
落とした食べ物の「3秒ルール」はウソだった
菌は、1秒もかからずに食べ物に移る。
この判定の対象「落とした食べ物も、3秒以内に拾えば菌はつかない」
もくじ
おやつを床に落としてしまった。すぐに拾って「3秒ルール!」。日本ではそう言って食べる人がいます。英語の国では「5秒ルール」と呼ばれ、同じことが言われています。すぐに拾えば、菌が移る時間はない、という考え方です。
2016年、アメリカのラトガース大学の研究者たちが、このルールを本気で確かめました。測った回数は2,560回。結論ははっきりしていました。菌は、1秒もかからずに食べ物に移ることがあるのです。
同じ実験からは、菌の移りやすさを大きく左右するものも分かりました。それは、床に置いた時間よりも、食べ物の水分と、床の種類でした。
この記事では、まず2,560回の実験のやり方を説明します。次に、食べ物と床の種類で、移る菌の量がどう変わったかを紹介します。最後に、乾いた床で菌がどれだけ生きるかを調べた研究を紹介します。
01ラトガース大学は、食べ物を床に落とす実験を2,560回行った
研究したのは、食品科学のドナルド・シャフナー(Donald Schaffner)教授です。大学院生のロビン・ミランダ(Robyn Miranda)さんと一緒に行いました。
実験は、次の組み合わせをすべて試すものでした。
- 床:ステンレス、タイル、木、カーペットの4種類。
- 食べ物:スイカ、食パン、バターを塗った食パン、グミの4種類。
- 置いておく時間:1秒未満、5秒、30秒、300秒の4種類。
- 床にたらす菌の液:中身の違う液を2種類。
全部で128通りです。それぞれを20回ずつくり返し、2,560回の測定になりました。
使った菌は、病気を起こさない種類のものです。ただし、物へのくっつき方が、食中毒の原因になるサルモネラ菌に似ています。
やり方はこうです。5cm四方の床材に菌の液をたらし、5時間かけて乾かします。そこへ、12.5cmの高さから食べ物を落とします。決めた時間がたったら、食べ物と床材にいる菌の数を数えました。
02床に置いた時間が1秒未満でも、菌は食べ物に移った
結果を見てみましょう。まず、時間です。長く置くほど、移る菌は確かに増えました。なので、「早く拾ったほうがまし」という考えは、間違いではありません。
ところが、1秒未満でも移る場合がありました。とくにスイカでは、2種類の菌の液のうち1つを使ったとき、ステンレスの床にいた菌の平均91%、木の床にいた菌の86%が移りました。落ちた瞬間に、床の菌のほとんどがスイカに移ってしまったのです。研究者たちは論文で、この結果は5秒ルールが正しくないことを示す、と書いています。
シャフナー教授は、大学の発表でこう説明しています。「菌には足がない。水分と一緒に動くのです」。菌は水に乗って移るので、水分の多い食べ物ほど、床の菌をたくさん運んでしまう、ということです。
03水分の多いスイカは菌が移りやすく、グミは移りにくい
移る菌の量は、食べ物によって大きく違いました。床にいた菌のうち、食べ物に移った割合を比べます。一番移ったのはスイカで、床や時間の条件によって約0.2〜97%でした。一番移りにくかったのはグミで、約0.1〜62%でした。食パンは約0.02〜94%で、条件によるばらつきが大きくなりました。
スイカとグミの違いを生んだのは、食べ物の水分です。研究チームは、それぞれの水分活性(すいぶんかっせい:食べ物の中で自由に動ける水の多さを表す数。1に近いほど多い)を測りました。スイカは0.99、食パンは0.95、グミは0.72でした。

044種類の床のうち、カーペットが一番菌が移りにくかった
床の種類でも、はっきりした差が出ました。移る量がとても少なかったのは、カーペットです。食パンをカーペットに1秒未満置いた実験では、20回のうち18〜19回は、移った菌が少なすぎて数えられませんでした。
一方、ステンレスやタイル、木の床は、菌がよく移りました。研究者たちは、カーペットでは菌が毛にくっついたり、水をすう毛の中にしみこんだりするため、移りにくいのかもしれないと考えています。
05サルモネラ菌は、乾いたタイルの上で4週間生きていた
もう一つ、知っておきたい研究があります。2007年、アメリカのクレムソン大学の研究者たちが、サルモネラ菌で調べたものです。2016年の実験より前に、5秒ルールについて、専門家の審査を受けて専門誌にのった研究は、これ1本だけでした。
