruments. 「器具・道具」の意味も(surgical instruments「手術器具」)。形容詞 instrumental は「役立つ」の意でも頻出。
  • practiceA2
    動詞練習するShe practices the piano every evening. practice ~ing(~する練習をする)と動名詞をとる。英式では動詞 practise。
  • representationC1
    名詞(脳内での)表現、地図The fingers have a large representation in the brain. represent(表す)の名詞形。cortical representation「皮質での表象」は脳科学の定番表現。
  • meta-analysisC1
    名詞メタ分析(研究をまとめた分析)A meta-analysis combines results from many studies. meta-(より高次の)+analysis。複数形は meta-analyses。根拠の強さの序列で上位に来る。
  • transferB2
    名詞転移(ある学習が別の能力に広がること)Far transfer from music to math was not found. near transfer(近い転移)/far transfer(遠い転移)の区別が教育心理学の頻出テーマ。
  • self-selectionC1
    名詞自己選択(もともと特徴のある人が自ら集まること)Self-selection may explain why musicians' brains differ. 研究の限界を説明するときの定番語。selection bias(選択バイアス)とセットで覚える。
  • dexterityC1
    名詞器用さPiano practice improved the children's finger dexterity. ラテン語 dexter(右の)から。「右手=器用」の発想。形容詞 dexterous。

動画でもっと知る

弦楽器奏者の脳では「左手の指」の担当エリアが大きく、15か月ピアノを習った6歳児でも脳に変化が出た。ところが「楽器で頭が良くなるか」を約7,000人分まとめたら、きちんとした実験ほど効果はほぼゼロだったらしい。

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出典・参考文献(4件)タップで表示
  1. Elbert et al. (1995) Increased cortical representation of the fingers of the left hand in string players, Sciencedoi.org
  2. Gaser & Schlaug (2003) Brain structures differ between musicians and non-musicians, Journal of Neurosciencedoi.org
  3. Hyde et al. (2009) Musical training shapes structural brain development, Journal of Neurosciencedoi.org
  4. Sala & Gobet (2020) Cognitive and academic benefits of music training with children: A multilevel meta-analysis, Memory & Cognitiondoi.org