魚は痛みを感じるのか? マスの頭に「痛みセンサー」が見つかってから続く大論争

読む前に予想してみよう!
魚には痛みにつながる刺激を感じとる神経(侵害受容器)がないことがわかっている
ニジマスの頭部で、熱・圧力・酸に反応する侵害受容器が見つかっている。
- 対象
- ニジマスなど
- 規模
- 実験室での神経記録と行動観察(小〜中規模)
- 研究の種類
- 電気生理・行動実験と総説・反論論文
- 確かさ
- ★★★☆☆
魚にも痛みの刺激を感じとる神経(侵害受容器)があり、傷つくと行動が変わることは確か。ただ人のように「痛い」と感じているかは今も意見が分かれる。
ひとことで言うと魚にも「いたい!」をキャッチするセンサーがある。感じ方は研究中!
釣り上げた魚が、針を外すときにピチピチはねる。あれは「痛い!」と言っているのでしょうか。それとも、ただの反射なのでしょうか。
「魚は痛みを感じるか」は、じつは生物学者のあいだで20年以上続いている大論争です。どちらの言い分にも、ちゃんとした根拠があります。
01マスの頭に「痛みセンサー」があった
「侵害受容器」とは、体を傷つけるような刺激を感じとるセンサーのこと。人では、このセンサーからの信号が脳に届いて「痛い」と感じます。
研究チームは、行動や体の反応の変化が長く続いたことから、魚が不快な状態にある可能性を示唆しました。
02痛み止めで、行動の変化が和らぐ
その後の研究も積み重なりました。2015年に同じスネドン(Sneddon)さんがまとめた総説によると、この10年ほどで、
- 硬骨魚(ニジマスなど)の侵害受容器は、ほ乳類のものとよく似ている
- 痛みにつながる刺激を受けると、体の働きや行動が変わり、それが鎮痛薬で和らぐ
- 痛みを受けているときは、こわいものから逃げる行動よりも、痛みへの反応が優先されることもある
といった報告が出ているそうです。

03「いや、魚には痛みの“感覚”はない」という反論
いっぽうで、強く反対する研究者もいます。
オーストラリアの神経科学者キー(Key)さん(2016年)は、人が痛みを「感じる」ためには、大脳皮質の特定の部分とその複雑な配線が必要だと主張しました。魚の脳には同じ構造がないので、「魚は痛みを感じるための脳の仕組みをもっていない」というのです。
また、ローズ(Rose)さんら(2012年)は、魚の行動の変化は、意識をともなわない反応でも説明できるかもしれないと指摘しています。
つまり論争のポイントは、「センサーがあるか」ではなく、「その信号を“つらい”と感じる心があるか」。ここは脳の外からは直接測れないので、決着がつきにくいのです。
04まとめ
魚に「痛みのセンサー」があり、傷つくと長く行動が変わることは、かなり確かです。でも、それを人間と同じように「痛い」と感じているかは、まだ答えが出ていません。
答えが出るまで待つのか、それとも「もしかしたら」と考えて扱い方を変えるのか。魚の痛みの問題は、科学だけでなく、私たちの生き物との向き合い方も問いかけています。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerWhether fish feel pain has been debated by biologists for more than 20 years.
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Do fish feel pain? Scientists in the UK studied rainbow trout. They found nerves on the fish's head that react to heat, pressure and acid. These nerves are like "pain sensors."
When scientists put a little acid into the fish's lips, the fish acted strangely for a long time. They also waited longer before eating. But some scientists say fish brains cannot feel pain like ours. The debate continues.
69 words ・ CEFR A2
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魚は痛みを感じるのでしょうか。イギリスの科学者たちはニジマスを調べました。そして魚の頭に、熱・圧力・酸に反応する神経を見つけました。これらの神経は「痛みのセンサー」のようなものです。
科学者が魚の唇に少し酸を入れると、魚は長いあいだ変わった行動をしました。また、えさを食べ始めるまでの時間も長くなりました。しかし、魚の脳は私たちのようには痛みを感じられないと言う科学者もいます。論争は続いています。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
冒頭の Do fish feel pain? がテーマで、賛否両方を紹介しているので D。
Q2. What do the nerves on the trout's head react to?
nerves ... that react to heat, pressure and acid とあるので B。
Q3. In this passage, "The debate continues" means ...
debate は「論争・議論」。意見が分かれたまま続いているという意味なので C。
Whether fish feel pain has been debated by biologists for more than 20 years. In 2003, a British team found nerves called nociceptors in the heads of rainbow trout. These nerves reacted to strong pressure, heat above 40°C and acid, much like those of mammals and birds. When acid was injected into the trout's lips, the fish moved their gills faster, took longer to start eating, and showed unusual behavior for a long time.
Later studies reported that painkillers reduced such changes. However, some scientists argue that fish lack the brain structures humans need to feel pain. Fish clearly have the sensors. The dispute is whether they consciously feel something unpleasant.
