シャコのパンチは、水の中で時速85kmにもなる
生き物No.119

シャコのパンチは、水の中で時速85kmにもなる

筋肉ではなく、バネの力で打っている。

うなり度 読む時間9分 出典7件 確認した事実26件
もくじ
  1. シャコは、筋肉の力をバネにためてから一気に放つ
  2. シャコの腕には、力をためるバネと、腕を止める留め金がある
  3. 1回打つと、貝には2回の衝撃が当たる
  4. シャコは仲間とけんかするとき、相手のしっぽの先の硬い板をたたき合う
  5. 深掘り講義
  6. まとめ
  7. 英語で読む(A2・4択5問)
  8. 出典・ウラ取り

サンゴ礁の砂地で、モンハナシャコというシャコが、巻き貝の前でじっと構えています。次の瞬間、折りたたんでいた腕がはね出し、貝の殻に当たります。そのあいだは、わずか数ミリ秒(1ミリ秒は1000分の1秒)。人のまばたきより、ずっと短い時間です。

2007年の実験で、このパンチを打つ腕の先の速さを測ると、速いときで秒速23.5mでした。時速になおすと約85kmです。しかも、これは水の中での速さです。体長15cmほどの生き物が、どうやってこんな速さを出しているのでしょうか。

研究で分かったのは、シャコは筋肉の力でそのまま打っているのではない、ということでした。シャコの腕には、クロスボウとそっくりの仕組みが入っていたのです。クロスボウとは、弓を台に固定して、引き金で矢を放つ武器です。

この記事では、まず、シャコが腕に力をためて放つ仕組みを説明します。次に、1回のパンチで出る2つの衝撃の大きさを紹介します。最後に、シャコどうしがけんかをするとき、相手のどこをたたくのかを見ていきます。

01シャコは、筋肉の力をバネにためてから一気に放つ

動物の筋肉には、どうしても越えられない弱点があります。縮むのがゆっくりで、縮む長さも短いのです。筋肉だけでは、とても速い動きは出せません。

そこで使われるのが、パワー増幅という工夫です。筋肉の力をゆっくりバネにためておき、あとで一気に放つ仕組みです。カンガルーやバッタのジャンプも、この仕組みを使っています。

アメリカの研究者シーラ・パテック(Sheila Patek)らは、2007年の論文で、シャコの腕をクロスボウに例えました。クロスボウは、次の2つの段階で矢を飛ばします。

  • 力をためる:人が腕でゆっくり弦を引いて、弓に力をためる。
  • 力を放つ:引き金を引くと留め金が外れ、矢が一気に飛ぶ。

矢が飛ぶ瞬間、人の腕の筋肉は、ほとんど働いていません。矢を速く飛ばすのは、弓にためておいた力です。だから、手で矢を投げるより、ずっと速く飛びます。

02シャコの腕には、力をためるバネと、腕を止める留め金がある

シャコがパンチを打つとき、腕の中では次のことが順に起きています。

まず、腕を伸ばす筋肉が、ゆっくり縮み始めます。そのあいだ、腕を曲げる筋肉が、小さな硬い板を2枚押さえています。この2枚の板が、クロスボウの留め金に当たります。留め金がかかっているので、腕はまだ動きません。

腕を伸ばす筋肉が縮みきると、打つ準備ができます。ここで、腕を曲げる筋肉がふっと緩み、留め金が外れます。すると、ためていた力が一気に放たれ、腕が外へ向かって回転します。

では、力は腕のどこにためられているのでしょうか。この点は、研究が進むにつれて考えが変わってきました。

2004年、パテックらは科学誌ネイチャーで、腕の節にある、馬の鞍(くら)のような形の部分がバネになる、と発表しました。この部分は、外骨格の一部です。外骨格とは、エビやカニのように、体の外側を覆う硬い殻のことです。

ところが2007年の研究で、鞍の形の部分には、殻を硬くする鉱物が少ないと分かりました。そのため、この部分だけでは大きな力はためにくいのです。今は、外骨格の何か所かに分けて力がためられている、と考えられています。中でも、腕の節にある「V字」の形の部分が大事ではないか、とされています。

シャコは腕の節の殻に力をため、留め金が外れた瞬間に腕を打ち出す
シャコは腕の節の殻に力をため、留め金が外れた瞬間に腕を打ち出す

さらに、腕の関節は、4本の棒をつないだような形をしています。この形の関節は、腕が回る角度を大きくするはたらきをします。2007年の研究では、バネの側の部品が回った角度に比べて、腕は約2倍の角度だけ回ると分かりました。