この研究では、乾いたタイルの上でも、サルモネラ菌は4週間たっても生きていました。しかも、食べ物に移るのに十分な数が残っていたのです。タイルの上にボローニャソーセージを5秒置くと、タイルにいた菌の99%以上がソーセージに移りました。カーペットの上に置いたときは、移った菌は0.5%未満でした。
深掘り講義
ここから先は、もう一段深く。しくみ・史料・論争まで踏み込みます。
5秒ルールの研究は、テレビや広報での発表が多く、専門誌の論文は少なかった
5秒ルールの研究の歴史をたどると、科学の情報がどう広まるかがよく分かります。2016年の論文は、それまでの研究を次のように整理しています。
最初に知られている研究は、イリノイ大学で行われたものです。タイルに大腸菌をつけ、クッキーとグミで試し、5秒未満でも菌が移ることを確かめました。ただし、専門誌の論文にはなっていません。2004年には、シカゴの農業高校の生徒だったジリアン・クラーク(Jillian Clarke)さんが、5秒ルールの科学的な正しさを調べたことで、イグノーベル賞(人を笑わせ、考えさせる研究に贈られる賞)の公衆衛生賞を受けています。
2005年には、アメリカのテレビ番組『怪しい伝説(MythBusters)』が試し、2秒と6秒ではっきりした差は出なかったと放送しました。2014年には、イギリスの大学が広報で結果を発表しました。けれども、専門家の審査を受けた論文は、2007年のクレムソン大学の1本だけでした。
テレビや大学の広報は、多くの人に早く届きます。でも、実験のやり方や数字を、ほかの人が詳しく確かめるのは難しいのです。専門家の審査を受けた論文は、ほかの研究者が同じ実験をくり返せるように書かれています。2016年の論文は、それまでの研究は床や食べ物、回数がばらばらで、比べにくかったと書いています。2016年の2,560回の測定は、床・食べ物・時間の条件をそろえて、一度に比べるために行われました。
菌が床から食べ物に移るしくみ
食べ物が床に触れると、床の菌の一部が食べ物に移ります。これを交差汚染(こうさおせん:ある物についた菌が、別の物に移ること)といいます。2016年の論文によると、アメリカ疾病対策センター(CDC)の集計では、食中毒の集団発生の約12%が、物の表面からの移りに関係していました。これは、論文が数えた32種類の原因のうち、6番目に多いものです。
菌が移る量を左右するものは、主に三つあります。一つ目は水分。菌は自分では動けず、水と一緒に移ります。二つ目は表面の形。論文は、スイカの切り口は、とても小さなレベルで見ると、パンやグミより平らでむらが少ないのかもしれないと述べています。もしそうなら、スイカは床とぴったり触れ合いやすくなります。三つ目が時間です。長く触れているほど、水分が移り、菌も移ります。
置いた時間で移る量がどれだけ変わるかは、食べ物と床によって違う
2016年の論文の題名は「長く触れるほど、移る菌は増える」です。つまり、5秒ルールの「置いた時間が大事」という考えは、半分は正しいのです。ただ、時間によって移る量がどれだけ変わるかは、食べ物と床の組み合わせで大きく違います。
たとえばスイカでは、1秒未満でもすでに大量に移ったため、時間による差がほとんど出ませんでした。逆にグミでは、ステンレスの上に30秒置いても、移った菌が少なすぎて数えられない回がほとんどでした。研究者たちは、食べ物と床の性質は、置いた時間と同じか、それ以上に大事だとまとめています。
床についてから時間がたった菌ほど、食べ物に移りにくかった
2007年のクレムソン大学の研究には、もう一つの発見がありました。菌を床につけてから、食べ物を置くまでの時間を、2時間、4時間、8時間、24時間と変えたのです。すると、菌が床にいた時間が長いほど、食べ物に移る量は減りました。
ただし、減ったとはいえ、4週間たっても食べ物に移るだけの菌は残っていました。「時間がたった床なら安全」とも言えないのです。
06まとめ
「3秒ルール」は、科学の実験ではっきり否定されました。菌は、落ちて1秒もたたないうちに食べ物に移ることがあります。移る量を大きく左右したのは、時間よりも、食べ物の水分と床の種類でした。
一番危ないのは、なめらかな床に落ちた、水分たっぷりのスイカ。一番移りにくかったのは、カーペットに落ちたグミです。とはいえ、床にどれだけ菌がいるかは家によって違います。落とした物を食べるかどうかは、拾うまでの時間だけでなく、何をどこに落としたかで考えるのが、科学的な判断です。
人に話すなら、こう言おう
3秒ルールって、科学的にはアウトなんだって。スイカを落とすと1秒もたたずに菌が移ったらしいよ。逆に、カーペットに落ちたグミにはほとんどうつらなかったんだって。
英語で読む
Is the Five-Second Rule Real?
