SUPERSTITION CHECK ・ 40

迷信・都市伝説 真偽判定図鑑全部出典つき・40本

「13日の金曜日は不吉」「鏡を割ると7年不幸」。だれもが聞いた迷信を、統計と記録で判定します。英語の言い回しも一緒に覚えられます。

1グレー

「13日の金曜日は不吉で、事故が増える」

1993年の英国の小さな調査では、交通事故の入院が増えました。しかし、もっと大きな調査では、事故の数にも手術の結果にも差は出ていません。

なぜそう言える? 根拠を読む

1907年、アメリカで『13日の金曜日(Friday, the Thirteenth)』という題の小説が出ました。株の売り買いの世界が舞台です。物語の中で、この日はニューヨークのウォール街で「縁起の悪い日」とされています。

1993年、英国の医師スキャンロンらは、13日の金曜日と6日の金曜日をくらべました。高速道路M25の南側の区間を走る車は、13日のほうが少なくなりました。それなのに、交通事故での入院は13日が65人、6日が45人でした。論文は「家にいることをすすめる」と結んでいます。

ただし、1993年の調査は、1つの地域の小さな数です。2004年、フィンランドの研究者は、1989〜2002年の国の交通事故の記録を使いました。13日の金曜日21回を、前後の金曜日とくらべました。事故の数にも、けが人の数にも差はありませんでした。

2024年には、カナダのオンタリオ州で手術を受けた1万9747人の研究が出ました。13日の金曜日に手術を受けた人の死亡や合併症は、ほかの金曜日と変わりませんでした。

2ウソ

「鏡を割ると、7年間不幸が続く」

鏡を割ると不幸になるという証拠はありません。18世紀の英国の本では「7年」ではなく、「家族のだれかが死ぬ」「親友を失う」という形でした。

なぜそう言える? 根拠を読む

この迷信は古代ギリシャやローマから始まった、とよく言われます。鏡に映る姿には魂の一部が宿るので、鏡が割れると魂も傷つき、治るのに7年かかる、という説明です。米国の南カリフォルニア大学が集めた言い伝えの記録にも、この説明が「〜と言われている」という形でのっています。しかし、この説は、ローマ時代の記録では確かめられていません。

18世紀の英国の本では、中身が今と違います。1777年、英国のジョン・ブランドは、昔からの風習を集めた本に「鏡を割るのは、とても縁起の悪い出来事とされている」と書きました。ブランドは、昔の魔術師が鏡を占いに使ったことが、この迷信のもとらしいと考えていました。

1787年に英国のフランシス・グロースが出した本では、もっと重い形です。「鏡を割るのは、家族のだれかが死ぬ前ぶれ。たいていは家の主人」。同じ本には「鏡の持ち主は親友を失う」という言い伝えものっています。

「7年」が出てくる古い例の1つは、1813年にロンドンの雑誌『スコージ』にのった投書です。鏡を割って泣いている娘のことを、母親が「7年の不運の前ぶれ」だと話した、と書かれています。投書した人は、これをばかげたことだと書いています。

3ウソ

「くしゃみに Bless you と言う習慣は、ペストの流行で始まった」

1世紀のローマの百科事典に、くしゃみをした人に声をかける習慣が、もう書かれています。ペストの大流行より、ずっと古くからある習慣です。

なぜそう言える? 根拠を読む

よく聞く説明では、ペストがはやったときに、くしゃみをした人の無事を祈ったのが始まりとされます。しかし、記録はもっと古くまでさかのぼれます。

1世紀のローマの学者プリニウスは、百科事典『博物誌』の第28巻に、こう書いています。「なぜ私たちは、くしゃみをした人にあいさつをするのか」。同じところには、皇帝ティベリウスの話も出てきます。ティベリウスは、馬車に乗っているときでさえ、このあいさつを求めたそうです。プリニウスはこの皇帝を、「だれもが知る、ひどく人づきあいの悪い人」と紹介しています。

ドイツ語では、くしゃみをした人に「Gesundheit(健康を)」と言います。この言葉は英語でも使われます。辞書によると、くしゃみで魂が体から飛び出すのを防ぐ、という迷信が背景にあります。

4グレー

「木をたたくと、うまくいっている運が逃げない」

運そのものが変わるという証拠はありません。ただ、木を下向きにたたくと「悪いことが起きそう」という見こみが下がることは、実験で確かめられています。

なぜそう言える? 根拠を読む

英語では、うまくいっている話をしたあとに「knock on wood(木をたたこう)」と言います。そして、近くの机などをコンコンとたたきます。辞書によると、この言い方は1900年ごろからのものです。イギリスでは「touch wood(木にさわろう)」と言います。

2014年、アメリカの研究者チャン、ライセン、ホージーは、5つの実験の結果を発表しました。最初の実験では、まず参加者に、わざと縁起の悪いことを言わせました。悪いことが起きそうな気分にしたのです。そのあと、机をたたいてもらいました。

たたき方は2通りでした。下向きにたたく(手を自分から遠ざける)方法と、上向きにたたく(手を自分に近づける)方法です。下向きにたたいた人のほうが、悪いことが起きる見こみを低く答えました。ボールを投げた人も、ボールを持っていただけの人より、見こみを低く答えました。研究者たちは、悪いものを自分から押しのける動きが、悪いことが起きそうだという見こみを下げると考えています。

5グレー

「幸運のおまじないをすると、本番の成績が上がる」

2010年の実験では、おまじないで成績が上がりました。しかし2014年に、同じ実験を人数を増やしてくり返すと、差は消えました。

なぜそう言える? 根拠を読む

英語では、うまくいくように祈るとき、同じ手の指を2本交差させて「fingers crossed」と言います。辞書によると、この言い方は1900年代の初めからのものです。指を交差させていれば、うそをついても許される、という子どもの考えもあります。辞書は、これは子どもの遊びから来たらしいと書いています。

2010年、ドイツのケルン大学のダミッシュらは、「おまじないは成績を上げる」という論文を出しました。ゴルフのパターの実験では、「これは幸運のボールです」と言われた人のほうが、成績がよくなりました。手先の器用さや記憶、言葉のパズルの課題でも、似た結果が出ました。自信が高まり、あきらめずに取り組むようになったから、という説明です。