この研究に使われたモンハナシャコは、体長11.5〜14.8cmです。水槽で、巻き貝や冷凍エビを食べて暮らしていました。

031回打つと、貝には2回の衝撃が当たる

2005年、パテックらは、このパンチがどれほど強いのかを、力を測るセンサーで調べました。

すると、1回打つたびに、力が大きくはね上がる瞬間が2回あると分かりました。1回目と2回目のあいだは、390〜480マイクロ秒です。1マイクロ秒は、100万分の1秒です。

  • 1回目の衝撃:腕が貝に当たったときの力。
  • 2回目の衝撃:腕の周りにできた小さな泡が、つぶれるときの力。

1回目の、腕が当たったときの力は、400〜1501N(ニュートン)でした。1Nは、だいたい100gの物を持ったときに、手にかかる力です。つまり1501Nは、およそ150kgの物を載せたときの力に当たります。論文は、シャコが自分の体重の何千倍もの力を出している、と書いています。

2回目の、泡がつぶれる力も、最大で504Nありました。平均すると、腕が当たったときの力の半分ほどです。ただ、ときには泡の力のほうが、腕が当たった力より大きくなりました。論文によると、泡の力が腕の力を上回った分は、最大で腕の力の280%に達しました。

04シャコは仲間とけんかするとき、相手のしっぽの先の硬い板をたたき合う

これほど強いパンチを持つシャコどうしがけんかをしたら、どうなるのでしょうか。

シャコにとって、巣穴はとても大切な場所です。えさを食べる場所であり、交尾をしたり卵を守ったりする場所であり、隠れ家でもあります。そのため、シャコは巣穴をめぐって、よくけんかをします。

でも、相手の体をどこでもかまわず打つわけではありません。狙うのは、相手の尾の先にある、ドーム形の硬い板です。この板はテルソンと呼ばれ、けんかのときに盾の役目をします。

2018年、パテックとパトリック・グリーン(Patrick Green)は、パナマに住むシャコの一種で、けんかのようすを調べました。巣穴の持ち主と、そこへ入ってきた相手を、水槽で対決させたのです。記録した試合は、体重をそろえなかった試合が35、体長をそろえた試合が29でした。

結果は、巣穴の持ち主のほうが有利でした。体重をそろえなかった試合では、入ってきた側が勝つには、持ち主より平均で0.51g重い必要がありました。0.51gは、このシャコの平均体重の約半分に当たります。腕の先を開いて相手を突き刺すような、危険な攻撃は、めったに見られませんでした。

研究チームは、シャコがけんかの中で、自分と相手の強さを見比べて勝ち負けを決めている、と考えています。尾の盾を打ち合うのは、おたがいの強さを確かめるための「儀式」のようなものだ、というのです。

LECTURE

深掘り講義

ここから先は、もう一段深く。しくみ・史料・論争まで踏み込みます。

ためた力を一瞬で放つと、筋肉だけより速く動ける

動物がどれだけ速く動けるかは、普通、筋肉で決まります。でも、筋肉が縮む速さには限りがあります。そこで多くの動物が、パワー増幅という仕組みを進化させてきました。

ここでいう「パワー」とは、決まった時間のあいだに、どれだけの仕事をするかという量です。同じ量の仕事でも、短い時間でやれば、パワーは大きくなります。

パワー増幅では、筋肉がゆっくり仕事をして、その分をバネにためます。バネは、ためた分を一瞬で放ちます。仕事の量は同じでも、かかる時間が何百分の一になれば、パワーは何百倍になります。

この仕組みには、3つの部品が必要です。

  • 力をためるバネ(シャコでは、外骨格や腱のような組織)。
  • ためた力が逃げないように押さえる留め金(シャコでは、小さな硬い板)。
  • 動きを大きくするてこ(シャコでは、4本の棒をつないだような関節)。

パテックらは、シャコの腕がこの3つを全部備えている、と結論しました。ほかの動物の速い動きも、同じ考え方で調べられています。例えば、バッタのジャンプ、テッポウエビのはさみ、一部の動物の飛び出す舌などです。

速く動く腕の周りでは、泡ができて、つぶれる

水の中で物がとても速く動くと、その周りで水の圧力が急に下がります。圧力が下がると、水は低い温度でも水蒸気になり、泡ができます。この現象を、キャビテーションと呼びます。できた泡はすぐにつぶれ、そのときに強い力と音が出ます。

シャコは、この泡がつぶれる力も、獲物の殻を割る力に加えているらしいのです。パテックらは、腕が当たる力と泡の力を組み合わせたこの割り方は、魚のあごやロブスターのはさみとは、まったく違う方法だと書いています。

