昼は430℃の水星に「氷」があった。太陽にいちばん近い惑星の“冷凍庫”

読む前に予想してみよう!
太陽にいちばん近い水星には、氷は1かけらも存在しない
極付近のクレーターの永久影に水の氷があることが、探査機の観測で強く示された。
- 対象
- 水星の北極域
- 規模
- 探査機MESSENGERの複数観測+地上レーダー
- 研究の種類
- 観測研究(中性子・レーザー高度計・熱モデル)
- 確かさ
- ★★★★☆
昼は430℃にもなる水星だが、北極付近のクレーターの永久影には水の氷がある。NASAの探査機MESSENGERの観測で、2012〜13年に有力な証拠がそろった。
ひとことで言うと太陽に一番近い水星にも、日が当たらない穴の中には氷があるよ。
水星は、太陽にいちばん近い惑星です。NASAによると、昼の地表は最高で約430℃。鉛もとけてしまう温度です。
そんな灼熱の星に、氷がある。しかも、ドライアイスのような「別の物質の氷」ではなく、水の氷です。
うそみたいな話ですが、これはNASAの探査機の観測で強く裏づけられた事実。カギは、水星にある一度も日が当たらない場所です。
01水星は「ほぼまっすぐ」立っている
地球の自転軸は約23.4度かたむいていて、そのおかげで季節があります。ところが水星の自転軸は、ほとんどかたむいていません。
すると、極(北極・南極)の近くでは、太陽はいつも地平線すれすれにしか見えません。そこにあるクレーターの底は、まわりの壁にさえぎられて、何十億年も日が当たらないままになります。これを永久影(えいきゅうかげ)といいます。
大気がほとんどない水星では、熱を運ぶ空気もありません。日が当たらない場所は、昼の灼熱とは無関係に、とてつもなく冷たいまま。天然の冷凍庫ができあがるのです。

02最初のヒントは地上のレーダー
1990年代のはじめ、地上の大きな電波望遠鏡から水星にレーダー電波を当てたところ、極の近くに電波を強くはね返す場所が見つかりました。氷はレーダーをよく反射します。「もしかして氷?」という疑いが生まれたのです。
ただ、レーダーだけでは「本当に水か」は決められません。答えを出したのは、2011年から水星を回ったNASAの探査機MESSENGER(メッセンジャー)でした。
03氷の上に「黒い毛布」がかかっていた
おもしろいのは、暗い堆積物の存在です。
ローレンスらの中性子データによると、レーダーを強く反射する極域では、平均して厚さ10〜30cmほどの層の下に氷が埋まっています。ペイジらの温度計算でも、暗い層におおわれた場所では氷が浅い地下でだけ安定だと考えられています。この暗い層は、氷を熱から守る断熱材の毛布のような役割をしています。
暗い層の正体は、彗星や小惑星が運んできた有機物を含む物質ではないか、という説があります。ただし、ここはまだ決着していません。
04氷はどこから来た? 答え合わせは「日欧合作」で
水星の氷は、彗星や小惑星の衝突で運ばれてきた、という考えが有力です。ただし「いつ、どれくらい」運ばれたかは、まだよくわかっていません。
その答えを探しに行くのが、ヨーロッパ(ESA)と日本(JAXA)の共同探査ベピコロンボです。ESAによると、2026年11月21日に水星の周回軌道に入る予定(執筆時点)。日本の周回機「みお」も一緒に到着し、水星のまわりの環境をくわしく調べます。
05まとめ
- 昼は最高で約430℃の水星にも、水の氷がある
- 秘密は、自転軸がほぼ傾いていないことで生まれた永久影のクレーター
- 氷の一部は、暗い層という毛布の下に守られているらしい
「熱い星」にも、ちゃんと冷たい隠れ家がある。宇宙の常識は、いつも少しだけ私たちの想像の外側にあります。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerMercury is the planet closest to the Sun, and its daytime surface can reach about 430 degrees Celsius.