2014年、カリン=ジャゲマンとコールドウェルは、このゴルフの実験を人数を増やして2回くり返しました。10回打つパターで、「幸運のボール」の人の成績は、ふつうのボールの人とほぼ同じでした。2人は、ほかの研究もまとめました。人数が多く、前もって計画をきちんと決めた実験では、差は見られなかったそうです。

6ウソ

「耳が熱くなるのは、だれかがうわさをしているから」

この言い伝えは、約1950年前のローマの本にもう書かれています。しかし、離れた所のうわさ話が耳に伝わるしくみは、見つかっていません。

なぜそう言える? 根拠を読む

1世紀のローマの学者プリニウスは、百科事典『博物誌』の第28巻に書いています。「その場にいない人は、耳が鳴ることで、自分がうわさされていると気づく」。プリニウスは、これを「だれもが受け入れている考え」として紹介しました。

1855年に、この本を英語に訳した学者たちは、注をつけました。注によると、当時のフランスとイギリスにも、この考えが残っていました。右の耳が鳴ればほめられていて、左の耳なら悪く言われている、というものです。

シェイクスピアの喜劇『から騒ぎ』にも、この迷信が出てきます。ベアトリスは、かくれて自分のうわさ話を聞いたあと、出てきて言います。「耳の中のこの火は何?」。英語には今も「your ears must be burning(耳が燃えているはず)」という言い方があります。

7ウソ

「手のひらがかゆいと、お金が入ってくる」

かゆみとお金を結びつける調査やしくみはありません。英語の itchy palm は、もともと「わいろを欲しがる」という悪口です。

なぜそう言える? 根拠を読む

英語にも「itchy palm(かゆい手のひら)」という言い方があります。ただし意味は、お金が入る前ぶれではありません。アメリカの辞書『アメリカン・ヘリテージ』は、「お金、特にわいろを強く欲しがること」と説明しています。

この言い方は、シェイクスピアの劇『ジュリアス・シーザー』にも出てきます。第4幕第3場で、ブルータスは仲間のキャシアスを責めます。きみは「itching palm(かゆい手のひら)」の持ち主だと言われている。役職を金で、ふさわしくない者に売っているからだ、というのです。キャシアスは「この私が?」と言い返します。

一方で、英語圏にも、日本と同じような言い伝えがあります。1905年にロンドンで出た民俗の事典は、英国南西部のコーンウォール地方の言い伝えを紹介しています。左の手のひらがかゆいと、近いうちにお金を払うことになり、右がかゆいとお金をもらう、というものです。

8グレー

「満月の夜は人が荒れて、救急が増える」

子どもの心の問題での救急は、満月でも増えなかったという研究があります。一方、日本全国の調べでは、満月の夜に交通事故の救急搬送が約4%増えていました。

なぜそう言える? 根拠を読む

英語の「lunatic(正気でない人)」は、ラテン語の luna(月)から来た言葉です。辞書によると、月の満ち欠けで心が乱れると信じられていたためです。アメリカの連邦法には、2012年までこの言葉が残っていました。その年の12月28日、法律から「lunatic」を消す法律ができました。

2014年、アメリカのマイアミ小児病院のチームは、2009〜2011年の記録を調べました。心の問題で救急に来た4〜21歳の559人です。満月の日と、そうでない日で、受診の数に差はありませんでした。

一方、2018年に九州大学などのチームは、2010〜2014年の日本の47都道府県の記録を調べました。交通事故による救急搬送、84万2554件です。満月の夜は、ほかの夜より搬送が約4%多くなりました。特に、男性、40歳以上、真夜中より前で増えていました。

9ホント

「夕焼けの次の日は晴れ、朝焼けの日は天気がくずれる」

天気が西から変わる地域では、当たることが多い言い伝えです。英国気象庁は、夕焼けは西から高気圧が近づいているしるしだと説明しています。

なぜそう言える? 根拠を読む

英語には「Red sky at night, shepherd's delight.(夕焼けは羊飼いの喜び)」ということわざがあります。英国気象庁によると、この考えが最初に出てくるのは聖書の「マタイによる福音書」です。

その16章で、イエスは、天からのしるしを見せろと迫る人たちに答えます。夕方には空が赤いから晴れだと言い、朝には空が赤くどんよりしているから荒れると言う。それなのに、なぜ時代のしるしは見分けられないのか、と責めたのです。夕焼けと天気の言い伝えは、聖書の時代から人々の間にあったのです。

英国気象庁の説明はこうです。高気圧の下では、ちりや小さな粒が空にたまります。この粒が青い光を散らし、赤い光が残るので、空が赤く見えます。夕方に赤い空は、高気圧が西から来ているしるしで、次の日は晴れやすくなります。朝の赤い空は、高気圧がもう東へ去ったしるしです。このあと雨や風の低気圧が来やすくなります。

10ウソ

「グラウンドホッグが影を見たら、冬があと6週間続く」

アメリカ海洋大気庁(NOAA)が全米の気温とくらべると、いちばん有名なグラウンドホッグ「フィル」の予想が当たったのは、最近10年で30%でした。

なぜそう言える? 根拠を読む

アメリカでは、2月2日を「グラウンドホッグ・デー」と呼びます。冬眠から出てきたグラウンドホッグという動物が、自分の影を見たら冬があと6週間続く、という言い伝えです。いちばん有名なのは、ペンシルベニア州パンクサトーニーの「フィル」です。毎年この日には、何千人もの人が集まります。

NOAAによると、フィルの予想は1887年から続いています。最初の年、フィルは影を見て、冬が続くと予想しました。ところがその年の2月は、北東部などは平年よりかなり寒く、南東部などはかなり暖かくなりました。地域によって、当たりと外れが分かれたのです。

NOAAがアメリカ全体の平均気温とくらべたところ、最近10年でフィルの予想が当たったのは30%でした。2025年も、フィルは影を見て冬が続くと予想しました。しかし2月は平年並みで、3月はかなり暖かくなりました。予想は外れでした。

11グレー

「猫には9つの命があり、高い所から落ちても助かる」

ニューヨークの動物病院の調べでは、高い建物から落ちて治療を受けた猫の90%が助かりました。ただし、90%の猫が胸にけがをしていました。

なぜそう言える? 根拠を読む

英語には「A cat has nine lives(猫には9つの命がある)」という言い方があります。シェイクスピアの『ロミオとジュリエット』にも出てきます。マキューシオは、敵のティボルトを「猫の王様」と呼びます。そして、「おまえの9つの命のうち、1つだけもらうぞ」とからかいます。