英文をタップすると、その文の訳が出ます。
You drop a snack on the floor and pick it up fast.おやつを床に落として、すぐに拾います。 "Five-second rule!" you say, and you eat it.「5秒ルール!」と言って、それを食べます。 Many people believe that germs need time to jump onto food.多くの人は、ばい菌が食べ物に飛び移るには時間がかかると信じています。
In 2016, Donald Schaffner and Robyn Miranda at Rutgers University tested this idea.2016年、ラトガース大学のドナルド・シャフナーさんとロビン・ミランダさんが、この考えを確かめました。 They used four floors and four foods: watermelon, bread, bread with butter, and gummy candy.二人は4種類の床と、スイカ、食パン、バターつき食パン、グミの4種類の食べ物を使いました。 They left the food on the floor for less than 1 second, 5 seconds, 30 seconds, or 300 seconds.食べ物を床の上に、1秒未満、5秒、30秒、300秒のいずれかの間置きました。 In total, they made 2,560 measurements.全部で2,560回の測定をしました。
The results were clear.結果ははっきりしていました。 Germs could move onto food in less than 1 second.ばい菌は1秒もかからずに食べ物にうつることがありました。 Watermelon picked up the most germs, and gummy candy picked up the fewest.スイカが一番多く菌をもらい、グミが一番少なかったのです。 The reason is water.理由は水分です。 Schaffner said that bacteria have no legs, so they travel with moisture.シャフナーさんは、菌には足がないので、水分と一緒に移動するのだと言いました。
The type of floor also mattered.床の種類も関係しました。 Carpet passed very few germs to food.カーペットは、食べ物にほとんど菌をうつしませんでした。 Smooth floors like tile and steel passed many more.タイルや鋼のようななめらかな床は、ずっと多くの菌をうつしました。 Time also mattered, because longer contact usually meant more germs.時間も関係しました。触れている時間が長いと、ふつうはうつる菌が多くなったからです。 In an older study from 2007, Salmonella germs stayed alive on a dry tile floor for four weeks.2007年の別の研究では、サルモネラ菌がかわいたタイルの床の上で4週間生きていました。 They could still move to food after all that time.それだけ時間がたっても、まだ食べ物にうつることができたのです。
So the five-second rule is not true.だから5秒ルールは本当ではありません。 What you drop, and where you drop it, matter more than how fast you are.どれだけ速く拾うかより、何をどこに落としたかのほうが大事なのです。 A wet slice of watermelon on a smooth floor is the worst case.なめらかな床に落ちた、水っぽいスイカのひと切れが最悪のケースです。
4択問題 Reading Quiz
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Q1What is this story mainly about?
