動物・植物ビミョー

0.2秒見ただけで数字の位置を記憶。チンパンジー「アユム」に大学生が完敗した日

0.2秒見ただけで数字の位置を記憶。チンパンジー「アユム」に大学生が完敗した日

読む前に予想してみよう!

チンパンジーのアユムは、どんな人間よりも瞬間記憶が優れていることが証明された

研究カード(どんな研究?)
対象
チンパンジー6頭(親子3組)と大学生
規模
数頭+数人規模
研究の種類
比較認知の実験
確かさ
★★☆☆☆
3秒でわかる

京大の実験で、若いチンパンジーのアユムは一瞬だけ見た数字の位置を、大学生より正確に記憶した。ただ練習した人間は追いつけるという反論も。

ひとことで言うとチンパンジーの子どもが、一瞬見た数字の場所を人間よりうまく覚えた!

もくじ
  1. 0.2秒で数字の位置をまるごと記憶
  2. 「人間はもう負けた」…と思いきや
  3. なぜチンパンジーは「一瞬の記憶」が得意?
  4. まとめ

画面にパッと数字が5つ散らばる。いちばん小さい数字に触れた瞬間、残りの数字はすべて白い四角に変わってしまう。

さて、あなたは小さい順に、隠れた数字の場所をタッチできますか?

このゲームで、大学生を打ち負かしたチンパンジーがいます。京都大学で育った、当時5歳のオスの「アユム」です。

010.2秒で数字の位置をまるごと記憶

0.21秒は、まばたき1回分くらいの時間です。その一瞬で、画面のどこに何の数字があったかを丸ごと覚えてしまう。まるでカメラのシャッターを切るような記憶です。

ちなみにアユムの母親は、数字や文字を学んだことで知られるチンパンジーの「アイ」。アユムは、母親が勉強する横で数字に親しみ、のちに自分でも課題を練習して覚えていったといいます。

数字が見えるのは一瞬だけ。残りは記憶だけが頼り。
数字が見えるのは一瞬だけ。残りは記憶だけが頼り。

02「人間はもう負けた」…と思いきや

この結果は世界中で大きな話題になりました。「瞬間記憶ではチンパンジーが人間に勝つ」と。

ところが、すぐに反論が出ます。

アメリカの研究者シルバーバーグさんとカーンズさんは、2009年に『Animal Cognition』で、人間も練習を重ねれば、アユムに近い成績を出せると報告しました。アユムはこの課題を長いあいだ練習していたのに対し、比べられた大学生は練習をしていなかった、というわけです。

ほかにも、練習した大学生2人がアユムを上回る成績を出したという報告もあります。

03なぜチンパンジーは「一瞬の記憶」が得意?

松沢さんは、ここから一つの仮説を考えました。「トレードオフ仮説」です。

トレードオフとは、「何かを得るかわりに、何かを手放す」という関係のこと。人間の祖先は、言葉という強力な道具を手に入れるかわりに、目の前の光景を一瞬で丸ごと覚える力を、ある程度手放したのではないか——という考えです。

森の中で暮らすチンパンジーにとって、木の上から一瞬で「どこに果物があり、どこにライバルがいるか」を見てとる力は、生き残りに直結します。そう考えると、アユムの力は「たまたま」ではないのかもしれません。

ただしこれは仮説で、まだ証明されたわけではありません。

04まとめ

チンパンジーのアユムは、0.2秒だけ見た数字の位置を記憶する課題で、大学生を上回りました。ただし、練習した人間なら追いつけるという反論もあり、「人間完敗」と言い切るのはビミョーです。

それでも、私たちが「当たり前」だと思っている頭の使い方が、唯一の正解ではないことを、アユムは教えてくれました。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerIn 2007, researchers at Kyoto University compared the memory of young chimpanzees and university students. 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

In 2007, researchers at Kyoto University compared the memory of young chimpanzees and university students. One of the chimps was Ayumu, a five-year-old male. In the task, five numbers appeared on a screen and were then covered by white squares, and participants had to touch the squares in order from the smallest number. As the display time became shorter, from about 0.65 to 0.21 seconds, the students made more mistakes, but Ayumu's accuracy hardly dropped. The result became world news.

However, in 2009, two American researchers reported that humans who practiced the task many times could reach scores close to Ayumu's. They pointed out that Ayumu had trained for a long time, while the students had little experience.

118 words ・ CEFR B1

和訳を見る

2007年、京都大学の研究者たちは、若いチンパンジーと大学生の記憶力を比べました。チンパンジーの1頭は、5歳のオスのアユムでした。この課題では、画面に5つの数字が表示された後、白い四角で隠され、参加者は小さい数字から順に四角をタッチしなければなりませんでした。表示時間が約0.65秒から0.21秒へと短くなるにつれて、大学生のまちがいは増えましたが、アユムの正確さはほとんど落ちませんでした。この結果は世界的なニュースになりました。

しかし2009年、2人のアメリカの研究者が、この課題を何度も練習した人間はアユムに近い成績に達しうると報告しました。彼らは、アユムが長い間練習していたのに対し、大学生はほとんど経験がなかったと指摘しました。

4択リーディングクイズ

Q1. What happened as the display time became shorter?

Q2. What did the two American researchers report in 2009?

Q3. What was the main problem with comparing Ayumu and the students?

重要単語

  • working memoryC1
    名詞(句)作業記憶(一時的に情報を覚えておく力)Working memory helps us keep a phone number in mind. short-term memory(短期記憶)と近い概念。心理学系の長文で頻出。
  • numeralC1
    名詞数字The numerals were replaced by white squares. Arabic numerals「アラビア数字」、Roman numerals「ローマ数字」。
  • trade-offC1
    名詞一方を得ると他方を失う関係There may be a trade-off between language and visual memory. a trade-off between A and B の形で使う。経済・環境の長文でも頻出。
  • outperformC1
    動詞~より優れた成績を出すAyumu outperformed the students in the short trials. out-(~をしのぐ)+perform。outnumber(数でまさる)も同じ型。
  • practiceA2
    名詞・動詞練習(する)With enough practice, humans improved their scores. Practice makes perfect.「習うより慣れろ」。英国式では動詞を practise とつづる。
  • rebuttalC1
    名詞反論、反証The rebuttal relied on a small number of participants. 動詞 rebut(反論する)。ディベートの「反駁」としても使われる。

動画でもっと知る

4コマでわかる

0.2秒見ただけで数字の位置を記憶。チンパンジー「アユム」に大学生が完敗した日の4コマ漫画
画面に一瞬だけ出た数字の位置を記憶して、小さい数字から順にタッチ。この勝負でチンパンジーの子ども「アユム」が大学生に勝ったらしい。0.2秒しか見せなくても、アユムの正答率はほとんど落ちなかった。

押すと「マジかリスト」に保存されます

出典・参考文献(5件)タップで表示
  1. Inoue & Matsuzawa (2007) Working memory of numerals in chimpanzees, Current Biologydoi.org
  2. Silberberg & Kearns (2009) Memory for the order of briefly presented numerals in humans as a function of practice, Animal Cognitiondoi.org
  3. Cook & Wilson (2010) In practice, chimp memory study flawed, Sciencedoi.org
  4. Inoue & Matsuzawa (2009) Acquisition and memory of sequence order in young and adult chimpanzees (Pan troglodytes), Animal Cognitiondoi.org
  5. Matsuzawa (2009) Symbolic representation of number in chimpanzees, Current Opinion in Neurobiologydoi.org