1987年、ニューヨークの動物医療センターの獣医ホイットニーとメールホフは、論文を発表しました。5か月の間に、高い建物から落ちて運ばれてきた猫132匹の記録です。治療を受けた猫のうち、90%が助かりました。

ただし、けがは軽くありません。90%の猫は胸にけがをしていて、39%は手足の骨が折れていました。37%は、命を救うための緊急の治療が必要でした。また、これは病院に運ばれた猫だけの記録です。運ばれる前に死んだ猫は、この数に入っていません。

12ウソ

「1日1個のリンゴを食べれば、医者いらずになる」

アメリカの成人約8400人の調べでは、毎日リンゴを食べる人が医者にかからずにすむ割合は、ほかの条件をそろえると、はっきり高くはありませんでした。

なぜそう言える? 根拠を読む

1866年、イギリスの雑誌『ノーツ・アンド・クエリーズ』に、ジョン・パビン・フィリップスが「ペンブルックシャーのことわざ」を投稿しました。中身は「寝る前にリンゴを食べれば、医者はパンをかせげない」というものです。病気にならないので、医者がもうからない、という意味です。

2015年、アメリカのダートマス大学などのデイビスらが、これを確かめました。使ったのは、国の健康調査に答えた成人8399人のデータです。小さなリンゴ1個分(149g)以上を毎日食べる人は、753人(9.0%)でした。1年に医者にかかったのが1回以下なら「医者いらず」として、くらべました。

そのままくらべると、医者いらずの人は、リンゴを食べる人で39.0%、食べない人で33.9%でした。ただし、リンゴを食べる人は学歴が高く、たばこを吸う人が少ないなどの違いがありました。こうした違いを計算でそろえると、はっきりした差は残りませんでした。一方、薬を処方されずにすむ人は、少し多めでした。論文の題には、apple(リンゴ)にかけた「appealing」というだじゃれが入っています。

13グレー

「体が冷えると、風邪をひく」

英国の実験では、足を冷やした人のほうが、あとで風邪をひいたと答えた人が多くなりました(90人中13人と5人)。ただし症状は本人の申告で、本当に感染したかは確かめていません。

なぜそう言える? 根拠を読む

英語では、風邪をひくことを「catch cold」と言います。辞書によると、この言い方は16世紀には「冷えにさらされて体が冷える」という意味でした。今の「風邪にかかる」という意味になったのは、1600年代の後半です。

ところが医学の研究では、冷えと風邪の関係は、なかなか確かめられませんでした。体を冷やしても、風邪のウイルスへのかかりやすさに差が出なかったのです。

2005年、英国カーディフ大学の風邪研究センターのジョンソンとエクルズは、健康な180人を2組に分けました。片方の組だけ、足を冷やしました。その後の4〜5日で「風邪をひいた」と答えた人は、冷やした組で90人中13人、冷やさなかった組で90人中5人でした。

ただし、症状は本人の申告です。ウイルスに本当に感染していたかは調べていません。論文も、さらに研究が必要だと書いています。

14グレー

「風邪のときは食べ、熱のときは食べないほうがいい」

食べるかどうかで免疫の働き方が変わることは、人とネズミの実験で示されています。ただ、人の病気でどう食べるとよいかを決める証拠は、まだ少ないとされています。

なぜそう言える? 根拠を読む

英語には「Feed a cold, starve a fever.(風邪には食べさせ、熱には食べさせるな)」という言い伝えがあります。2002年、オランダ・アムステルダムのファン・デン・ブリンクらは、これを「イギリスの古い言い伝え」と紹介しました。そして、ボランティアの人で確かめました。

食事をとると、ガンマ・インターフェロンという免疫の物質が増えました。食べないと、インターロイキン4という別の免疫の物質が増えました。食べるかどうかで、免疫の働き方のバランスが変わったのです。

2016年には、アメリカのイェール大学のメジトフらが、ネズミで実験しました。細菌に感染したネズミでは、食べないほうが生きのびました。インフルエンザのウイルスに感染したネズミでは、逆に、栄養をとったほうが生きのびました。

ただし、2024年の研究のまとめは、人の感染症でどう食べればよいかを示すデータは、まだ少ないと書いています。

15ウソ

「黒猫が前を横切ると、悪いことが起きる」

黒猫で運が変わるという証拠はありません。英国には逆に「黒猫は幸運を運ぶ」という言い伝えもあり、国や地域によって正反対です。

なぜそう言える? 根拠を読む

黒猫を不吉とする言い伝えは、英国にも古くからあります。1620年の本『アストロロガスター』は、朝早く出会うと不運なものとして、毛むくじゃらの犬などと並べて黒猫をあげています。

一方で、逆の言い伝えもあります。1927年にロンドンで出た迷信の辞典には「黒猫は幸運を運ぶ」とあります。この辞典は、地域を書いていない項目は英国のものだと断っています。「猫が前を横切ると不運」は、ドイツやボヘミア(今のチェコの西部)の言い伝えとして出てきます。

2020年、米国ルイビル大学の研究者は、ケンタッキー州の保護施設に入った猫7983匹の記録を調べました。新しい飼い主にもらわれた割合は、黒猫が10.0%で、どの毛色より低くなりました。白い猫は18.8%でした。ただし研究者は、毛色との関係は弱いとしています。

2019年、オーストラリアのシドニーの保護施設の調べでは、逆に白い猫のほうが黒猫より長く施設に残りました。米国の別の研究では、猫の写真を評価してもらうと、黒猫をさける傾向が強い人ほど、迷信を信じる度合いも高くなりました。

16ウソ

「スポーツ雑誌の表紙に出た選手は、そのあと不調になる」

アメリカの雑誌SIが自分で調べると、表紙に出た人に不運が起きた例は37.2%でした。編集者は、絶好調のときに選ばれ、成績がふつうに戻るだけだと考えていました。

なぜそう言える? 根拠を読む

アメリカの雑誌「スポーツ・イラストレイテッド(SI)」には、「表紙のジンクス」という言い伝えがあります。1954年8月16日の創刊号の表紙は、野球のエディ・マシューズでした。チームは9連勝中でしたが、翌日に負けました。1週間後、マシューズは投球を手に受けてけがをし、7試合休みました。

