宇宙・NASA

「今まで大丈夫だったから」が一番危ない。チャレンジャー号事故が教える“正常性の逸脱”

「今まで大丈夫だったから」が一番危ない。チャレンジャー号事故が教える“正常性の逸脱”

読む前に予想してみよう!

チャレンジャー号の事故は、打ち上げ前に誰も危険を指摘していなかった

研究カード(どんな研究?)
対象
スペースシャトル計画
規模
事故1件と過去の飛行記録
研究の種類
大統領委員会の事故調査・社会学的分析
確かさ
★★★★☆
3秒でわかる

1986年のチャレンジャー号事故は、寒さで固くなったゴムのOリングが原因。「小さな異常が続いても無事だった」経験が、危険を当たり前にしていた。

ひとことで言うと「前も平気だった」は、安全のしょうこにはならない!

もくじ
  1. 原因は「冷えたゴムの輪っか」
  2. 前夜、技術者たちは「反対」していた
  3. 「正常性の逸脱」とは
  4. 物理学者が見せた「氷水の実験」
  5. 事故のあとに変わったこと
  6. 「正常性の逸脱」は身近にもある
  7. まとめ

1986年1月28日、アメリカ・フロリダ州。スペースシャトルチャレンジャー号は、打ち上げから73秒後に空中で分解し、7人の乗組員全員が亡くなりました。

その中には、宇宙から授業をする予定だった高校の先生もいました。多くの子どもたちが、テレビの前で打ち上げを見守っていました。

なぜこの事故は起きたのか。調べていくと、技術の問題だけでなく、人と組織の心のクセが見えてきます。

01原因は「冷えたゴムの輪っか」

シャトルの両わきには、固体ロケットブースターという巨大な筒がついています。この筒はいくつかの部品をつないで作られ、つなぎ目のすき間をゴムの輪(Oリング)がふさいでいました。

打ち上げの朝は、フロリダとしては異例の冷え込みでした。大統領が作った調査委員会(ロジャース委員会)の報告によると、気温は約氷点の少し上。ゴムは冷えると固くなり、すき間にうまく広がれません。

その結果、つなぎ目から高温のガスがもれ出し、事故につながりました。

02前夜、技術者たちは「反対」していた

さらに重要なのは、Oリングの傷みはそれ以前の飛行でも何度も見つかっていたことです。それでもシャトルは無事に帰ってきていました。

03「正常性の逸脱」とは

社会学者のダイアン・ヴォーンさんは、この事故を長年研究し、1996年の本で「正常性の逸脱(normalization of deviance)」という考え方を示しました。

  • 小さな異常が起きる
  • でも、何も悪いことは起きなかった
  • だから「この程度なら許容範囲」と基準がずれる
  • それをくり返すうちに、危険が「いつものこと」になる

誰かが規則を破ったわけではありません。むしろ、ルールに従って判断を積み重ねた結果、少しずつ危険な方向へ進んでいたのです。

小さな「まあ大丈夫」の積み重ねが、基準を少しずつずらしていく
小さな「まあ大丈夫」の積み重ねが、基準を少しずつずらしていく

04物理学者が見せた「氷水の実験」

調査委員の一人だった物理学者のリチャード・ファインマンさんは、公聴会でOリングの材料を氷水に入れ、冷えると弾力が失われることを目の前で示しました。

彼は報告書の付録で、現場の技術者と管理者とで、事故の起きる確率の見積もりが大きく違っていたことも指摘しています。

05事故のあとに変わったこと

ロジャース委員会は、ブースターのつなぎ目の設計の見直しや、安全をチェックする組織の独立性を高めることなどを勧告しました。NASAは約2年8か月にわたってシャトルの飛行を止め、つなぎ目を作り直してから飛行を再開しました。

