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水に「ありがとう」で結晶がキレイに? 雪の研究者なら真っ先に疑う理由

水に「ありがとう」で結晶がキレイに? 雪の研究者なら真っ先に疑う理由

読む前に予想してみよう!

氷の結晶の形は、主に温度と水蒸気の量で決まる

研究カード(どんな研究?)
対象
雪・氷の結晶
規模
―(言葉の効果を確かめた信頼できる研究はなし)
研究の種類
物理実験・総説
確かさ
★★★★☆
3秒でわかる

氷の結晶の形を決めるのは、温度と湿度。言葉をかけて形が変わることを示した、条件をそろえた確かな実験はない。

ひとことで言うと雪の形を決めるのは「言葉」じゃなくて「温度と水蒸気」だよ!

もくじ
  1. 結晶の形を決めるのは「温度」と「湿度」
  2. 「キレイな結晶」はいくらでも選べてしまう
  3. なぜこんなに広まったの?
  4. まとめ

コップの水に「ありがとう」と声をかけて凍らせると、美しい六角形の結晶ができる。「ばかやろう」と言うと、崩れた形になる――。

1999年に出版された写真集をきっかけに、この話は日本中に広まりました。やさしい言葉の大切さを伝える話として、学校の道徳の授業で取り上げられたこともあります。

気持ちはとてもよくわかります。「言葉を大切に」は素敵なメッセージです。でも、科学の目で見ると、ここには大きな落とし穴があるんです。

01結晶の形を決めるのは「温度」と「湿度」

雪の結晶の研究では、日本は世界のトップランナーでした。

たとえば、ある温度では平たい板のような形、少し温度が変わると細い柱や針のような形、湿り気が多いと枝がたくさん伸びた形……と、ほんのわずかな条件の違いで形はガラッと変わります。

アメリカの物理学者リブレクトが2005年にまとめた総説でも、結晶の形は温度と過飽和度(=空気が水蒸気をどれだけ“余分に”抱えているか)で説明されています。

02「キレイな結晶」はいくらでも選べてしまう

もうひとつの問題は、写真の選び方です。

同じ水を凍らせても、できる結晶は一つひとつ違います。キレイな六角形もあれば、崩れたものもある。つまり、たくさん撮った中から「それっぽい1枚」を選べば、どんな結果でも作れてしまうのです。

同じ水からでも、いろいろな形の結晶ができる。どれを選ぶかで「結果」が変わってしまう
同じ水からでも、いろいろな形の結晶ができる。どれを選ぶかで「結果」が変わってしまう

実験する人の「こうなってほしい」という期待が結果を動かしてしまうことは、心理学では古くから知られています(実験者期待効果)。だから科学の実験では、こうした“選びグセ”を防ぐために二重盲検(にじゅうもうけん=どの水にどの言葉をかけたかを、撮影者も評価者も知らない状態で調べる方法)を使います。

さらに、温度や湿度、冷やす速さなどを全部そろえ、何百個もの結晶を数えて統計で比べる必要があります。「言葉で形が変わる」という主張を、こうした厳しい条件で確かめ、広く認められた研究はありません。

03なぜこんなに広まったの?

理由はシンプルで、話が美しいからです。

「やさしい言葉は良い結果を生む」というメッセージは、誰もが信じたくなるもの。しかも写真という“見える証拠”がついている。さらに「人の体の多くは水でできている。だから言葉は体にも影響する」と話が広がりやすかったのです。

物理学者を中心に、多くの科学者が「道徳の教材に使うのは問題だ」と声を上げました。大切なのは、正しいメッセージを、間違った理由で教えないこと。

こうした工夫は、言葉と水の実験に限らず、どんな「不思議な話」を確かめるときにも使える科学の基本です。もし本当に差が出るなら、このやり方でもちゃんと差が出るはず。逆に、このやり方で差が消えるなら、最初の差は「選び方」や「思い込み」が生んだものだった可能性が高いのです。

04まとめ

  • 氷の結晶の形を決めるのは、主に温度と水蒸気の量
  • 「キレイな1枚」を選べば、どんな結果でも作れてしまう
  • 言葉で形が変わることを、条件をそろえた実験で示した確かな研究はない

「やさしい言葉が大事」なのは、水のためではなく、それを聞く人のため。理由はそれで十分です。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerAfter a photo book was published in 1999, many people in Japan came to believe that saying "thank you" to… 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

After a photo book was published in 1999, many people in Japan came to believe that saying "thank you" to water makes its ice crystals beautiful, while rude words make them ugly. The story was even used in some moral education classes.

