動物・植物ホント

カバの汗は「赤い」。日本の研究者が突き止めた、日焼け止めと抗菌剤を兼ねる天然色素

カバの汗は「赤い」。日本の研究者が突き止めた、日焼け止めと抗菌剤を兼ねる天然色素

読む前に予想してみよう!

カバの赤い汗は、血液がにじみ出たものである

研究カード(どんな研究?)
対象
動物園で飼育されているカバ
規模
2頭から採取した分泌物(最初の研究)
研究の種類
色素の化学分析・紫外線吸収と抗菌作用の測定・化学合成
確かさ
★★★☆☆
3秒でわかる

カバの皮ふから出る液は、時間がたつと赤やオレンジ色に。慶應義塾大学などのチームが、その色素が紫外線を吸収し、細菌の増殖も抑えることを見つけた。

ひとことで言うとカバは赤い「汗」を出す。それは日焼け止めとばいきんよけになっている!

もくじ
  1. 無色→赤→茶色に変わる不思議な液
  2. 日焼け止め、そして消毒液
  3. 化学者たちの「その後」
  4. まとめ

カバは「血の汗をかく」。昔からそんな言い伝えがあります。

たしかに、水から上がったカバの体は、ときどき赤やピンク色の液でぬれています。まるで血がにじんでいるように見えるので、そう言われてきたのです。

でも、その正体は血ではありませんでした。謎を解いたのは、日本の化学者たちです。

01無色→赤→茶色に変わる不思議な液

カバの皮ふからは、ねばりけのある液が出ています。出てきた直後はほぼ無色透明なのに、数分たつと赤くなり、さらに時間がたつと茶色っぽく変わっていきます。

ちなみにこの液は、人間の汗とは出どころが違います。カバには、人間のように体温を下げるための汗腺がほとんどありません。この液は皮ふの下にある別の腺から出るもので、「汗」というのはあくまで呼び名です。

色素の名前の「ヒポ(hippo)」はカバ、「スドール(sudor)」はラテン語で汗のこと。「カバの汗の酸」という、そのままの名前がつけられました。

赤い色素とオレンジの色素。2つが混ざって、カバの「赤い汗」になる。
赤い色素とオレンジの色素。2つが混ざって、カバの「赤い汗」になる。

02日焼け止め、そして消毒液

カバは昼間の多くを水の中で過ごしますが、陸に上がることもあります。アフリカの強い日差しは、毛の少ないカバの皮ふにとって大敵です。

赤とオレンジの色素が光を吸収することで、この液は天然の日焼け止めのように働くと考えられます。

さらにカバは、なわばり争いでよくケンカをして、体に傷を負います。しかも、細菌の多い水の中で暮らしています。赤い色素が細菌の増殖を抑えるなら、傷口を守る消毒液の役割も果たしているのかもしれません。

03化学者たちの「その後」

発見のあとも、研究は続きました。

2006年には、同じチームがこの2つの色素を実験室で化学合成することに成功し、構造が正しいことを確かめました。さらに2015年には、コンピューターを使った計算で、色素の分子の中の原子の並び方(どの形が最も安定か)をより正確に描き直しています。

一つの不思議な色の正体を突き止めるために、10年以上かけて少しずつ理解を深めていったのです。

ちなみに、カバは1日の多くを水の中で過ごす動物で、皮ふの表面の層が薄く、陸の上では乾燥しやすいと考えられています。赤い液は、日差しや細菌だけでなく、乾燥から皮ふを守る役割もあるのでは、という見方もあります。ただ、保湿の効果を直接測った研究はまだほとんどなく、ここはこれからの研究テーマです。

04まとめ

カバの「血の汗」は、日本の化学者たちが解き明かした、赤とオレンジの天然色素でした。しかもそれは、日差しや細菌から身を守る、カバ専用のスキンケアだったのかもしれません。

身近な動物の「なんで?」にも、まだまだ化学の謎が隠れています。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerHippos have long been said to sweat blood, because their skin is often covered with a reddish liquid. 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

Hippos have long been said to sweat blood, because their skin is often covered with a reddish liquid. In fact, this liquid is not blood, and it is not even true sweat. It comes from special glands under the skin. It starts out colorless, turns red within minutes, and later becomes brownish.