2002年、SIはこの言い伝えを自分で調べました。それまでの表紙2456回のうち、913回で、表紙の人やチームに不運が起きていました。割合は37.2%です。この特集のために、SIはアメフトのカート・ワーナーに、黒猫と表紙に出てほしいと頼みました。背番号13は平気なワーナーも、これは気味が悪いと断りました。

SIの編集者ピーター・キャリーは、ジンクスの原因は「平均への回帰」だと考えていました。とても調子がいいときに表紙に選ばれるので、そのあとは成績がふつうに戻りやすい、ということです。記事によると、打率3割以上の打者の80%は、翌年の打率が下がります。

17グレー

「シュートが続けて入った選手は、次も入りやすい」

1985年の有名な研究は「思いこみ」と結論しました。ところが2018年、その計算にかたよりがあると分かり、直すと「入りやすい」という結果が出てきました。

なぜそう言える? 根拠を読む

バスケットボールでは、続けて決めている選手を「hot hand(熱い手)」と呼びます。1985年、コーネル大学の心理学者ギロビッチらがこれを調べました。続けて入った直後に、成功しやすくなるわけではない、という結論でした。この研究は、人が偶然の並びに意味を見てしまう例として有名になりました。

2018年、経済学者のミラーとサンフルホは、この調べ方の落とし穴を見つけました。コインを3回投げて、表が出た次の回だけを書き出します。その中で表だった割合を出します。これを何度もくり返して平均すると、50%ではなく12分の5(約42%)になります。続けて成功した直後だけを数えると、成功率が低めに出てしまうのです。

2人はこのかたよりの分を差し引いて、1985年のデータを計算し直しました。コーネル大学の選手26人が100本ずつシュートした実験です。3回続けて入った直後と、3回続けて外した直後の成功率の差は、直す前は平均3ポイントでした。直したあとは13ポイントになりました。2015〜16年のNBAで、3点シュートの成功率が真ん中の選手といちばんの選手の差は12ポイントです。13ポイントは、それより大きな差です。

18ウソ

「ウィジャ盤(こっくりさん)は、霊の力で動く」

1853年、物理学者ファラデーは、何人かで手をのせると動く「テーブル・ターニング」を実験し、動かしているのは本人も気づかない手の力だと示しました。

なぜそう言える? 根拠を読む

1850年代のイギリスでは、何人かでテーブルに手を置くと、テーブルが回り出す「テーブル・ターニング」が話題でした。電気や磁気、悪魔のしわざだと言う人もいました。1853年6月、物理学者マイケル・ファラデーは、新聞タイムズへの手紙で実験の結果を報告しました。

ファラデーは、手とテーブルの間に、すべる厚紙と、動きを針で示す装置をはさみました。参加者は「まっすぐ下に押しているだけ」と信じていました。しかし針は、手が先に動いていることを示しました。そして、参加者に針が見えるようにすると、テーブルは動かなくなりました。

文字盤の上の指し棒に何人かで手をのせ、質問の答えを指させるのがウィジャ盤です。1891年、アメリカで特許が取られました。特許の書類では「おもちゃまたはゲーム」と説明されています。2012年のカナダのブリティッシュコロンビア大学の実験もあります。自信のない質問に口で答えると正解は50%、ウィジャ盤で答えると65%でした。本人が気づいていない記憶が、手の動きに出たと研究者は考えています。

19ウソ

「オパールは、身につけると不幸を呼ぶ宝石」

この迷信は、1829年のウォルター・スコットの小説から広まったものです。米国宝石学会(GIA)は、昔からの言い伝えではないと説明しています。

なぜそう言える? 根拠を読む

英語圏には、オパールは不吉で、10月生まれ以外の人がつけると不幸になる、という迷信があります。米国宝石学会(GIA)によると、もとは古い言い伝えではありません。イギリスの作家ウォルター・スコットの小説『ガイアースタインのアン』です。GIAは、この小説が出た年を1829年としています。

小説の中で、男爵夫人ヘルミオネは、髪にいつもオパールの留め金をつけています。教会で、夫が指先の聖水のしずくを彼女の額にはじきます。しずくが当たったオパールは、流れ星のように光り、すぐにただの小石のような色になりました。彼女は倒れ、2時間ほどあとに部屋を開けると、ベッドには灰がひとにぎり残っているだけでした。

GIAによると、歴史の多くの時代で、オパールはむしろいちばん幸運な宝石とされてきました。1世紀ローマのプリニウスは、オパールの色を、画家が出すいちばん深く豊かな色にたとえています。

20ウソ

「病院で「今日は静かだね」と言うと、急に忙しくなる」

2019年の英国の実験で、「静かな日になる」とわざと言った日と、言わない日をくらべても、仕事の量に、はっきりした差はありませんでした。

なぜそう言える? 根拠を読む

英語圏の病院では、「quiet(静か)」と口にすると急に忙しくなる、とよく信じられています。そのため、この言葉を「the Q word(Qで始まる言葉)」と呼んで、口にしない人もいます。

2019年、英国ランカシャーの病院の微生物検査のチームが、61日間の実験をしました。日ごとにくじで決めて、29日は「今日は静かな日になるだろう」と言いました。残りの32日は、「quiet」という言葉を一切使いませんでした。電話や検査結果の数を合わせた1日の仕事は、言わない日が平均139.0件、言った日が144.9件でした。はっきりした差とは言えない大きさでした。

2025年には、この迷信を調べた8つのくじ引き実験をまとめた論文が出ました。7つの実験では、仕事の量に差はありませんでした。整形外科の1つでは夜の入院が増えましたが、調べ方に大きな弱点がありました。

21グレー

「丙午(ひのえうま)の年は、生まれる子どもが減る」

1966年の丙午は、生まれた子どもが前の年より約46万人(25%)減りました。2026年の丙午は、9月発表の速報で1〜7月が前の年より0.5%多く、大きな落ちこみは出ていません。