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4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
Mercury is the closest planet to the Sun. In the daytime, its surface can reach about 430 degrees Celsius.
But there is water ice on Mercury! The ice is inside deep craters near the north pole. Sunlight never reaches the bottom of these craters, so they stay very cold. A NASA spacecraft called MESSENGER studied Mercury and found strong evidence of this ice.
63 words ・ CEFR A2
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水星は太陽にいちばん近い惑星です。昼間、その地表は約430℃にもなります。
ところが、水星には水の氷があるのです。氷は北極の近くにある深いクレーターの中にあります。これらのクレーターの底には日光がまったく届かないので、とても冷たいままです。MESSENGERというNASAの探査機が水星を調べ、この氷がある強い証拠を見つけました。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
But there is water ice on Mercury! 以降、暗いクレーターの中の氷について説明しているので A。
Q2. Where is the ice on Mercury?
The ice is inside deep craters near the north pole. とあるので C。
Q3. In this passage, "evidence" means ...
found strong evidence of this ice は「氷がある強い証拠を見つけた」。evidence は「証拠」なので D。
Mercury is the planet closest to the Sun, and its daytime surface can reach about 430 degrees Celsius. But it also has water ice. The secret is that Mercury's axis is hardly tilted at all. As a result, near the poles the Sun always stays low on the horizon, and the floors of some craters have been in shadow for billions of years.
With almost no atmosphere to carry heat, these places stay extremely cold. In the 1990s, radar signals sent from Earth showed bright spots near the poles. Later, NASA's MESSENGER spacecraft, which orbited Mercury from 2011, collected strong evidence that the material is water ice. Some of the ice seems to be covered by a dark layer.
119 words ・ CEFR B1
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水星は太陽にいちばん近い惑星で、昼の地表は約430℃にもなります。しかし、水星には水の氷もあります。その秘密は、水星の自転軸がほとんど傾いていないことです。そのため、極の近くでは太陽がいつも地平線の低いところにとどまり、いくつかのクレーターの底は何十億年も影の中にあります。
熱を運ぶ大気がほとんどないので、こうした場所はきわめて冷たいままです。1990年代、地球から送ったレーダー電波によって、極の近くに明るく反射する場所が見つかりました。その後、2011年から水星を周回したNASAの探査機MESSENGERが、その物質が水の氷であるという強い証拠を集めました。氷の一部は暗い層におおわれているようです。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
灼熱の水星に氷がある、その「秘密」を説明する文章なので D。大気はほとんどないので A は誤り。
Q2. Why do some craters near Mercury's poles stay in shadow?
The secret is that Mercury's axis is hardly tilted at all. As a result, ... とあるので A。
Q3. What can we infer from the passage?
太陽に最も近くても、日が当たらない場所は極寒のままという内容から B と推測できる。証拠を固めたのはレーダーではなく MESSENGER なので A は誤り。
Mercury's sunlit surface can reach about 430 degrees Celsius, which makes it an unlikely place to find water ice. Even so, ice sits in craters near its north pole. The planet's rotation axis is almost upright, so the Sun never rises high above the polar horizon, and some crater floors stay in permanent shadow.
With virtually no atmosphere to carry heat in, these floors become natural cold traps. Radar-bright patches detected from Earth in the early 1990s first raised the possibility, but radar alone could not confirm that the material was water. The case grew stronger with three papers published together in Science, based on data from NASA's MESSENGER orbiter. One detected a drop in neutrons consistent with abundant hydrogen.
Another used laser reflectance to map bright and dark deposits. The third modeled temperatures and concluded that ice is exposed in some places but buried beneath a dark insulating layer in others. Nobody yet knows what that layer is made of, or when comets or asteroids delivered the ice. The European–Japanese BepiColombo mission, planned as of writing to enter orbit in November 2026, may help answer both questions.
