脳と心理ホント

文字を読めるようになると、脳の"視覚の地図"が書き換わる。大人になってから学んでも変わっていた

文字を読めるようになると、脳の"視覚の地図"が書き換わる。大人になってから学んでも変わっていた

読む前に予想してみよう!

文字を読むための脳の場所は、大人になってから読み書きを学んでもまったく育たない

研究カード(どんな研究?)
対象
文字が読めない・大人になって学んだ・子どものころ学んだ成人/6歳児
規模
63人+10人の追跡
研究の種類
fMRI研究
確かさ
★★★☆☆
3秒でわかる

読み書きを覚えると、脳の視覚の領域に「文字専用の場所」が育つ。大人になってから学んだ人でも、多くの変化が起きていた。

ひとことで言うと字が読めるようになると、脳に「文字のための部屋」ができるんだ!

もくじ
  1. 脳には「文字の部屋」がある
  2. 読める人・読めない人の脳を比べた
  3. 子どもの脳で「部屋ができる瞬間」を見た
  4. 大人になって文字を学んだ人の脳の「形」
  5. まとめ

人類が文字を使い始めたのは、5,000年ほど前。何十万年という人類の歴史から見れば、ほんの最近の発明です。

そんな短い時間で、脳が「文字を読むための専用の仕組み」を進化させたとは考えにくい。では、私たちはどうやって文字を読んでいるのでしょう?

01脳には「文字の部屋」がある

文字を読める人の脳には、左の側頭葉の下側(紡錘状回のあたり)に、書かれた文字や単語に特に強く反応する場所があります。フランスの神経科学者ドゥアンヌ(Dehaene)さんらは、ここを「視覚性単語形状領域(VWFA)」と呼び、読むことに欠かせない場所だと考えています。

でも、進化で用意された場所ではないとしたら、この"文字の部屋"はどこから来たのでしょう?

02読める人・読めない人の脳を比べた

その結果——

  • 読み書きができる人ほど、左の紡錘状回が文字に強く反応した
  • その場所では、顔への反応がわずかに弱まる、小さな"陣取り合戦"が見られた
  • 文字だけでなく、視覚の広い範囲(最初に情報が届く一次視覚野まで)の反応が強くなっていた
  • 話し言葉の音を処理する領域の反応も高まっていた

そして重要なのは、こうした変化の多くが、大人になってから読み書きを学んだ人にも起きていたことです。

文字の部屋は、もともとあった区画の「すき間」に建てられる?
文字の部屋は、もともとあった区画の「すき間」に建てられる?

03子どもの脳で「部屋ができる瞬間」を見た

2018年には、6歳の子ども10人の脳を、小学校に入る前から1年生の終わりまで、6〜7回くり返し調べた研究が発表されました。

すると、読み方を覚え始めて数か月のうちに、文字や数字にだけ反応する場所がはっきり現れました。面白いのは、その場所が、もともと何かにあまり特化していなかった場所(道具の写真にやや反応する程度の場所)だったこと。顔に反応する場所を奪ったわけではなく、そのすぐ近くの"空き地"に、文字の部屋が作られていったのです。

ドゥアンヌさんたちはこれを「ニューロン・リサイクル(神経回路の再利用)」と呼んでいます。もともと形を見分けるために使っていた脳の回路を、文字のために再利用している、という考え方です。

04大人になって文字を学んだ人の脳の「形」

2009年には、コロンビアで、社会復帰の過程で、大人になって初めて読み書きを学んだ元ゲリラ兵たちの脳の形を調べた研究もあります。読み書きを学んだ人は、まだ学んでいない人に比べ、左右の脳をつなぐ脳梁の一部の白質や、読むことに関わるいくつかの領域の灰白質が多くなっていました。

05まとめ

文字を読めるようになると、脳の視覚の地図に「文字の部屋」が新しく作られます。それは進化で用意された部屋ではなく、学ぶことで、すき間の空き地に建てられる部屋でした。

しかもその工事は、大人になってからでも始められる。今日読んだ一文も、あなたの脳の地図を少しだけ書き換えているのかもしれません。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerHumans have been writing for only about 5,000 years. 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

Humans have been writing for only about 5,000 years. That is too short a time for the brain to evolve a special area for reading.

But people who can read do have a region on the left side of the brain that reacts strongly to written words. In 2010, researchers scanned 63 adults in Portugal and Brazil. Some could not read, some had learned as adults, and some had learned as children.

The better a person could read, the more this region responded to words. Many changes also appeared in people who learned as adults. A 2018 study of six-year-olds found that the reading area forms within months. It grows in a spot that was not strongly specialized before, so it does not take over the area for faces.

129 words ・ CEFR B1

和訳を見る

人類が文字を書くようになってから、まだ5,000年ほどしかたっていません。脳が読むための特別な領域を進化させるには、短すぎる時間です。

それでも、文字を読める人には、書かれた単語に強く反応する領域が脳の左側にあります。2010年、研究者たちはポルトガルとブラジルで63人の大人の脳をスキャンしました。読めない人、大人になって学んだ人、子どものころに学んだ人がいました。

読む力が高い人ほど、この領域は単語に強く反応しました。多くの変化は、大人になってから学んだ人にも見られました。6歳児を対象にした2018年の研究では、読むための領域が数か月のうちにできることがわかりました。その領域は、それまであまり特化していなかった場所にできるので、顔のための領域を奪うことはありません。

4択リーディングクイズ

Q1. Why could our brains not have evolved a special reading area?

Q2. Who took part in the 2010 study?

Q3. What did the 2018 study suggest about the reading area?

重要単語

  • literacyB2
    名詞読み書きの能力Literacy changes how we see the world. 形容詞 literate。最近は media literacy, computer literacy のように「活用能力」の意味でも使う。
  • illiterateC1
    形容詞読み書きのできないAbout ten of the participants were illiterate. il-(否定)+literate。illegal, illogical と同じ il- の否定。
  • recycleB1
    動詞再利用するThe brain may recycle old circuits for reading. neuronal recycling「神経回路の再利用(仮説)」は読字研究のキーワード。
  • acquireB2
    動詞身につけるChildren acquire reading skills at school. 名詞 acquisition。reading acquisition「読みの習得」。
  • regionB1
    名詞領域A small region of the brain responds to letters. 地理では「地域」。brain region「脳領域」は area とほぼ同義で使われる。
  • emergeB2
    動詞現れる、生じるA letter-specific region emerged within months. 名詞 emergence。emergency(緊急事態=突然現れたもの)と同語源。
人類が文字を使い始めたのはせいぜい5000年ほど前。なのに読み書きを覚えると、脳の視覚の領域に「文字専用の場所」が育つらしい。しかも大人になってから文字を学んだ人の脳でも、多くの変化が起きていた。

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出典・参考文献(4件)タップで表示
  1. Dehaene et al. (2010) How learning to read changes the cortical networks for vision and language, Sciencedoi.org
  2. Dehaene & Cohen (2011) The unique role of the visual word form area in reading, Trends in Cognitive Sciencesdoi.org
  3. Carreiras et al. (2009) An anatomical signature for literacy, Naturedoi.org
  4. Dehaene-Lambertz, Monzalvo & Dehaene (2018) The emergence of the visual word form: Longitudinal evolution of category-specific ventral visual areas during reading acquisition, PLOS Biologydoi.org