However, science tells a different story. In the 1930s, the physicist Ukichiro Nakaya created artificial snow crystals for the first time and showed that their shape depends on temperature and the amount of water vapor. Even a small change in these conditions can completely change the shape. Another problem is how photos are chosen. The same water produces many different crystals, so anyone can pick a picture that fits their idea. No well-controlled experiment accepted by scientists has shown that words affect crystals.

125 words ・ CEFR B1

和訳を見る

1999年に写真集が出版された後、日本の多くの人が、水に「ありがとう」と言うと氷の結晶が美しくなり、乱暴な言葉は結晶を醜くすると信じるようになりました。この話は一部の道徳の授業でも使われました。

しかし、科学は別の話を語っています。1930年代、物理学者の中谷宇吉郎は初めて人工の雪の結晶を作り、その形が温度と水蒸気の量で決まることを示しました。これらの条件のわずかな変化でさえ、形をすっかり変えてしまうことがあります。もう一つの問題は、写真の選び方です。同じ水からたくさんの異なる結晶ができるので、誰でも自分の考えに合う写真を選べてしまいます。言葉が結晶に影響することを示した、条件をきちんとそろえ科学者に認められた実験はありません。

4択リーディングクイズ

Q1. What did Ukichiro Nakaya show?

Q2. Why is the way photos are chosen a problem?

Q3. What is the writer's conclusion?

重要単語

  • crystalB1
    名詞結晶Each snow crystal grows in a slightly different way. crystal clear「明白な」という比喩表現も頻出。
  • humidityB2
    名詞湿度Temperature and humidity decide the shape of snowflakes. humid(湿った)の名詞形。天気の話題で high humidity「高い湿度」。
  • cherry-pickC1
    動詞都合のよいものだけを選ぶDo not cherry-pick the prettiest photos. 熟したサクランボだけを摘むイメージ。データの恣意的な選択を批判するときの定番語。
  • blind testC1
    名詞(句)盲検法による試験A blind test hides which sample is which. blind は「目が見えない」から「(情報を)知らされていない」の意味に。
  • pseudoscienceC2
    名詞疑似科学、ニセ科学Teachers should not use pseudoscience in class. pseudo-(偽の)+science。p は発音しない。pseudonym(ペンネーム)も同じ接頭辞。
  • artificialB2
    形容詞人工のNakaya grew artificial snow crystals in his lab. artificial intelligence(AI)でおなじみ。反対は natural。
  • biasB2
    名詞偏り、先入観Choosing photos by hand can introduce bias. confirmation bias「確証バイアス」など心理学の頻出語。be biased against ~「~に偏見を持つ」。

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4コマでわかる

水に「ありがとう」で結晶がキレイに? 雪の研究者なら真っ先に疑う理由の4コマ漫画
水に「ありがとう」と言うと結晶がキレイに…という話、雪の結晶の形は温度と湿度でほぼ決まることが日本の研究でわかってるらしい。同じ水でも、少しの温度差で形がガラッと変わる。

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出典・参考文献(3件)タップで表示
  1. Libbrecht (2005) The physics of snow crystals, Reports on Progress in Physicsdoi.org
  2. Nakaya (1954) Snow Crystals: Natural and Artificial, Harvard University Pressdoi.org
  3. Rosenthal & Rubin (1978) Interpersonal expectancy effects: the first 345 studies, Behavioral and Brain Sciencesdoi.org