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マッコウクジラの「カチカチ音」に“アルファベット”があった。AIで動物の言葉に挑む研究

マッコウクジラの「カチカチ音」に“アルファベット”があった。AIで動物の言葉に挑む研究

読む前に予想してみよう!

AIはすでにクジラの言葉を人間の言葉に翻訳できている

研究カード(どんな研究?)
対象
東カリブ海のマッコウクジラ(EC1クラン)
規模
コーダ8,719個
研究の種類
録音データの機械学習・統計解析
確かさ
★★★☆☆
3秒でわかる

マッコウクジラのクリック音を機械学習で分析したら、組み合わせで多彩な音を作る「音声アルファベット」のような構造が見つかった。意味の解読はまだこれから。

ひとことで言うとクジラの「カチカチ」には、文字みたいな組み合わせのルールがあった!

もくじ
  1. クジラの会話は「方言つきのモールス信号」
  2. AIが見つけた「リズム・テンポ・ため・飾り」
  3. 「文法らしきもの」と「意味」は別問題
  4. まとめ

深海を泳ぐマッコウクジラは、「カチッ、カチッ、カチカチッ」というクリック音で仲間とやりとりしています。モールス信号みたいなこの音のまとまりはコーダと呼ばれます。

長い間、コーダは「どの群れの仲間か」を示す合言葉のようなものだと考えられてきました。ところが最近、AI(機械学習)で大量のコーダを分析したところ、想像以上に複雑な組み立てのルールが隠れていたことがわかったのです。

「動物の言葉をAIで解読する」――SFのような研究は、いまどこまで来ているのでしょうか。

01クジラの会話は「方言つきのモールス信号」

マッコウクジラは家族単位の群れで暮らし、さらに大きなクラン(氏族)というグループに分かれています。面白いのは、クランごとにコーダの使い方が違う、つまり方言があることです。

カリブ海のドミニカ沖で長年クジラを観察してきた研究では、個体・家族・クランそれぞれのレベルで「自分たちらしさ」がコーダに表れることが示されてきました(Gero ら, 2016)。太平洋のクランでも、所属を示す“目印”のようなコーダが見つかっています(Hersh ら, 2022)。

ただ、従来わかっていたコーダの種類は、世界全体で約150種類、カリブ海の群れでは21種類ほど。「伝えられる情報はそんなに多くないのでは?」とも思われていました。

02AIが見つけた「リズム・テンポ・ため・飾り」

研究チームはこの仕組みを、マッコウクジラの「音声アルファベット」と呼びました。少ない部品の組み合わせで、たくさんの区別できる音を作れる――人間の言葉が限られた音(母音や子音)から無数の単語を作るのと、どこか似ています。

その結果、区別できるコーダの種類は、従来考えられていたよりほぼ1桁多い可能性が出てきました。しかもクジラ同士は、相手のルバートや飾りをまねし合うような様子も見せていたといいます。

同じ型のコーダでも、“ため”や“飾り”を変えることで別の音になる。
同じ型のコーダでも、“ため”や“飾り”を変えることで別の音になる。

さらに2025年には、クリック音の「響き」の違いに、人間の母音のような2つのパターンがあるという分析も発表されました(Beguš ら)。まだ議論中の段階ですが、クジラの音は思ったより“情報の層”が厚いのかもしれません。

03「文法らしきもの」と「意味」は別問題

ここで大事な注意点があります。

意味を知るには、どんな状況でどのコーダが使われ、相手がどう反応したかを、膨大な行動データと結びつける必要があります。そのため研究チームは、水中マイクやクジラに付ける記録装置、ドローンなどを組み合わせてデータを集め続けています。

ほかにも、コウモリの鳴き声を機械学習で分類して「誰に向けた、どんな場面の声か」をある程度言い当てた研究など、AI×動物の声の研究は世界中で広がっています。

04まとめ

マッコウクジラのカチカチ音には、リズムやテンポに“ため”と“飾り”を組み合わせる、アルファベットのような仕組みが隠れていました。

ただし「何を話しているか」は、まだ深海の向こう側。いつか翻訳できた時、クジラが何を語るのか――あなたは何を聞いてみたいですか?