188 words ・ CEFR B2
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水星の日の当たる地表は約430℃に達することもあり、水の氷が見つかりそうにない場所に思えます。それでも、北極近くのクレーターには氷があるのです。水星の自転軸はほぼまっすぐなので、極の地平線の上に太陽が高くのぼることはなく、いくつかのクレーターの底は永久に影の中にあります。
熱を運びこむ大気が事実上ないため、こうした底は天然の「コールドトラップ(低温の罠)」になります。1990年代初めに地球から検出された、レーダーを強く反射する場所が最初にその可能性を示しましたが、レーダーだけではその物質が水だと確かめることはできませんでした。証拠が強まったのは、NASAの周回探査機MESSENGERのデータにもとづき、学術誌『Science』に同時に発表された3本の論文によってです。1本は豊富な水素と矛盾しない中性子の減少を検出しました。
別の1本はレーザーの反射率から明るい堆積物と暗い堆積物の分布を描きました。3本目は温度をモデル計算し、氷はある場所ではむき出しで、別の場所では断熱材となる暗い層の下に埋まっていると結論づけました。その層が何でできているのか、そして彗星や小惑星がいつ氷を運んできたのかは、まだ誰にも分かっていません。執筆時点で2026年11月に水星の周回軌道に入る予定の日欧共同ミッション、ベピコロンボが、この2つの疑問の答えを出す助けになるかもしれません。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the main idea of the passage?
第1〜2文で「氷がありそうにないのに北極のクレーターに氷がある」と示し、その理由と証拠を説明しているので B。
Q2. Why was the radar evidence alone not enough?
radar alone could not confirm that the material was water とあるので C。
Q3. Which question does the passage describe as still unresolved?
Nobody yet knows what that layer is made of, or when comets or asteroids delivered the ice とあるので A。
重要単語
- permanently shadowedC1形容詞(句)永久に影になったIce survives in permanently shadowed craters.
permanent(永久の)の副詞形+shadowed。月や水星の極の話でセットで出る。PSR(permanently shadowed region)と略される。 - craterB2名詞クレーターThe crater floor never sees the Sun.
ギリシャ語の「混ぜる器(ボウル)」が語源。火山の「火口」も crater。 - neutronC1名詞中性子Neutrons can reveal hidden hydrogen.
neutral(中性の)と同語源。proton(陽子)、electron(電子)とセットで覚える。 - volatileC1名詞・形容詞揮発性物質/揮発しやすい、不安定なWater is a volatile that can freeze in cold traps.
形容詞では a volatile market「不安定な市場」のようにも使う。「すぐ飛んでいく」イメージ。 - axial tiltC1名詞(句)自転軸の傾きMercury has almost no axial tilt.
axis(軸)の形容詞 axial+tilt(傾き)。地球の axial tilt(約23.4度)が季節を生む。 - depositB2名詞・動詞堆積物/預金、堆積させるBright deposits were seen inside the craters.
de-(下に)+posit(置く)。銀行の「預金」もお金を置いておくこと。 - insulatingC1形容詞断熱の、絶縁のA dark insulating layer protects the ice.
insulate(隔離する)は island(島)と同語源。熱や電気を「孤立させる」イメージ。
公式・一次情報をチェック
- Mercury: Facts(NASA Science)science.nasa.gov
- Latest updates: BepiColombo's arrival at Mercury(ESA)esa.int
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太陽にいちばん近く、昼は430℃にもなる水星。なのに北極近くのクレーターの底には「水の氷」がある。一度も日が当たらない永久影が、天然の冷凍庫になっているらしい。
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出典・参考文献(4件)タップで表示
- Lawrence et al. (2013) Evidence for Water Ice Near Mercury's North Pole from MESSENGER Neutron Spectrometer Measurements, Sciencedoi.org
- Neumann et al. (2013) Bright and Dark Polar Deposits on Mercury: Evidence for Surface Volatiles, Sciencedoi.org
- Paige et al. (2013) Thermal Stability of Volatiles in the North Polar Region of Mercury, Sciencedoi.org
- NASA Science, Mercury: Factsscience.nasa.gov
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。