なぜそう言える? 根拠を読む

丙午は、60年に1度めぐってくる干支(えと)の年です。「この年に生まれた女性は気が強く、夫を早死にさせる」という迷信があります。『丙午の真実』という本は、この迷信が出てくるいちばん古い文献を、1662年の俳諧(はいかい)の句だとしています。1686年の井原西鶴『好色五人女』にも、丙午の女性が世間に嫌われるという話が出てきます。

厚生労働省の人口動態統計では、1966年に生まれた子どもは136万974人でした。前の年の182万3697人より、約46万人少ない数です。次の1967年は193万5647人にもどりました。1人の女性が一生に産む子どもの数の目安(合計特殊出生率)も、1965年の2.14から1966年だけ1.58に下がりました。

2026年は、その次の丙午です。厚生労働省が9月25日に出した「7月分」の速報では、2026年1〜7月に生まれた子どもは40万4547人でした。2025年の同じ時期より1852人多く、率にして0.5%の増加です。この速報は、日本にいる外国人なども含む数です。7月の1か月だけでは前の年より1.5%少ないものの、60年前のような大きな落ちこみは出ていません。

22ウソ

「仏滅の日は、何をしても縁起が悪い」

仏滅などの六曜は、旧暦の日付から機械的に決まる順番にすぎません。明治政府は1872年、こうした日の吉凶を根拠のないものとして暦から外しました。

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六曜は、先勝・友引・先負・仏滅・大安・赤口の6つです。中国で生まれ、日本には14世紀ごろに伝わったとされます。広まり始めたのは江戸時代の終わりごろで、大流行したのは戦後です。

決まり方はとても単純です。旧暦の1月1日と7月1日は、必ず先勝になります。2月1日と8月1日は友引です。あとは6つが順番にくり返され、月が替わると決まった位置からやり直します。その日の出来事とは関係なく、暦の計算だけで決まるのです。

明治5年(1872年)の旧暦11月9日、明治政府は太陽暦に切りかえる布告を出しました。このとき、日の吉凶を書いた「暦注」は、でたらめで根拠がないとして禁止されたと『暦の百科事典』は書いています。国立天文台も、こうした暦注は迷信にすぎないと説明しています。

六曜をめぐっては、役所が動いたこともあります。2005年には、六曜をのせた職員手帳に苦情が出て、大津市が3800冊を回収し、すべて焼却することにしたと新聞が報じました。

23ウソ

「夜に爪を切ると、親の死に目に会えない」

爪を切る時間と親の死を結びつける仕組みはありません。しかも夜に爪を切ると何が起きるかは地域ごとにばらばらで、理由の説明も何通りもあります。

なぜそう言える? 根拠を読む

小学館『故事・俗信ことわざ大辞典』(1982年)は、「夜、爪を切ってはいけない」を各地で言うと書いています。破るとどうなるかは、地域で違います。「親の死に目に会えない」のほかに、和歌山県では「牛の爪になる」、千葉県上総地方では「盗賊が入る」、青森県では「怪我をする」と言われてきました。

なぜ夜はいけないのかにも、いくつもの説があります。「夜爪」が「世詰め」、つまり命を縮めることに通じるという語呂合わせの説。明かりが暗く、刃物で指を傷つけるからという説。切った爪が火鉢に飛び、死体を焼くようなにおいがしたからという説もあります。どれが始まりかは、記録では確かめられていません。

江戸時代の禅宗のお坊さん、白隠慧鶴(はくいんえかく)も、夜の爪切りを戒める言葉を書いています。白隠の『毒語注心経』には「燈火不截爪」という言葉があり、「夜、爪切らぬは智者の常」と訳されています。ただし、この言葉の意味の受け取り方は、解説する人によって違います。

24ウソ

「初夢の一富士二鷹三茄子には、九番目まで続きがある」

江戸時代の俳諧の本などで使われているのは三番目までです。四〜六番は江戸時代の辞書の欄外の書きこみにあるだけで、七〜九番は2005年のネットの書きこみより古い例がありません。

なぜそう言える? 根拠を読む

「一富士二鷹三茄子」は、初夢に見ると縁起がいいものの順番です。『故事俗信ことわざ大辞典』は、江戸時代の俳諧の本などから8つの用例を挙げています。由来には、徳川家に縁の深い駿河(今の静岡県)の名物だという説や、駿河で「高い」もの(富士山、愛鷹山、初物のナスの値段)だという説などがあります。

続きとしてよく言われるのが「四扇(おうぎ)五煙草(たばこ)六座頭(ざとう)」です。江戸時代の辞書『俚言集覧』の、著者が手で書いた本に出てきます。ただし本文ではなく、欄外への書きこみです。同じ辞典は、この形は広く使われたわけではなく、後から付け足したものだろうと見ています。

ネットには「七丁髷(ちょんまげ)八薔薇(ばら)九歌舞伎」まで出回っています。国立国会図書館が2017年に、辞典や新聞のデータベース、Googleブックスなどで探しました。それでも見つかった最古の例は、2005年12月28日の質問サイトへの書きこみでした。その書きこみも「七以降は信じない方がいい」と添えていました。

25ウソ

「霊柩車を見たら親指を隠さないと、親が早死にする」

親指を隠すしぐさは霊柩車より古く、江戸時代には「親指のつめの間から魂が出入りする」という理由が書かれていました。親の死と結びつける根拠はありません。

なぜそう言える? 根拠を読む

『親指と霊柩車』を書いた常光徹は、死者のけがれを避けたい気持ちから来ていると説明しています。親指を隠すのは、霊柩車のときだけではありません。疫病、夜道、キツネ、猛犬、カラスなど、怖い場面で親指を隠す言い伝えが全国にあります。

古い記録は、江戸時代の小山田与清の随筆『松屋筆記』にあります。左右の親指のつめの間から、魂が出入りすると言われている。だから恐ろしいことがあれば、親指をにぎって隠す。そういう内容です。

霊柩車が登場するのは大正時代です。それより前は「葬列に出会ったら親指を隠せ」と言われていました。「霊柩車」という言葉の使用例として辞典がいちばん古く挙げるのは、1930年の小説です。親指を「親」に見立てて、親が早死にする、死に目に会えないなどと説明する形は、各地に伝わっています。