腕の先のハンマーは、何度打っても割れにくい

これほど強く打てば、普通は打つ側の道具も壊れてしまいます。でも、シャコの腕の先にあるこぶ(ハンマー)は、何度打っても割れにくくできています。

2012年、ジェームズ・ウィーバー(James Weaver)らは、このハンマーが何でできているかを調べました。材料は、主に次の2つでした。

  • ヒドロキシアパタイトなどの鉱物。リン酸カルシウムという物質の、硬い結晶です。
  • キチンの繊維。キチンは、エビやカニの殻の材料です。

キチンの繊維は、らせん階段のように、少しずつ向きを変えながら重なっています。

研究チームの説明では、性質の違う何種類もの材料と、このらせんの重なり方が組み合わさって、ひびが広がるのを何重にも防いでいます。そのおかげで、強い衝撃を繰り返し受けても、一気に壊れることがないのです。シャコのハンマーは、新しい材料や道具を考えるときのお手本としても、注目されています。

尾の盾を打ち合ってけんかをするシャコの盾は、打ち合わないシャコの盾より丈夫なわけではなかった

強い武器を持つ動物は、けんかで相手を殺してしまわないよう、決まった形の戦い方をすることがあります。シカが角をからませて押し合うのも、その例です。

シャコの尾の盾も、けんかに使うために、特別に丈夫に進化したのではないか、と考えられてきました。2019年、ジェニファー・テイラー(Jennifer Taylor)らは、それを確かめるため、15種のシャコの尾の盾に玉を落としました。そして、盾が衝撃をどう吸収するかを調べたのです。

結果は、意外なものでした。どの種の尾の盾も、硬いバネのように働いて、衝撃のエネルギーの大部分を吸収しました。ところが、盾を打ち合うけんかをする種の盾が、けんかをしない種の盾より丈夫だ、ということはなかったのです。研究チームは、シャコの尾の盾は、もともと衝撃に強いつくりをしていた、と結論しています。

05まとめ

モンハナシャコのパンチは、測られた中で一番速いもので秒速23.5mでした。この速さは、筋肉が速く縮むことで出ているのではありません。腕のバネにためた力を、留め金を外して一気に放つことで生まれていました。1回打つと、腕が当たる力と、泡がつぶれる力で、2回の衝撃が出ます。

そんな強いパンチを持つシャコも、仲間とのけんかでは、相手の尾の盾を狙って打ち合います。2018年の実験では、巣穴に入ってきた側が持ち主に勝つには、持ち主より平均で0.51g(平均体重の約半分)重い必要がありました。

人に話すなら、こう言おう

シャコのパンチって、筋肉で打つんじゃなくて、クロスボウみたいにバネをためて留め金を外して打つんだって。しかも仲間とけんかするときは、相手のしっぽの盾を狙って打ち合うらしいよ。
READ IN ENGLISH

英語で読む

The Shrimp With a Crossbow in Its Arm

CEFR A2220 words4択 5問全訳つき
0:00

英文をタップすると、その文の訳が出ます。

A peacock mantis shrimp waits in front of a snail.1匹のモンハナシャコが、巻き貝の前で待ちかまえています。 Suddenly, its folded arm flies out and hits the shell.突然、折りたたんだ腕がはね出して、からに当たります。 The whole strike takes only a few milliseconds.一撃全体にかかるのは、ほんの数ミリ秒です。 At its fastest, the arm moves 23.5 meters per second, even under water.いちばん速いとき、腕は水の中でも秒速23.5mで動きます。

How does a small animal do this?小さな動物が、どうやってこんなことをするのでしょうか。 Muscles are slow, so the shrimp does not swing its arm with muscle power alone.筋肉は遅いので、シャコは筋肉の力だけで腕をふるのではありません。 Instead, it works like a crossbow.そのかわり、クロスボウのように動きます。 First, a muscle slowly pulls and stores energy in a spring in the arm.まず、筋肉がゆっくり引いて、腕の中のバネにエネルギーをためます。 Two small hard pieces work as a latch and hold the arm back.2つの小さな硬い部品が留め金として働き、腕を押さえておきます。 When the latch opens, the energy goes out all at once.留め金が外れると、エネルギーが一気に放たれます。

Scientists measured the force of these hits.科学者たちは、この一撃の力を測りました。 One hit could reach 1,501 newtons, thousands of times the shrimp's body weight.1回の打撃は1501ニュートンに達することがあり、それはシャコの体重の何千倍もの力でした。 Each strike also hits twice.しかも1回打つと、衝撃は2回やってきます。 First the arm hits, and then tiny bubbles in the water break with a second push.まず腕が当たり、次に水の中の小さな泡がつぶれて、2回目の力がかかるのです。