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerSperm whales communicate with short series of clicks called codas, a bit like Morse code. 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

Sperm whales communicate with short series of clicks called codas, a bit like Morse code. Each clan, or large group of whales, uses codas in its own way, so the clans seem to have dialects. Until recently, scientists knew of only about 150 coda types worldwide.

Because of this, many thought the whales could not share much information. In 2024, however, researchers from Project CETI used machine learning to analyze 8,719 codas recorded in the eastern Caribbean. They found that the whales combine basic features, such as rhythm and tempo, with small changes in timing and an extra click at the end. Nobody knows yet what any coda means. But with so many possible combinations, there may be far more distinct codas than people believed.

125 words ・ CEFR B1

和訳を見る

マッコウクジラは、モールス信号に少し似た、コーダと呼ばれる短いクリック音の連なりを使ってやりとりします。それぞれのクラン、つまりクジラの大きな集団は、独自のやり方でコーダを使うので、クランごとに方言があるように見えます。最近まで、科学者が知っていたコーダの種類は世界全体で約150種類だけでした。

そのため、多くの人はクジラはあまり多くの情報を共有できないと考えていました。しかし2024年、Project CETIの研究者たちは機械学習を使って、東カリブ海で録音された8,719個のコーダを分析しました。その結果、クジラはリズムやテンポといった基本的な特徴に、タイミングの小さな変化や最後に付く追加のクリックを組み合わせていることがわかりました。それぞれのコーダが何を意味するのかは、まだ誰にもわかりません。しかし、これほど多くの組み合わせがあるなら、区別できるコーダは人々が考えていたよりはるかに多いかもしれません。

4択リーディングクイズ

Q1. Why do sperm whale clans seem to have dialects?

Q2. What did the 2024 study find?

Q3. What do scientists still not know about codas?

重要単語

  • codaC1
    名詞コーダ(クジラのクリック音のまとまり)Each coda is a short pattern of clicks. 音楽用語の「コーダ(終結部)」と同じ綴り。イタリア語で「しっぽ」。
  • combinatorialC1
    形容詞組み合わせのHuman language has a combinatorial structure. combine(組み合わせる)→ combination → combinatorial。言語学の長文で登場する。
  • vocalizationC1
    名詞発声、鳴き声Scientists recorded the whales' vocalizations. vocal(声の)+-ize+-ation。voice と同語源。動物行動学でよく使う。
  • clanB2
    名詞氏族、大きな集団Each clan has its own dialect. もとはスコットランドの「氏族」。比喩的に「一族・派閥」の意味でも使う。
  • decodeB2
    動詞解読するWe cannot decode the meaning of the codas yet. de-(解く)+code(暗号)。反対は encode(符号化する)。
  • dialectB2
    名詞方言People in that region speak a different dialect. dia-(通して)+lect(話す)。accent(なまり=発音)との違いも問われる。
  • order of magnitudeC1
    名詞(句)桁(10倍の規模)The new estimate is an order of magnitude larger. an order of magnitude larger =「1桁大きい(約10倍)」。理系英文の定番表現。

動画でもっと知る

4コマでわかる

マッコウクジラの「カチカチ音」に“アルファベット”があった。AIで動物の言葉に挑む研究の4コマ漫画
マッコウクジラが「カチカチ」鳴らすクリック音、AIで8千以上分析したらリズム・テンポ・“ため”・“飾り”を組み合わせる「音声アルファベット」みたいな仕組みが見つかったらしい。

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出典・参考文献(4件)タップで表示
  1. Sharma et al. (2024) Contextual and combinatorial structure in sperm whale vocalisations, Nature Communicationsdoi.org
  2. Gero et al. (2016) Individual, unit and vocal clan level identity cues in sperm whale codas, Royal Society Open Sciencedoi.org
  3. Beguš et al. (2025) Vowel- and Diphthong-Like Spectral Patterns in Sperm Whale Codas, Open Minddoi.org
  4. Hersh et al. (2022) Evidence from sperm whale clans of symbolic marking in non-human cultures, PNASdoi.org