26ホント

「北枕を嫌うのは、お釈迦さまが亡くなったときの向きだから」

本当です。古い仏典で、お釈迦さまは最期に「頭を北に向けた寝床を作って」と頼みます。日本ではそれにならって亡くなった人を北枕に寝かせるので、ふだんは避けるようになりました。

なぜそう言える? 根拠を読む

仏典『長部経典』の第16経に、お釈迦さまの最期の旅が書かれています。クシナーラーの林で、お釈迦さまは弟子のアーナンダに、2本のサーラの木の間に頭を北に向けた寝床を作るよう頼みます。そして右わきを下にして横になりました。

頭を北にして右わきを下にすると、顔は西を向きます。この寝方は「頭北面西右脇臥」と呼ばれ、寝釈迦の像もこの形に作られます。日本の文献では、850年ごろの仏典の読み方の書きこみに「釈迦の北首(キタマクラ)」とあります。

人が亡くなると、ひつぎに入れるまで北枕に寝かせる習わしがあります。そのため、ふだん北枕で寝ることが嫌われました。毒のある魚「キタマクラ」の名前も、食べると死んで北枕になるという俗信から付いたと考えられています。一方、北枕で寝ると体によいという話は、科学的には証明されていません。

27グレー

「食べてすぐ寝ると牛になる」

牛にはなりません。ただ、夕食から寝るまでの時間が短いことと、胃酸が食道へもどる病気との間に、強い結びつきを見つけた日本の研究があります。

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『ことわざを知る辞典』は、この言葉を、食後すぐ横になる行儀の悪さを戒めるものだと説明しています。牛は、いったん食べたものを寝そべって口にもどし、かみ直します。その姿から「牛になる」と言ったのだろう、としています。

体への影響を調べたのが、大阪市立大学の研究チームです。2005年、胃食道逆流症(胃酸が食道へもどり、胸やけなどが起きる病気)の患者147人と、症状のない294人を比べました。夕食を食べ終えてから寝るまでの時間を、アンケートで聞いたのです。

寝るまでの時間が短いほど、病気との結びつきは強くなりました。3時間未満の人は、4時間以上の人に比べて、病気である見込み(オッズ)が7.45倍でした。ただし、食べてすぐ寝ることが病気の原因だと確かめた研究ではありません。アメリカの国立衛生研究所(NIH)の研究所の一つは、夜に症状が出る人は、寝る3時間以上前に食事をすませると症状がよくなることがある、と案内しています。

28ウソ

「夜に口笛を吹くと、ヘビが来る」

ニシキヘビを調べた実験では、ヘビは空気を伝わる音にとても鈍く、よく感じるのは80〜160ヘルツの低い振動でした。口笛はそれより何倍も高い音で、ヘビを呼ぶという根拠はありません。

なぜそう言える? 根拠を読む

夜の口笛を戒める言い伝えは、ヘビだけではありません。民俗学の本『俗信の論理』は、ヘビのほかの言い方を30以上挙げています。「キツネが来る」「天狗が来る」「河童が来る」「首切れ馬が出る」「貧乏神が来る」などです。昔、人さらいや泥棒が口笛で合図をしていたから、という説もあります。

デンマークのオーフス大学のチームは2012年、ボールパイソン(ニシキヘビの仲間)11匹の聞こえ方を調べました。脳の反応を測ると、いちばん敏感なのは80〜160ヘルツの低い音や振動でした。ヘビには耳の穴も鼓膜もありません。空気の音は、音で頭がわずかにゆれるのを感じているだけだ、と結論づけています。

人の口笛はずっと高い音です。2018年の口笛の研究では、人が口笛で出せる範囲から523ヘルツ、1046ヘルツ、2093ヘルツの音を選んで調べています。選んだ3つのうち、いちばん低い523ヘルツでも、ヘビが敏感な160ヘルツの3倍以上の高さです。

29ウソ

「しゃっくりが100回続くと死ぬ」

アメリカのチャールズ・オズボーンさんは、しゃっくりが68年間止まりませんでした。それでも1991年まで生きています。100回で死ぬという話に根拠はありません。

なぜそう言える? 根拠を読む

ギネス世界記録の医学の記録集によると、いちばん長いしゃっくりの記録はアメリカ・アイオワ州の男性です。チャールズ・オズボーンさん(1894〜1991年)といいます。1922年、ブタをつぶす前に重さを量ろうとしていたときに始まりました。医者も止められず、1990年2月まで68年間続きました。

しゃっくりが100回続いたくらいで、死ぬわけではないことが分かります。「100回で死ぬ」という言い方がいつ始まったのかは、記録では確かめられていません。しゃっくりを止めるまじないは日本に多くあります。手のひらに「柿」の字を書き、飲むまねをするというものもあります。

ただし医学では、長いしゃっくりに注意します。2020年の医学論文は、48時間から1か月続くものを「持続性」、1か月をこえるものを「慢性」と呼んでいます。何日も続くと、栄養不足や脱水、眠れないなどの害が出て、ごくまれに命にかかわることもあると書いています。原因として、脳卒中などの脳の病気や手術のあと、十二指腸の潰瘍などが報告されています。

30ウソ

「くしゃみが出るのは、誰かにうわさされているから」

くしゃみは、鼻の粘膜への刺激で起きる反射です。ただ「くしゃみは誰かが自分を思っているしるし」という考えは、8世紀の『万葉集』にすでに出てきます。

なぜそう言える? 根拠を読む

くしゃみは、主に鼻の粘膜が刺激され、その信号が神経を通って起きる反射です。鼻炎や鼻のアレルギーがあると、続けて出やすくなります。うわさ話が鼻を刺激する仕組みはありません。

それでも、この考えはとても古いものです。8世紀の『万葉集』には、くしゃみが出たのは恋しい人が自分を思っているからだろう、という歌があります(巻11・2637番)。当時はくしゃみをすることを「鼻ひる」と言いました。

「くしゃみ」という言葉も、迷信から生まれたと考えられています。昔は、くしゃみをすると早死にするという俗信がありました。そのとき防ぐために唱えたまじないの言葉が「くさめ」です。1275年の辞書『名語記』にこの使い方が見えます。吉田兼好の『徒然草』第47段には、道を歩きながら「くさめ、くさめ」と唱え続ける尼が出てきます。やがて「くさめ」は動作そのものを指すようになり、「くしゃみ」に変わったとみられます。