In 2004, a team including Yoko Saikawa of Keio University analyzed the liquid from two zoo hippos. They discovered two pigments, a red one called hipposudoric acid and an orange one called norhipposudoric acid. Both absorb ultraviolet and visible light, and the red one also slowed the growth of some bacteria. So the liquid may act as both a sunscreen and an antiseptic.

115 words ・ CEFR B1

和訳を見る

カバは長いあいだ血の汗をかくと言われてきました。皮ふが赤っぽい液でおおわれていることが多いからです。実際には、この液は血ではなく、本当の汗でさえありません。皮ふの下にある特別な腺から出てくるのです。最初は無色で、数分のうちに赤くなり、その後茶色っぽくなります。

2004年、慶應義塾大学の犀川陽子さんらのチームは、動物園のカバ2頭から採った液を分析しました。彼らは2つの色素を発見しました。ヒポスドール酸と呼ばれる赤い色素と、ノルヒポスドール酸と呼ばれるオレンジ色の色素です。どちらも紫外線と可視光を吸収し、赤い色素は一部の細菌の増殖も遅らせました。つまりこの液は、日焼け止めと消毒液の両方の役割を果たしているのかもしれません。

4択リーディングクイズ

Q1. Where does the reddish liquid come from?

Q2. How many hippos did the 2004 team collect liquid from?

Q3. Why does the writer compare the liquid to an antiseptic?

重要単語

  • pigmentC1
    名詞色素Two pigments give the secretion its color. paint と同語源で「塗るもの」。skin pigment「皮ふの色素」、メラニンも pigment の一種。
  • secretionC1
    名詞分泌物、分泌The hippo's skin produces a thick secretion. 動詞 secrete「分泌する」。secret(秘密)と同語源で「分けて出す」が原義。
  • sunscreenB1
    名詞日焼け止めThe red pigment works like a natural sunscreen. sun+screen(さえぎるもの)。put on sunscreen「日焼け止めを塗る」。
  • antibacterialC1
    形容詞抗菌性のThe pigment has an antibacterial effect. anti-(反対)+bacterial(細菌の)。bacteria は複数形で、単数形は bacterium。
  • glandC1
    名詞腺Glands under the skin release the fluid. sweat gland「汗腺」、salivary gland「唾液腺」のように複合語で使う。
  • inhibitC1
    動詞抑える、妨げるThe red pigment inhibited the growth of bacteria. inhibit A from doing「Aが~するのを妨げる」。名詞 inhibition は心理学の「抑制」。

動画でもっと知る

4コマでわかる

カバの汗は「赤い」。日本の研究者が突き止めた、日焼け止めと抗菌剤を兼ねる天然色素の4コマ漫画
カバは「血の汗」を流すと言われてきたけど、正体は赤とオレンジの2種類の色素だった。突き止めたのは日本の慶應義塾大学などのチーム。この色素は紫外線を吸収して、しかも細菌の増殖まで抑えるらしい。天然の日焼け止め兼消毒液。

押すと「マジかリスト」に保存されます

出典・参考文献(3件)タップで表示
  1. Saikawa et al. (2004) The red sweat of the hippopotamus, Naturedoi.org
  2. Saikawa et al. (2006) Synthesis of hipposudoric and norhipposudoric acids: the pigments responsible for the color reaction of the red sweat of Hippopotamus amphibius, Tetrahedron Lettersdoi.org
  3. Matsumoto et al. (2015) Refined Structure of Hipposudoric and Norhipposudoric Acids, Pigments of the Red Sweat of the Hippopotamus, Chemistry Lettersdoi.org