06「正常性の逸脱」は身近にもある

この考え方は、宇宙開発だけの話ではありません。

  • 「少し遅れても前は大丈夫だった」と、締め切りの感覚がだんだんずれていく
  • 自転車のブレーキの効きが少しずつ悪くなっても、慣れてしまって気づかない

こうした小さなずれは、誰にでも起こります。だからこそ、基準を外から見直す仕組みや、第三者の目が大切なのです。

07まとめ

チャレンジャー号の事故が教えてくれるのは、「何も起きなかった」は「安全だった」とは限らないということです。

宇宙開発でも、毎日の生活でも、小さな異常に気づいたら立ち止まる。それが、亡くなった7人から受け取れる大切なメッセージです。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerOn January 28, 1986, the space shuttle Challenger broke apart 73 seconds after launch, killing all seven… 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

On January 28, 1986, the space shuttle Challenger broke apart 73 seconds after launch, killing all seven crew members, including a high school teacher. The cause was a rubber O-ring that sealed a joint in a rocket booster. That morning was unusually cold for Florida, and the rubber became too stiff to seal the gap, so hot gas leaked out.

The night before, engineers from the company that made the boosters had argued against launching in such cold weather, but the decision was changed to "go." Damage to O-rings had also been found on earlier flights, yet the shuttles had returned safely. Sociologist Diane Vaughan later called this pattern "the normalization of deviance."

113 words ・ CEFR B1

和訳を見る

1986年1月28日、スペースシャトル・チャレンジャー号は打ち上げから73秒後に空中で分解し、高校の先生を含む7人の乗組員全員が亡くなりました。原因は、ロケットブースターのつなぎ目をふさいでいたゴムのOリングでした。その朝はフロリダとしては異例の寒さで、ゴムが固くなりすぎてすき間をふさげず、高温のガスがもれ出したのです。

前の夜、ブースターを作った会社の技術者たちは、こんなに寒い天気での打ち上げに反対していましたが、判断は「打ち上げ可」に変えられました。Oリングの損傷は以前の飛行でも見つかっていましたが、シャトルは無事に戻ってきていました。社会学者のダイアン・ヴォーンは後に、このパターンを「正常性の逸脱」と呼びました。

4択リーディングクイズ

Q1. What did the engineers do the night before the launch?

Q2. Why was the damage on earlier flights not treated as serious?

Q3. What does "the normalization of deviance" most likely mean?

重要単語

  • O-ringC1
    名詞Oリング(すき間をふさぐゴムの輪)The O-ring became stiff in the cold. O の字の形をしたリング。seal(密封する)とセットで出てくる。
  • devianceC1
    名詞逸脱、基準からのずれSmall deviance became normal over time. deviate(それる)から。de-(離れて)+via(道)=道からそれる。deviation も同義。
  • commissionB2
    名詞調査委員会A presidential commission studied the accident. 「委員会」のほか「手数料」の意味もある多義語。commit(委ねる)と同語源。
  • engineerA2
    名詞技術者The engineers warned against the launch. アクセントは後ろ(en-gi-NEER)。動詞で「巧みに仕組む」の意味もある。
  • safety cultureB2
    名詞(句)安全文化A strong safety culture listens to bad news. 組織全体で安全を優先する価値観。原子力・医療・航空の長文で頻出。
  • anomalyC1
    名詞異常、例外Small anomalies were seen on earlier flights. a-(否定)+homalos(平らな)=でこぼこの、が原義。形容詞 anomalous。科学記事で頻出。
  • elasticityC1
    名詞弾力性Cold rubber loses its elasticity. elastic(弾力のある、ゴムひも)の名詞形。経済の「価格弾力性」でも使う。

動画でもっと知る

1986年のチャレンジャー号事故。原因は寒さで固くなったゴムの輪っか(Oリング)だった。しかも以前から小さな異常は見つかっていたのに「今まで大丈夫だったから」で見過ごされていたらしい。これを「正常性の逸脱」と呼ぶ。

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出典・参考文献(4件)タップで表示
  1. NASA: Report of the Presidential Commission on the Space Shuttle Challenger Accident, Chapter IVnasa.gov
  2. NASA: Rogers Commission Report, Appendix F(Feynman, Personal observations on the reliability of the Shuttle)nasa.gov
  3. Vaughan, D. (1996) The Challenger Launch Decision, University of Chicago Presspress.uchicago.edu
  4. NASA: Challenger STS-51L Accidentnasa.gov