With such a strong weapon, you might think fights between mantis shrimp are deadly.こんなに強い武器があるなら、シャコどうしのけんかは命がけだと思うかもしれません。 But they have rules.でも、彼らにはルールがあります。 When two shrimp fight over a home, they hit each other's tail plate.2匹が住みかをめぐってけんかをするとき、相手の尾の板をたたきます。 This hard plate works like a shield.この硬い板は盾のように働きます。 Dangerous stabbing is rare.危険な突き刺しは、めったにありません。

In one study, the shrimp that owned the home usually won.ある研究では、住みかの持ち主がたいてい勝ちました。 To win, the visitor had to be heavier than the owner by about half of an average shrimp's weight.勝つためには、やってきた側は、平均的なシャコの体重の半分ほど、持ち主より重い必要がありました。

4択問題 Reading Quiz

  1. Q1What is this story mainly about?

    この話は主に何についてのものですか。

  2. Q2How fast can the arm move at its fastest?

    腕はいちばん速いとき、どれくらいの速さで動きますか。

  3. Q3What happens when the latch opens?

    留め金が外れると、何が起きますか。

  4. Q4In paragraph 4, the word "shield" is closest in meaning to …

    第4段落の shield という語に最も意味が近いのはどれですか。

  5. Q5Which is true about fights between mantis shrimp?

    シャコどうしのけんかについて、正しいものはどれですか。

重要語 Key Words(タップで裏返る)

  • strike名詞・動詞
    一撃、打撃/打つ

    The player made a quick strike at the ball.

    その選手はボールをすばやく打った。

    💡 過去形は struck。野球の「ストライク」も同じ語。

  • crossbow名詞
    クロスボウ(台つきの弓)

    The hunter carried a crossbow.

    その狩人はクロスボウを持っていた。

    💡 cross(十字)+ bow(弓)。bow は「おじぎ」と読み方がちがう(ボウ)。

  • store動詞
    ためる、たくわえる

    Squirrels store nuts for the winter.

    リスは冬に備えて木の実をたくわえる。

    💡 名詞では「店」。store energy で「エネルギーをためる」。

  • spring名詞
    バネ

    The toy jumps with a small spring.

    そのおもちゃは小さなバネで跳ねる。

    💡 「春」「泉」と同じつづり。もとは「跳ねる」という意味。

  • latch名詞
    留め金、かけ金

    Close the latch on the gate.

    門のかけ金を閉めてね。

    💡 ドアや門を止めておく金具。動詞で「かけ金をかける」。

  • force名詞
    力

    The wind hit the house with great force.

    風がものすごい力で家に吹きつけた。

    💡 物理の「力」。単位はニュートン(newton)。

  • bubble名詞
    泡

    The baby laughed at the soap bubbles.

    赤ちゃんはシャボン玉を見て笑った。

    💡 bubble gum(風船ガム)のバブル。

  • shield名詞
    盾

    The knight held up his shield.

    騎士は盾をかかげた。

    💡 動詞で「守る」。sunshield は「日よけ」。

SOURCES出典・ウラ取り

この記事の事実は、次の資料を実際に開いて確認しています(確認した事実 26件)。

  1. Patek, S. N., Korff, W. L., Caldwell, R. L. (2004) Deadly strike mechanism of a mantis shrimp, Nature 428:819-820doi.org
  2. Patek, S. N., Caldwell, R. L. (2005) Extreme impact and cavitation forces of a biological hammer, Journal of Experimental Biology 208:3655-3664doi.org
  3. Patek, S. N. ほか (2007) Linkage mechanics and power amplification of the mantis shrimp's strike, Journal of Experimental Biology 210:3677-3688doi.org
  4. Weaver, J. C. ほか (2012) The Stomatopod Dactyl Club: A Formidable Damage-Tolerant Biological Hammer, Science 336:1275-1280doi.org
  5. Green, P. A., Patek, S. N. (2018) Mutual assessment during ritualized fighting in mantis shrimp (Stomatopoda), Proceedings of the Royal Society B 285:20172542doi.org
  6. Taylor, J. R. A., Scott, N. I., Rouse, G. W. (2019) Evolution of mantis shrimp telson armour and its role in ritualized fighting, Journal of the Royal Society Interface 16:20190203doi.org
  7. Streets, A., England, H., Marshall, J. (2022) Colour vision in stomatopod crustaceans: more questions than answers, Journal of Experimental Biology 225:jeb243699doi.org

公式ページで見てみよう

文章はすべて資料をもとに独自の言葉で書いています。画像はオリジナルのイメージです。誤りにお気づきの方は訂正窓口へ。

NEXT TRIVIAこの雑学にうなった人は、これにもうなる