31ウソ

「リュウグウノツカイが打ち上げられると、大地震が来る」

東海大学などのチームが、新聞や論文、博物館の記録から深海魚の出現を集めて地震と照らし合わせました。出現と地震の時期・場所の関係はほとんど見つかりませんでした。

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リュウグウノツカイは、長さ10mにもなる深海魚です。日本の古文書には、1800〜1831年に今の島根県や高知県などで5件の発見例があるとされます。明治時代より前の日本の記録に出てくる人魚は、この魚だったと確かめた研究もあります。

新聞が地震の前ぶれとして書くようになったのは、1990年代からです。東洋大学の保科俊さんは、朝日新聞の記事109件などを調べました。朝日新聞で地震と結びつけた記事は1992年から始まります。一方で2010年の記事には、京都府の丹後の漁師は「大漁のしるし」と喜ぶ、とあります。

東海大学の織原義明さんたちは、新聞・論文・海の博物館の報告から、深海魚の出現をデータベースにまとめました。リュウグウノツカイなどが現れたあとに、地震が起きたかを調べました。結果は2019年、アメリカ地震学会の学会誌に発表されました。出現と地震の時期や場所の関係は、ほとんど見つかりませんでした。二つを結びつけるのは思いこみによる迷信だ、と結論づけています。

32グレー

「比叡山延暦寺は、京都の鬼門を守るために建てられた」

延暦寺の始まりは788年で、都が平安京に移った794年より前です。延暦寺を「都の鬼門の守り」とする文は鎌倉時代ごろから見え、建てた目的だったかは確かめられません。

なぜそう言える? 根拠を読む

鬼門は北東の方角です。陰陽道で、鬼が出入りするとして嫌われました。中国の古い本『論衡』には、度朔山という山の大きな桃の木があり、その枝の間の北東を「鬼門」と呼んで鬼が出入りする、と書かれています。ただ、中国の鬼門には方角そのものを避ける決まりまではなかったとされ、方角を嫌う俗信は日本独特のものだといいます。

延暦寺は、788年に最澄が建てた一乗止観院から始まりました。桓武天皇が平安京に都を移したのは794年なので、寺のほうが6年早いのです。『日本大百科全書』は、鬼門よけとして延暦寺を建てたという話は、のちになってからの説のようだと書いています。

延暦寺を都の鬼門に立つ寺とする文は、鎌倉時代の『叡岳要記』や、13世紀の『平家物語』に出てきます。鬼門をはっきり意識した記録としては、鎌倉幕府の記録『吾妻鏡』の1235年の記事が知られています。

33グレー

「厄年は、男は42歳・女は33歳と昔から決まっている」

男42・女33を大厄とする形は広く知られていますが、厄年の年齢は時代や地域でばらばらです。東北には2・4・6・8歳の子どもを厄年とする所もありました。

なぜそう言える? 根拠を読む

「厄年」という言葉は、平安時代の日記『小右記』の1020年の記事に出てきます。江戸時代の1703年の浄瑠璃『曽根崎心中』には、「廿五歳の厄の年」「十九のやくどし」というせりふがあります。心中する男は25歳、女は19歳の厄年でした。

年齢は地域でも違います。『日本大百科全書』は、陰陽道の説として男25・42・61歳、女19・33・61歳を挙げています。そのうえで、各地の言い伝えはこの説と必ずしも一致しないと書いています。東北地方には、2・4・6・8歳と幼い子どもの偶数の年を厄年とする所がありました。

42を「死に」、33を「散々」と読む説明はよく聞きます。しかし『百科事典マイペディア』は、厄年がこの語呂から始まったという説明を、語呂合わせにすぎないとしています。厄年はもともと数え年で数えるものでした。岡山県には、父親が41歳のときに生まれた子を形だけ捨て、頼んでおいた人に拾ってもらう風習も記録されています。

34グレー

「寝る子は育つ」

深い眠りに入るとすぐ、体を育てる成長ホルモンが大きく出ることは1968年の実験で確かめられました。ただし長く寝るほど背が伸びるかを測った実験ではありません。

なぜそう言える? 根拠を読む

『ことわざを知る辞典』によると、このことわざは江戸時代の終わりまでのことわざ集にはのっていません。明治時代以降に、各地で記録されるようになりました。

眠りと成長ホルモンの関係を示したのは、アメリカの研究チーム(Takahashi、Kipnis、Daughadayの3人)です。1968年、若い大人8人の血液を、のべ38晩、30分ごとに採って調べました。8人のうち7人で、深い眠りに入るとすぐ成長ホルモンが大きく増えました。増えた状態は1.5〜3.5時間続きました。

寝る時刻を遅らせると、ホルモンが増える時刻も遅れました。2〜3時間起こしてから寝かせ直すと、もう一度増えました。成長ホルモンは時計の時刻ではなく、眠りに合わせて出ていたのです。ただしこの実験は大人を調べたもので、子どもの背の伸びを測ったものではありません。

35ウソ

「節分の恵方巻は、昔から全国で食べられてきた」

文字で確かめられる最古の記録は、1932年に大阪のすし屋の組合が出したチラシです。全国に広まったのは、1998年にセブン‐イレブンが「恵方巻」の名前で全国発売してからです。

なぜそう言える? 根拠を読む

節分に恵方を向いて太巻きを丸かじりする習わしは、大阪のごく限られた地域のものだったと見られています。すしの研究者、篠田統の『すしの本』には、大正の初めにはすでにあったというすし屋の話が出てきます。文字の資料で最も古いのは、大阪のすし屋の組合が1932年に出したチラシです。

関西に広めたのは海苔の業者です。大阪の海苔問屋の組合は戦後すぐから宣伝していましたが、1977年ごろから毎年大量のチラシを配るようになりました。国産の海苔だけで足りるようになり、この先は余るおそれが出てきたからです。1976年には、海苔の業者が大阪・道頓堀で丸かぶりの早食い競争を始めています。

全国への広がりはコンビニからです。1989年、広島県のセブン‐イレブンの大阪出身の店主が商品にしました。1998年には「丸かぶり寿司 恵方巻」の名前で全国発売されました。関西での呼び名は「節分の巻きずし」などでした。論文の筆者が調べた範囲では、この商品名より前に「恵方巻」という言葉は見つかっていません。

