脳と心理ホント

息を吐いている瞬間のほうが反応は速かった。35人の実験でわかった呼吸と脳のリズム

息を吐いている瞬間のほうが反応は速かった。35人の実験でわかった呼吸と脳のリズム

読む前に予想してみよう!

人の反応の速さは、息を吸っているか吐いているかで変わることがある

研究カード(どんな研究?)
対象
健康な若年成人
規模
35人
研究の種類
実験データの解析(2つの実験を統合)
確かさ
★★★☆☆
3秒でわかる

合図にボタンを押す課題で、息を吐いている時や呼吸の「間」は反応が速く、吸っている最中、特に吸い切る直前が最も遅かった。米ノースウェスタン大の35人の研究。

ひとことで言うと息を吸っている時より、吐いている時のほうがすばやく反応できるみたい!

もくじ
  1. 赤い四角が黄色に変わったら、すぐ押す
  2. いちばん遅いのは「吸い切る直前」
  3. 「吸うほうが有利」という研究もあるのに?
  4. まとめ

「よーい……」の瞬間、あなたは息を吸っていますか? それとも吐いていますか?

じつは、その違いで反応のスピードが変わるかもしれません。

2026年9月、アメリカ・ノースウェスタン大学のヤマザキ(Erika M. Yamazaki)さんとパラー(Ken A. Paller)さんが、学術誌『iScience』(Cell Press)で発表しました。18〜33歳の成人35人を調べたところ、息を吐いている時や呼吸の「間」は反応が速く、吸っている最中は遅いことがわかりました。

01赤い四角が黄色に変わったら、すぐ押す

使われたのは、精神運動覚醒課題(PVT)という定番テストの3分版です。

画面の赤い四角が黄色に変わったら、できるだけ速くスペースキーを押す。それだけの、シンプルで退屈な課題です。でもこの「退屈さ」がミソで、注意をどれだけ保ち続けられるかがよく表れます。眠気の研究でもよく使われています。

参加者は鼻の下に細いチューブをつけ、空気の流れを記録しながら課題に取り組みました。平均すると、呼吸はおよそ4秒に1回のペースでした。

02いちばん遅いのは「吸い切る直前」

研究チームは呼吸の1サイクルを20の区間に細かく分け、どのタイミングで反応が遅くなるかも調べました。

結果、反応がもっとも遅かったのは息を吸い切る直前(吸気のピーク付近)。吐いている時は、吸っている時より平均で約41ミリ秒速くなっていました。また、呼吸の休止中も、吸っている時より約21ミリ秒速くなっていました。

「たった0.04秒?」と思うかもしれません。でも論文によると、トップスプリンターのスタート反応時間のばらつきは約30ミリ秒ほど。数十ミリ秒は、勝負を分けうる大きさなのです。

吸い切る直前は反応がゆっくり、吐く息のときはすばやい
吸い切る直前は反応がゆっくり、吐く息のときはすばやい

03「吸うほうが有利」という研究もあるのに?

ここで少し不思議な点があります。2016年の研究では、記憶を思い出す課題や、顔の表情を見分ける課題で、吸っている時のほうが成績が良かったと報告されています。

研究チームは、課題の種類が違うからではないかと考えています。表情の判断や記憶のように頭の中で情報を組み合わせる課題では吸気が有利で、合図にすばやく体で反応する課題では呼気が有利、という可能性です。呼吸と脳のリズムが連動しているらしいことはわかってきていますが、詳しいしくみはまだ謎です。

04まとめ

ぼーっと画面を見張るような場面では、吸っている瞬間は、ほんの少し反応が遅れやすいようです。

スタートの合図を待つときや、ゲームの勝負どころで、息を吸い切ったまま固まらず、ゆっくり吐きながら待つ。そんな工夫が本当に効くのかどうかは、次の研究で確かめられるのを待ちましょう。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerResearchers at Northwestern University in the United States studied whether breathing affects reaction time. 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

Researchers at Northwestern University in the United States studied whether breathing affects reaction time. Thirty-five healthy adults aged 18 to 33 took a three-minute test. Each time a red square on a screen turned yellow, they had to press the space bar as quickly as possible. A thin tube under the nose recorded their breathing.

The results showed that people reacted faster when the signal came while they were breathing out or pausing between breaths. They were slowest near the peak of breathing in. The gap was only tens of milliseconds, but the researchers point out that this could matter in situations such as the start of a sprint race. The study was published in the journal iScience.

118 words ・ CEFR B1

和訳を見る

アメリカのノースウェスタン大学の研究者たちは、呼吸が反応時間に影響するかどうかを調べました。18〜33歳の健康な成人35人が、3分間のテストを受けました。画面上の赤い四角が黄色に変わるたびに、できるだけ速くスペースキーを押さなければなりませんでした。鼻の下の細いチューブが呼吸を記録しました。

結果は、合図が息を吐いている最中や呼吸の合間に出たとき、人々はより速く反応したことを示しました。最も遅かったのは、息を吸うピークの近くでした。差は数十ミリ秒にすぎませんが、研究者たちは、短距離走のスタートのような場面では、これが重要になりうると指摘しています。この研究は学術誌『iScience』に発表されました。

4択リーディングクイズ

Q1. What did the researchers want to find out?

Q2. How was breathing recorded?

Q3. Why do the researchers mention a sprint race?

重要単語

  • reaction timeB1
    名詞(句)反応時間Lack of sleep can slow your reaction time. react(反応する)+-ion。心理学・スポーツ科学で頻出の複合語。
  • exhaleB2
    動詞息を吐くExhale slowly through your mouth. ex-(外へ)+hale(息)。反対は inhale(in-=中へ)。名詞は exhalation / inhalation。
  • inhaleB2
    動詞息を吸うInhale deeply before you start. inhaler は「吸入器」。breathe in と同じ意味のやや硬い語。
  • vigilanceC1
    名詞警戒・注意を保ち続けることDriving at night requires vigilance. 形容詞 vigilant「警戒を怠らない」。vigil(寝ずの番)と同語源。
  • phaseB2
    名詞段階・位相The project is now in its final phase. 発音は /feɪz/。phase out「段階的に廃止する」も覚えておくと便利。
  • peakB1
    名詞・形容詞頂点、ピークTraffic reaches its peak at around 8 a.m. peak hours「混雑時間帯」。同音の peek「のぞき見る」と混同しない。
  • deliberatelyB2
    副詞意図的に、わざとShe deliberately spoke slowly. on purpose とほぼ同じ。形容詞 deliberate は「熟慮した・故意の」。
合図が出たらボタンを押すだけの実験で、息を吐いている時は吸っている時より反応が速かったらしい。いちばん遅いのは「吸い切る直前」。差は数十ミリ秒だけど、100m走のスタートなら勝敗が変わるレベル。

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出典・参考文献(4件)タップで表示
  1. Yamazaki & Paller (2026) Response speed is modulated by respiratory phase, iSciencedoi.org
  2. Northwestern University: Ready, set, exhalenews.northwestern.edu
  3. Zelano et al. (2016) Nasal Respiration Entrains Human Limbic Oscillations and Modulates Cognitive Function, The Journal of Neurosciencedoi.org
  4. Perl et al. (2019) Human non-olfactory cognition phase-locked with inhalation, Nature Human Behaviourdoi.org