この話は主に何についてのものですか。
正解:B A test of the five-second rule
第2段落で実験の方法、第3〜5段落で結果を説明しているので正解はB。Aのカーペットは結果の一部に出てくるだけで、掃除の話ではありません。
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Q2How many measurements did the researchers make?
研究者たちは何回測定しましたか。
正解:C 2,560
第2段落の最後の文に 2,560 measurements とあるので正解はC。300は秒数、2016は研究の年です。
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Q3Why did watermelon pick up the most germs?
なぜスイカが一番多く菌をもらったのですか。
正解:D Because it has a lot of water
第3段落で The reason is water. と述べ、菌は水分と一緒に移動すると説明しているので正解はD。甘さや色については書かれていません。
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Q4In paragraph 3, the word "moisture" is closest in meaning to ...
第3段落の moisture に最も意味が近いものはどれですか。
正解:A water in or on something
直前の文で The reason is water. とあり、moisture は「水分、湿り気」のことなので正解はA。Cの「小さな動物」は菌(bacteria)を思わせますが、moisture の意味ではありません。
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Q5Which is true about carpet in this study?
この研究でのカーペットについて正しいものはどれですか。
正解:B It passed very few germs to food.
第4段落の2文目に、カーペットは食べ物にほとんど菌をうつさなかったとあるので正解はB。Aは逆の内容で、3文目でタイルのほうが多くうつしたと書かれています。
重要語 Key Words(タップで裏返る)
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germ名詞ばい菌、病原菌
Wash your hands to get rid of germs.
手を洗ってばい菌を落としなさい。
💡 ふつう複数形 germs で使います。bacteria より日常的な言葉。
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bacteria名詞細菌
Some bacteria are good for your stomach.
おなかによい細菌もいる。
💡 複数形。単数形は bacterium。
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measurement名詞測定
The nurse took a measurement of my height.
看護師が私の身長を測った。
💡 動詞は measure(測る)。
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pick up熟語拾う、(菌などを)もらう
Please pick up your toys.
おもちゃを拾ってください。
💡 「(病気や菌を)もらう」「(車で)迎えに行く」の意味もあります。
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moisture名詞水分、湿り気
Plants take in moisture from the soil.
植物は土から水分を取りこむ。
💡 形容詞 moist(しめった)の名詞形。
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smooth形容詞なめらかな
The baby has very smooth skin.
その赤ちゃんの肌はとてもなめらかだ。
💡 反対は rough(ざらざらした)。th の発音に注意。
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contact名詞接触、触れること
Avoid contact with the hot pan.
熱いフライパンに触れないようにしなさい。
💡 contact lens(コンタクトレンズ)は目に触れるレンズ。
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matter動詞重要である
Your opinion really matters to me.
あなたの意見は私にとって本当に大切だ。
💡 It doesn't matter.(どうでもいいよ)でおなじみ。名詞の「物質、問題」とは別の使い方。
SOURCES出典・ウラ取り
この記事の事実は、次の資料を実際に開いて確認しています(確認した事実 26件)。
- Miranda, R. C. & Schaffner, D. W. (2016) Longer Contact Times Increase Cross-Contamination of Enterobacter aerogenes from Surfaces to Food, Applied and Environmental Microbiology 82:6490doi.org
- Rutgers Researchers Debunk 'Five-Second Rule'(ラトガース大学 広報、2016)rutgers.edu
- Dawson, P. ほか (2007) Residence time and food contact time effects on transfer of Salmonella Typhimurium from tile, wood and carpet: testing the five-second rule, Journal of Applied Microbiology 102:945doi.org
- Winners of the Ig Nobel Prize(Improbable Research 公式)improbable.com
文章はすべて資料をもとに独自の言葉で書いています。画像はオリジナルのイメージです。誤りにお気づきの方は訂正窓口へ。
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No.005カニカマは、人工クラゲを作ろうとした研究から生まれた
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