戦国武将が始めたという由来話もあります。しかし巻きずしの作り方が本に初めて出るのは1776年の『新撰献立部類集』だといわれ、それより前の記録はありません。

36ホント

「ご飯に箸を立てるのは、お葬式のときの形だから良くない」

本当です。亡くなった人の枕元には、茶わんに盛ったご飯に箸を突き立てた「枕飯」を供える習わしがあります。ふだんの食事で箸を立てるのを嫌うのは、この枕飯を思わせるからです。

なぜそう言える? 根拠を読む

枕飯は、人が亡くなるとすぐに枕元に供えるご飯です。『日本大百科全書』によると、作り方にも決まりがあります。お椀のふたですり切りにはかった米を、とがずに炊きます。ふだんのかまどとは別に臨時のかまどを作り、鍋や釜にふたをしないで炊きます。

炊いた分をすべて、亡くなった人がふだん使っていた茶わんに盛ります。その上に箸を1本か2本、突き立てます。1本を立てて1本を横に挿す地域もあります。枕飯は葬列で運ばれ、墓の前に供えるのが一般的です。

同じ理由で嫌われるのが「一膳飯」です。お代わりをせず、1杯だけで食事を終えることを指します。『世界大百科事典』は、一口でもよいからご飯は2杯食べるようしつける家庭が多いと書いています。一膳飯が枕飯を思わせるからです。

37グレー

「雷が落ちると、キノコがよく生える」

雷に似た一瞬の高い電圧を原木にかけると、シイタケの収穫が約2倍になった例が岩手大学などの実験にあります。ただし本物の雷が落ちた場所を調べたわけではありません。

なぜそう言える? 根拠を読む

日本のキノコ農家には、雷が落ちるとキノコがたくさんとれる、という言い伝えがあります。これを実験で調べたのが、岩手大学の高木浩一さんたちです。雷のように、100万分の1秒単位の短い時間だけ高い電圧をかける装置を使いました。

シイタケを育てる木(ほだ木)に、5万ボルトを1回かけました。ほだ木1本あたりの4シーズン分の収穫は、電気をかけない木の167グラムに対し、322グラムでした。10万ボルトでも319グラムでした。ところが12万5000ボルトでは243グラムで、増え方が小さくなりました。研究チームは、ちょうどよい電圧の強さがあると見ています。

研究チームは、電気のショックがキノコの菌糸(キノコの本体である細い糸)への刺激になり、キノコを作るきっかけになると考えています。シイタケやナメコなど4種類のキノコで、収穫の重さは1.3〜2倍に増えたとまとめています。

38ホント

「太陽や月がかさをかぶると、雨になる」

気象庁も、科学的に説明がつくことわざとして挙げています。かさを作る雲は低気圧が近づくときに出やすいからです。ただし必ず雨になるわけではありません。

なぜそう言える? 根拠を読む

「かさ(暈)」は、太陽や月のまわりにできる光の輪です。空の高い所の雲にふくまれる、小さな氷の粒で光が曲がってできます。輪の大きさはほぼ決まっていて、太陽や月から22度離れた輪と、46度離れた輪があります。色の並びは虹と逆で、内側が赤、外側が紫です。

気象庁によると、低気圧が近づくと、空の高い所に巻層雲という薄い雲が広がります。この雲がかさを作ります。だから「かさが出ると雨」には理屈があります。ただし気象庁は、低気圧が近づいても100%雨が降るわけではない、とも書いています。

このことわざは、とても古いものです。『日本大百科全書』によると、月にかさがかかると雨や雲が多くなることは、紀元前のバビロニアの時代から知られていました。『世界大百科事典』によると、ギリシャのテオフラストスが紀元前300年ごろ、200あまりの天気のことわざを本にまとめています。その中に「月や日がかさをかぶると雨」が入っています。

39ウソ

「大地震の前には、地震雲という変わった雲が出る」

気象庁は、雲と地震を結びつける科学的な説明はできていないとしています。日本では体に感じる地震が1日平均5回ほど起きるので、変わった雲のあとに地震が来ることは偶然でもよくあります。

なぜそう言える? 根拠を読む

「地震雲」で知られた人に、奈良市長を4期つとめた鍵田忠三郎(1922〜1994年)がいます。雲の動きで地震を予知するとして、「地震雲市長」と呼ばれました。1980年には『これが地震雲だ 雲はウソをつかない』という本を出しています。

気象庁の考えは違います。雲は空気の現象で、地震は地面の現象です。地震が雲に影響する科学的な仕組みは、説明できていません。地震雲があるとしても、どんな雲で、地震とどう関係して現れるのか、科学的な説明はないと気象庁は書いています。

気象庁によると、日本では震度1以上の地震が1年に約2000回、1日平均で約5回起きています。震度4以上でも年に50回ほどです。雲は風や日光で変わった形や色に見えることがあり、夜は形を確かめられません。気象庁は、どちらもよく起きる関係のない二つの出来事が、見かけ上結びつけられているだけだと説明しています。

40ホント

「みかんを食べすぎると、手が黄色くなる」

本当です。「柑皮症(かんぴしょう)」と呼ばれ、みかんなどにふくまれる黄色い色素が血液に増え、手のひらや足の裏の厚い皮にたまって黄色く見えます。

なぜそう言える? 根拠を読む

百科事典『日本大百科全書』によると、柑皮症は血液の中のカロテン(カロチン)が増えた状態です。手のひらや足の裏が黄色っぽくなります。かんきつ類、ニンジン、トマト、ホウレンソウなどをたくさん食べたときに見られます。全身が黄色くなるのはまれで、子どもや菜食の人に多いとされます。

『日本国語大辞典』は、原因の食べ物として、ミカン、カボチャ、トマトに加えて海苔も挙げています。手のひらなどに色が出やすいのは、カロテンが脂肪や角質にたまりやすいからです。角質は、皮ふのいちばん外側の層のことです。

みかんの色素が血液に入ることを裏づける調査もあります。浜松医科大学と農研機構のチームが、静岡県浜松市三ヶ日町の住民を2003年から追いかけた研究です。β-クリプトキサンチンは、みかんに多くふくまれる色素です。みかんをよく食べる人ほど、血液中のこの色素が濃いことが分かりました。

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