111 words ・ CEFR B1
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魚が痛みを感じるかどうかは、生物学者のあいだで20年以上議論されてきました。2003年、イギリスのチームはニジマスの頭部に侵害受容器と呼ばれる神経を見つけました。これらの神経は、強い圧力、40℃を超える熱、酸に反応し、ほ乳類や鳥のものとよく似ていました。マスの唇に酸を注射すると、魚はエラを速く動かし、えさを食べ始めるまでに時間がかかり、長いあいだふだんと違う行動を見せました。
その後の研究では、鎮痛薬でこうした変化が和らぐことが報告されました。しかし、魚には人が痛みを感じるのに必要な脳の構造がないと主張する科学者もいます。魚がセンサーを持っていることははっきりしています。争われているのは、何か不快なものを意識的に感じているかどうかです。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
第1文で20年以上続く論争を示し、両方の立場を紹介しているので A。
Q2. What happened when acid was injected into the trout's lips?
took longer to start eating とあるので D。エラの動きは速くなったので B は誤り。
Q3. What is the main point of disagreement among scientists?
最後の2文 Fish clearly have the sensors. The dispute is whether they consciously feel something unpleasant. から B。センサーの存在自体は確認済み。
For more than two decades, biologists have argued over whether fish feel pain, and both sides cite serious evidence. In 2003, Sneddon and colleagues recorded nerves in the heads of rainbow trout that responded to strong pressure, heat above 40°C and 1% acetic acid. These nociceptors resembled those of mammals and birds. When acid was injected into the lips, the fish showed faster gill movements, delayed feeding and unusual behaviors that persisted for a long time, which the team took as a sign of possible discomfort.
A 2015 review added that such changes can be reduced by painkillers and that responses to injury may take priority over fear responses. Critics, however, draw a sharp line between nociception, the detection of harmful stimuli, and pain, a subjective experience. In 2016, Key argued that feeling pain requires specific cortical structures that fish lack, while a 2012 review by Rose and colleagues had suggested that the behavioral changes could occur without consciousness. Because there is no way to measure subjective experience directly, the dispute is unlikely to end soon, raising the practical question of whether fish should be treated with care in the meantime.
191 words ・ CEFR B2
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20年以上にわたり、生物学者たちは魚が痛みを感じるかどうかを議論してきており、どちらの側も確かな証拠を挙げています。2003年、スネドンらはニジマスの頭部で、強い圧力、40℃を超える熱、1%の酢酸に反応する神経を記録しました。これらの侵害受容器は、ほ乳類や鳥のものに似ていました。唇に酸を注射すると、魚はエラの動きが速くなり、えさを食べるのが遅れ、ふだん見られない行動が長く続きました。研究チームはこれを不快感がある可能性を示すものだと解釈しました。2015年の総説は、こうした変化が鎮痛薬で和らぐこと、そして傷への反応が恐怖への反応より優先される場合があることを付け加えました。
しかし批判する側は、有害な刺激を検知する「侵害受容」と、主観的な体験である「痛み」をはっきり区別します。2016年、キーは、痛みを感じるには魚にはない特定の大脳皮質の構造が必要だと主張しました。一方、2012年のローズらの総説は、行動の変化は意識がなくても起こりうると指摘していました。主観的な体験は直接測定できないため、この論争がすぐに終わることはなさそうです。そこで、それまでのあいだ魚に配慮して扱うべきかどうか、という実際的な問題が生じています。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
第1文 both sides cite serious evidence のとおり、肯定側と批判側の両方を紹介しているので C。
Q2. What did the 2015 review report?
such changes can be reduced by painkillers とあるので A。C は本文と逆(傷への反応が優先されうる)。
Q3. Why do critics distinguish nociception from pain?
nociception は有害刺激の検知、pain は主観的体験と区別し、前者があっても後者があるとは限らないと考えるので D。
重要単語
- painA2名詞痛みPain is more than a simple reflex.
take pains「骨を折る、苦労する」は複数形で意味が変わる重要表現。painful(痛い)、painkiller(鎮痛薬)。 - nociceptorC1名詞侵害受容器(痛みの刺激を感じる神経)Trout have nociceptors on their heads.
ラテン語 nocere(害する)+receptor(受容器)。innocent(無害な→無罪の)と同語源。 - reflexB2名詞反射A reflex happens without thinking.
reflect(反射する)と同語源。複数形 reflexes は「反射神経」の意味でも使う。 - welfareB2名詞福祉、幸福Animal welfare includes the welfare of fish.
well(よく)+fare(やっていく)。animal welfare「動物福祉」は入試頻出テーマ。 - debateB1名詞・動詞論争/議論するScientists still debate whether fish feel pain.
動詞は他動詞で debate the issue(about は不要)。argue(言い争う)との違いも押さえる。 - subjectiveB2形容詞主観的なPain is a subjective experience.
反対語 objective(客観的な)とペアで出る。subject(主体)→ subjective。 - consciouslyB2副詞意識的にDo fish consciously feel pain?
conscious(意識している)+-ly。be conscious of ~「~を意識している」、consciousness(意識)も頻出。
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ニジマスの頭部から、熱・圧力・酸に反応する「痛みセンサー」の神経が見つかった。刺激を受けた魚は長いあいだ行動が変わった。それでも「魚に痛みの感覚はない」と言う研究者もいて論争は続く。
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出典・参考文献(4件)タップで表示
- Sneddon, Braithwaite & Gentle (2003) Do fishes have nociceptors? Evidence for the evolution of a vertebrate sensory system, Proceedings of the Royal Society Bdoi.org
- Sneddon (2015) Pain in aquatic animals, Journal of Experimental Biologydoi.org
- Key (2016) Why fish do not feel pain, Animal Sentiencedoi.org
- Rose et al. (2012) Can fish really feel pain?, Fish and Fisheriesdoi.org
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。













